ミルククッキー
楽しい?和やか?なお茶会はその後もいろいろな話に焦点が置かれ、進んでゆく。
やはりみんなが私に聞きたいのは主にドレスとヘアピンの話だったようで、一段落すると私もようやく解放された。
もうね、凄いよ。ハレンシンシ嬢とダルネス嬢はずっと話しっぱなしなんだよ。
いつお茶飲むの?って思うぐらいずっと話してる。
質問詰めの恐ろしさを身に染みて経験しました。これはロゼ姉さまも嫌になるよね。
だって、これが毎回なんでしょう?
私今日が初めてだけどもう疲れた。早くお家帰りたい
紅茶をいただいて、マカロンに手を伸ばす。
指先がマカロンに触れる直前にピタリと止める。
ああ、そういえばあれをお渡ししていなかったわね。
後ろに控えていた侍女に声をかけて例のお菓子を持ってくるように指示する。
せっかく(お姉さまに半ば無理やりという形ではあったけれど)作ったのだから反応を見て今後の商品開発に活かさなくては!
「失礼いたします」
先程の侍女がお皿をテーブルに置いていく。
9人それぞれの目の前に置かれたお皿の中には今朝作った試作品のミルククッキーが盛り付けられている。
しかも、クッキーの皿と一緒に小さな器にコングラッツ伯爵領産のイチゴジャムと我が領産のブルーベリージャムを添えている。
「これは…」
「こちらは本日皆様のためにご用意いたしました品です。ゆくゆくはノグマイン商会で販売しようと思っているミルクジャムを活用したミルククッキーになります」
ご令嬢方の顔がほんのり明るくなる。
アローとビンズが言っていた対貴族用の“貴女の為だけに”手法は上手くいったようだ。
2人曰く、貴族や金持ちは貴女の為だけに用意したって言葉に弱いらしい。
ただ、乱用すると信頼が薄くなるから使いどころは見極めなきゃいけないし言い回しも相手によって変化させなくてはいけないらしい。
客商売って難しい。
「ミルククッキーなんてどこにでもあるものではないかしら?」
ペレッチェ嬢が鼻で笑ってくる。
それに同意したようにミッチェル嬢も笑う。
やはりそういう反応が返ってくるよね。
これは事前にわかっていた反応だ。もともとミルククッキーというのは存在している。
それ故に新しいミルククッキーを発売しても反応はいまいちなのでは?というのが課題にもなっている。なんせ見た目は一緒なのだ。
見た目が一緒であれば人は安くて馴染んだものを手に取りやすい。もちろん貴族の中には新しい物好きがいるが、そこだけをターゲット層にするには心もとない。それこそ一過性の利益しか見込めない。
特に新しい物好きの貴族は一過性でしかないうえにすぐ次に目移りしてしまう。特に手に残る品でもない食品だと尚更その傾向は強いと聞いている。
さてどう説明するべきか―
「このクッキー大変美味しいですわ」
「え?」
私が口を開くよりも前にアリスがクッキーの感想を言ってのけた。
「いつも食べるミルククッキーよりもしっとりしていて甘さが控えめな気がするんですが、ミルクの味わいが口の中に広がっておいしいです」
アリスはそのままパクリと一枚のクッキーを食べ終える。
「アリス…」
「どうかされました?」
「えっと」
なんてことのない様に話してくれたが、それめっちゃくちゃ私が欲していた感想です!!
ありがとう!さすがシルの友達!!
すかさずアリスの手を取ってニッコリと微笑む。
「喜んでいただけて何よりですわ!作ってきたかいがありました」
手を握られたアリスは驚きの表情で私を見つめ返す。
「リズが作ったの…ですか?」
「私が直接ではありませんが、料理長たちにお願いして作っていただきましたの!料理人たちには感想をもらっていたのですが、貴族の方にはまだお出ししたことがなくて不安だったのですがアリスの表情を見たら安心できました」
本当に良かった!!これで反応いまいちだったらアロー達に平民用に限定するべきじゃないかな?とかまたレシピ考案しなきゃとかだったけど何とか救われた!
ありがとうアリス!大好きよ
私が内心で狂喜乱舞している間に他の令嬢たちも各々がクッキーを手に取り口にしていく。
「あ、このクッキーはくちどけがなめらかですね」
「確かに今までのとは味わいが違いますわ」
「…」
お姉さま方のお口にもあったようで何よりです!
これは貴族用にも販売が可能かもしれない。やったね
ここに居ない守銭奴なアロー達に喜びを念じる。
「ミルクジャムを使用しただけでこれほどまでに味わいが変わるのですね、驚きました」
ダルネス嬢が感心した声音でクッキーをまじまじと見つめる。
「このクッキーはミルクジャムを使用しているため砂糖を入れていないんです。それに、いつもより牛乳の量がほんの少し多めに入れられてはいるのですがそれがくちどけの良さを表現しているのです」
ジャム自体に砂糖を入れているから砂糖は使用していないし、牛乳もミルクジャムで使用しているから普通のものより少し多く入れているだけ。作り方はほぼ一緒。
とっても簡単。
ミッチェル嬢もペレッチェ嬢も大人しくクッキーを食べているあたり、不味くはなかったということなんだろう。
そういえば…ミッチェル嬢ってどこかで見たことがある気がするんだよな。
はじめて会ったのに初めて会った気がしないっていうのかな?
う~んどこだっけ?気になるぅ
「これらの品は全てリズビア様が考案されたのですか?」
スカルフ嬢の問いかけに頷く。
「そうですね。考案というわけではありませんがいろいろなことを教えていただいていますし、こちらもそれに助力しているという形ですかね」
「なるほど。それを領地で行っていたのですね。通りでリズビア様のお話が独り歩きされているのにご本人がいらっしゃられなかったわけですか。……私はてっきり領地へ安静しに行ったのだと思っていましたわ」
スカルフ嬢は綺麗な笑みで私を見つめる。
その瞳をこちらもまっすぐ見つめる。
要は、あまりの噂の広まり具合に怖気づいて領地に逃げたのだろうと言いたいのだろう。
ふふふ、そこまでおっしゃるなら反撃しましょうとも
黙ってやられるだなんてそんなことできるわけないですから。
クッキーってサクサクなのとしっとりしたのあるじゃないですか。
今までのミルククッキーがサクサク(ちょっとザクザク系)だとするなら新しいミルククッキーはしっとりした食感です。
一番わかりやすいイメージはカントリー〇ームですかね。あれ美味しいから好きです。




