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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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接触

シューテル子爵領の港町


 一人の男が港町の屋台に入っては品物を手に取り、比べ、そのうちのいくつかを購入してはまた他の店へ立ち寄る。その繰り返しをとある人間たちが見ていることも知らずに男はまた別の店へ向かう。腰につけた黄色いバンダナを風に靡かせながら。


「やあ、兄ちゃん。今日はこっちの果物が新鮮だぜ」

「ああ、ありがとう。それと…こっちの山菜もくれ」

「毎度!そんなにたくさん買ってどうすんだい?」


快活な店主が袋詰めしながら問う。


「家族の飯の買い出しでね」

「なるほど。それならその山菜は炒めるんじゃなくて茹でて食べた方がうまいぜ」

「そうかい。なら茹でていただくよ」


 袋を受け取り、代金を支払い多量の紙袋を持って店を出て来た道を戻る途中誰かとぶつかり袋が一つ落ちる。

ちっ。悪態をつきながら屈もうとすればこげ茶髪の坊主が袋を拾って、声をかけてくる。


「お兄さん大丈夫?」

「ありがとな。坊主」

「結構荷物があるね。また落としても大変だから俺がいくつか持とうか?」

「いいや。問題ない」

「そう…。じゃあ、これは渡すね」

「ああ、助かる」


坊主はニッコリと笑う。


「礼はいらないよ。その代わりベンネル・マルフォイって人に取り付けてよ」

「…」

「ノグマイン商会副会頭がぜひお会いしたいってね。4番通りのクラッチュリーにてお待ちしてます」


坊主はなんてことのないように告げてその場から立ち去り、あっという間に人ごみの中へ消えていく。


「ノグマイン商会…ね」








 男がいくつもの紙袋を持って船に戻れば、船は活気に満ちていた。


「さっさとモップ掛けしろよ!」

「そっちの荷物は向こうの商会に渡すからこっちを先に―」

「契約済みのもんは慎重に扱えよ」

「2番船が食料を運んでくるまでの間に物品は裁くぞ」


色々な声が飛び交う中をすいすいと潜り抜け、船内へ続く扉を開け放ち厨房に紙袋を渡す。


「おい、今日の品だ」

「おーサンキュ」

「買い出し分の働きは飯の量で示してほしいね」


 厨房の組員に軽口を叩いていれば後ろからボカッと棒状のもので殴られる。


「って~!!」

「なーにを言ってんだい。買い出しごときで賄えるもんはうちにはないね」

「げ、船長」

「ぼんくらの言葉は聞き流してさっさと飯を作りな」

「あーい。親方~」


 厨房員は元気な声で笑いながら厨房室の中へ消えていく。

 白髪の髪を編み込んだ“水晶の華”の船長は手に持った杖をクルクルと弄びながら歩いていく。


「船長、その杖は組員を殴るもんじゃないんすよ?」

「知っておるわい。ただ殴りやすい位置にお前らの頭があるだけじゃ」

「ひっでェ~」


 その杖はとある国の王家から褒章でもらった品で売れば何千万ベルどころか小国一個は買えてしまう品物だ。

その価値を知っていてなおぞんざいに扱えるこの人の豪胆さに船員は皆惚れているのだが、自分の後頭部を狙う存在でもあるから何とも言えない気持ちにもなる。


「あ、そう言えば」

「くだらない話ならあたしゃきかないよ」


 船長は船最奥の扉を開け、一番奥にある腰掛へと腰をかける。


「母さん―とレジン、どうかしたんですか?」

「おふくろ、飯はまだだった?」

「母さん、今日は大人しくしててくださいよ」

「飯はまだだよ。そして、あたしは暇人じゃないよ!」


 部屋の中にすでに居た男三人は口々に会話を始める。

 船長は確かに暇人ではないが一番の自由人ではある。昨日だって勝手にどこかに買い物に行っていたような人だ。この間は俺の財布を勝手にひっつかんで出て行ったくせに、中身が3ベルしかなくて帰ってきたらあの杖でぼかすか叩かれたのはいい思い出だ。


「で、レジンはなにしに来た?」


 ベンネルの問いに頭を掻きながら買い出しの時に出会った坊主のことを思い出す。


「買い出しで会ったやつからおまえに取り付けろって言われた」

「へ~、レジンなんかに伝言とか見る目あるねそいつ」

「副船はどうして俺を蹴落としたん?」


 副船長であるリ・ソホという男は、あははと笑って俺の問いを全く取り合わない。

理不尽の塊がこの船内には多いので、慣れた光景でもあるのだが…。はぁ。


「なるほど。相手は?」


俺の質問をガン無視してベンネルは問う。


「相手はノグマイン商会の副会頭様だそうですよ」

「ノグマイン商会?」


 船長が器用に片眉を上げて俺を見つめるので素直に頷いておく。

 俺達が情報屋からもらった情報の中にも“ノグマイン商会”の話はあった。

おそらくそこの副会頭がこの話を持ち掛けたのだろう。


「ガーナ公爵家のご令嬢が運営に携わっているという商会の副会頭が…」

「ずいぶん情報が早いんだな」


冷めた表情で片目に切り傷のある副船長代理の男―ラヨン―が溢す。


「情報の扱いがうまいんだろうね」

「ふん。若気の至りってやつかもしれないね。あんたたち一応相手してやんな」

「わかりました。レジンは商会メンバー3人を見繕って来い」

「うぇーい」

「じゃあ、今回は俺、ベンネル、ラヨン、レジンと他3人の7人編成で行こっか」

「え、俺もいくんすか?」


 まじかー。飯食ったら昼寝したかったのに…。

そんな俺を見てベンネルは呆れた表情をする。


「お前しか場所を知らんのだから当たり前だろう」


 場所ぐらい書き出せばよくね?と口を開こうとすれば、勢いよく何かが飛んできて頬をかすめる。


「つべこべ言わずに働きな。この船から突き落とすよ」

「…へーい」


 飛んできたチョークを見下ろしながらやる気なく返事を返す。

ああ、めんどくせー





可哀そうな船員さんですね。

てか、売れば小国買える杖を他人を殴る(アイの鞭)に使える船長さんマジ凄い…。

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