友達
先日のシルビアによる殿下への手紙に対するアドバイスを受けたので、今日は庭に土いじりと手紙の内容の相談をしに来ました!
「私らしい手紙ってなんだと思う?」
萎れた花を摘み取りながらエリオットに話を振る。
「リズが書きたいことを書いたらいいんじゃないの。てか、それを求めてるんだってシルビア様に教わったんでしょう」
「そうだけど…だって私友達って言えるのエリオットぐらいしかいないのよ?なんて書いたらいいのか全然わかんないもの」
プチプチと花を摘み取りながら土を盛る。雨で流された土を戻す作業が必要らしくそのお手伝いだ。
「正直にいきなり王子様から手紙が送られて驚きました。私には友達がいないのでやり直しさせられたことにショックを受けて何書けばいいのかわからないです。って書けばいいじゃん」
書いていいのかな?そんなこと
なんだろう。殿下に対するやり直しへの嫌味とともに私が友達少なくてかわいそうな子みたいになってる気がする。なんかそれはやだな
負けた???感じするもん。
「なぁにその顔」
手元から私に視線を移したエリオットがおかしそうに笑う。
レディーの顔を見て笑うのはどうかと思うけどエリオットだと嫌な感じは全くしない。
お兄さまとかだと馬鹿にされてるなって思うけど…そんな風にも思わないし
「その分だと私がちょっとかわいそう?な子みたいじゃない」
「事実でしょう?」
「うっ…」
否定が出来ないの辛い。
「お友達が欲しいな~」
「お茶会とかに参加したらいいじゃん」
確かにお母さまやお姉さまと一緒にお茶会に参加すれば同世代の子に会える。だけどお茶会には7歳になれば必ず参加しなくてはならない。ならば今から参加するより今しかできないこういった土いじりとかする方が他人の顔色伺ったり、マナーとかに気を使ったりするより何倍も楽しいと思う。
「お茶会は7歳からでいいの~」
「7歳にはもう仲いいことか出来てて入りにくいんじゃないの?」
「確かに…。でもそうなったらシルと一緒にいるもん」
「シルビア様大変だな」
シルビアはいい子だし、可愛いからきっとすぐにお友達作れるだろうな。その隣に私がしれっといるのもどうかと思うけれどきっとシルビアならいいといってくれるだろうし
「貴族の友だちはいずれ作らなきゃいけないけれどエリオットみたいに素を曝せる友達が欲しいわ」
「素ねぇ~。…じゃあ今度俺の友だちに会ってみる?」
「え?」
「俺の友だちにリズがお嬢様って気づかれなきゃいいんじゃない?まぁたぶん―」
「ほんと?!」
「わっ!」
嬉しさのあまりエリオットに抱き着く。私の勢いに負けてエリオットが後ろに尻もちをついて倒れる。倒れるときに私が地面にぶつからないように自分の身体の上に私を抱き留めてくれる。その優しさにまた嬉しさがこみ上げる。
「…重いんだけど」
「重いとか言わないで」
「言われたくないなら退いてよ。あと急に抱き着かないで危ないから」
「ごめんなさい」
大人しく退く。
せっかく綺麗な花にもし私達が倒れていたら台無しになってしまう。最悪の場合二度と花がつかないかもしれない。そうなってしまったらエリオットやエリオットのお父さまに申し訳がない。
自分の軽率さに後悔していると頭をポンポンと撫でられる。
顔をあげれば困ったようなそれでいて優し気な表情でエリオットと目が合う。
「怪我はない?」
コクリと頷き返す。
それに安堵したのか「よかった」と言われる。
「エリオットは怪我してない?」
「ちょっとお尻が痛いけど大丈夫」
「ごめんなさい…」
「いいよ。リズに怪我がないなら」
「でも―った!」
言い返す前にデコピンをされる。おでこが痛い。
「これでおあいこね。あとわざとやったのじゃないってわかってるから次から気をつけようね」
「わかった。今度からはもう少し勢いを殺すようにするわね」
「そうじゃないんだけど。はぁ」
頭をガシガシとかきながらエリオットは困ったように笑う。
それに私も笑い返す。
花が風になびいて小さく揺れる。
やっぱり私にはお茶会よりもこういった時間の方が有意義だと感じる。大切な時間だ。
「さっきのエリオットの友だちに会うってのは本当?」
「あぁ。でも許可がいるでしょう?すぐには無理だと思うよ」
「許可?」
「…はぁ。あのね、リズ君は公爵家のご令嬢なんだよ?本来は俺がこんな風に話してたらダメなの」
「でも友達なんだからかまわないわ」
「そもそも平民と貴族は友達にはなれないから」
「私達は平民と貴族だけど友達よ、エリオット。忘れちゃったの?」
「そうだけどそうじゃなくて—。あぁヴィオとレットから教えてやってくれよ」
「あはは。そこで僕たちに投げるんですかエリオット」
「へたれめ」
エリオットの助けにレットは愉快そうに答える。ヴィオは半分呆れたような表情をして毒づいている。
私が土いじりをするようになってからエリオットとレット、ヴィオの関係も少しずつ変わってきた。最初はあまり話したりしていなかったけど最近ではよく話すようになったと思う。しかもいつの間にかお互いを呼び捨てするぐらいには仲が良くなっていた。レットとヴィオはいつも私の側にいてもらっているけど私相手に砕けた話し方は絶対にしない。だから彼らのこんな一面を見れることが嬉しかったりする。
エリオットにあの日会えたこと、友達になってくれたことには感謝しかない。
「お嬢様、お嬢様がエリオットの友人に会うためには屋敷の外に出なくてはなりません。それには旦那様の許可が必要ですし、お嬢様が外に出るには護衛が必要です。あと平民は一般的に貴族に対し目上の人意識がありますので、エリオットの様に接する関係を築くのは難しいと思います」
ヴィオの説明でなるほどと納得する。
お父さまを説得して許可をもらわなくてはならないのか…。頑張って説得しなきゃ!
護衛は大人数つけてもきっと威圧感あるよね。私もいきなり王家専属騎士団とか来たら怖いもん。なら—
「護衛はヴィオとレットがいれば十分ね」
「「はい??」」
2人が首を傾げる。
なぜ首を傾げられたのか分からなくて私も首を傾げてしまう。
「いやいやいやいや公爵令嬢の護衛が子供2人はダメでしょう」
「そうですよ、お嬢様。いくら信頼を得れていようと我々2人ではもしもの時がありますから」
「側に2人がいて遠くから3人大人たちがついていれば問題ないわ」
「いや、そうだけどそうじゃなくて」
「間違ってはないんですけどもそうじゃないんです!」
ヴィオとレットが焦っているが最小護衛人数が3人と言うことは私だって知っている。それに子供だけではおそらくお父さまが許可を出してくれないことも知っているが、エリオットの友だちと言うことは大人が側にいては威圧感しかないのもまた事実。
だから私が出した案はみんなにとって一番妥当な案だと思うんだけどな~
わたわたとする2人を見てエリオットを見やると偶然目が合う。それがなんだかおかしくて2人そろって吹き出してしまう。
そんな私達を見て慌てていた2人もおかしくなったのか笑いを溢す。
温かな日差しが幼い4人を照らす。
結局手紙の内容が先送りされてしまった…。




