私にしかできないことを
長めになってます。
上質なソファーに対面に腰掛ける。
ソファーの後ろには選ばれた―それすなわち、信頼のおける人間が3人立っている。
3人…こちら側からうかがえるのは水晶の華の3人なのだが、それぞれ表情は困惑していたり、疑っていたりしている。
まぁ仕方がないか。相手は7歳の女の子と10代の少年3人だもんね。
普通の大人ならこれくらいの反応だろう。
ただ一人違うというのなら…目の前に座り不敵に笑っているこの女性くらいなものだろう。
「さて、リビア話の席は設けたよ」
「ありがとうございます。ファラさん」
「なーに私を見つけた褒美のようなもんだよ。それで話とは?」
「ファラさんは同席していなかったようですが、話というのは私達のノグマイン商会と水晶の華での提携もしくは商品輸出入の取引をお願いしたいというものです」
ファラさんは目を細める。
商人はその態度、口調、話速度、目線すべてを操り意識し自分たちと相手側の落としどころを見分けるというのが大切だとアローのお父様が教えてくれた。
ファラさんはおそらくそれらを身に着けている人間だと思う。
「ほう。取引の内容は?」
「1つうちの商会の商品を斡旋的にお渡しいたしますので、他国でも広めていただきたい。その代わり水晶の華の必要物資を幾分かはこちらでご用意いたします」
これはメインの方。
メインの要求はどう考えてもノグマイン商会に有利な取引内容の為、yesがすぐにもらえるとは思っていない。相手はこちらよりも上手である。
だからこそ―
「2つ、そちらからの品…特に他国から広めることを強く望まれている物やあなた方が広めてもいいと思うものをうちが買い取り国内に広める手伝いをいたします」
2つ目の要求は水晶の華に有利な内容になっている。もちろん彼等だって商会の名というブランドが、プライドがある。下手なものを売り付けたりはしないだろう。
万が一そうなれば彼らはその売ろうとしている国と密接なかかわりがあるということを示し、今後の国際間の問題の一つとして対策を打つ手立てになる。
今のファンネルブ王国は国内外ともに平和というか争いの火種となるものはなく、民が安全に暮らせている。しかし、一昔前は我が国だって戦争中だった。
今の王政が平和を生んでいるとして、他国も同じ考えかというとそうでもない。
実際、隣国のドロッセル王国は北東に在するベルメゾン共和国と国境戦争をしている。仕掛けたのはドロッセル王国だと聞いているが…。
その他でも戦争や水面下での国同士の争いなんてものは数えきれないほど存在していることだろう。
「以上2点を本日は交渉させていただきたく思っております。つきましてはうちの商会でもう少ししたら売り出す予定のこちらを吟味していただきたく存じます」
「なるほど。ノグマイン商会長のお話は分かったよ。ベンネル、お前商品は見たのかい?」
「見ました」
「そうかい。売れるのか?」
ファラさんは視線を私達から外すことなく後ろに控えるベンネルさんと話す。
アロー達が先の取引で品は見せているはずだから、ファラさん以外は実物を見ていることになる。ただその評価を私は知らない。
吉と出るか凶と出るかでこの取引の要が崩壊しかねない。万が一そうなればメインは諦めて仕立てに出るしかなくなる。
「ガラスで作られたペンでした。他国にはなく綺麗で女性受けはしますね。ただ国によっては女性がペンを執る少なさがあるので万国受けには不向きでしょうね」
「だそうだが、言い分はあるかい?」
…。
「女性の識字率が国によって差があることは存じ上げております。しかし、だからと言って
識字率の低い女性がずっと字を書かないのか?と言えばそうではない。時代は移ろいゆくものですから。我が商会の品を見て少しでも字に興味を持っていいただけたら幸いですわ。それに―」
識字率の低さは我が国でもある。貧富の差ゆえにどうしても生じてしまうものだ。
その対策としてうちの領では学校制度がある。
孤児でも必ず最低限の読み書きができるように―と
この考えはそれなりの条件が揃わないと実現は難しいかもしれない。ただ、本人の意欲を消し去ることは誰にもできない。
「それに、我が商会の品を気に入ってくださったのをきっかけにその国ごとの文字の本などをセットにして売り出せば識字率向上に役立つかもしれないですね。ああ、インクとのセット販売もいいかもしれないですね」
これはただのきっかけにすぎない。他国で受け入れられる可能性は私達には分からない。その点は彼らの方が専門であるのだから上手く売り出すことだろう。
ニッコリと笑ってみればファラさんは耐えかねた様に吹き出す。
「あっはははは!!これはあんたらより上手だね。かまわないよ、そちらの商品を受け入れよう」
「「「「!」」」」
「おふくろいいのか?」
「かまわんさ。識字率向上はお偉いさんの中のまっとうな人間は嘆いていたところだろう?一つ貸を作ればこっちには利が3倍になって返ってくるさ」
「ありがとうございます」
ファラさんに頭を下げれば、愉快な笑い声に頭を上げるように言われる。
「リビア、あんた何歳なんだい?」
「え、7歳です」
「はぁ⁈7歳?嘘だろう!」
「…7歳でここまで交渉にたけているとは」
「ノグマイン商会全体的に年齢が若くないですか?」
後ろに控えていた男性陣が驚愕の声を上げる。
あはは、だってねぇ。後ろに控えているのが幹部の年長者になるんですもん。
平均したら幹部は10代前半ですし…、商会全体平均はそれでも20代後半だし、若いんだよね~
曖昧に笑っておく。下手なことを言って侮られたくないしね。
