スケッチ
少し間が空いてしまいました。すみません
公爵家の庭の一角に座り込み、真っ白な子供用のスケッチブックとペンをもって花々に囲まれる。さすがに部屋で例の課題をするのも飽きてきて外に出てすることにした。
相も変わらず綺麗な庭の花たち。見ているだけでも結構楽しいし、いろんなアイディアを与えてくれる。
さらさらとペンを走らせ、ロゼ姉さまに似合いそうなドレスの型を描いていく。そうしているとスケッチブックに影が出来る。さっきまで晴れていたのにいきなり曇ったのかな?
「何してるの?」
頭上から声がかかりスケッチブックにはしらせていたペンを止めて、顔をあげる。
「レイ兄さま…こちらはこの間ロゼ姉さまとマリン・ビーナ様に依頼?されたドレスのスケッチですわ」
「ふ~ん。見せてもらっても?」
「はい、どうぞ」
兄さまは私が許可すると滑らかな動作で私の手元にあったスケッチブックを抜き取り、自身の手元へ納める。
茶髪の髪が風に吹かれてそよそよと靡く。
お兄さまとは食事の席以外であまり会わない。理由としては我が家で唯一の男児であり、公爵家の正式な跡取りだからだ。いつもお部屋でお勉強かお父さまのお手伝い、剣術稽古、お茶会への参加、領地視察などお忙しそうにしている。
そんな兄さまとの距離はあの夢(本当に夢なのか?)以降いまいちよく分からないまま過ごしている。だからいまだにスカイレッドの瞳を真正面から捉えるのが怖い。
鮮明に思いだせる冷めた赤と呆れのため息。軽蔑、嫌悪しか持たなかった視線。最後に言われるのは『なぜお前が公爵家に生まれたのか…。血の繋がりとは生き恥だな』
そういって公爵家を勘当されるのだ。
将来の兄さまは私を生き恥と言う。ならば過ちを犯していない私のことをいったいどう思っているのか。家族会議の時はみんな勘当しないと言っていたけれどそれは今であってこれからは分からないし、あぁでもそれだと今は嫌われていないことになるのかな?
「今までの流行とは結構型が違うね」
スケッチを見終わったのか兄さまは興味津々に聞いてくる。
「お姉さまが着られるものなので、斬新なデザインの方がよいかと思いまして」
「確かにロゼリアなら流行の最先端としてこれらを売り出せるだろうね」
「はい!自慢の姉さまです」
大きな手がそっと頭を撫でる。その手は優しくてあったかい。大好きな手だ
はい、とスケッチブックを渡される。
「姉さまばかり褒めてると僕は悲しいなぁ・・・」
「!もちろん兄さまも自慢できる立派な方です!!」
顔をあげて慌てて伝えると優しげな瞳が目に映る。
「やっとこっちを見たね」
「うぐっ」
いたずらっ子の様に笑うとすかさず兄さまの手が私の頬を包み、顔を固定しにかかる。
おかげさまで目を逸らすに逸らせない。
「兄さま、手をお退けくださりませんか?」
「あはは、リズがやっと目を合わせたのに?やだよ」
この兄はこんな人だったっけか?もっと公爵家の跡取りですって感じでお堅い感じじゃなかったか?わかんない
「リズは熱が出てからあまり目を合わせなくなったよね」
「そんなことは―」
「ないって言いきれる?」
お兄さまは終始笑顔であらせられるが圧が酷い。
そんな嘘ついたらどうなるかわかってるの?みたいな笑顔怖すぎて私は涙目になる。
「‥‥お兄さまはよく見ておられますね」
「馬鹿にしてる?」
「いいえ。まったく」
こてんと首を傾げられる。それになぜか私まで同じ方向に傾げてしまう。小さいころからの癖はいまだに抜けないようだ。
「熱が出るまでは結構かまってちゃんだったのに最近は全然僕やロゼリアにも寄ってこないし、まぁシルビアと仲がいいのはいいことだよ。でも兄さまはさみしいな~」
「で、も、兄さまお忙しそうだったから」
その言葉にレイ兄さまはきょとんとする。
なんでそんな顔されているのだろうか私は…
「リズが僕に気を使ってくれていたの?」
「え、何ですかその心底馬鹿にした顔は」
「今更気づいたの?」
「レイ兄さま!!」
くっそう。ちょっと雰囲気がまじめだったから真剣に答えたらこれだ。
この人は最初っから私で遊ぶために声をかけてきたのか。
「暇なら手を放してください」
「え~嫌だ」
「私は兄さまのおもちゃではないのです!忙しいのです!」
ぷく~っと頬を膨らませれば「リスみたいだね」と笑い飛ばされる。リスってなんだ、リスって
「そう言えば、リズのスケッチには女性ものしかなかったけどなんで?」
いきなり話が飛ぶなぁ。まぁいいけど
「何故って…」
だってお姉さまのドレスを考えているわけだからドレスしかなくない?女性がお茶会でズボンを履くのは悪い意味で目立ちますよ?それこそ公爵家の社交会の華ともいわれるであろう姉さまが
「姉さまのドレスですから…」
新緑色の布を活かせるのはどんなドレスかいまだに決めかねている、ゆえにいろいろと型ばかりが増えていくのだけれども
「でも、マリン・ビーナは貴族御用達のデザイナーだろう?」
「え、ええ」
? 話の行方が迷子すぎてさっきから顔が固定されていなければずっと首を傾げているぞ、兄さま。もう少し愚妹にも分かりやすくしていただきたい。
「男性のものはなぜ描かないの?」
「…男性ものを描くようには言われませんでしたし、そもそも男性ものは私には分かりかねます」
「へぇ~そう。描くようには言われなかったんだ。ふ~ん」
一体何なんだ。その感嘆詞は‥‥
言われてないから描いてないし、描けと言われても描けないですよ?
「リズ、それっていつマリン・ビーナに渡すの?」
確かあの日からもう5日経っているから残りは―
指を折って残りの日数を数える。
「9日後にはお渡ししますよ」
「9日後ね。分かった」
いやいやいや。何が分かったの?え、急激に兄さまと会話が成り立たない。
どうしたの兄さま。
かまわなくなったことに対する嫌がらせかな?
やっぱりお兄さまは私のことお嫌いなのか?あ、自分で考えといて結構傷つくな。
「じゃあ12日後は予定を空けておいてね」
「何故に12日後??」
まぁ兄さまや姉さまに比べ私は暇なので予定ないし全然かまわないんですけども
「それはお楽しみ」
「え~」
クスクスと笑う兄さまは楽しそうだ。
その笑顔につられて自分も笑ってしまうのだから仕方がない。
「楽しみだね、リズ」
「何が楽しみなのか全然わかりませんが兄さまが笑っておられるので良しとします」
「ほんとリズのそういうところが僕は好きだよ」
頬を包み込んでいた手が離れ、そっと前髪をかき上げられる。
チュッとおでこにキスを落とされる。小さいころからお兄さまがよくやること。
それがなぜかくすぐったくて嬉しくて笑ってしまう。
後ろに控えていたヴィオとレットが憐みの眼を向けているだなんて知らずに…




