華鏡祭3日目
更新が2か月近く空いてしまいました。申し訳ありません。
作者が新天地に慣れるまではおそらく更新速度がダダ下がりします。頑張って月一更新を目標に更新する予定です。お待たせしてしまって申し訳ありませんが、今後ともよろしくお願いいたします。
とうとう華鏡祭も最終日を迎えた。
「お嬢様、本日はこちらの髪留めを使用なさいますか?」
「うん。お願い」
「かしこまりました」
最終日、貴族は王城で開かれるパーティーに参加しなくてはならない。できることなら行きたくないのだが、こればっかりはそうも言ってられない。何せ学院に行っていない子供は親とともに参加義務が課せられている。
とりあえずドレスに着替え、髪を整えられ、厳選された装飾品を身に着ける。
「お嬢様、準備が整いました」
「ありがとう」
鏡に映る自身は紺色のシフォンワンピースによって大人しめな印象を与え、髪はハーフアップにして後ろをドレスの色よりわずかに明るい紺色の布に真珠をちりばめた花飾りで固定されている。装飾品には華やかな金色の細いブレスレットを選んでいる。
本来は殿下が送ってきたものを受け取った証拠として身につけたほうがいいんだけど…あれは2週間後までの担保で手元にはない。ああ目ざとい殿下に突っ込まれませんように…神様。
コンコン
「お嬢様、旦那様たちより準備ができ次第ご出発をするとのことです」
レットの言葉に頷き下に降りる。
この一日が何事もなく終わればいいんだけど……。そうしたらとおおおっても平和な花鏡祭でした!って思い出になるのにな~
なんて願ってましたよ。はい
「やあ、久しぶりだね、リズ」
なんでいるの?????嫌がらせ?????????
貴方王族でしょ?どうして王族が最初からホールに出てきてるのよ
ふざけるなよ
「お久しぶりです。殿下。お元気そうでなによりですわ(さっさと他の令嬢のところに行って下さってかまいませんよ?)」
「いやだな、そんな他人行儀な呼び方なんて(行くわけないだろう?待ってたんだから)」
「他人行儀だなんて…。恐れ多いですわ。殿下は王国の太陽ですもの(なんで待ってるんですか?異例すぎて見てください。お父様が固まっているではありませんか)」
「ああ、久しぶりに会ったから照れているのか。可愛―」
「照れていません」
頑張って公爵令嬢としての猫を被っていたのに一気にはがれてしまったわ。
お父様とお母様の視線がグサグサ刺さるけどこれは悪いのは殿下であって私ではない。絶対に。断じて私ではない。
何変なことを他の貴族がいる前で堂々とさも当然みたいに言おうとしているのかと若干睨みつければ、殿下はそれはそれは大変よろしい笑顔をされるではないか。え、腹立つんだけど
「殿下、お久しぶりでございます。避暑地は楽しめましたか?」
シルビアが柔らかく切り込んでいく。
「ごきげんよう。シルビア嬢。おかげさまで避暑地ではとても有意義に過ごせたよ。」
「姉様とはずいぶんとお会いしておられませんでしたからお2人とも積もるお話がおありでしょう?」
?!ないんですけど???シル?
驚きでシルビアを見ればシルは笑顔だった。あれ、なんか見たことあるような笑顔な気が…
「そうだな。確かに私はリズと話したいことが山ほどあるな」
殿下がなんか言ってる。私には聞こえない。
「そうだな。例えばプレゼントのこととか」
もぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!
早いんだよ!目ざとすぎて怖いんだよ。いや、元から怖いんだけどさ。
めっちゃ手元見てるよ。すいません。あのブレスレットは今担保なんですなんて言えないよ~
とりあえず笑ってごまかそう。そうしよう。
「こほん。王国の若き太陽にご挨拶申し上げます」
「王国の4公に幸多からんことを。ガーナ公爵には私は感謝しているんだ。貴殿の大切な娘と私を引き合わせてくれたことに」
殿下の瞳がお父様から私たちに移される。
その瞳の中には隠し切れない感情が揺らめいている。
「ありがとう」
「もったいないお言葉でございます。いらぬ心配と存じ上げますが陛下たちとご一緒でなくてよろしかったのですか?」
「陛下には許可をいただいている。なにせ今日は運命の相手探しが趣旨の祭りだからな」
「さようですか」
ちゃっかりしてるよ。本当に。
わざわざ陛下の許可もらってホールで待っていたなんて。
こっわ
それにさっきの言葉…100%最悪の言葉だわ。だって他の貴族からしたら今の言葉で殿下はガーナ公爵家のご令嬢に心決めているように聞こえる。そうなれば群がる人間は明らかに増えるし、その中には野心、敵意、媚、嫉妬いろいろなものを持ってくる人間がいる。
やはり早急に専属の暗部と護衛を増やす必要があるわね。
私本人にもノグマイン商会にも
本当に要らぬ問題ばかり増やしてくれる方だな…。
「そろそろ他の方々にも挨拶をしなくてはいけないな」
さっさと行ってくれて構わないです。どうぞ他の方々と親交をお深め下さい。
安堵のため息を吐き出す。
「ああ、そうだ。リズ」
「…はい」
「ファーストダンスは君と踊るから」
「え」
「それでは、皆今日を楽しんでくれ」
嘘やん。
拒否することもできずに殿下は他の貴族の方々に挨拶されに行く。本当にそういうところだよ腹黒!!