「リビア、2つ目の提示条件はどうやって成し遂げるつもりだい?あんたがさっき言ったように人は時代とともに移ろう。そしてそれは考え方だけでなく興味関心も含まれる。そう簡単に広めるならそれこそ上の人間の力が必要だろう?」
「母さん、彼らは公爵家のご令嬢が運営に携わっているから―」
「例え携わっていようと人を相手どらなければその本来の良さも価値も意味も意味がないだろう?人から何かを人伝えに聞くというのはそれこそどこまでこちらの意志が通るか、伝わっているか見えない」
ファラさんは目を細めて私達を一人一人見る。
まるでこちらが見定められる商品のようで居心地はよろしくない。ああ、でも貴族特有の悪意ある見定めの視線よりはましだな。あれはどう振舞ったって揚げ足を取りに来る気満々だから…
うっ、王都に帰ったらお茶会でなきゃなんだった。行きたくないよ~
「そんな相手に私らは品を売れはしない」
その声音は芯が通っていた。
否定されても折れない意思がこもっていた。
すっと息を吸い、瞼を閉じる。この人の真意に答えたい。答えなければおそらくこの話はなかったことになるだろう。それなら私がすべきことは1つしかないけれど…
瞼を持ち上げ、後ろに控える2人を見る。
アローとファイシャは私が彼らの方をじっと見つめることの意図がつかめず首を傾げたり、眉を顰めたりする。
彼等のことは信用している。信頼もしている。
ただ、このことをいえば関係が変わるかもしれない。それでも私は―
「おっしゃる通りです。商人は直接取引相手に品を売ることで客を見定めることが出来、不適応な客には良き品を売らない。これが商人としての鉄則であることは存じています。だからこそ我が商会はその真意に応えることが出来ると自負しております」
「…では、貴女方は公爵令嬢に我々から購入した品を売ると?」
色黒の男性―先ほどベンネルと言われていたから、彼が商会の代表なのだろう―は、呆れたように私を見る。その瞳には先ほどまでの驚きよりもどちらかというと失望が色濃く映っている。
「そうですね」
私の回答に男性陣3人は期待外れだというようにため息を吐きだす。
「話にならないよ。商人にとっての鉄則まで知っていて答えがそれって…やっぱ子供は子供か」
「期待しすぎはよくないということだろう」
黒髪で髪の毛がピョンピョン跳ねている男性が侮辱する。それに同意するように左目に傷のある男も視線を向ける。
ただ一人違うのはやはり目の前に優雅に座る女性だけだ。
「ファラさん、一つお伺いいたします」
「なんだい?」
「水晶の華は私が顧客であれば商品を売ってくださいますか?」
「ああ、売るね。あんたは私を見つけた。そしてその年でウチの者を凌駕できる器量がある。交渉の術も持っている。あんたが商品を見抜く眼を持っているかは顧客として品を売っていく中で見定めればいいさね」
「それはよかった」
これで言質はとれた。
「ではこの話はもう終わりということで―」
「いいえ、まだです」
ベンネルさんは訝し気にこちらを見る。
私はそれに笑顔で対応する。
「まだとおっしゃっても、交渉は決裂ですよ」
「いいえ、成立ですよ」
言質が取れた時点でこちらが優位に出ても何ら問題なくなった。
本当は言わずに終わりたかったけど…そうもいかないか。
「あんたさ~、さっきので俺らの納得できる回答を用意できなかったんだからこの話が終わったことぐらいその賢い頭でわっかんないわけ~?」
「君たちも何か言ったらどうなんだ?」
彼等の視線は自然とアロー達に向かう。
ただ私は振り向かずに前を見据えるだけ。振り返ればきっとその時点でこの場を目の前の女性に持っていかれかねない。
なにせ、彼女は先ほどから一ミリも動いていない。ただ私を見定めているだけだ。
彼女の見定めが終了するまでここから動くつもりはない
「あー、何かって言われても…ね」
「うん。僕らから言えることは何もないですし」
「自分たちに出来ないことをなせるのがリビアなので」
アロー、ファイシャ、レットが答える。
さすがだね。彼らはファラさんの見定めが終了していないことを見抜いている。だからこそ余計な口出しをしない。したくても出来ないのだ。
「おふくろ、こいつらまじ話になんねぇよ。早く帰ろうぜ」
「ソホ、お前はもうちょい待つことを覚えな」
「チッ」
舌打ち…。ガラ悪いなこの人。
「交渉は成立しない。我々は暇じゃないんだ。いつまでも君たちの相手は出来ない。君たちが私達を引き出せたことは誇っていいし、君は母さんを見つけられたんだからそれを誇ればいい。もう十分だろう?」
左目に傷のある男性は呆れ諭すように話しかける。
申し訳ないけれどその申し出は飲めない。
その程度で終わりたくないと後ろに控えている仲間が言っていたことを私は知っているのだから。使える切り札は全て使わなくては…
スッと立ち上がり、頭を下げる。
突然の行動に一瞬息をのむ声が聞こえるがすぐにあちらからは呆れを含んだ声が漏れる。
おそらく、いままで何度も交渉がうまくいかなかった相手側にこうやって懇願されたのだろう。想像に難くない
でも―
頭を上げ、姿勢を正す。それはノグマイン商会の会頭としてではなく、リビア・ノグマインとしてではなく、ファンネルブ王国四大公爵家・ガーナ公爵家の令嬢として
「申し遅れました。私はノグマイン商会会頭でありファンネルブ王国、四大公爵家が一つガーナ公爵家が次女、リズビア・ガーナと申します」
スカートの裾を摘まみ、少しだけ足を折って淑女の礼をする。
「どうぞ皆様、以後お見知りおきを」
アローとファイシャの前で公爵家のご令嬢だと公言してしまいましたね…。
後ろ向けないから2人の表情が見れない…っていうね。
ちなみに王都に帰ったら容赦ないお茶会地獄です(やったね!)




