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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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譲れない心

チュンチュン


いつもとは違う少し高めの鳥の鳴き声に目が覚める。ゆっくりと身体を起き上がらせ、窓の方に顔を向ければ日の光が庭に差し込んでいる。庭は見慣れた花の配置でなく少しだけ赤色系統の花が多く感じる。

ああ、そっか。ここは―


「おはようございます。お嬢様」

「うん。おはよう、ヴィオ」


公爵邸だ。

昨日、お父さまにベレット子爵領に赴いて契約を取り付けたことを報告した。

お父さまは報告を聞いて私自身が赴いて、ベレット子爵に関わりをしっかりと持てていたことを褒めてくださった。お父さまが行っている取引やアローたちが行っている商談取引には遠く及ばないけど…。それでも最初の一歩は上々と思っていいものなのかもしれない。

まぁ、どこまで望んでるのかと言われたら私には何と答えればいいのかわかんないけど。

とりあえず王太子妃候補から外れられるならなんだっていいよ。


「本日は奥様がお呼びでいらっしゃいます」

「お母さまが?」

「はい。なんでもお嬢様に直々にお話しなくてはならないとか」


直々にお話…。

なんかあったっけ?

とりあえず着替えて軽い朝食を済ませ、お母さまのところへ向かおう。



*********



長い廊下を歩く。

今日はお兄さまもお姉さまも出払っているのかとても静かな気がする。シルはもともと静かだけどあの子は身体が弱いから。今日は図書館にでもいるんじゃないかしら?

昨日怒られたのは意外だった。

まさかあれほどまでに心配してくれているとは思っていなかったから、今度から気を付けよう。

まぁ、シルに何かあるはずはないと思うんだけど。公爵邸から自由に出て行く子ではない。

公爵邸(ここ)は守られた場所であり襲われるなんてあるはずがない。

ここに居る限りは安心だ。

考え事をしていると長い道のりもあっという間で、お母さまが待つ部屋にたどり着いた。


コンコン


「失礼いたします。お母さま」


扉を押し開くとお母さまはソファーに座って優雅に本を読んでいらっしゃった。


「いらっしゃい、リズ」


読まれていた本に栞を挟んで閉じ、後ろに控えていた副メイド長に手渡す。


「今日は話があるの」

「はい。お話とは何でしょう?」


お母さまに促されて対面にあるソファーに腰かける。

私と入れ替わるように副メイド長が扉の方へ向かい、ヴィオとともに部屋から出て行ってしまう。

そういえばお母さまと対面しかも1対1で話すのは初めてじゃないだろうか。いつも周りにお父さまなりお兄さまたちがいて話していた気がする。

意識すると自然と背筋が伸びる。


「貴女は前に……いいえ、まだ()()()()()()()()()()()と思っているの?」


ドキリとした。

お母さまはなぜ今ここでそれをおっしゃるのか。


「貴女があちらに行ってからよく旦那様が楽しそうなそれでいて寂しそうなお顔をされることが増えたわ」

「…」

「娘の成長を喜んでいる一方で素直に喜べない気持ちもあるのよ。だからね、リズ。貴女の気持ちを知っておきたいの」


お父さまにご無理を言っているのは分かっていた。知っていた。

本来公爵令嬢がなんの理由もなくたった一人で領地へ行くのは一歩間違えばよからぬ噂となりかねない。今回は領地祭空けで私がマリン・ビーナに一目置かれたから王都から離れた領地でゆっくり過ごすという外聞が成立しているだけだ。中身がどうであったとしても

しかし、それも長くは続かない。

続いてくれるほど“貴族”は優しくない。


「リズビア、私は怒っているわけではないのです。ただもしもが来た時に備えなくてはならない」

「わ、、たしは、」


言っていいのだろうか?

王太子妃になりたくないと

あの日家族に王太子妃になりたくないと打ち明けた日。私がいつか勘当されてしまうのではないかと怯えていることを吐露した日。

そんなことはないと言ってくれた。だから、今は視線を逸らすことなく話し合える。

あれがあったからこそいろいろ大目に見てもらっている。

そんな私がまだ我が儘を言っていいのだろうか?

言ったとしてそれは―

深く深く息を吐きだし思いっきり息を吸う。


「――王太子妃になりたくないです」


叶うことだとは思っていない。


「できることなら私はどんな手段を選んででも王家とというより殿下と関わりを持ちたくありません。怯えて過ごすなんて嫌です」


夢のように殺されてたまるものか

何度も見た。喉を斬られる感覚。動かなくなる身体。いいようのない熱。温かな(あか)。床に広がる鮮血(うみ)。冷ややかな視線。暗殺者が発した『殿下の命令』

簡単に忘れられはしない。これは呪い(そういうもの)


「夢が夢である証拠はどこにもないです。もちろん夢が現実になる証拠もない。それでも避けられるのなら私は避けたい」


お母さまの瞳はまっすぐに私を見つめる。


「たとえシルビアに嫌われたとしても私は自分の代わりにあの子が選ばれるなら大いに喜びます。薄情かもしれませんが私以外がなればいいと思います。そのための犠牲も仕方ないとも」


誰だって自分が一番だ。

私もその例に漏れない。

ただ、あの人と関わりたくない。今までの好きなんて気持ちは幼心のまやかし(偽り)

執着(過去)の感情は幻覚(ゆめ)に過ぎない

今の私はそれらを持ち合わせていない。

自分を偽って逃げるぐらいなら堂々と逃げよう。


それが認められなくても私は―





















王太子妃(あの)の席には座りたくない。




次回は領地に帰るよ!

(悪魔、フラグ、回収)

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