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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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黙ってやられるなんて

少し長めです

 スカルフ嬢に向かって満面の笑みをたたえる。


「領地祭を終えて、おじいさまから直々にもっと領地について学びを深めないかとお誘いをいただいたので赴いていただけです(訳:決して逃げてなんかいませんよ?)」

「あら、そうだったのですね。ですが女性が領地でできることなど限りあるでしょう?特にガーナ公爵家ともあろう家柄でしたら(訳:女性が領地で一体何が出来るというの?しかも長男という跡取りがいる家で女なんてできることないでしょうに。馬鹿馬鹿しい)」

「そうでもないですよ。ゆくゆくは兄が領地を治めますが、だからと言って学びがなくなるわけではありませんし、私は領民の生活を知ってよりよくすることが貴族の役目の一つではないかと思うので(訳:領地を治めるのはお兄さまだけど、だからって領地を知ることは馬鹿にされるいわれはないですよ?ご令嬢も領地について学んでみれば??)」

「あら、領民の生活に関しては当主が担う仕事でしょう?私たちが手出しするだなんて…(訳:女が手出ししていい領分ではないことも知らないのかしら?)」

「手伝いをすることは決して悪いように言われることはありませんよ?ガーナ公爵家ではそれは褒められることになりますから(訳:おじいさまから直々に言われている時点で公認なんですよ?聞いてました?)」


 手元にあったティーカップに口をつけながらも相手から目線は逸らさない。

スカルフ嬢は私の反撃を受けて瞳の中の炎が轟々と燃え上がっているように思う。

 なぜここまで目の敵のようにされているのかは分からないけど、決していい気分ではない。


「…そうですか。公爵はとても寛大なのですね、羨ましいですわ」

「ええ、父も兄もおじいさまも皆寛大でいらっしゃいますから私もお姉さまも誇らしい限りです。ねぇ、お姉さま?」


 ロゼリア姉さまの方に話を振ればニッコリと笑って「そうね、とても誇らしい家族だわ」と肯定をもらう。

 スカルフ侯爵がどのような考えをお持ちなのかは知らないけど、ファンネルブ王国は他国に比べると男尊女卑の思考は少ないとおじいさまは仰っていたけど…。

女性だからと学びを諦めることはただの言い訳にしかならないのではないかしら?

 もちろんうちは本当にお父さまもお母さまも寛大だと思う。

 私の我が儘に出来る限りすべて答えてくれているし…

本当に申し訳ないけどありがたいことだ。


「今後も領地には赴かれるのですか?」

「はい。領地と王都を行き来するようにしようかなと思っています」


 私の言葉を聞いた瞬間、スカルフ嬢がこの上なく嬉しそうに微笑まれる。

―ッッ!

その笑みはなんだか恐怖心を煽るもので、思わず背筋が伸びる。

いいようのない不安が込み上げる中彼女は楽しそうに口を開く。


「でしたら、きっとお忙しいのでしょうねリズビア様は。そんなにお忙しくいらっしゃるならきっと王都よりも領地でいる方がいいのではないですか?」

「確かに。スカルフ嬢の言う通りですわ」

「王都との行き来なんて大変でしょう。いつか身体を壊されるかもしれないわ」

「まぁ、大変!それなら一か所で留まり続ける方がリズビア様のためになるのではないかしら?」


 ダン令嬢にミッチェル嬢もスカルフ嬢の発言に賛同する。

やられた。確かに私自身が領地と行き来するとは言ったけどそこを突いてくるなんて

 令嬢たちの発言は表面上決して失礼にはあたらない。

 むしろ指摘したら私の身体を思ってのことだと躱されるだろう。かといって黙ったままだと図星を付いたと思われ、今日のことを勝手気ままに話しかねない。

もちろんリズビア・ガーナによろしくないように風潮するだろう。


「体を壊しでもしたら子供が産めなくなるかもしれませんものね。それは貴族の役目を果たせないということにもなりえますし…」

「それは女の恥ですわ。どの方にもそれでは求められないでしょうから」


あれ?


「あぁ、そういえばどこかのご令嬢が車椅子になられて結婚が破談になったのではなかったですか?」

「ええ。私もその噂は耳にしました。なんでも夜盗に襲われたのだとか」

「まぁ怖いわ!!」


 ミッチェル嬢が怖い怖いと体全身で表現するのをどこか遠くで見ているように感じる。


「そんな体になれば殿下に求められることもなくなるでしょうし…」


 なるほど。ようやくわかった。何故私を敵視するのか。それが原因か

 スカルフ嬢もミッチェル嬢も王太子妃候補。つまり世間的に(私からしたら大変不名誉ではあるが)王太子妃最有力候補の私を消したいと思っている。

 そこに私自らが消えてくれる可能性があればそりゃそこを突いてくるだろうね。

 ペレッチェ嬢はミッチェル嬢の姉だから妹の応援をしたいとか思ってるから彼女に賛同しているのだろう。…となると、なんでダン令嬢が私に対してそこまで敵対心を顕わにするのかは分からないけど彼女もあちら側の人間ということだろう。

