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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
105/144

海商を知る

レット視点→リズビア視点

白亜館の主要会議室は今日も今日とて賑やかであることがドア越しにも伝わる。


「————!!!」

「っかっじゃねえの?」

「——、―⁈」

「だ…ら、そーじゃ…」


二人の言い合いの言葉が途切れ途切れに聞こえ、扉を開くことを躊躇する。

自分が運んできたティーカートの上には入れたての紅茶と珈琲がカップから湯気を立てているのだが、このまま入るとこっちに飛び火しかねないことをレットは知っている。

故に扉の前で隔たった向こう側の声が落ち着くのを少し待とうかと考えてしまう。


「あら?レット、そんなところで何してるの?」

「…あぁ、ハンナおかえり」


鮮やかな青髪を方で揺らしながら、薬師の仕事をしに行っていたハンナがやってくる。


「薬草の調合は無事に出来た?」

「できたに決まってるでしょう。私が調合で間違うことなんてありえない」


妹とは違った勝気な少女は誇らしげに胸を張る。


「それで私の質問には答えてくれないわけ?」

「………いつものやつだから」

「なるほど。アローとリビアが言い合ってるんだ。今回の内容は?」

「さぁ?僕が出て行く前は言い合う前でいつも通りの報告会議だったはずなんだけどね~」


 なんでほんの少し退席しただけで、あちら側は扉一枚隔てているのにもかかわらずうるさいのだろうか。

この調子じゃみんなとばっちりを回避したくて介入を避けてるって感じだろう。

今日に限って頼れる妹とストッパー役は不在だし…。はぁ


「よ!お2人さんの組み合わせはめずらしいな」

「ファイシャ…、取引は終わったのか?」

「おお。アローに言われていたやつは上手く取引できたし、今回は取引相手先からいいネタが入ってきたんだ」

「いいネタ?」


 ファイシャの言葉にハンナが反応を示す。

 いいネタ…ねぇ。これは一人一人にとって違うものだ。

 例えば、アローにとってのいいネタというのは取引に関するものが多い。ビンズは噂。ハンナは薬草。ベイクは医療関係の仕事。エリオットにとっては職人として認められること。ヴィオと自分にとってはお嬢様の喜びに繋がること。そしてファイシャにとってのいいネタというのは―


「まあまあ中に入ってから話そうぜ」


 ファイシャがなんのためらいもなくドアノブに手をかける。


「やあやあ、お2人さん。今日も相変わらず仲がいいね!!」

「「どこが」?!?!」

「あはははは、そーゆうところだよ」


面白いこと全般である。

 




******************


 手元に用意されたティーカップに口づけながらアローを睨む。

睨まれた側は鼻でふんとあしらう。

腹立つウウウウゥゥぅ!!!!


「リビア、顔がすごいですよ」


 レットに窘められる。でもアローが!!という私の心の声が聞こえているかのようにアローは、馬鹿にしたように笑う。

腹立つうううううううううううう!!!!!!!!


「はぁ」


レットが溜息をついた気がするが気のせいだ。

絶対気のせい。

 そんなことよりアローは私を小ばかにした笑みを讃えている。カップから離した口元が何か動くので凝視していれば『ばーか』と言われる。バカバカバカって私はばかじゃなあああああい!!

思わず頬がぴくぴくと痙攣してしまう。

絶対にいつかアローをぎゃふんと言わせてやるんだから!!妥当アローよ!

アローに対して腹立たしさを覚えていれば、ファイシャが楽しそうにこちらを見ていることに気づく。


「どうかしたの?ファイシャ」

「ん~、リビアってさ海って見たことある?」

「海?」


 海はガーナ公爵家直轄領には含まれていない。もちろん管轄領の中には海に面している領地もある。だが、基本的に公爵家の直轄領は海にも険しい山にも面していないことが多い。