ポンとお兄様が憐みの瞳で肩に手をのせる。
憐れむぐらいなら助けてくださいよ、お兄様…。
レイ兄様は無理と笑顔で答えてくださる。うえ~ん。踊りたくないよおおお
ふとシルビアの方を見ればすでにかわいい妹の姿はなく、離れたところで仲のいい令嬢たちと歓談中だった。
お姉ちゃんは寂しいです。
さて、嘆いていても仕方がないので憂さ晴らしにデザートコーナーへ向かう。
給仕係に適当に盛り付けてもらった皿を受け取り黙々と食べる。
なんか前もこんなことなかったっけ?
あれはいつだったか…。
「そちらのシフォンケーキは美味しいですか?」
柔らかな声が後ろからかけられる。
「はい。中にオレンジが入っていておいしいですよ」
声の主の方に振り向けば菫色の髪に穏やかな笑顔をたたえたヒルデ様がいらっしゃった。
「ご無沙汰しております。ヒルデ様」
「お元気そうで何よりです。リズビア様。貴女様はいつも中心ではなく端の方にいらっしゃいますね」
ヒルデ様は給仕係に私と同じものをさらに盛り付けるように言いつける。
「私は中心になりたいと思ったことはないですよ?」
「そうなんですか?商会の品を紹介しているときは嬉々として中心にいるように思うのですが」
「それはそれです。個人としてはできる限り目立たず平穏に過ごしたいと思っていますの」
「貴女様が目立たず過ごすのはいろいろな意味で難しくないでしょうか?」
「…」
そんなことはありませんって言えないのがつらい。
「本日も殿下と踊られるのだとか」
「お耳が早いことですね」
「恐れ入ります」
クスクスとヒルデ様が笑われる。私は全然楽しくないんだけどね。
とりあえず下手に中央辺りにいて令嬢たちの嫉妬を買いたくないから、こうして端っこに避難しているのだ。それすらも殿下の手のひらの上な気がしてならないが、仕方がない。
「そういえば、ヒルデ様はどちらのご令嬢と踊られるのですか?」
「私は従妹にあたるガルフ男爵令嬢と踊るんですよ」
「従妹様と踊られるなら気心知れていいですね。羨ましいです」
心底羨ましいです!!
そういえばガーナ公爵家の従妹となると関係性が強いのは3家紋だろうか。
ディー辺境伯爵家、マイル伯爵家、ノンフェルジー侯爵家。どの家紋も私たち兄弟よりも年上の子供達しかいなくてあまり交流はないのだけど…。いずれは顔合わせをしなくてはいけないでしょうね。
「ご機嫌よう、リズビア様」
…。振り向きたくないんだけどな~。分かってた。今日はこういう日だって知ってたけどさ
展開が早いんだよ!!!!
「ごきげんよう、ベスタ侯子」
「ベスタ侯子だなんて他人行儀な」
いや、他人行儀も何も私たち他人ですが?
「マルコスで構わないですよ」
「そうですか」
「そちらは確か伯爵家の―」
マルコス・ベスタがヒルデ様をじっと見つめる。
ああ、面倒くさいな。
「こちらはヒルデ・コングラッツ様です。領地の方で出会ってから仲良くさせていただいているのです。ヒルデ様、こちら我が国の宰相閣下のご子息であらせられるマルコス・ベスタ様です」
「初めまして、ご紹介にあずかりましたベスタ侯爵家の長男・マルコス・ベスタと申します」
「お初にお目にかかります。ベスタ侯子、コングラッツ伯爵家のヒルデ・コングラッツと申します」
2人が手を差し出して握手を交わすのを見つつ次の安全地帯を探す。
ここにいたらろくなことにならないと直感が告げている。逃げねば…
「伯爵家の方が公爵令嬢と二人きりというのはいかがなものかと思うのですが」
「確かに侯子のおっしゃる通りです。申し訳ございません、リズビア様」
「謝られる必要はないですよ。ヒルデ様と私は友人ですので問題ありませんし、ベスタ侯子が危惧されているような話が万が一出回ったとしてもそれは事実ではないのでどうでもよろしいのでは?」
私の言葉に片や驚きの表情を、もう片方は穏やかに笑っている。
まぁ、そうは言っても―
「しかし、貴族はそのような噂がお好きですからベスタ侯子のご忠告はいたみ入ります」
ちょうど皿の上のデザートもなくなったことだ。給仕係に皿を預けドレスの裾をつまみ、淑女の礼をとる。
「それでは、お二方とも良きパーティーをお過ごしください」
さて、まだダンスまで時間があるようだし…どこに行こうかな~
殿下本当に腹黒ですね~。
怖い~。




