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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
130/144

施しを与える

作者の手違いで日にちがかなり空いてしまいました。

申し訳ありません。

これからもよろしくお願いいたします

 路地の裏は薄暗く表通りとははるかに違う雰囲気が漂っている。たまにすれ違う人はこちらを物珍しそうにじっと見つめてくる。

 まるでこちらを値踏みするかのようであまり嬉しくはない視線にタジタジしてしまうがそれを表に出すことは許されない。少しでも気取られてしまえばおそらく囲まれかねない。それでは、本来の目的から遠ざかってしまうわけで…。今は早急に物事を進めるべきだ。

 影は迷いなくまっすぐに足を進める。

よくこの入り組んだ道で迷わずに歩けるものだ。

彼は私が呼ぶ可能性を考慮していた?ということは窃盗犯と思われる子を追っている人間とそれを伝達している人間がいると仮定すると最低でも影は3人はいるということなのだろう。しかもその全員が私の()()

()()。え、なんで監視?あ、一番屋敷の外に出歩くからかな?それなら普通()()じゃない?え、どうして監視なんだろう…。謎じゃん


「――――――っ!!」

「あ―?!」


ガッ

 くぐもった複数人の声が聞こえると同時に木箱か何かが壊れるような、いや、壊されるような音が聞こえる。

一瞬息をのむが足を進めるペースは変わらない。

音のする場所に近づき角を曲がったところで影が止まる。その後ろから少しずれて様子を見れば窃盗少年は5人の男性に取り囲まれ、お腹を手で守るようにしてうずくまっている。

少年の後ろには粉々になった木箱があった。

ああ、やっぱりこうなるのか。


「おい、坊主。そのブレスレットはお前が持ってていいもんじゃねんだろ?」

「そうさ、俺らがもらってやるから早く渡せや」


ガタイのいい男性と少し小柄の頬を染めた男性が少年を馬鹿にするように笑う。

それをきっと睨み返す少年はブレスレットに傷がつかないようにしっかりとかばっていた。


「誰がおまえらに渡すか。これは俺が―」


こちらに背を向けて立っている男の一人の靴が少年の顔を踏みつける。


「「なっ!!」」


エリオットとともに声を上げそうになってしまう。

少年は顔を蹴り上げられたことでくぐもった声を漏らす。

絶対に痛いでしょ。あれは…


「坊主、お前新参者だからここの仕組みをわかってないのはいいけどよ年上に『おまえ』は駄目なんだわ。ここは日の当たらない者たちが暮らしてる。年功序列と弱肉強食これがここの絶対条件。はき違えてんじゃねえよクソガキが」


ガンッ

 男は容赦なく少年の髪を掴み、顔を引き上げると唾を吐きかけ思いっきり顔を地面に叩きつける。少年は 抵抗する間もなく地面に顔を叩きつけられたことでピクリとも動かない。

まずい、これ以上は―

前に出ようとすればヴィオが私の袖を引っ張る。


「ヴィオ?」

「なりません、お嬢様。彼は貧民街の子供です。救ったところで公爵家では雇うこともできず結果的に彼を今以上に苦しめます」

「彼をあのまま見捨てろと?」

「後ほど我々が手当てします。ですから今は」

「ブレスレットは?」

「それは後ほど私たちでちゃんと回収するので」


 それじゃダメなんだよ。それだとヴィオもレットもエリオットも少なからず罰を受けることになる。私のせいで

それは駄目。それに―


「彼を見捨てることはできない」

「リビア」


 だって彼は一方的な暴力を受けた。その原因はあのブレスレットだ。

施していたとしたら状況が変わった?わからない

それでも今この時の原因は間違いなくブレスレットであり、私が引き起こしたことだ。見て見ぬふりをすることは簡単だよ。それをすることは本当に簡単だよ。

婚約破棄されて死んだ(夢の中の)リズビア(わたし)は周りの視線を知っていながら割り切っていたから。本当は割り切っているんじゃなくて見て見ぬふりをしていたこともリズビア(私自身)だからわかる。

その結果が死んだ(あれ)というのなら


「ごめんね。だけど引けないから」


ヴィオの手を包み込むようにして離し、彼のもとに進む。

もちろん影が後ろをついてきているのは確認済みだ。


「こんにちは」

「ああ?」

「こんなところになんか用か?」

「そちらの少年に用事があります」

「今こいつは取り込み中なんだわ」

「もう、彼に意識はないので取り込みもないと思うのですが」

「お嬢ちゃん。ここは初めてかい?」


少年を蹴り上げた男性がこちらを品定めするように見つめる。


「ええ、お恥ずかしながら今日が初めてです」

「そうかい。この坊主に何の用だ?」

「少年に渡したブレスレットに不備があったので手直ししようと思いまして」

「不備?わざわざそんなもののために」

「お優しいこった」


男たちは笑う。口を開けて馬鹿にするように笑う。

それでも目は笑わない。


「渡すならちゃんとしたものを渡さなくては気が済まない性分なんです」

「へぇ~それなら俺らにも何かくれないか?」

「なぜ?」

「こいつには渡したんだろう?」

「…」

「施しなら俺らにもくれよ」


 やっぱり簡単に渡してはくれないか。うーん。どうしようかな

 彼らが望むものってなんだろう。お金?いや、一時しのぎにしかならない。食?それも一時しのぎだ。彼らが貧困層から抜け出すためには?


