施しと担保
華鏡祭は無事に終わり、例の約束の2週間まではあっという間に過ぎた。
「お嬢様…本当に例の者たちに施しを与えられるのですか?」
「うん」
そのためにお父様を怒られながらも説得して(最終的にめっちゃ呆れられたけど)、わざわざ宰相殿とゼルダ公爵に直談判しに王城に華鏡祭が終わってすぐ登城したのだ。結果お2人にはいい判断だとお褒めの言葉をいただけ、なんなら陛下にも褒めていただけた。
まぁ、そのあとに王妃様との一対一のお茶会だったり、着せ替え人形のごとくいろんなドレスを着飾っていただいたり、最終的には殿下に見つかって殿下とも強制お茶会をする羽目になったんだけど……。
あ、考えたら胃が痛くなってきた。
「大丈夫なんですか?」
ヴィオの言葉が私の体調(胃痛)を指しているのか、彼らへこれから行うことを指しているのかは謎だけどとりあえず今は―
「うん。大丈夫って信じたいかな」
馬車にガタゴトと揺られながら向かうのは貧困層が住む路地の入口。
今日が約束の―彼らへの施しを与える日なのだ。
私たちとは別の馬車で彼らが乗れる用のものと宰相閣下直属の部下が数名同じ場所へ向かっている。
ヒヒーン
「お嬢様、お着きになりました」
大丈夫。言葉を間違えてはいけない。
これは貴族として上に立つものとして行わなくてはならない仕事だ。
怯むな。自信をもって。
馬車の扉が開かれる。
路地の入口にはわらわらと人が集まっているようだ。人口密度すごっ。
「ごきげんよう」
「よお、お貴族のお嬢ちゃん。よっぽどこの担保が必要なんだな」
「……。まぁ。そうですね」
大切ではないけど、ある意味大切だよね。私にとって弱みになりかねないから。
一つため息を吐き出しリーダー的な男性をまっすぐに見上げる。
「約束を果たしに来ました。貴方方への施しはファンネルブ王国東部シャッフェクローラ伯爵領にて川の氾濫防止建設に携わることです。」
「へぇ、そりゃあ長旅だな」
「もちろん移動手段や貴方方がここからかの地に行き、働く中での衣食住はこちらで補償いたします。期間は建設作業の完成まで。完成後は向こうに定住してもこちらに戻ってこられてもお好きになさって結構です。まぁ、その際は移動手段はご自身たちでお願いいたしますね」
「ずいぶんな好条件だな」「ああ!飢えに苦しまなくていいんだろ?」「最高じゃねえか」
男の後ろにいる男の人たちからは歓喜の声が上がる。
だが、やはり私が見つめている男は納得してはいないようだ。
表情が変わっていないのがいい証拠だ。
「こんな好条件だと何かありそうで怖いねえ。その話にのるぐらいなら俺は担保を売っぱらって金を得たいんだが」
「目先の利益に捕らわれるような方でしたか?」
否。この人はおそらくここのボス的存在なんだろう。目先のものに捕らわれるよりかは全てを得んとすることだろう。
やっぱり一筋縄ではいかないか。
「これは国が援助してくださることになりましたから」
「は?」
「国としても貴方方、貧困層を何とかしたいというのが本音のようです」
無邪気に笑って見せる。
何とかというか救いたいというのが本音だけど、それを彼らに伝えてもきっと分かってもらえないことだろう。というか、逆恨みにつながりかけないし…。
プライドを傷つけられた者の逆恨みは結構怖いと知っているので、極力避けなくてわ。これも商会を行ううえで私が学んだ処世術の一つだ。
「国の援助を断ればどうなるかは知ったことではありませんけど、断るメリットってありますか?」
「…それは用意周到だな」
「お褒めにあずかり光栄です」
綺麗な淑女の礼をして見せる。
う~ん。もうここまで話したから後は、後ろに控えている大人に任せたいんだけど…。
それになー、ここまで話したんならもう担保返してもらうよりもより活用したほうがいいかな?うん。なんかいい気がしてきた。
殿下にはこないだ言い訳したから当面は(失くしたってこと)バレないだろうし、あとなんでか華鏡祭の最終日以降不思議なくらいに上機嫌なんだよね。理由がわかんなくて怖いんだけど…。
「あんた名前は?」
ヴィオが動こうとするのを後ろ手で制する。
ここまでのことは想定済みだから問題はない。というか、ここもで名乗ってないのに話聞いてもらってることの方が凄いと思うんだよね。
こんな子供の言葉を真剣に聞いてくれている。その返事はちゃんと私自身からするべきものだろう。
「申し遅れました。私はガーナ公爵家、二女のリズビア・ガーナと申します。以後お見知りおきを」
「ガーナ公爵家!?」「四大公爵家の令嬢じゃねえか」「あの??」
あのってなんだろう?すっごい気になるんだけど
「なるほど。こりゃ話の信憑性が高ぇな。なんたってあの公爵令嬢様からの施しだ。野郎どもこの話にのるやつはのれ。俺はこの嬢ちゃんを信じようじゃねぇか」
え、あの公爵令嬢ってなに?あのの部分がすっごく気になるんだけど。しかもそれが信用に足りえるってなんだ。こういっちゃなんだけど私の名前どんな風に広がってるの??
