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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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値切り交渉

 ザザーン


 潮風が吹き抜け、砂が舞う海浜で今私は大きなつばのついた帽子を被って潮干狩りをしてます。はい!!

ざっくざっくと砂を掘りながら見つけた二枚貝を手持ちのバケツに入れていく。水分補給もしながらかれこれ40分はやってますよ。

なんででしょうね!

 正解はファイシャが情報交換に労働力を提供してしまったからです。確かにお金出さないに越したことはないんだけどさ、見てよあのヴィオの顔を。

めっちゃ怒ってるじゃん。

 ピルマも困った表情でこっちをちらちら見てるよ。二人ともめっちゃ手を動かしながら見てくるんだけどね。凄いよそういうところ。

 問題は私が極度の日焼けをしてしまわない様に―ってことらしい。日焼けをするとその部分がドレスを着たときに目立ったり、お茶会の際に王都にいる子はそんなに日焼けするほど陽を浴びないからいいように言われたりしかねないとのこと。

 王都に帰ったらお茶会への参加がもはや決定事項になっている点については深く突っ込みません。ツッコんだら負けな気がするから。

それにしても


「暑いね~」


バケツ半分の二枚貝を確保できたのは上々だと思う。


「お前さん達そろそろ終わりにしな~」


おばさんたちの声に従って私もヴィオもピルマもバケツを持って漁港市場へ戻る。


「あら~ぎょうさん取れたんね。お疲れさん」

「「「お疲れさまでした」」」


 ヴィオのバケツには溢れそうなぐらいの二枚貝が入っていたし、ピルマもバケツの3分の2まで埋めていた。二人とも二枚貝探しの達人か?


「リビア、日焼けしてませんよね?」

「おかげさまでね」


見てほしい。この完全防備。

大きなつばのついた帽子に薄手の長袖カーディガン、足元も厳重にとパンツスタイルである。暑い。凄い暑い。冷たい飲み物が身体に染みる。


「ああ、よかったです~。もしも日焼けされてたなんてことになったら奥様に叱られてしまいますもの」

「シルビア様にもご心配されてしまいますもの。本当に良かった」

「え、これ脱いでいいよね?脱ぐよ」


2人の話を半分聞き流しながら、帽子とカーディガンを脱ぐ。あ~涼し。


「よ、お疲れさん」


 にゅっと出てきたファイシャの胸倉をヴィオが問答無用で掴む。身長差があるから掴むというか引っ張るというのが正しいような感じだけれども


「いったい何考えてんですか?」

「え~情報交換は極力金使うなってアローが言ったからさ」

「だからってリビアに何かあればどうする気ですか⁈」

「普通の子ならそんなに気を使わないでしょ?少しは普通を学ばなきゃ」

「だからって!!」


2人は至近距離でこそこそと話し合っている。こちらに全く声が聞こえない。

ピルマと私は蚊帳の外になってしまっている。

それはそうとして


「ファイシャ、なんか情報貰えたの?」


ただ働きなんて結果はごめんなので2人の会話が落ち着いた?ところを見計らって声をかける。


「うん。貰えたよ。どうやら“水晶の華”はすでに何人かの組員が港周辺に到着して店とかを回ってるみたいだよ」


! 既に到着しているってことは私達が何気なくすれ違った中に目的の商人はいたのかもしれないってことか。

 港周辺は海商で賑わっているため異国風情の人も少なくない。この中でどの人が“水晶の華”の商人だ!なんて見つけるのは至難の業だ。


「統一した服装とかもないんでしょ?」

「ないね~。海商を商いとしている商人は長い旅に出ている人ほど栄養失調とか病気になりやすいからやせ型体系が多いとかは聞くけど、ファンネルブ王国に来る前にどこかで休息をとっていれば話は変わってくるしね~。当てにはならないかな」


