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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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男爵令嬢の話

王都のとある伯爵邸の庭で今日も貴婦人たちの宴が開かれる。


「こちらは旦那様が購入してくださって~」


キラリと光る大粒の宝石を指で弄びチラつかせる婦人の声に愛想笑いをする。


「まぁまぁ、さすがニチェ婦人ですわ。夫婦仲がよろしいこと」

「本当に羨ましい限りですわ。うちなんて―」


婦人の発言に賛同し媚び諂う者。

ニコニコと上辺で笑い腹の底で何考えてるか分からない者。

扇子で優雅に口元を隠し、チラリと発言者を一瞥し興味がないと他の方と話を始める者。

社交界の華が集まる女の園は低級貴族には息の詰まる場所でしかないのだが…


「はぁ」


小さな溜息が零れる。

なんで私がこんな茶会に参加しなくてはいけなくなったかなんて…ああ、考えるだけで頭の痛い。あの馬鹿兄さんめ。

私はヒューイ男爵家の娘で本来この茶会―リットン伯爵家―に参加するような立場も伝手も私自身には持っているはずもなかった。しかし、私の二番目の兄が騎士団に所属しており兄の隊の隊長さんがリットン伯爵家の長男なのだそうだ。そして、隊長さんの母君であるリットン夫人の主催するお茶会に()()()()()が参加するかもしれないということで兄が隊長さんに無理言ってここに私は参加することになっている。

そう、ここまでに私の意志は一切組み込まれていない。もっと言えば昨日兄に言われるまで今日のお茶会の事実すら知らなかったのだ。

本当にあの野郎いつか痛い目見ればいい。


「そういえば、ヒューイ男爵令嬢には婚約者はいらっしゃるのですか?」


イライラしていれば斜め向かいに座る令嬢…名前知らない…に話しかけられる。


「え、あ、いません」

「あら!もうそろそろ見つけなくてはいけないのでは?女は若いうちに男を捕まえておかないと」

「そうそう。後々余りものな男に嫁がされたりするんだから」

「ああでも男爵家ならそんなに気負わなくてもいいのかしら?」

「確かに、男爵家なら気負う必要もなさそうね」


クスクスと3人の令嬢が嗤う。

確かにそれほど気負わなくてもいいのは事実だ。

兄が2人もいるのだから跡継ぎとか関係ないし。

だが、格下だからとあからさまに馬鹿にされるのは腹が立つ。まぁ、言い返すことなんてできないのだけれども。

それでも…やっぱり一言言ってやりたくて口を開く。


「あの、それは―」

「そんなことないと思いますよ?」


私の言葉に被せる様に凛とした声が令嬢3人に投げかけられる。

声を発した方は綺麗なブロンドの髪を結いあげており、その小さな身体からは想像できないほど大人びた雰囲気を合わせ持っていた。


「失礼、ご歓談中に横から声をかけてしまって」

「い、いえ。かまいませんわ」


小さな令嬢はニッコリ笑い私に話かけてきた令嬢を圧倒する。


「確かヒューイ男爵令嬢の上にはお兄さまがお2人いらっしゃるのですよね?」

「えぇ、そうです」


なんでそんなことをこの子は知っているのだろうか。


「でしたら男爵家の今後は安泰ですね。その点を鑑みるとそれほどヒューイ男爵は令嬢の婚約に焦りはないのかもしれません」

「そ、そうでしょう?私たちもそう思っていたので―」

「それよりも男爵様はご令嬢のお気持ちをとても大切にされているのですね」

「え?」


令嬢の言葉を遮り、彼女は私に優しく微笑む。

お父様が私の気持ちを大切にしている?なぜそんなことを彼女が言ったのか全く理解できなかった。


「どうして、、、どうしてそう思われるのですか?」


彼女はティーカップを優雅に机に置くと、まっすぐに私を見つめる。

薄いピンクの瞳が綺麗だった。


「そのネックレスです」


トントンと彼女は自身の胸元を指で叩く。

ハッとして自分の胸元を確認すれば少し年季の入った小さな石が一個だけついたネックレスがドレスの胸元から零れ落ちていた。


「あ」

「そちらのネックレスは確か2,3年前に国民の中で流行した恋人たちの誓いのネックレスではありませんか?」


そうだ。これは彼が2年前に絶対に迎えに来るからと約束の代わりとして私にくれたモノ


「そのネックレスは、庶民の中では永遠の愛を命を懸けて誓うという意味合いもあるのだそうです。きっとそのネックレスを送った方を令嬢がお慕いしていることを男爵様は知っているからこそ待ってくださっているのでしょうね」


