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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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手作りの生物

少し長めです。

 机の上には紙、紙、紙…。

 ぎっしりと文字が書かれた紙が机の上に広げられ、中には大きくバツが記入していたり丸が付けられていたりする。

その机に向かい合う形で備え付けられた椅子に座っているリズビアは、ペンを持ち、頭を抱えて唸っている。

唸っては書き、唸っては書きを繰り返すこと2時間が経過しようとしている。


「お嬢様、少し休憩されてはいかかがですか?」

「う~ん。あともうちょっとなんだけど~」


 ヴィオの声掛けに生返事を返す。

 先日お母さまにお願いという名の半強制的脅しを含まれ、『華鏡祭』で行われるお茶会のおもてなしを考えるように言われたので、その日のうちに執事長から参加者リストを受け取ったのだが…。

参加リストの一覧はさすが執事長の手にあっただけあってとてもきれいに一覧化されていた。参加者は侯爵家から騎士爵位まで。家紋数としては37の家紋が参加する。

 しかも、今回の茶会は貴婦人だけでなく紳士も参加する。びっくりだよね。リスト見て初めて知ったもん。お母様…教えてくださいよ…。

 男性と女性では着るものも違えば飲み物、食べ物も異なる。しかも年齢も今回は規定がないため幼い子からお年を召された方まで幅広く参加する。このような茶会の場合はお姉様に連れて行ってもらった四大公爵家主催の茶会をはじめとした一般的に浸透しているお茶会のように全員が指定の席に座って長時間というのは不向きだ。

 となると、自由に移動できることを組みしなくてはいけないけれどずっと立ちっぱなしというのも問題があるわけで


「あ~」

「お嬢様、はしたないですよ」

「どうしたらいいのか全然わかんない!!」

「お嬢様、それは見てればわかりますよ。少しは息抜きしてくださいよ」


 レットの言葉に渋々ではあるが、ペンを置いて腰を上げる。

 ソファーの方にはいつの間にかオレンジジュースとまだホカホカと湯気を上げているカップケーキが用意されていた。


「わ~!今日はカップケーキなんだね」


ウキウキしながらソファーに座りカップケーキを手に取る。

しっとりとした食感と口の中に広がるお菓子独特の優しい甘みが自然と頬を緩める。


「ん~おいしい」


一個目のカップケーキを食べ終え、次のカップケーキに手を伸ばす。


「そのカップケーキはブルノが作ったんですよ」

「ブルノが?!凄いじゃない!!これなら夢も遠くないわね」


 ブルノはパネッサ達と同じで孤児院出身だ。2人とは違う孤児院出身だが、料理作りが得意であることから本邸側の料理人見習いをしてもらっている。そんな彼女の夢は菓子職人になることなのだそうだ。これはその一歩なのだろう。

これほど美味しいものが作れるのだからきっと彼女の夢は遠くないうちに叶うだろう。


「お嬢様、おいしくて食が進むのはよろしいですがゆっくり食べてくださいね」

「うぐっ、分かったよ」


ついつい手が伸びるスピードが上がってしまうのはよろしくないことだと分かっているので、大人しく言うことを聞いておく。


「そういえば、あちらの手紙はお読みになられたんですか?」

「……」


 ヴィオが顔を向けているのは、小さな棚の上に置かれている…もとい、積まれている手紙の束のことだった。その手紙の差出人はすべて殿下からで、私が不在であることを知っていてなお送ってきているあたりに嫌味を感じずにはいられない。

 しかも、内容は30字程度の短いメモ書きのような時もあれば、紙何枚にも亘っているときもある。絶対に嫌がらせだ。

内容だって今それ必要?みたいなものだったり、近況報告だったりとバラバラ。


「全部はまだ読んでいないわ」

「返信はよろしいのですか?」

「いいんじゃない?特に返信催促の文字は書かれていなかったもの」


 あの手紙の束への返信ならただ一つ『手紙をそんなに送られる必要はありますか?』である。

 オレンジジュースの入ったコップを手に取り、グラス内の液体を意味もなく揺らす。

 あの手紙の量が、内容の気さくさが、便箋の種類の多さから殿下にとっての私の立ち位置を測りかねてしまう。手紙の中にはわざわざ避暑地で見つけた私が好きそうな花を押し花にして送ってきたり、好きそうな場所を教えてくれたり…。