体系も服装も当てにならないと来れば本当に勘でしかない気がしてきた。


「見つかるかな」

「そこはアロー曰く見つけるんだぞってやつだよ」


見つけたいけど見つかる気しないのに?見つけないと怒られそうだな。

え、理不尽じゃん。

 漁港市場から離れて出店を回る。途中で物珍しい魚や果物を見つけては店主に話を聞いて、モノによっては値切って購入した。(主にヴィオとファイシャが)

ふらふらと露店巡りをしていれば言い合いの声が聞こえてくる。


「おい、ばあさん。いちゃもんつけてくれんなよ」

「だれがばあさんじゃい!この玉のような肌が目につかんか?えぇ?」


言い合っているのは果物屋の店主とおばあ様と同世代ぐらいの婦人だ。

ご婦人は気が強いのかおばあさん呼びが気に食わないらしい。

通行人は2人を見ては見て見ぬふりをして歩いて行ってしまう。


「ヴィオ、小袋って30ベル入ってたよね?」

「はい。30ベル入っていますが」

「15ベル貸して」

「…かしこまりました」


 ヴィオが差し出した手に15ベル握らせてくれたのを合図にその2人に向かって歩き出す。

 後ろからピルマが止める声が聞こえたが、あれを見過ごしてはいけない気がする。見過ごしてしまうぐらいなら管轄領主の娘として納めておきたい。


「こんにちは、おじさん」

「んあ?ああ、こんにちは。お嬢ちゃん」

「ご婦人と何を揉めていらっしゃるんですか?」

「このばあさんがレトの実を買いたいって言うんだがな3ベルしか持ってないって言うんだ。3ベルごときじゃ何も買えねえって言ってんのにさっきから聞く耳を持たねえんだよ」


店主は呆れたように大げさな溜息を吐く。


「よく言うわい。レトの実は海の向こうじゃ一個3ベルで買えるんだよ。なのにここでは1個6ベルだって?ボりすぎじゃないかい」


 レトの実は決して高価な果物ではない。けど、おそらく輸入品には輸入関税がかかるからその影響もあるんだと思う。向こうの国では原価1.5ベルとして売り上げ1.5ベル

こっちに来たら原価1.5ベルに関税2ベル、輸入費用1ベル、売り上げ利益1.5ベルってところかな?

となると6ベルを3ベルに値切るのは難しいだろう。半額は無理だろうしね。


「それじゃあおじさんレトの実を3つとそっちのベリーを一袋買いたいんだけど、さっきそこの店で見たベリーはおじさんの所より2ベル高かったの。だからこっちの方が品質も値段も良心的でしょう?私そういうお店きっと他の人にも売れると思うの!!だから私がここの木苺の宣伝する代わりにちょびぃーっとおまけしてくれない?ね、お願い」


ベリー一袋が3ベル。レトの実3つで18ベル。値切るのは4ベル分。

さて、どうでる?