そんな意味合いがあるなんて聞いたことがなかった。

彼は“約束だから”としか言わなかったし…


「男爵令嬢は男爵に愛されているのですね」


彼女は嬉しそうに目を細め、私を見つめる。

私はこのネックレスをくれた彼の想いを改めて知ってしまい、胸がポカポカとする。

それを知っていたお父様にも感謝が溢れる。


「まぁ、とても素敵な品物ですね」

「ロマンティックですわ」


さっきまで会話に入ってこなかった婦人たちが羨ましそうに、面白そうに会話に混ざってくる。


「あ、ありがとうございます」


私は今できる精一杯の返答を周りの貴婦人へ、そして彼女へ返す。


「しかし、身分違うというのは大変ですね」


はじめに声をかけた令嬢が口を開く。

その声色には憐みが含まれているのが嫌でもわかる。


「身分が違う恋というものは確かに困難も多いですが、よりロマンティックではありませんか?」


小さな令嬢はとても面白そうに言葉を紡ぐ。


「それに、ご令嬢が先ほどおっしゃっていた若いうちに男を捕まえておかなくてはいけない…でしたか?あれだとそこに愛はないように思うのですが?」

「―ッ!そんなことはありません。ただ私は若いうちの方が男女ともに華があるから出会いもあると」

「あら?私と旦那様が出会ったのは私が30の時だったわ。センバック令嬢の言い分だと私と旦那様の出会いは行き遅れなのかしら?」

「え、あ、いえ!ち、違います。私はそんな風には思っていませんわ!!リットン夫人」


令嬢―センバック令嬢は慌ててこの茶会の主催者であるリットン夫人の言葉を否定する。


「まぁ、女が男を捕まえても男が逃げ出したら意味はありませんわ」

「確かにそうですわね、夫人」

「男を逃がさない術を身に着けることの方が相手を見つけてからは重要よね」

「本当にそうですわ~」


リットン夫人をはじめとした貴婦人の方々が便乗して相槌を打つ。


「人の出会いは大切ですがその縁をいかようにするか、それこそ貴族子女(わたくしたち)が重視すべきことなのかもしれませんね」


薄いピンクの瞳がセンバック令嬢を見据え、細められる。

センバック令嬢は居心地悪げに顔を俯かせ、センバック令嬢に便乗していた令嬢たちも気まずげな表情をする。


「しかし、リズビア様はよく知っていましたね」

「先ほどのネックレスの件ですか?」

「ええ。リズビア様が知っているのには大変驚きましたわ。今どきの貴族令嬢でも知らないと思うのですが…」

「私も友人に教えていただくまで知りませんでした。しかし、領地に赴いている際に領民の生活を知っていく中でいろいろ学ばせていただいて」

「まぁ、まぁ。リズビア様が学ばれたこととはいかようなのかとても気になりますが、最近ガーナ公爵家といえば新たな商会が有名ですよね」


!! リットン夫人は彼女にガーナ公爵家の話を振った。しかも彼女はリズビア様と呼ばれている。

この方がガーナ公爵家のリズビア様

リズビア様はかわいらしく笑い頷く。

それは先ほどまでと違ってとても年相応の反応だ。


「確か、ノグマイン商会でしたっけ?」

「ええ、我が領に新しくできたものです」

「ノグマイン商会といえばガーナ夫人やロゼリア様のお茶会の際に使用されるミルクジャムの販売をされているんですよね?」

「販売だけでなく、輸入から製作まですべてを担っております。本日もささやかでありますが参加された皆様にと思って持参したのです」


さっと後ろに控えていた従者たちから小さな紙袋が手渡される。


「その紙袋の中にはノグマイン商会のミルクジャムと私がマリン・ビーナにお願いしていた品を入れております。皆さまにお使いいただき感想をいただけましたら嬉しいですわ」

「「「「まあ!!」」」」


嬉々として皆が手元の袋を受け取る。

まさか兄さんの思惑が当たるとは…

彼女が齢5歳にして貴族界の最も話題となっている人物。王太子妃最有力候補でありながら、かのマリン・ビーナを認めさせる才能を持ち、淑女として統治者としての才を表されているお方。


「皆さまに喜んでいただけたようで何よりです。今後もノグマイン商会をご利用してくださいましたらありがたいですわ」

「是非使わせていただきますわ!」

「今後はどのようなものを販売されるのですか⁈」


彼女を中心に話はどんどん盛り上がっていく。

今後の販売予定の品の紹介だけでなく、ミルクジャムの使用方法、アレンジレシピ、そして私達にどんな商品が欲しいか。

彼女の話はとても面白く、気づけばここに来た当初のイライラはどこかへ飛んで行っていた。

しかも、彼女は全ての人に話を振る。

1人ではなくお茶会に参加している貴婦人全員を相手に話をするため、お茶会が終わる頃にはみんなほくほくとした表情をしていた。

あと、彼女は参加していた人全員の名を覚えているようだった。誰にでも平等に話しかけ、話を聞き、微笑む。

時には大人っぽく、時には子供らしく、素直で優美な方。これが次期王太子妃の姿。


これが私にとって一番楽しかったお茶会となったのはいうまでもない。


リズビアはお母さまの言いつけ通りお茶会に参加しました。

ちなみにこの茶会はひとりで参加してます。

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