それが友達という距離感では当たり前のことなのかどうかも友達の少ない私には分からない。故にあの手紙を読むことを躊躇ってしまう。

ヒルデ様やアリスとの手紙では、いくらきれいな花があってもわざわざ押し花にして送りはしない。


「…」

「お嬢様」


 レットに呼ばれ、手に持っていたコップを机に置く。


「あー、これ新しい手紙です」


 レットは苦笑しながら白い手紙を私に渡す。


「殿下…暇なの?」

「王子殿下もお忙しい身分であると思いますから、決して暇ではないかと」


 受け取った手紙の封を切り、手紙に目を通す。


『リズビアへ


 先日、王都に帰ってきたと風のうわさで聞いた。長旅ご苦労。きっと良き旅であったことだろう。そんなリズビアならきっと私が散々送った手紙に今頃目を通しているあたりか、途中で諦めようとしていることと思うのだが、違うだろうか?』


 ……。若干イラっとしながらも、読むのを諦めようとしていることを読まれている事実と話のタイミングの良さもあいまって戦々恐々としてしまう。


『ちなみにだが、あの手紙の中には押し花だけでなく生物が入っているものがある。』


「はあああああ?!!!!!!?????」

「お嬢様!!」


な、生物って。生物は駄目でしょう?!しかもさ、いつ開封されるかとかわからないのに

何考えてるの?!馬鹿なの???

 ヴィオが大きな声を出したことに対して咎められるがそんなことを気にしていられず、急いで手紙の束に駆け寄り、封を切っては手紙を取り出して行く。

 一通目も二通目も、十通目も、十六通目も出てくるのは手紙とたまに押し花。

ないないないない。

え、腐ってたりしたら匂うよね?まさか梱包しているとか?いや、でも嵩張っているものはないし…。

どうしよう。悪いのは全面的に殿下なんだけど、それでも…もしも高価なものだったら?貴重なものだったりしたら?何を言われるか分かったもんじゃないし、駄目にしてしまったことを逆手にとって無理難題(主に婚約者候補関係で)を言われても困るもの。

何十通目の封筒から手紙を取り出した時、コツンっと床に何かが落ちる音がした。


「これは…」


 床に落ちたものを拾えば赤と緑、黄色の丸い石がきれいに並べられたブレスレットであった。ブレスレットを持ち上げ、窓から差し込む光に透かせば赤い石は中からキラキラと光り、緑と黄色の石は光加減で色を変える。緑は黄色へ、黄色はオレンジから緑へ

石の並び順は色によってまとまっているようで、18個の石が綺麗に輪を作っている。


「綺麗」


ブレスレットと一緒に入っていた手紙に目を落とせば、これは殿下がわざわざ避暑地の特産物を使用して自ら作ってくださったものらしかった。


「お嬢様…そちらは?」

「殿下がわざわざ作ってくれたものらしいわ」


レットがブレスレットを覗き、ヴィオが机の上に投げ捨てるようにして置いた殿下からの手紙を持って近づいてくる。


「サンストーンとスフェーンですかね?」

「永久不変…悪趣味」


 レットのつぶやきにヴィオが何か言うがその声は小さく私の耳には届かない。


「お嬢様、勝手に手紙拝見いたしたことお詫び申し上げます。おそらくお嬢様は生物と書かれていたので慌てられたのかと推測いたしますが、生物はどうやらブレスレットのことらしいですよ」

「え?!」


なんで私の考えが分かったの?!ヴィオ凄い!!っじゃなくて、生物がブレスレット?

首を傾げながら、ヴィオが持っていた手紙を受け取り先ほどの続きに目を通す。


『天然の石を使ったブレスレットだ。お守り代わりになるらしいから活用してくれるといい。あと、そのブレスレットを付けていると面倒ごとに巻き込まれにくいらしいから、きっと君には必要だろう。次回会う時には手紙の感想でも聞かせてくれ


                                ウィル・デ・ファンネルブ』


「……」


 ほっと溜息が出るとともに、脱力してしまう。うん。確かにどんな生物だとは書かれてなかったから早とちりした私に非があるのだが、殿下の書き方にも問題はあると思うのだ。

このブレスレットを付けることで面倒ごとに巻き込まれないというのなら、是非殿下から守ってほしいものだ。

ブレスレットを腕につければキラリと石が輝く。

ブレスレットに罪はないのだから、殿下が言うように活用させていただこうかな


そんな様子をどこか嘆かわし気にヴィオとレットが見つめていることを本人は気づかない。


ブレスレットを生物と例えてくるあたりにウィルの性格を感じますよね。

ちなみに、ブレスレットの石にはそれぞれ意味が込められていたりするものですよ


誤字報告いつもありがとうございます!!

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