おじさんの方を上目遣いで眺めながらにっこりと笑う。こういう時は自信満々に笑うのが得策だとビンズに教わった。


「…しかたがないね~。そう言われたらまけてやんよ。レトの実3つとベリー一袋で16ベルはどうだい?」

「う~ん。もうひと声」

「しかたねえ、15ベルでどうよ」

「のった!!」


15ベルを店主に渡してレトの実とベリーを受け取る。

受け取った後に側にいたご婦人の方に顔を向ける。


「ご婦人、良ければ一緒にレトの実を食べませんか?」

「!いいのかい?あんたが買ったのに」

「おいしいものはみんなで分けないと損ですよ。私の気が変わらないうちにこちらをどうぞ」


手にしていたレトの実を一つ渡す。

後ろに来ていたヴィオに目線で指示を出して後のことを頼む。

 婦人を出店の並ぶ通りから少しそれた木陰になっていてちょうど一息つけそうな大きな植木のレンガの花壇を椅子代わりにして座る。

貴族令嬢だったら怒鳴られて即座に辞めさせられる行為だけど、今の私は一平民だから怒られることもない。


「おまえさん交渉がうまいね」


 おばあさんはレトの実を頬張りながらさっきの交渉を褒めてくれる。


「それはどうも。でも私の師匠的な人なら12ベルで買えてたよ」

「そりゃあ凄いね」

「うん。でもお―夫人はなんで3ベルしか持ってなかったの?3ベルじゃ何も買えないよ?」


 私もレトの実を頬張りながら疑問を口にする。


「なーに私はその辺に置いてあった家族の小袋をひっつかんでここに出てきたんだよ。そしたら3ベルしかなくてね。まったくあの馬鹿は3ベルで何をする気だって言うんだか」


 勝手に家族の小銭袋をひっつかんでここに来たおばあさんもおばあさんだと思いますよとは口に出さず笑って流す。


「この街には観光に?」

「観光と仕事の一環さ。お嬢ちゃんは?」

「親の仕事についてきたんだけど、観光の方がメインかも」

「海が近い町ってのはどこも繁盛していていい場所だね」

「確かにそうですね。海の近くの人はおおらかで活気がある人が多いように思います」


 おばあさんがレトの実を食べ終わりそうだったので、ついでに買ったベリーの小袋も勧めてみる。おばあさんは「あんがとさん」と言ってベリーを数個袋から掴んで口へ運ぶ。

さっきから思っていたけどおばあさんの言葉にはどこか訛りがある。どこの訛りなんだろう?


「ねえ、ご婦人」

「その婦人ってのは堅苦しいからやめとくれ」


え、じゃあ何て呼べと?


「あたしの名前はファラ・デート・ブラフって言うんだよ。ファラさんって呼びな」

「ファラさんですね。私はリビア・ノグマインって言います。生まれも育ちもファンネルブです。ファラさんのご出身は?」

「あたしはベルムだよ。知っているかい?」


 ベルム―遊牧民国家でファンネルブ王国の2倍の領土を収める国。遊牧民は何種族かに分かれているが季節ごとに東西南北をぐるぐる回っているのだとか。大きな町は各地方に一つずつ存在はしているものの盛り上がり時期は遊牧民の巡りに沿う。


「知ってますよ」

「なんで出身国なんて気にしたんだい?」

「ファラさんの言葉に若干の訛りがある気がして、この辺では聞かないからきっと海の外側なんだなって思って」

「なるほどね。あんたみたいに気づくやつはめったにいないよ」


 これは褒められているのか?微妙だー。


「さて、レトの実とベリーごちそうさん。また会えたら何かおごってやるよ」


ファラさんは立ち上がって不敵に笑う。

その表情がとてもイキイキしていて海の女って感じだった。


「それは楽しみにしてますね。でも3ベルしか持ってないから払えないなんてやめてくださいね」

「今度からは中身を確認してからひっつかむようにするよ」


そこが問題じゃないんだけどね。


「あ、このベリーはせっかくなのでお土産としてもらってください。私は連れが購入してくれたのがあるので」


 遠くに見えるヴィオとピルマの手にはさっきのお店の袋がある。ベリーだけでなく他の果物も袋の中には入っているようだけど、指示を組んでくれてよかった。


「それなら遠慮なくいただくよ」

「どうぞどうぞ」

「またね、リビア」

「はい。また会いましょうファラさん」


 ファラさんはベリーの袋を受け取って大通りの方へあっという間に姿を消す。

台風のような人だったけれどその流れに身を任せるところは遊牧民だからこそ様になっているのかもしれない。


「なんだかなぁ、ファラさんとはすぐにまた会えそうな気がするんだよね」


どうしてって言われたら説明できないけど私の中の勘がそう言っているからきっとそう遠くないうちにまた会えるはず。



勝手に家族の財布をひっつかむのはよくないので皆さんはマネしないでくださいね~。

次回は情報交換に挑戦!!


【お知らせ】

11月から12月までの間、更新速度を5日目安から7~10日目安に変更になります。

作者の学業と資格の追い込み時期なので頻度が落ちますが引き続きよろしくお願いいたします。

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