ダメージは大きかった
少し短めです。
リズビア視点→ヴィオ視点
「あ”~疲れた~」
「お疲れさまでした、お嬢様。すぐに飲み物と何か軽く摘まめる甘いものご用意いたします」
自室のベッドにダイブして枕に顔を埋める。
本当に疲れた。今日の朝ぶりの自室はとても心地がいい。
やはり他家だと落ち着かない。自室は自分の居ていい場所で、何よりも安心できる場所だ。
ここなら公爵家の護衛もいる。影もいる。
侵入者に殺されたり、嫌な視線に晒されたりすることもない。
私は…成長できているのだろうか?
傲慢にならずに生きているのだろうか?
夢への道を辿ってはいないだろうか?
枕越しには部屋の真っ白で清潔感の溢れるカーテンが風で膨らんでは萎みを繰り返す。
『…民は、川が側にあっても大丈夫なのでしょうか』
今私だってこうして安全な場所だから安心して過ごせている。
それを見落としていた。なんの為に領地で領民に触れていたのだ。これを、このことを誰よりも見て触れて知っていたはずなのに…!!
不甲斐ない。
ただその言葉に尽きる。
確かに始まりも今も打算でしかない。私が生きていくために切れる手札として考えていた。それでも学んで知っていたはずなのに。エリオットが、アローが、ファイシャが、ビンズが…みんな、みんなが教えてくれていたのに当たり前を見落としていた。
どうして見落としてしまった?そんなの、私がそれを当たり前だと勘違いしているからだ。
ギュッと枕を掴む。
目が熱い。零れる何かを認識したらダメな気がしてさっきよりも強く強く顔に枕を押し付ける。
悔しくて、申し訳なくて、自分が嫌になる。大嫌いだ。
私はきっとこんな自分が誰よりも―
ベッドにうつ伏せになっているお嬢様にレットと苦笑する。
2年前の領地祭の時裏山でストレス発散として叫びに言った原因が、今日の来訪先だった。正直私達もついて行くべきだったのだが、立場上それを許されるはずもない。
帰ってこられた際に行きよりずいぶんお疲れの表情から侯爵邸で何かあったのは明白だったが、その疲れ具合はシルビア様も同じで、だけどどこかすがすがしそうにされてもいたから深くは聞かなかった。
お嬢様側から話してくださるのを待とうと思った。
そうして今、リズビア様は令嬢としての最低限の礼法さへかなぐり捨ててこのありさまだ。
よほどお疲れなのだろう。
…せめて外出用のドレスから室内用へ着替えていただかなくてはドレスに皺が出来てしまう。ドレスの皺は伸ばすのが難しいのだ。
運んできたジュースとお菓子をテーブルに置いて、ベッドに近づく。
「お嬢様、着替えませんとドレスに皺がよりますよ」
「…」
返事はない。身じろぎもしない。
「レット、お嬢様寝てる」
「あらら、よっぽど疲れてたんだな」
「ドレス変えたいから手伝って。あと枕に顔を埋めすぎてるから息苦しそう」
「わかった。体勢も変えようか」
レットがベッドに近寄り、ベッドの端に膝をつける。それを合図にお嬢様が起きないよう細心の注意を払って体を仰向ける。仰向けたお嬢様の頬には一筋の後がはっきりと残っていた。
泣いた?
お嬢様が?
その事実に思いだされるのは領地に王太子が急に来訪した時。表情が抜け落ちた表情で抑揚なくただ機械的に“大丈夫”という少女。何よりも小さく今にも消えてしまいそうで怖くて仕方なかったあの時。壊れてしまうと本能的に警戒したあの時。
「―ッ!!」
どうして!何に泣かれた?泣かされた?
あの日以来お嬢様は泣いていない。それは私もレットもエリオットも知っている。
どうして?何があった?
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
守ると決めた。この方は5歳の熱の時以来、夢に怯えている。ずっと。ずっと。
夢が怖くて泣いた。
夢以外で泣かれたのはあの時と今だけ。
「ヴィオ、お嬢様の着替え」
「え、あ」
「言いたいことは分かる。でも仕事をしろ」
レットはそれだけを言い切るとお嬢様の身体をベッドの中心に運び、手慣れた様でドレスのボタンを解く。
兄の言葉に我に返ってすぐさまクローゼットの中から一番簡易的なドレスを取り出し、着替えさせる。
心臓が嫌な音をたてる。
はやくお嬢様の笑った顔が見たい。楽しそうに笑う太陽のような笑顔を見たい。
もしも、もしも、この方が壊れてしまったら私は…私達は…
グサッてきた言葉は結構引きずっちゃいますよね~
立ち直るのも時間かかるから…




