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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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エンカウント

 賑わうホールの喧騒がどこか遠く感じる中、彼は口角を上げて愉快そうに笑う。

一見好青年に見えてただ相手を見定め小ばかにする目。


「リズビア嬢はあれから益々ご有名になられ驚きました。それほど日が開いていないというのに今や社交界であなたの名前を知らぬ人はいないでしょう」


訳:短時間で名を馳せるだなんてとんだ能力がおありだ。王太子妃に興味がなかったのでは?


「お褒めにあずかり光栄ですわ。私はこの度の領地祭が初めての社交界ですから何かと噂ごとに疎くそのような現状とは思いませんでしたわ」


訳:情報が早くて驚いた。暇人なのですね(私も誤算です)


「おや、リズビア嬢は今後も社交界へ赴かない予定なのですか?」


訳:貴族として当たり前のことを行っているだけだ。君はその義務を放棄するのか


「必要があれば参加しようと思っていますが、今はまだ子供ですので教養をしっかりするべきかと」


訳:貴方に関係ないし、貴族の義務は放棄なんてしてません


「ああ、それなら今後もお会いすることが出来そうですね」


訳:面白い人がいなくならなくて退屈せずに済みますよ


「そうですね。縁があれば今後もお会いするでしょう」


訳:私は会いたくなんてないのでお引き取りあそばせ


 ニコニコとお互いに本音を隠し合いながら張り付けた笑みを見せあう。

 本心は今すぐにでも走り出したいところだがそうもいかない。そんなことしたらお父さまやお祖父さまにご迷惑をおかけしてしまうし、お母さまに怒られる。

大体前回で会っていきなり私が太ったと言ってきた相手に好感度なんてあるはずがない。


「しかし本当にその才能は驚きです。今までよくお隠しであられましたね」


マルコス様は目を細められ今までの小ばかにした空気は消える。


「なにが言いたいのですか?」

「それだけの才能がありながら今までなんの変哲もないそこらのご令嬢と同じように振舞っていた。なのに今頃表立って動かれている」


ゆっくりとのばされる手が頬に添えられる。

ピクリッ

 親指が触れた場所が少し腫れた頬を刺激し痛みに思わず眉をしかめる。

一応氷で冷やして赤みは引いたと言え、少し腫れていることに変わりないから痛みが走るのも仕方ない。


「マルコスさ―!」


 眼を開けば互いの顔が触れてしまえるほどに近づいていることに驚き、一歩下がろうとする私の腕をもう片方の手で掴まれる。

これでは逃げ場がない!


「その変化、実に」


マルコス様のさっきよりも近づく。


「面白い」

「――!!」


 耳元でささやかれたその言葉に背中がゾワリとし、掴まれていた手を振りほどいて後ろに下がる。その間彼から視線を離さずに

距離をとられた彼は先ほども出の胡散臭い笑みをたたえながらメガネのブリッジを押し上げる。


「そんなに睨まないでください。リズビア嬢。僕はただ貴女と仲良くなりたいだけですから」

「仲良くですか?私で楽しむの間違えではなくて」


 私の言葉に彼は愉快そうに笑うだけ。

なんだろう。今までに味わったことのないこの嫌な感じ。

上手く説明できないけどあまり近づきたくない。


「お姉さま?」


第三者の声に肩が跳ねる。


「シルビ、ア」

「!お姉さま、お顔色が!!」


 シルビアが心配げに見つめる。小さく大丈夫と伝えて笑う。

 あぁ、シルビアの顔を見たら膝がガクガクしてきた。きっと安心して気が緩んじゃったのだろう。


「これはお初にお目にかかります。シルビア様」

「ご歓談中に失礼いたしました。ベスタ侯子」

「私の名をご存じでいらっしゃいましたか」

「ええ、殿下と同じ年で頭脳明晰で有名なお方ですから。申し遅れました。ガーナ公爵家が三女シルビア・ガーナと申します」


シルビアが私を気遣いながらも礼をとり、マルコス様に向き合う。


「ベスタ侯爵家が嫡男マルコス・ベスタと申します。以後お見知りおきを」


マルコス様がシルビアの手をすくい、手の甲に挨拶のキスを落す。


「お2人は遠目から見ているときはあまり似ていらっしゃらないと見受けましたが、そうやって隣立つとそっくりでいらっしゃる。…ああ、瞳の色が正反対ですからそれ以外はというのが正しいですね」


 シルビアは訝し気にしながらも礼を述べ、私の体調を気にする。

 シルビアで遊ぶつもりがあるのかないのかは分からないけれど、容姿が似ているという発言から私が社交界に出なければシルビアに近づくと遠回しに脅されているようだ。

これだから社交界は嫌いだし、無駄に頭がいい人も嫌いだ。

あれ?なんで私こんなに社交界が嫌いなんだっけ

それに頭のいい人が嫌いっていうこの感情…まるで前から持っていたみたいな


クラッ


「姉さま!!」


 シルビアに支えられる。

 頭がガンガンする。なんだっけ、この感情。

どこかで感じたことがあったはずなのに

忘れてしまっている。


「っ、侯子。申し訳ありませんが姉は体調がすぐれないようですので我々は下がらせていただきます。お相手することが出来ず心苦しいですが、本日は我が領をごゆっくりとお楽しまれください。では」


 シルビアはマルコス様にそれだけ言うと、私の背中に手を添えてともにホールから抜け出す。

 パーティーホールから少し離れた、喧騒の届かなくなってきた廊下まで出てくると足の力が抜ける。視界が歪む。


「―――!!―!」


離れ行く意識の中、どこか遠くで誰かに名前を呼んばれた気がした。


みんなの年齢(現時点で)

レットが10歳

ヴィオ9歳

エリオット8歳

マルコスとウィルは同い年で6歳

リズとシルが5歳です

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