 あぁ、本当にこれだから貴族の社交場は嫌いなんだ。

落し合い、貶し合い、それを見て笑い喜ぶ性根の腐った人間が獲物を探す狩りの場所

子どもだから大人たちよりましかもしれない。

 だからってそれを肯定なんてしてやらないけど


 すっと息を吸って胸を張る。

 おばあさまが淑女教育の際によく仰られていた言葉の意味が今ならわかる。


『リズ、もし社交の場で貴女を貶めようとする輩が居たら心の底からこう思いなさい』


 さっきとは違って今度は私自身が意志をもって姿勢を正す。

瞼を閉じて思いだすのはあの時の言葉


『この場で最も誇り高く美しいのは自分だと』


 私はガーナ公爵家の令嬢。舐められるなんて言語道断


『この場はリズビアが中心だと』


 この茶会の主役はリズビアだ


『世界で一番上品で美しい微笑みをするのですよ』


 おばあさまの教えに頷いて閉じていた瞼を持ち上げ、相手に向けて慈愛をもって笑いかける。

もうここは私が主役の舞台なのだから好き勝手にはさせない。


「スカルフ嬢、ミッチェル嬢、ダン令嬢わざわざ私の心配をしてくださってありがとうございます。こんなに親身になって心配していただけるなんてとても嬉しいですわ!」


 名前を呼んだ令嬢一人一人に視線を動かし、捉える。


「初めてお会いしたのにも関わらずこんなに親身になって心配してくださるお三方はきっと他のご令嬢にもお優しいのでしょう?私はあまり社交の場に赴きませんが、きっとご令嬢たちは優しいお方だから皆さんに好かれていらっしゃると思うのです。私もそんな周りに認められる女性が国母には相応しいと思いますわ」


 三人の顔色が少し悪くなったように思うが、きっと気のせいだろう。

ここで退場だなんて私は許さない。

舞台の幕を閉じるのはあなた達ではなくて私なのだから


「他人を思える優しさと他人に認められる力がある方であればきっと殿下の心も射止めることが出来ると思いますし、そんなお2人の間に世継ぎが生まれれば国も安泰でしょう。ですが私はまだまだ未熟でこのどちらも有していませんの。ですから領地と王都を行き来して知識を養いつつ、先ほど指摘されました体調面も引きこもりっぱなしではいけないと思うので体力をつけていこうと思っているんです」


 だから、私のことは気にしなくていいの

むしろ一刻も早く貴女達が殿下に気に入られてくれないと私は困るのだ。


「未熟者の私には王太子妃は務まらないと思いますので他の方が王太子妃になられるのを私は心より応援しておりますわ」


 より一層笑みを深めた後、瞼を閉じてティーカップに残っていた紅茶を飲み干す。

本当に応援しているのだから頑張ってほしい。あの腹黒殿下と関わらなくて済むなら私は万々歳です。むしろ感謝しかない。


ゴーンゴーン


 ティーカップを受け皿に戻し、息を吐きだす。

 計算したわけじゃないけどタイミングよく鐘の音が響いてくれたのを合図に、椅子から降りて一歩下がり会話に入っていなかったアリス達とも顔を合わせたのちに淑女の礼をとる。


「それではお時間もよろしいので私とお姉さまはお暇させていただきますね。本日はとても楽しいお茶会でした。またご一緒してくだされば嬉しく思います」

「ええ、私も楽しかったですからまたいらっしてください」


 ハレンシンシ嬢が席を立ち私と姉さまを見送ってくださる。

背を向けた茶会のテーブルがどんな雰囲気だったのかは分からないけど、最後の幕引きはちゃんとできたと思っている。

おばあさまのお言葉通りにできたかな?

心意気は完璧だったけど…



 馬車へ乗り込む際にハレンシンシ嬢が嬉しそうに私の手を握ってくださった。


「リズビア様、本日はとても面白いものを見せていただけてありがとうございます」

「こちらこそ有意義なお時間をいただけてありがとうございます」

「またお茶会にお呼びしてもよろしいかしら?」

「ハレンシンシ嬢のお誘いでしたら喜んで参加いたします」

「嬉しいお言葉です。それではお気をつけて」

「ありがとうございます」


 馬車の扉が閉まり、馬車が走り出す。

 色々あったけど何とか終わった~。疲れた~

帰ったらヴィオにジュースもって来てもらおう。紅茶は飲みすぎて当分はいらないな

あ、というかミルククッキーの感想をまとめてアロー達に送らなきゃだ。

その前にシルビアにアリスのこと話に行こうっと

今度は三人でお茶会とかどうかな?いいかも。楽しそうだし

新たなお友達も出来たってエリオットに手紙に書かなくちゃ!

ふん♪ふふん♪


「ふっ、くッ、あははは!!」


 !! え、いきなり向かいに座っていたお姉さまが耐えきれないと言わんばかりに笑われる。

鼻歌を中断しておろおろする私を一瞥してまたお姉さまはお腹を抱えて笑われる。

ええええ急にどうしたんです、お姉さま~


「最高よ、リズ。さっきの茶会でのあれは上出来だし、少しはへこむかなって心配だったけどそんな心配ないしむしろ、んふふッ、楽しそうでよかったわ」

「あ、はい。そうですね?」

「絶対分かってないでしょう」


 お姉さまの言葉に素直に頷けばお姉さまは本当におかしくて仕方がないと笑われる。

私何か笑われるようなことしたっけ?

う~んでも馬鹿にされるような笑いじゃなくて純粋な笑いだからきっと悪いことじゃなくていい意味なんだと思う。うん。たぶん

 まぁ、お姉さまが楽しそうなので何よりです


ミッチェル嬢は一体どこで会ったんでしょうね?

というか、リズの煽りスキルが想像よりも上回っていてびっくりです。

え、本当に6歳児だったよね??

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