白い花
あれから3日が経過した。
私はあれからいろいろ考えた。夢で見たことを現実にしないためにどうしたらいいのか。
もちろんヴィオやレットにもそれとなく相談したが、2人とも気にしすぎでは?と言って心配させてしまった。
気にしすぎなのかもしれないけれど、あれが本当に夢だったのか‥
とりあえず①婚約破棄されるなら婚約しなければいい ②家族に罵倒されるなら世間的に完璧なご令嬢になっておく ③勘当されたときに生きていけるようにいろいろ学ぶ ④暗殺者に殺されないように護身術を学ぼう 主にこの4つを頑張ればある程度何とかならないかな~と期待している。
現在は②と③を進行中である。
勉強から解放され、屋敷にある中庭へと向かう。
「ふわぁぁあー疲れたぁ」
色とりどりの花と緑に囲まれながら体を軽く動かす。
今日は歴史学と数学、マナー講習だったけどやっぱり疲れる。覚えるのは楽しいがずっと頭を使ったり、緊張したりとしんどいことに変わりはない。
「最近お嬢様は息抜きによくお庭に行かれますね」
「うん。庭の花ってすごくきれいだしかわいいから和むのよね」
ヴィオの言う通り、最近というか熱が出て以降ほぼ毎日のように足を運んでいる。
熱が出るまではめったに足を運ばなかったのに…
今までとてももったいなかったことをしていたように思うわ。
「特にね、この白い花とってもかわいいわ。綺麗だけどどこか儚さも兼ね備えていて素敵よね」
白い花に触れようと手を伸ばす。
がしっ
その手は花に触れる前に誰かの手に掴まれて止められる。
「ふぇ?」
私の手を掴む相手はヴィオ達よりも年上なのか背の高い少年だった。
濃い紺色の瞳を細めながら少年は私の手を掴んで離さない。
「お嬢様!」
ヴィオの声にハッとして手を引っ込める。
掴まれていた手は引っ込めるときに抵抗されることなく引っ込められた。
「お怪我はありませんか?」
「あ、うん。大丈夫」
ヴィオが掴まれた手を心配そうに見つめるが笑って手を振って見せる。
それほど強く摑まれていたわけではないし、問題ない。
それよりも‥‥
「あなたは?」
「…」
少年はこちらを一瞥すると黙って立ち去ろうとする。
声をかけたのに無視をされたのでムッとしてそのあとをついていく。
少年のズボンのポケットには土に汚れた手袋が入っていることから庭の手入れをしていることが分かった。
でもうちの庭師ってこんなに若かった記憶がないのだけれど?
「ねぇ、何でついてくるの?」
痺れを切らしたのか少年が背中越しに問いかけてくる。
はじめて聞いた彼の声はどこか気だるそうな気がした。
「あなた名前は?」
「‥‥エリオット」
「エリオットっていうのね。私は―」
「お嬢様なんだろ?そのお嬢様が俺に何の用?さっきのことでわざわざ文句言いに引っ付いてきたの?」
エリオットが振り向き、初めてしっかりと彼の顔を正面から見た。
瞳と同じ髪に血色のいい肌。いつも庭仕事をしてくれているのだろうか?
「文句なんてないよ。ただどうして止めたのかなと思いまして‥」
「‥‥」
エリオットは片眉を器用にあげて不思議そうにする。
「さっきの花、あれ毒持ってるから」
「!?」
なんと、あんなかわいいのに毒を持っていたなんて知らなかった。
「毒といってもほんの少しだけどなんかあってからじゃ遅いでしょう?」
つまり彼は私が怪我をしないように止めてくれたのか。
「ありがとう、私何も知らなくて」
大事にならなくてよかった。
もしまた寝込んだら夢の続きを見る羽目になるかも知れない。それは酷くお断りしたい。