親子は親子
「それもそうね、今ここで開けてもよろしいかしら?」
ド悪魔の提案を王妃様はすんなり受け入れる。いやいやいや、後で開けてよ!!
私は早くこの場から去りたい。
「どうぞ。それは既に王妃様のものでございますから…」
シルビアは恭しくお辞儀をして王妃様の判断に任せる。
その言葉を聞いて王妃様はシュルシュルとリボンを解き、箱の蓋を開けられる。
「まぁ!!これはとても繊細な刺繍ね。素敵だわ」
「お喜びいただけたようでしたら私達も刺繍を刺したかいがあったというものですわ」
ニコニコと笑っておく。一刻も早く私を開放してほしいな!
「齢5歳でありながら国花と誕生花…かしら?これらをこれほどまでのクオリティで刺せるとは、公爵家はとても将来が楽しみね」
「「お褒めいただき光栄でございます」」
シルビアの横に並んで感謝の礼をとる。
「おやおや、うちの娘たちが一足早く妃殿下に御挨拶申し上げておりましたか」
「お父さま!!」
後ろから声をかけたお父さまの隣にはお母さま、レイ兄さま、ロゼ姉さまもいらっしゃった。
いつの間に来たのかは知らないけど、約束を守らなかったことに対して少し申し訳ない。
私が故意的に破ったわけではなく、殿下に強制的に連れてこられたせいだけれども
「いらっしゃい、ガーナ公爵」
「本日はおめでとうございます、妃殿下。娘たちのプレゼントを気に入っていただけたようで何よりでございます」
「ええ、とても気に入ったわ。これほど出来のいい子たちを隠しておいただなんてさすが公爵ね」
隠しておいた???
王妃様の言葉に引っかかりを覚え、お父さまの方をチラリと見上げる。
どうしてお父さまはあんなにいい笑顔をしてらっしゃるのかしら?
「ははは、妃殿下は酷いことをおっしゃられる。隠すだなんてしていませんよ?なんせ我が公爵家は一応順巡りが来ていますからね」
「そうね。早くどちらかが私の娘となればいいのですけれど。あぁ、2人とも娘にしてくれてもいいのよ?」
「お戯れを、妃殿下。リンデン殿下は我が家とは関係のない家柄を迎えられるべきですから」
「そうね~、ふふふふ」
「そうですぞ、はははは」
え、怖っ。
何、この空間。お母さまは我関せずと微笑まれているし、兄さまも姉さまも黙って微笑んでるだけ。
殿下は…うん。なんか目が物語ってる。絶対この後帰さないって
いや、帰るから。私今絶賛胃が痛いから早急にお家に帰りますから。
お父さまと妃殿下は仲がよろしくないわけではないと思うんだけど、何だろう。難しいな。仲が特別いいってわけでもないし。どちらかというとお父さまが妃殿下に警戒?しているような気がするわ。
そう言えば、リンデン殿下とは一度もお会いしたことないのよね。
私達より1つ下だって聞いているけど。まだ、4歳だから社交界には参席されないのかしら?
「母上、この後シルビア嬢とリズビアを薔薇庭園の方へ案内しようと思っているのですが、よろしいでしょうか?」
思考の渦に嵌まっている間に悪魔が先手を打ってくる。
誰か止めてほしい。
あの悪魔を
というか、薔薇庭園って…
「そんな!王族のみが使用許可が出ている場所にいくら殿下が同伴されるからといって私達が足を踏み入れるのは―」
「あら~、かまわないわよ」
王妃様ああああああああああ!
「いずれ家族になる子達ですもの。もう家族のようなものじゃない」
よくない、良くない、全然よくない!!
王家!王族!私はいっかいの公爵令嬢!NOT王族、YES貴族
半泣きでお父さま達の方を見上げれば全員が固まっている。
え?なんで固まってらっしゃるの
「お、お父さま?」
「は!ああ、すまないリズ」
お父さまは大丈夫だといったように私たち2人の頭を優しく撫でてくださる。
「妃殿下、さすがにそれはダメですよ。あそこは王族のみの神聖な場です。いくら家族になる予定があるとしてもまだ家族ではないのですからいけません」
「公爵は頭が固いわね」
「固くていいんです」
王妃様は溜息を一つつくとニッコリ微笑まれる。
あっれ、この笑顔見たことあるぞ
「なら、ルナ宮の方の庭園なら問題ないわね。あそこは小さな花がたくさんあるから女の子には人気なのよね」
「妃殿下!!」
お父さまが酷く焦った声音で王妃様を止めようとする。
親子ォォ!!
一瞬でも王妃様は殿下のような方ではないと思ったけど同種だった!!しかも王妃様の方が上手だった。
「リズビア、なんか失礼なこと考えていないか?」
「ひィ!?」
いつの間にか隣に立たれていたらしい。気づかなかったから情けない声が出てしまった。
怖いよ~
ジッと見つめられるのが耐え難くて全力で首を横に振る。
ワタシハナニモカンガエテイマセン
「…なら、いいけど」
殿下は渋々納得して視線が外れる。
ほっ…としたのも束の間で、またしれっと手を繋がれる。
え、意味が分かんない。
おかげで今度は私が殿下を凝視する羽目になる。
「公爵、今日は私の誕生日を祝う日なのですから少しくらいお願いを聞いてもいいのではなくて?」
「確かに本日は妃殿下にとってとてもおめでたき日であらせられますが―」
「なら何ら問題なくてよ。さあさあ、ウィル小さなお姫様達をご案内して差し上げなさいな」
「ありがとうございます、母上、公爵」
殿下はお父さまが口を挟む隙を与えずに王妃様へ返事をして、私達をその場から連れ出す。
今回の唯一の救いはシルビアも殿下と手を繋いでいることだろう。
でもね、私帰りたいんだーーーーー
やっぱり腹黒って遺伝なのかな?
子は親を見て育つとはよく言ったもんだって思っちゃいましたね。




