表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悲しい世界

作者: U・N・オーエン

目を開けると、僕は見たことも無い場所に立っていた。

そこは、見渡す限り真っ白だった。いつからいるのかも、なんでいるのかもわからない。ここに来るまでの記憶が一切無くなっていた。住所も、自分の名前すらも分からない。

どこを見ても同じように白いので、どんな場所にいるのか想像すらつかない。上下左右、どれも痛いくらいに真っ白だ。

何かのドッキリなのかもしれないと思ったが、1時間ほど待ってみても何も起きない。VRをつけている訳でも無い。

さらに1時間ほど待ったが、景色は変わらないままだった。

夢ではないことはわかっていたが、最後の希望に縋るように、強く頬を叩く。

…痛い。やっぱり、これは現実だ。

それでも諦めきれなかったので、さらに2時間、夢が覚めてくれることを待つ。

2時間経った。諦めた。

もうどうしようもないので、とりあえず歩くことにした。

進んでも進んでも、視界に映るのは白一色。目がチカチカしてきた。

感覚としては100kmほど歩いたのだが、実際のところはどのくらい歩いたのだろうか。もう、独り言を呟く気力すらない。だが、不思議なことに喉は渇いていないし、体もぜんぜん疲れていない。ただ、精神疲労がそろそろヤバい。

そろそろ発狂してしまいそうだ。

なんで僕がこんな目に合わなければいけないんだ…

今にも壊れてしまいそうな心に鞭打って、必死に足を動かし続ける。

すると、遠くに、小さな点のようなものが見えた。疲れきった心が見せた幻覚かもしれないが、今の僕にとって、それは唯一の希望だった。その点に向かって、僕は全速力で走った。自分でも信じられないような速さで走っていた。みるみるうちにその点が大きくなっていく。

近くに行くと、それは点ではなく、黒色の扉であることがわかった。

やっとここから抜け出せる…

嬉しさよりも安堵の方が大きかった。

大きく深呼吸をして、扉に手をかける。ゆっくりと、その扉を開ける。

そこで、意識が途切れた。

目が覚めると、今度は真っ黒な場所にいた。ただ、左には白色の点、右には灰色の点が見えていた。さっきまで白い場所にいた記憶も、ちゃんと残っていた。

少し考えた後、僕は灰色の点に向かって歩き始めた。白色の点は、さっきの場所に繋がっているような気がしたからだ。

近くに行くと、やはりそれは点ではなく、灰色の扉だったことがわかった。

勢いよく、僕はその扉を開けた。

また、意識が途切れた。

気がつくと、今度は灰色の場所に立っていた。そこは、今までのように平坦な場所ではなかった。目の前に、途方もなく続く灰色の階段がある。後ろを振り返ってみると、何も無い。空間が広がっているとか、壁があるとか、そういうことではなく、本当に何も無かった。そんな気がした。

何も考えずに、僕はその階段を上り始めた。

一体何段上ったのだろうか。いつからか、階段の色が変わり始めていた。その色は、始めはピンク色だったのだが、段を上るにつれて濃くなっていった。今は、目が覚めるような赤色だ。

それが血のような、くすんだ紅色になった後もその色は濃くなり続けた。その色がほとんど黒色になった時、何段か上で階段が途切れているのが見えた。

もう、頭が回らなくなっていた。僕は、階段の途切れ目に向かって、とにかく走った。

階段のてっぺんに着いた。階段の色は、完全に真っ黒になっていた。

目の前には、途方もなく広い、何も無い空間が広がっていた。断崖絶壁だった。ただ一つ、目の前には、先が輪になったロープが垂れ下がっていた。

生きたいとか、死にたいとか、辛いとか、苦しいとか、そんなことを考える気力は、もう残っていなかった。

ただ、目の前にロープがある。

僕はそのロープに首を入れ、最後の一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 衝撃の結末が凄かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