双子
少し長いです
空を染める色はオレンジから紫に変わり、その紫も次第に夜へ吞まれ闇が深まった頃に一台の馬車が我が家に帰ってきた。
父上と母上、それに何人かの使用人が馬車から降りた小さな待ち人を迎え入れる。
皆が屋敷に入ったのを確認してから今まで見ていた窓辺を離れ、後ろのソファーに座る小さな妹に向き合う。
「リズが帰ってきたようだよ」
読んでいた本をゆっくりと閉じて、空色の瞳が僕を映しこむ。
「約束よりも遅かったですね」
「仕方ないよ。リズビアだもの」
「確かに姉さまですから分からなくもありませんが…。兄さまは迎えに行かなくてよろしいのですか?」
「お前にその言葉そのまま返すよ」
「…」
「…」
シルビアは視線を僕からフッと外して、立ち上がり本棚に本を戻す。
久しぶりの妹の帰還に兄と双子の妹は出迎えをせずに部屋にいるというのはどうなのだろうか。
一般的に考えれば薄情だとか思われるかもしれないだろう。
現に父と母と姉は妹の出迎えをしているというのに。何故出迎えないのか。
答えは簡単。だって夕食で顔を合わせるから
わざわざ出迎えるタイプでないことは妹もよく知っていることだろうし問題はない。
それよりも―
「なんでシルは怒っているんだ?」
「怒っていませんよ、別に」
「怒っているじゃないか」
シルビアは無言でスタスタと歩く。
そう、シルビアは怒っている。それに気づいたからこそ側にいるのだが…原因が分からない。いや、原因はリズなんだろうけど。100%リズ以外に考えられないけれども
シルビアはよく僕と似ていると思う。
感情をうまく隠すタイプだし、愛想笑いで何でも流せる。そういうところが似ているし父上や母上曰く考え方も似ているそうだ。
そんな妹だからこそ機嫌の良し悪しも分かりやすい。
まぁ、一番わかりやすく育ったのはリズなんだけど。あれは、表情筋がものを語りすぎていて逆に心配だ。
「シルはリズが嫌いじゃないだろう?何が気に入らないんだ?」
「…」
だんまりの妹はただただ歩く。
おそらくもうすぐみんなで食事をすると呼ばれるだろう。
「言わなくては分からないよ?シルビア」
「…兄さまには関係ありませんのでお答えしません」
そう来たか。全く、似すぎるというのも考え物だ。
僕もイライラが溜まって理由を聞かれた際、だいたい同じように遠回しに“触れるな”と伝える。伝えた後は絶対に口を割らない。
割る時間すら無駄だから怒りが静まるのを待って、やり過ごそうとする。
さてはてどうしたものか
「レイ兄さま!!シル!!ただいま帰りました!」
前方から二人の間に流れる空気をぶち壊す人間がドレスを少したくし上げて、走ってくる。
後ろで側付きの2人があーあーと呆れた様な困ったようなそれでいて嬉しそうな表情をしている。
いや、注意しなよお前達。
その小さな腕にシルビアと僕を抱き寄せてギュ~っと抱きしめるリズビアは、相変わらず元気そうだ。
これは領地でよりお転婆になっているのかもしれない。
「おかえり、リズ。元気そうで何よりだ」
「はい!元気ですよ」
うん。そして素直なのも相変わらずらしい。
「……」
「シル?」
未だに声を発さない妹を心配して声をかけるリズ。
それを見るとあの頃では考えられなかったが2人の距離感が近くなったことを改めて感じる。
仲良くなったものだ
「どこか痛い?もしかしてさっきのでどこかぶつけちゃった⁈」
「違います」
焦るリズにピシャリとNOを言うシル
「どうかしたの?」
「…お姉さまはお手紙にお書きになったことを覚えていらっしゃいますか?」
「え、うん。今度帰った時は領地のこととかいろいろ話すから、シルもいっぱい教えてねって書いたよね」
「そうですね(それだけじゃなかったけど)」
意図が分からなくてリズが首を傾げる。
「私、返信でなんて書きましたか?」
「え、ええッと、身体に気を付けてください。くれぐれも約束は守ってくださ―――アッ」