信じちゃって大丈夫なの?
いや、信じてもらわなくちゃ話進まないけど。なんというか凄く複雑だわ。
嬉しいよりは戸惑いが凄い…。
男たちは納得したようで次々に宰相閣下の部下の方に詳細を聞きに行っている。
とりあえず、交渉成立。施し終了ってことでいいのかしら?
「おい」
「なんでしょうか?」
「これ」
リーダー格の男が自身の指でブレスレットをくるくると弄ばせている。
あ、忘れてた。
「いらないのかい?」
「忘れてました」
「は?」
「あ、」
素直に声に出ていた気がする。男が目を見開いて固まっている。それを見て察するに確実に声に出してしまっていたらしい。いけない、いけない。つい、本音が
「失礼しました」
「本当に変わってんな」
やっぱりあのの部分は変わった令嬢ということなんですね?!
~~っ!!
悲しいやら不甲斐ないやらもうね。もうあれよ。
言葉にならない。
え、悲しい。
「で、いらないのか?」
「えっと、それは貴方に差し上げます」
「は?」
「2週間私のような子供の話を信じて、仲間を集めてくださいましたから。そのお礼てきなものとして受け取ってください。あ、でもそれは売らないほうがいいですよ。万が一の時が来るまでは…」
そのほうがきっとこの人も私も幸せな生活を送れると思うんだよね。
殿下の怒りを買わなければ長生きはできるんだって私知ってる。
その怒りを自ら買いに行くほど私は馬鹿じゃない。
「…なるほど。こいつは売ったらやべえってことか」
「まぁそんな感じですね」
「わかった。こいつは売らねえ。が、万が一の時にはあんたの後ろ盾として使わせてもらう」
「…私の後ろ盾が欲しいならそれをもって公爵家に来てください」
「…」
「そのほうが確実なんで」
売るよりかはブレスレットを公爵家に持って来てもらったほうがちゃんとした対価を用意できるし、なんなら私の私財渡せるし。効率いいし、確実性も高い。
「お嬢様…」
「?ヴィオ?」
ヴィオの方を見れば何故か凄い残念そうなものを見る目を向けられている。
私なんかした?
ヴィオはため息を吐き出して、手を額に当てながら口を開く。
「彼はそういう答えを求めて後ろ盾を口にしたわけではないのですが―」
「え?」
? どういうこと?
首を捻ればまた溜息をつかれてしまった。何故。
「やっぱ、あんた変わってんな」
「それはどうも??」
「俺はウッドっていう。万が一にもあんたの名前を悪用はしねえ。あんたの話を信じた己の選択を信じたいんでな」
「はぁ」
彼―ウッド―はふっと笑うと他の仲間のもとへと背を向けて行ってしまった。
とりあえず交渉は成立ってことでいいのよね?
「あとは大人に任せて私たちは帰ろうか」
「はい」
「帰ったらお茶にしようね」
「かしこまりました、お嬢様」
リズは領地で平民と接している割に下町とかの噂にひどく疎いのはどうしてなんでしょうか??
(ヒント:周りの人間(過保護))