「今すぐに何かを施すことは難しいので2週間後、2週間後路地の出入り口に来てください」


男たちが言葉を、息をのむ。

笑え

舐められないように


「金も物も一時しのぎにしかならないものはとても哀れですから」


笑え

悟られないように


「少年は哀れだったので物を施しましたが、あなた方は先ほど貧困層は年功序列の弱肉強食だとおっしゃられていましたので彼よりもより良い施しを行うべきですよね?」


にっこりと笑う。

あ、頬がひきつりそう。それでも目は離さない。


「ここから抜け出す権利を施しますわ」

「なにを…」

「といっても、すぐに抜け出せるわけではありませんけどね。チャンスですよ」


彼らを一人一人まっすぐに見つめる。

その顔は少しの期待と疑問と戸惑いを含んでいる。


「あなた方にチャンスを渡します。そのチャンスをものにできるかはあなた次第というわけですね」 

「…それを施してお嬢ちゃんにはどんな利が来るんだい?」

「私にはあなた方を助けたという優越感(善意)に浸れます――なんていうわけないじゃないですか。私にはあなた方にチャンスをといいましたが貴重な人材を手元から手放したくないので彼らの代わりにあなた方を利用するだけです」


 本当は無償でもいいんだけど、おそらくこの手の人間は一方的な施しが嫌いなんだ。下に見られることが嫌。プライドを踏みにじられることが嫌。そういう人間はごまんといる。

それは裕福だとか商人だとか貧乏だとか関係なく。

ある一定数はどの階層どの国でも存在する。そういう人間を相手どれるものこそが良き商人となれる。


「お互いに利がありますがいかがです?」

「わかった。2週間後に路地の出入り口に行こう。ただし約束の担保として坊主への施しは預かっておく」


…まじか。え、それがいるんだけど…。他のものを代用したらその時点でこの話への信頼性が欠けてしまう。


「わかりました。それを担保として預けます。2週間後には返してくださいね」


男はニヒルに笑うと仲間を連れて路地の奥へ消えていく。

はぁ。これはお父様に怒られるやつだな。帰ったら速攻で謝ろう。うん。それが一番


「影、今日のことは私からお父様に説明するからあなたは私の報告後にお父様へご報告しなさい」

「いいっすよ~」

「レット、エリオット申し訳ないけどこの子を屋敷まで運んで」

「え、どうするの?」

「手当をして今後を決めるわ」


 使用人にするには身元確認ができてないし、ましてや私に無礼を働いている時点でその枠は潰れている。庭師や料理人も同じことがいえる。身の回りのことは任せることは信頼がないため不可。貴重な書類や物がある屋敷への出入り自体があまりよろしくない身の上だ。

そんな人間をどうやって…。

商会においてもアローが秒で追い出す未来しか見えないし

むしろ誰もやりたがらない職種。

身分を問わずできるもの


『あ~あ、残念だな。誰も君を気にしないもん。ここで朽ち果てようが息絶えようが誰も君に見向きもしない』

『ザッシュッ』


「―っ!!!」


はっ、はっ

なんで今あの光景が。

心臓の音がひどく大きく聞こえる。冷汗が背中に落ちる。

そっと手を首元に持っていく。大丈夫、斬られていない。生きてる。

私は生きてる。

頭がだんだんと冷静さを取り戻す。大丈夫、大丈夫

おかげでいい方法が見つかった。

これなら彼を貧困層という地獄から救える。その代わりにそれ相応の地獄に突き落とすことになるけれど…下手打たない限りは死にはしないはず。そう、今はまだ生きていられる。


「おじょ~さま、準備できたみたいですよ?」


 影が笑う。この場に似つかわしくないほどの満面の笑みで

子供のように無邪気に。それはまるで―


「わかったわ。帰りましょう」













壊れている(悪魔の)ようだ。


貧困層だから幸せではないっていうのは正しいんでしょうか?

そりゃお金がないと何もできないけれど、それが絶対なんて誰がいえるんでしょうか。


なーんてことを考えながら書いていましたが、あの少年にとっての幸せは何なのか

それをリズビアは考えられているんですよね~

10歳にも満たない子供がそんなこと考えられていることが凄いなってつくづく思います。


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