だから、王都と領地の行き来しかしたことのない私は海も雪山も見たことも言ったこともないわけで…。


「ないけど…どうかしたの?」

「実はさ、今回アローに頼まれてた取引会ったじゃん」

「あー、ルニの木とかの木の実関連の商談だったか?」


そうそうとファイシャは楽し気に頷く。


「もちろん取引は向こうの提示額の3分の2で組んだからいいんだけどね、向こうさんがねうちの商会はとても新進気鋭だからってさいい情報をくれたんだよ」

「いい情報?」


 ああ、がめついアローの商売欲センサーにファイシャの言葉が引っ掛かったようだ。

こういうところがファイシャの商談取引の上手いところよね。

この場にいる誰の興味を引けば自分にとってより良い結果に繋がるかを分かっているのだもの。


「“水晶の華”が近々ガーナ公爵家管轄領、シューテル領とエカヤ領、サカース領にくるそうだってね」

「はあ⁈」


 アローの驚きの声が会議室に響く。


「水晶の華…これはまた」

「滅多に見れないのが来るなんてすごいタイミングじゃん」


 ベイクとビンズは内容が分かっているのか二人で話し始めたし、ハンナは手元の報告書(いらないやつ)の裏面に薬草の名前と値段をラインナップし始める。


「凄いでしょう?俺ラッキーって思ってさ、近々っていつかも聞いたんだよ」

「マジか!!さすがファイシャ、俺のだち」

「いえ~い」


 アローとファイシャが椅子から立ち上がり、手を叩いて喜び抱擁を交わす。

うん。めっちゃ現金とか思っても私は口に出さないよ?水を差したくはないしね。

たださ、


「“水晶の華”って何?———ひっ」


 5人分の視線が一斉に向く。

 怖い怖い。みんな怖いよ。落ち着いて。ビンズとベイクは落ち着いてるのかと思ったらそうでもなかったんですね。興奮してたのね。目線が痛いんだけど


「おま、それマジで言ってる?」

「うん。だって知らないもん」


 アローは信じられないものを見たと言わんばかしに私を見る。

失礼すぎやしないだろうか。


「リビアはさ、もうちょっと商人としての情報を仕入れて勉強した方がいいかもね」


ファイシャが苦笑いで答える。

…それは自覚がないわけではないので大人しく聞いておく。

情報が足りていなくてアロー達に任せっぱなしにしていることは知っていたから、そこは反省しようと思う。


「“水晶の華”っていうのは海商で世界的に有名な商団のことだよ。世界各国を回っているからいつでもお目にかかれるわけじゃない。いつどこに来るかも基本的には知らされていないから会える確率も限りなく低い商団なんだ」


 ベイクの説明で“水晶の華”の情報がいかに稀であるかが分かる。

だからみんなこんなに嬉しそうなのか。


「しかも、“水晶の華”は世界中の商品を扱ってるからこの国や近隣諸国で手に入れられないものや手に入れにくいものも扱ってくれているの!!むしろあそこでしか買えないものだってあるんだから」


 ハンナが嬉々とした表情でペンをはしらせる。

なるほど、それが買い物リストだと…。


「で、詳細は?」


 脱線していた話を元に戻し、アローがファイシャに尋ねる。


「一か月後にシューテル子爵領に交易船が来るって」

「一か月後ね」

「ちなみにうちの予算部にいたナツさんに話を聞いてきたらウチからいける費用としては最大で2人だって」

「は~?2人??少なっ」

「ちなみに俺でひと枠埋まってまーす♪」

「「「「うっわ」」」」


 アロー、ハンナ、ビンズ、ベイクの声が重なる。 

 ファイシャそう言うところ抜かりないよね。まあ、今回はファイシャが仕入れた情報なんだから仕方がないとも思うんだけど。

アローは絶対行くって言いそう。さっきまでのテンションから考えてもアローが行くんじゃなかな。あ、でも商会の副会頭と会頭がいないってどうなんだろう。

大丈夫かな?幹部で対応できなくはないと思うけどみんな忙しいだろうし…


「ちなみに、もうひと枠はアローでーす」

「っしゃあ!!」

「えー、アローずるい。ハンナのお土産リスト漏らさないでよ?」

「なるほど。ハンナかしこい。僕らもリストを作ろうか」

「わ~お土産楽しみ~」

「おい、お前らお土産より商談に活かせるものをリスト化しろよ」


 あっという間に報告書はお土産リストに早変わりする。

 そんなみんなを一瞥して今日の報告書に書かれている売り上げ、現在の流通、原価などをもう一度見直すためにペラペラと紙を捲る。

 今のところミルクジャムやヘアピン、ガラス瓶、薬や食物の取引によって目立った損害はなく黒字といえる。そろそろ次のアイテムをマリン・ビーナに制作依頼をして、おじい様に言われていた次の領地課題の洗いと対策、あとは孤児院の訪問から就職斡旋を基軸に出来るようにしていかなきゃだ。

それにもうすぐロゼ姉様の貴族学院への入学もある。

 …あと7年。貴族学院に入れば嫌でも殿下と顔合わせになる。それまでに何とか婚約者候補を別の方に押し付けないといけない。


トンッ


 誰かに肩に手を置かれ、そちらを向く。

いい笑みを浮かべたファイシャとなぜか頭を抱えているレットが後ろに立っていて

レットはなにがあったの?大丈夫??


「リビアも行こうね」

「え」


 どこに?


「海に」

「…はい?」


 海?え、いやでもさっきいける枠は2人って言いましたよね?

首を傾げる私をファイシャは面白そうに笑う。

いや笑ってないで説明を―


「レッツゴー、シューテル子爵領~」


 ファイシャの気の抜けた声が私の脳内を?で埋め尽くす。

 ちゃんと説明してほしくて椅子から立ち上がって向かい合えば、いきなり脇下に手を入れられる。


「え、ちょ、ま、」


 そのまま私の身体は地面から足が離れる。

 だらだらと冷や汗をかきながらファイシャを見れば今日一番の満面の笑みを返される。

ファイシャ、速まっちゃダメ。まだ手遅れでは―グルン

ファイシャ以外の目に映るものが高速で回転し始める。


「いやあああああああああああああああああ」


 今日も白亜館には賑やかな声が上がるのだ。



リズとアローの言い合いは毎回凄くくだらない内容で揉めてます。

身長だったり、色だったり


ファイシャはよく小さい子を持ち上げてぐるぐるする癖があるんですが、リズはその浮遊感と目が回るのが嫌でファイシャのぐるぐるは回避できるなら回避したいと思ってます。

(この辺の小話もいつか書けたらな~と思ってはいる)

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