花を見て
殿下に手を繋がれたまま連れてこられたのは紫を基調とした花が咲き誇るルナ宮だった。
うん。さすが王宮。大きくて、綺麗。圧巻するとはこういうことを言うのね。
「とても綺麗な花々ですね」
「母上がルナ宮は取り仕切っているんだ」
「王妃様直々にですか?」
「あぁ、季節ごとに王家主催の婦人会が行われるだろう?冬場はこのルナ宮がメインとして使われ、春場はステラ宮を使用することになっている。その二つの宮は茶会の主催者である母上の管轄なんだ」
へぇ~。王宮茶会があることは知っている。
でも、あれは爵位持ちの貴族夫人しか参加できない規則であり、しかも王妃様からの招待状がないと参加出来ないものだ。
私には関係ないと思っていたから深くは学んでいなかったけど今後は必要になってくるかもしれない。
帰ったらしっかり学んでおこうっと
「そう言えばリズビアは花に詳しいんだっけ?」
「特別に詳しいわけではありませんが、庭師と話をする過程で知識はついているかと」
「へぇ~、君は貴族以外なんて興味がないと思っていたけど、やっぱり変わったんだね」
確かに熱が出る前であれば殿下の言う通りだったんだろうけど、今は違うわけで…いや、でも私が変わったことによって関わりたくなかった殿下に興味を持たれてしまったわけで…
う~ん。どうしてこうなっちゃったんだろう
「そう思わないかい?シルビア嬢」
「確かに姉さまは変わられました。今では屋敷の中で一番使用人たちから信頼されている、期待されているといっても過言ではないかと思います」
最初にぶっちゃけたのがダメだった?でもああでもしなきゃ婚約者候補から外れないと思ったのは事実だし。まぁ後からヴィオとレットに怒られたんだけど
「君は違うのかい?」
でも、やっぱり最初のきっかけはあれでしかないわけで…
そのあと友達とか何とか。今のこの関係って友達というよりは脅迫相手と脅されてる被害者だよね。あれ?友達ってなんだっけ。王族式の友だち=脅し相手???
「私は身体が弱いので姉さま程皆と向き合う機会がないのです」
「ふ~ん」
領地祭とかで忙しかったから脅された日から定例茶会は止まっているのは一番助かっている。殿下と2人きりでお茶とか地獄じゃん。お茶はおいしく楽しく飲みたい派なんだよね。
「ところで2人はここでならどんな花が好みなのかな?」
お茶の味が感じれなくなったらもうお茶会の意味はないといえると思うんだよね。
あ、今度手紙にそう言って風に書いて茶会を回避しよう。よし、私天才!
「私はあちらに咲いている小さな花ですね」
「あぁ、あれか。リズビアは?」
この調子で殿下から一刻も早く距離を置かなくてはいけないから―
「リズビア」
目の前にさらっさらの金髪と鋭い金色の瞳が映る。
日の光を反射してキラキラと輝いていて
「ぴゃっ」
「人の話聞いているかい?」
え、なんか話振られたのか??知らない。考えごとしていたから全然聞いていなかった。
「はぁ、話を聞いてくれないなら今度からこうするべきかな」
ぐっと頬に力が加わり、顔が強制的に上へと向けられる。
「ふぇんふぇ、ふぉれはいっふぁい」
「君が人の話を聞かないから、こうしたら嫌でも俺と目も合うし顔を逸らされない。一番手っ取り早い」
手っ取り早いの選択肢に頬に手を当てて強制的に上を向かせるのはどうなんだろうか。
しかもなかなか力が強く挟まれているので若干顔が歪んでいる…変顔状態な気がするのだけれど
「ふぁなしへくだふぁい」
「なら、人の…俺の話をちゃんと聞こうか」
コクコクと首を縦に振る。
一刻も早く手を放していただきたい。
あと、ちょこちょこ地を出してくるのやめてほしい。心臓が良くないほうでバクバクだから。
「リズビアはここの花でどれが一番の好みか聞いたんだよ。ちなみにシルビア嬢はあそこの小さな花だそうだよ」
促されたほうに視線を向けるとカンパニュラが咲き誇っていた。
「カンパニュラですね」
「やっぱり君は花に詳しいね」
あ、手が外された。
「私はあちらに咲いていますビオラが好きですね」
「確かに、君に似ているね」
「はい?」
何を言い出したんだ、この悪魔は
「確かに、色とりどりで明るく表情がくるくると変わる愛らしい姉さまに似ていますね」
シルビアの言葉に嬉しくなってはにかむ。
シルビアからはそんな風に見えているというのが嬉しい。
「他の花についても知っているのかい?」
殿下の問いにぐるりとルナ宮の花を見やる。
「そうですね、あちらに咲いている花はアネモネといいます。その隣の白い花はノースポールといって—」
そこから私達3人はなぜかルナ宮に咲く花について私が説明しながら見て回った。
全部が全部答えられたわけではないけれど、屋敷で見ることの出来ない花もいくつか見ることが出来て楽しかった。
帰ったらエリオットに話そう。きっと私がここまで説明出来たことを褒めてくれると思うから。
ルナ宮の花をすべて見終わった後はパーティー会場へと難なく返され、お父さまたちと合流できた。
「本日は殿下にお相手いただきましてありがとうございます」
「公爵、気になさらずとも母も許可を出されましたことですから。それに私も楽しい時間を過ごすことが出来ましたから」
「それならよかったです。うちの娘たちがお世話になりました。さあ、2人とも今日はもう帰ろうか」
「「はい、お父さま」」
「では、殿下我々はこれにて失礼いたします」
「あぁ、お気を付けて」
殿下に一礼をして背を向けて歩き始める。
あ、そう言えば今日はなにも食べてない。せっかくの王城だというのに。
なんてもったいないことをしてしまったんだろう。
くっ、悔やまれる。
絶対美味しいデザートがあったのに。
そんなことを考えていたせいか家族の最後尾をてくてくついて歩いていた私の腕を強い力がぐっと後ろへ引っ張る。
「ふぇあ?!」
トンッと転びかけた身体は誰かに支えられる。
「今日の礼に花を贈る」
え?
その声は今まで聞いてきたどの声音よりも優しくて、息が詰まった。
こんな声を私は一度も聞いたことがない。
だってその声音を使うのはあの子と―
「リズ!!」
振り返ろうとした体が兄さまに名前を呼ばれたことで制止する。
「早く帰るよ」
少し先を行く兄さまの急かす声に、振り向きたい心よりも急がなくてはという心が勝った。
「今行きます!!」
少し大きめな声で返事をし、振り返ることなく少し小走りで兄さまたちの元へ向かう。
きっとあれは幻聴よ。
絶対そう。むしろそうでしかない。今日は疲れたもの。幻聴が聞こえたって仕方ない。
むしろあれが幻聴じゃなければ意味が分からない。
どうして、私に、あんな声を―
考えを振り払うように首を振る。
幻を考えたって意味はないのだから
リズはとことんウィルに振り回されてますね。
王子怖い~