「そうです。守れと言いましたよね!!?」
「ヒェッ」
シルビアの突然の大声が廊下に響く。日頃大人しいシルが感情を顕わにしたことでリズが驚き、情けない声を溢す。それに笑わなかった自分はえらいと思う。
シルビアが怒っていた理由―それはリズが予定時間を超えたことだったらしい。この間ブルーノ辺境伯令嬢が襲撃されたと報告があったが、なるほど。
口に出しこそしないが、シルはリズをとても心配していたのか。
「遅くなることでお父さまもお母さまもお姉さまもお兄さまも心配するのですよ!!どうして姉さまはいつもそうなんですか!心配ばかり人にかけてレットやヴィオにも迷惑かけて!」
シルビアの声は止まらない。
「恥ずかしくないんですか⁈公爵令嬢であるのにそんなに周りに迷惑かけていて」
公爵令嬢然とするシルビアと対照的に、自由奔放で感情に素直なリズビア
大人しくてしっかりしている妹とどこか抜けていてすぐやらかしかねない姉
どちらが貴族に向いているかなんて一目瞭然だし、貴族に狙われやすいかもはっきりしている。確かにシルよりもリズは何倍も心配をかけているだろう。
「いつもすぐ泣く癖に無駄に頭が切れて頼りになるところとか向こう見ずで、でもかっこいいところとか…私は姉さまが大っ嫌いです!!」
最後のは罵倒というより誉め言葉ではないだろうか
「ごめんね」
「嫌です」
リズの謝罪に間髪入れず拒否するシル
それでもリズはどこか嬉しそうにはにかみ、シルビアの頬を伝う涙を指で拭う。
「心配かけてごめんね。でも、心配してくれてありがとう。大丈夫、私は絶対シルのもとに帰ってくるよ」
ギュッとシルビアを抱きしめるリズの表情は見えない。
「何が大丈夫なんですか」
「ん~、私がシルを大好きだから大丈夫だよ」
「意味が分かりません」
「あははは、私も分かんないし上手く説明できないけど。シルとの約束は絶対に守るよ。だって私シルの片割れじゃない」
「…本当に意味が分からないですよ、姉さまは」
「それでもいいよ。私はずっとシルを好きでいるから」
リズビアはシルビアを離し、下から伺うように見つめれば陽だまりのような笑みを浮かべる。
「うん!泣き止んだね。シルビアに涙は似合わないよ」
「それどこで覚えたんですか」
クスリと笑うシルビアはもう怒っていないようだった。
「皆様、食事の準備が出来たようです」
「ああ、分かった。今向かう」
喧嘩をし終わった双子に両手を差し伸べれば、片方はおずおずと手を繋ぎ、片方は嬉しそうに手を繋ぐ。
三人で並んで歩き、食事が並んでいる部屋へ向かう。
その道すがらシルビアが小さく袖を引っ張る。
「兄さま、先ほどはあたってしまい申し訳ありませんでした」
「いいよ。気にしてない。それよりもシルが怒る場面を見れてよかったよ」
「よくありません」
シルビアは少しだけ唇を尖らせムッとした表情になる。
これもいつもは見られない素の表情なのだろう。
「シルはね、もっとリズを見習うべきだ」
「姉さまをですか?」
「そう。リズの素直さ、能天気さ、他力本願さとかをね」
「それ褒めてませんよね?貶してますよね?お兄さま」
反対側から不服の声が上がる。その表情はジト目で不服感が満載となっている。
「それは受け取り手しだいだろう、リズ」
「たしかに?」
「こういうとこを見習えばいいんだよ」
「なるほど?」
「絶対今のは褒めてないです!!」
リズの追及をかわしながらふっと考える。シルビアの表情を年相応にするにはリズビアという存在は必要不可欠で、リズビアが貴族令嬢として振る舞い成長する理由にはきっとシルビアの存在が関係しているのだろう。
どちらか一方がなくては成り立たない。
そういった関係。
それが双子
兄として願うのはただただ妹たちが自由に笑い合えることだ。
シルビアも大人っぽいけどそこはまだ6歳児。
気持ちが溢れちゃうと大きな声出しちゃうんです。




