探り合い
「マルコスでかまいませんよ。リズビア嬢とお呼びしても?」
「えぇ、かまいませんわ。マルコス様もレトマンスリー子爵領で取れた茶葉で作られたこちらのケーキをとりに来られたのですか?」
すっとシフォンケーキが置かれたテーブルが見えるように横にずれる。
それを彼は鼻で笑う。
「いえいえ、私はリズビア嬢と少し話がしたくてこちらに立ち寄ったまでです」
「私と話ですか?」
折角なんだからシフォンケーキぐらい食べればいいのにと思う一方、彼の切り出した話をしたいという言葉に違和感が走る。何故自分と?
夢の中でも彼とは関わったのはあの断罪の日ぐらい。あとは殿下に私が近づいた時ぐらいだったはず。
「実は貴女のことは領地祭が始まってからたびたび見かけていたんです。ですがいつも人に囲まれていて…お忙しそうでしたので」
「ああ、申し訳ありません。そんなに前から知られていたのですね」
「むしろ今では貴女のことを知らない者の方が少ないのでは?現皇太子妃最有力候補であるガーナ公爵家のご令嬢なのですから」
「有力候補…ですか。根も葉もない噂がどうやら出回っているようですね。確かに王家と四大公爵家の習わしではそのように考えられるのも納得ですが、あれは絶対的な拘束力があるわけではないですから」
フォークでシフォンケーキを一口に切って口に運ぶ。まったく味は分からないがずっと話すのも疲れる。彼と話しているとまるで自分のことを値踏みされているように感じられる。
嫌な感じだ。それに―
「おや、リズビア嬢は王太子妃の座にご興味はおありでないんですか?なんというか意外ですね」
マルコスを見れば胡散臭そうな笑みを貼り付けている。
本心を言わないで相手を試すような口ぶり。あぁ知っている。苦々しい記憶が蘇る。
ここは夢でないのに夢の出来事が現の様に思えてしまう。
「意外でしょうか?女は皆王太子妃の座に憧れるとでもお思いですか?それは女性に対して失礼ですよ。女性にだって尊厳はあります。ましてや王太子妃と言う座はなりたくてなれるものではありませんし、お選びになるのは王太子殿下です。私にはそれ以上は何も…」
そっちがその気ならこっちだって反撃する。
感情的にはならずただ淡々と事実を述べる。私の言葉をマルコスがどういう風に解釈しようが勝手だ。その解釈次第ではマルコス本人が愚か者と言われようが関係ない。
全ては本人次第なのだから。
引き攣りそうだった愛想笑いの笑みではなく、社交界の貴族としての笑みを貼り付ける。
「ご気分を害されたなら申し訳ありません。けっしてそのようなつもりは―」
「お気になさらずに、気分を害すようなことなど何もありませんから」
「ありがとうございます。しかし、ほとんどの者がそのような噂を信じ貴女様に群がっているのも事実です」
「そうかもしれませんね」
パクリと最後の欠片を口に含み飲み込む。
これ以上話すことはなさそうだから離れようと皿をウェイターに預ける。
彼に向き直れば先ほどとは打って変わって楽しそうに口元を弓なりに曲げた表情をしている。
「彼らは貴女が次期王太子妃候補だからと言う理由だけではないのかもしれませんね。訂正いたします」
「?訂正ですか…」
「はい。きっと貴女の間抜け面を求めて近寄った者もいることでしょう」
は?
今、間抜け面って言った?公爵令嬢に対して??喧嘩かな、買うべきなら買うけど
乙女に向かってそれはない。え、なんか腹立つわ
ニッコリと笑みを深めておく。
意味合いとしては“これ以上言ってみろ。侮辱なら戦争だ”である。
「この一ヵ月でふくよかになられたようですし、領地の特産物を身をもって証明するとはさすが公爵家のご令嬢です」
ぴしゃッッ
マルクスの言葉に動きが止まる。一瞬思考も止まる。
ふくよか=太った
彼はそう言いたいのだろう。いや、言っているな。ほほう。乙女に向かって太ったとデブになったなとこいつは面と向かって言ったのか。
くすくすと笑っている彼に怒りが沸き上がる。
「では、またお会いした際に」
「そうですね」
二度と話すか!!!二度と来るな!このメガネ狐め
心の中で罵倒しても顔には出さないように努める。お互い一礼してその場から離れる。
すぐさまお姉さま達に合流する。お兄さまに「顔すごいよ」とぼそりと言われたときは今日一番のいい笑顔になったのは仕方がないことだ。
でも、いつの間にか彼に対して夢の印象がなくなっていたことにこの時はまだ気付かなかった
女の子じゃなくても面と向かって太ったとかはいちゃダメですよ~
デリカシー大切




