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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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施される猶予

 音がする。カチャカチャと陶器がこすれる音。

それに温かい。人が密集した温かさではなくこれは火による温かさ?なのだろうか。心地いい。


「――?」

「――。――」


誰かが話しているのか?

俺はなんでここに―!!


「痛っ!」


腹に激痛が走る。

確かブレスレットを盗んでそれで―はっ!

急いで手にしていたはずのブレスレットを確認すれば腕からは跡形もなく抜き取られていた。くそが。

あれを売ればそこそこの値段になっていたことだろうに。

舌打ちをこぼす。

確かいかつい野郎に蹴られて地面に沈められたはずだったよな?


「目が覚めましたか」


 低い女性の声に驚いて動こうとすればバランスを失って落ちる。

落下によって肘と膝を強打するが、そんなことを気にしていられない。声の主を見やれば清潔そうなメイド服を身に纏った少女が、冷たい紫の瞳で俺を射抜かんばかりに見つめている。


「こちらをどうぞ。ただの水です」

「あ、はい」


手渡されたコップを受け取り恐る恐る口に着ける。

久しぶりに飲んだ泥水以外の飲み物がのどを潤す。ごくごくと遠慮なく飲みすべてを飲み切る。

こんなきれいでうまい水は初めて飲んだかもしれない。


「お嬢様、もうよろしいかと」


少女が顔を向けたほうには優雅に飲み物を飲むメイドよりも小さな子供がいた。

金に輝く髪に薄いピンクの瞳。

小さな唇は瞳の色よりは濃いピンクで白い肌によく映えている。


「ごきげんよう?気分はいかが」

「…ここはどこですか」

「ここは王都にあるガーナ公爵家。あなたは私のブレスレットを勝手に手にした挙句貧困層のルールを破り返り討ちにされていたところを偶然拾ったのよ。傷の手当は公爵家の専属医師に見せて手当したから問題ないはずよ」


ガーナ公爵家…。あのブレスレットはこのご令嬢のだったのか。

ミスった。

公爵家のものを盗むだなんて殺されるに違いない。

貴族は頭がおかしいやつばっかりだ。あそこで俺を見捨てずに拾って手当したのは自身の手で罰を与えるためだろう。

クッソ!!せっかく自由になれたっていうのにこんなにすぐに終わるだなんて

どうして俺ばっかり


「さて、あなたには今2つの選択があるわ」

「死に方の選択ってか?」


令嬢は目をぱちくりして少し考えた後に頷く。

ろくでもないやつばかりだ。


「1つ。あなたは公爵家の令嬢のものを盗んだということで罰として強制労働を強いられ、南部にある国境沿いの鉱山での一生涯の労働。これは逃げたところですぐ捕まると思うから(鉱山から一番近い町までの距離はかなり険しく最短でも1日半はかかる)大人しく労働していることね(怪我をしてもあそこは誰も気にしないだろうし、怪我は自分で治すもの精神が強いのよね)」


令嬢は指を一本たてて指をくるくる回し、円を描く。


「2つ。あなたは私のために今後の人生をささげること。もちろん私の手足とあるためにそれ相応のものは習得してもらうけれどね」

「あんたに人生を捧げるって?具体的には?」

「私専属の影というか暗部になってほしいの」

「暗部?」

「暗殺や誘拐、脅迫、情報操作、情報収集を行う人間のこと。その中でも特に前3つに特化した人間が欲しいの。ただ、この職はよく死人が出るからあまり好まれる職ではないし、センスがなくてはすぐに駄目になる。あなたは窃盗ができるくらいには盗みのセンスがあるようだからきっとこっち方面も伸ばせば何とかなりそうなのよね」


窃盗犯を暗殺者にって…


「狂ってるな」

「お父様にも似たような言葉を言われたわ」


 これはあの方からの命令に沿っているよな?

使用人ではなくとも暗部でしかも令嬢の直属となると言葉も交わすだろう。

さっきの話の中では暗部は情報収集も行う。それならいざ公爵家を捨てられたとしても他の貴族に取り入れる可能性はゼロではない。むしろこっちのほうが取り入る手段としては一番いいかもしれない。正攻法のやり方は俺の生き方的に無理だ。

貴族の階級は問わないと言っていたが王家の次に尊い公爵家ならきっと文句も言われないことだろう。5年。5年でこの令状に俺が使えるということを証明しなくては。

鉱山なんかに送られたらその時点で首と胴体がおさらばする。

それはごめんこうむりたい。


「もしも俺が2つ目を了承するってなれば俺の命は保証してくれるのか?」

「答えはNOよ。言ったでしょう?暗部は誰もなりたがらないと。それほど一人前になる前に死ぬことも多々あるそうよ。だから暗部では“自分の身は自分で守れ”が基本らしいわ。もちろん一人前になっても命の保証はできない。代わりに衣食住を私たちは提供する」


ピンクの瞳がまっすぐと俺を見つめる。


「…あんたの暗部になれるように努力するよ」

「そう」


 令嬢は椅子から立ち上がり俺の前まで歩みを進めると、座り込んだままの俺と同じ視線になるように膝をつく。


「貴方の名前を教えてくれる?」

「名前なんて―」


『名前はケイジュ。お前はこれからケイジュと名乗りなさい』


「ケイジュ」

「ケイジュね。これからよろしく。私はリズビア・ガーナよ」

「リズビア様…」


柔らかく笑い手を差し出す彼女の手を取り握る。


「まずは言葉遣いと礼儀作法が必要ね」

「え」

「がんばれ!」

「え?」


 リズビア様は勝手に「おー!」と拳を天井へ突き上げ立ち上がる。

暗部に礼儀作法とか言葉遣いとか必要か?

メイドに視線を送れば小さな声で「必要ですから」と言われた。

…。とりあえず、やれるところまでやってやろう。

今すぐ無抵抗に死ぬわけじゃない。

与えられたこのチャンスを5年という猶予の中いかに活かせるか……それはすべて自分次第。


言葉遣いだって大切なんですよね~

次回は華鏡祭3日目です

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