新規事業の始まり
「ガーナ公爵領とコングラッツ伯爵領間の貿易って何がある?」
アローに聞けば少し悩んだ後、すらすらと貿易中の品物が並べられる。
その中にヤギのミルクや羊のミルクは一切なかった。そして、ジャムもだった。
「ジャムってさどこで売ってる?」」
「ジャム?基本は料理やでなら提供してると思うし、各家庭でそれぞれに作ってるんじゃないかな?うちの食堂では母さんが手作りしてるし」
ビンズの言葉からジャムが家庭の味を重んじる傾向と分かった。
「ジャムを売っているのはパン屋とかお菓子屋さんだね」
パン屋もお菓子屋もミルクはなくてはならないものだ。
現在の使用されているのは牛のミルクが基本中の基本。でも、コングラッツ伯爵領でのおじいさんたちの話から味が少しずつ違うことを知った。それをうちの領ではおそらく知られていない。
それに―
「ジャムって主流はなにがある?」
「木苺、ブルーベリー、マーマレード、リンゴじゃないか?」
「ミルクジャムってある?」
「え、ミルクジャム…わかんない」
「ない。ミルクジャムは公爵領では取り扱ってない。どこの店もだ」
アローがはっきりと断定する。
アローは記憶力がとてもいい。そして洞察力も優れている。
そんな彼だからこそみんなリーダーと認めているし、ついていくのだろう。
「ミルクジャムってのは知らないやつの方が多いと思うぞ」
「ジャムの中身がミルクだけで作られているだけよ。抵抗はないと思う」
「物珍しさなら貴族相手だろう」
「いいえ、単価を安くして平民が楽しみやすいものとして売った方がいい。そうしたら領民から貴族に声が聞こえる」
「それじゃあ売り上げが見込めない」
「本当においしい手頃のものなら平民だって買うわ。それに王国の人口は貴族よりも平民の方が多い。ターゲット層は多い方が妥当よ」
アローは私を見つめたまま言葉を吟味している。
「ん?てか、ジャムがどうやって傷薬になるの?」
ビンズが不思議そうに見つめる。
食べ物と薬。それは全く別物で共通項は瓶のみ。
そう。ここで必要なのは瓶なのだ。
瓶を手早く手に入れ、普及させる手段としてコングラッツ伯爵領の新貿易品となりうるミルクをあてがっただけ。どうせなら領地の特産品を多くの人に買って、知ってもらう方が両者にとって利益が生まれる。
「まず、ミルクジャムを普及させる。そのジャムの瓶はいつも使っているジャム瓶よりも一回り小さくしておくの。そうすればすぐになくなるでしょうし、次を求める人が増える」
「それだけじゃ薬まで利益が繋がらない」
ハンナの言葉に頷く。
ジャムだけではただの瓶しか普及しないし、中身が無くなれば多くの人はそのまま廃棄するだろう。
だからこそ
「空いた瓶は回収する。もちろん、ミルクジャムの瓶をもって来てくれた方には5ベル安くするなんて掲示をしておくの。空のミルクジャム瓶は一度洗浄し、丁寧に拭きあげてから傷薬の長期保存分として再利用するの」
「なるほでね。食品として使ったものを再利用…抵抗はあるかもしれないけど洗浄課程とかをしっかりしていたら大丈夫かもね」
ベイクの言葉に強く頷く。
傷薬からジャムに変更するとやはり抵抗感が逆方向よりも強くなってしまうものだ。
それにミルクジャムを他のジャム瓶より小さくすることで貴重性が生まれる。これは後々の貴族が購入する可能性も考えると需要がある。
貴族は特別性に心惹かれるものだ。
「待って、それって長期保存しても買い手がつかないと―」
「買い手ならついてる」
「「「「は?」」」」
エリオットだけは私の言葉にどこか納得いったように頷いている。
ヴィオやレットも何も言わないけど、ただ見守ってくれている。
それだけでも結構力になるものだ。
「買い手はついてるというか、私が交渉してくる」
「…もし却下されたら?」
「却下…されないと思うけど、されても大丈夫。伝手はあるから」
「その買い手が多量に購入したとしても情報が途絶えたら意味ないと思うけど」
「う~ん。たぶんすぐに情報は出回るよ。大体1週間あれば噂が巡るから」
そう。1週間あれば絶対に巡ると思う。
これは確信に近いものがある。
「わかった。とりあえず、コングラッツ伯爵領からの輸入に関しては明日詰める」
「瓶は?」
「それも明日だ」
「薬草はどっちの使うの?」
「うちの領地のを使うに決まってるだろう?鮮度の需要性なめんなよ」
夕日がキラキラと室内を満たす。
アローが私を見て悪戯を思いついたかのようにニンマリと口角を上げてゆく。
「啖呵を切ったんだから、お手並み拝見と行くぜ?リビア・ノグマイン」
「絶対に認めてもらうから」
アローの差し出した手を握る。
強く強く
まっすぐに見つめ合いながら
ミルクにジャムに薬草にいろいろ活用しますね(笑)
なにをもってリズは1週間で噂が広まると言ったのか…?作者にはさっぱりわかりませんね!




