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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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紅茶の苦み

 領地祭は早くも一ヵ月が経ち、残り二か月を残すこととなった。

目まぐるしく訪れていた各領地への訪問。初めて会話を交わし、互いに手紙を出し合う仲となる者も出来順風満帆と思っていた。そう、思っていたのだ…

 今日はレトマンスリー子爵領を訪れている。レトマンスリー子爵領は茶葉が多く取れることからいろいろな紅茶の種類を開発し、中には歴代王妃様の御用達となったものもあり我が国の紅茶の生産地ともいえるところである。

レトマンスリー子爵家には同年代の子供がいない。ご子息は既に成人しているため、子爵家を訪れる貴族にも同年代は他と比べ少なく感じる。

これなら私も例のごとく人に囲まれないだろうとか思っていたのになぜか大人たちがやってきては食べ物(領地特産物)紹介を繰り広げる。いやね、どれもおいしそうです。一度食べてみたいですよ。でもさ、何で私なの???

 愛想笑いでごまかしつつあたりさわりのない会話をしていく。もちろん各領地の経営や問題点など気を抜いている大人たちに子供だからこそ切り込めるところまで切込み、情報収集するのも忘れない。ここで気になったこととかは公爵家に戻って、おじいさまやお父さまに質問したり、私の意見を提案したりして学びを深めているのだ。

 それはおいておいて、問題なのは何故私に紹介をするのかである。正直なところ私じゃなくてお父さまやお母さまにしなさいよ!て思ってる。思ってるだけだけどね。

実はこの問題コングラッツ伯爵領訪問以降ずっとなのだ。訪問領に同年代の子が居れば挨拶後に必ずその子たちが何かしらの食べ物を勧めてくる。また、主催領の夫妻も挨拶ついでに必ず何かしらの食べ物を勧めてきては感想を求められる。

意味が分からない。

シルビアやお兄さま、お姉さまには私の様に強引に食べ物を勧めることなく()()()()して終わるらしい。

もう一度言うわ、意味が分からない!!

 どうして私だけ食べ物の話を毎回振られ、食べるように勧められ、感想を求められるのか…

ロゼリアお姉さま曰く「リズが無防備にしているからよ」と苦笑された。

え?無防備ってなに?お茶会って装備いりましたっけ?私わかんない…

シルビアにそのことを相談すれば、「‥‥‥‥‥‥‥お姉さまが怖いです」って真顔で言われた。何が怖いのか分からないし、私はシルの無言の間が怖かったんだけど

 そんな謎と不可解さを抱えながらとりあえず子爵夫妻に勧められた紅茶のシフォンケーキを口に含む。

 茶葉のほんのりとした苦み。ふわふわのスポンジ。とても病みつきになる。

茶葉ごとにシフォンケーキの風味が少しずつ変化しているそうで食べ比べなどできたらとても楽しそうだ。今度、お母さまにお願いして茶葉を何種類か取り寄せてもらってシェフに食べ比べ用に何種類か作ってもらおう。人の好みはそれぞれ違うからね

考えただけで楽しくてついつい頬が緩む。食べているときだけは愛想笑いをしなくていいし、引き攣りそうな頬が解放される。


「こんにちは、レディ」


 後ろから声をかけられ、振り返る。

 肩につくかつかないかで綺麗に切りそろえられた新緑を思わせる緑色の髪。端正な顔立ちに銀縁のメガネが彼を知的で大人っぽく見せる。こちらに向けられた灰色の瞳は表情と違ってまったく笑ってなどおらず、むしろ軽蔑の色を滲ませている。


「ヒュッ—」


 喉が締め付けられる感覚に襲われる。

先ほどまでの楽しい気分はどこへやら身体は凍り付いたように動かず、視線を逸らしたいのに逸らせない。


「急に失礼いたします。私はベスタ侯爵家が長子、マルコス・ベスタと申します。以後お見知りおきを」


 優雅な紳士の礼をとり私の手を流れる動作ですくい上げ、手袋越しにキスをされる。高貴な女性へ行う紳士の礼義。

ニッコリ笑われるその顔が私の中であの夢とリンクする。


『君がしてきたご令嬢方への酷いいじめを許すことはできないし、そんなことをする人間が国母にふさわしいとは思えない』


冷徹な瞳で、侮蔑した瞳で私を見下ろした彼。

何度も繰り返し見た断罪の場に必ず立ち会う人間。

どうして彼が…


「レディ?」


 はっ!いけない。先に名乗られたのに名のり返さないだなんてその家紋を侮辱しているようにとられてしまう。

慌てて、彼に取られていた手を引いてドレスの裾を摘まむ。大丈夫。大丈夫だから


「失礼いたしました。ベスタ侯子にお声がけいただけるとは思っておりませんでしたので、恥ずかしながら動揺してしまいました。ガーナ公爵家が次女、リズビア・ガーナと申します。以後お見知りおきを」


 深く礼をして謝罪の意味も込める。

 顔をあげておそるおそる見つめた彼は表面上優しそうに笑う。

思わず前で組んでいる手に力が入り、手袋に皺がよってしまう。ああ、どうして今ここに

キリキリと胃が痛む。

本当にさっきまでの至福の時間は掻き消えて今や薄い氷の上に立たされている気分だ。



この作品腹黒?が多いよね。

作者に趣味じゃないはずなんだけどなぁ~(たぶん)

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