教会
屋敷から馬車で20分ほど揺られて領地内にある教会に到着する。
この教会はヴィオとレットの育った家でもある。
教会は国教会の礼拝に使われるほかに古びてきた、または老朽化や人が少ないなどの理由で立ち行かなくなった建物は孤児院として利用されている。
第二活用された教会の良き例がこの教会である。
数回ノックしてヴィオが扉を開ける。
「こんにちは」
「わぁ!おねえちゃんがきた~」
「ほんとだぁ!!ヴィオ姉とレット兄もいるぞ」
わらわらとちびっ子たちが私達を囲む。
ちびっ子と言っても私より年が小さい子は6人ほどだ。それ以外は皆年上。この教会での最年長はレットらしく10歳から2歳までの22人が暮らしている。
「まぁ、こんにちは。ようこそおいでくださいましたリズビア様」
黒い長袖のワンピースに真っ白なエプロン。髪を一つに結った物腰の柔らかそうな女性が奥から歩いてくる。
「こんにちは、シスター。突然の訪問ごめんなさい」
「かまいませんよ。ここは誰でも来ていい教会なんですから」
シスターはニッコリ笑う。
はじめて会ったのは2年前の冬。父さまの領内視察についていったときにこの孤児園でヴィオとレットに出会い、あの時も父さまにねだって2人を私の側付きにしてもらったのだ。
今思えばとても強引な引き抜きをしてしまったと思うからこそ2人に申し訳なく思う。
「本日はいかがなさいましたか?」
シスターの横に控えていた現在最年長の女の子、確か名をミオといったかしら?
声をかけられ今日の目的を思い出す。
「実は私のいらなくなったドレスを持ってきたの」
「!ドレスですか?」
ミオの言葉にうなずく。
スッと手を上げればレットが教会の机にドレスを3着広げていく。
「わぁぁぁ!!すごおい」
「きれぇ~」
めったに見ないドレスに皆が目を奪われる中シスターは申し訳なさそうな表情をする。
「本当にこちらはよろしいのですか?」
「えぇ。もう着ることのないものを持ってきたの。だから気にしないで」
「それならよろしいのですが」
シスターはほっとしたのか困ったようにはしゃぐ子供たちに目を向ける。
「おねえちゃんこれ私達にくれるの??」
一歳下の少年が目をキラキラさせながら尋ねる。
「そうね。みんなにこれはあげるんだけど、このドレスは一度解体してただの布切れにするの」
「布にですか?」
年長組が不思議そうにする。
その顔がなんだかおかしくて笑ってしまう。
「ドレスをそのまま売るよりは巾着や小袋、本カバーとかにリメイクさせた方が価格は落ちるかもだけどみんなが色々経験できるでしょう?」
「それって‥‥」
「刺繍とかしてるのなら練習でやってみたらいいかな?って思うのだけど」
「「ありがとうございます!!」」
彼らの表情には見慣れないドレスに対する好奇心から新たな経験が出来ることに対するワクワクへと変化する。
「お嬢様ありがとうございます」
ヴィオが頭を下げる。
「どうして?」
「お嬢様がこの教会を気にしてくださるからこそこの孤児院は成り立ちます」
ヴィオの声音からはそれが本心なのかお世辞なのかは私には分からないけれど、きっと私がここを気にかけなくてもお父さまが立ち行かなくなる前に援助をするだろう。
「それは大げさね。むしろこれはヴィオとレットを強引に引き抜いてしまったことに対する罪滅ぼしのようなものだから…。気にしなくていいわ」
ヴィオは頭を上げてとても不思議そうな表情をする。
「お嬢さ―」
「いつか、あの日のことを教えてほしい」
貴方達は、本当は私に仕えたくなんてないのではないか。ここに帰りたいのではないか。
聞きたいことはあるけれど5歳の臆病で人が離れていくことがとても怖いと感じてしまう今の私にはそんなこと聞けない。聞く勇気は持ち合わせていない。
だからいつかとぼやかす。
「おねえちゃん!」
机のまわりでガヤガヤするみんなに名前を呼ばれ、ヴィオとの話はそこで打ち切る。
机の方では何に活用するか、なになら作れるかなど話しながらドレスを解体していく。
集中力の切れた子たちと庭で遊んだり、読み聞かせをしたりしているうちにあっという間に帰宅時間となる。
「リズビア様、本日はありがとうございました」
「シスターやみんなもありがとう。また来るわ」
馬車の窓から皆に手を振り協会を後にする。
「リズビア様はずいぶん変わられたのですね」
ミオの言葉にシスターは頷く。
前までは小さい子に群がられるのを嫌い、『私がしてやったんだから感謝しなさい』と威圧的に物申す子であった。それが今日はどうだろう。
ドレスを持ってきたことだけでなく、小さな子たちと一緒に遊んだり、読み聞かせをしてくださったり、ドレスの活用法について年長者たちに対等な立場で提案したりと多くの変化があった。
ヴィオとレットも驚きつつもそれを微笑ましそうに眺めていた。
「確かにあの方はとても変わられましたね。ここまで気を使っていただけるなんて私達は感謝しなくてはなりません」
「はい」
家族以外も感じるリズビア・ガーナの変化
それに気づいていないのは当の本人だけだとは誰も知らない。