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生真面目悪魔は入学したい


「全く…これでは罰の意味がないでしょう。あんなにのうのうと楽しげに生きられてはなんの為に()()()()()この世に堕としたのかさっぱりですよ」


鈴を転がしたような声音が静寂を破る。聴いた者に安楽を与える声は残念な事に怒気の含んだ感情が混入することで刺々しい声に早変わりする。


「いい加減こうやって監視するのもダルくなってきたしな。オレだったら早々に始末するが…アイツが出す指令はいつも面倒くさくて仕方ねえ」


先程の声とは正反対とも言える低い女ウケしそうな声音が響く。気怠げな声はまるで心の叫びのようだ。


二人は世を見下ろす。見下しているとも言えるその表情は、暗闇のため互いからも見えない為結局誰にも見られることは無い。

人が歩いている。

車が通っている。

人が歩いている。

それなのに誰も見下ろす二人に気付かない。

それは周りを顧みることを辞めた人間のせいなのか、はたまたその二人がまるで特別のヒトを超越した存在だからなのか。

答えるものは誰も居ない。


〇〇〇


『初めまして、皆様。私はこのエルディア魔法学校の校長レイリー・シンスと申します。本日は皆様が我が学校に入学してくるのを教員・生徒一同大変心待ちにしておりました。エルディア魔法学校では皆様が有意義な三年間を過ごせるよう、全力でサポートさせていただきます。我が学校では…』


入学日当日。

エレスとアルフィーナはエルディア魔法学校の聖堂と呼ばれる場所に訪れていた。入学試験は早々に終わらせ──エルディア魔法学校の教員の前で簡単に魔法を行使するだけ───今はエルディア魔法学校の校長からの話を聞いていた。

本来ならばしっかり聞かなければならない場面なのだが、今のエレスにはそれが出来ない理由があった。

まずエレスとアルフィーナは徒歩でエルディア魔法学校に向かった。そこまでは良かった。しかしその後が問題だった。魔法学校の校門の前に黒塗りの長い車やら、豪華な馬車やらが勢揃いしていたのだ。かなりの数で。それでエレス度肝抜かれる。アルフィーナ超焦る。

暫くその光景を前に茫然としていると、後ろから声をかけられた。


「君達は新入生かな?初めまして。っていうか貴女は…トワンソン家の御令嬢アルフィーナ様?……これは大変なご無礼を致しましたっ!! そんな高位の御方が新入生でいらっしゃるなんて…!」


口早に続けられるマシンガントークに再びエレスは度肝を抜かれる。今はどんな出来事もエレスにとって刺激になり過ぎる。

アルフィーナも多少驚いたようで、


「えと…失礼ですが貴方は…」


「すいません、私はここでっ!!」


ガバッと頭を下げると走るようにしてこの場を去って行った。

まるで光のように一瞬の出来事にエレスは早速混乱を隠せない。


「…なんだったんだ…?」


───そんなこんなでエレスはもう大パニックを起こしていた。校長の話なんて殆ど耳に入ってこない。


『───と、言うわけで皆様にはここで多くのことを学んで貰えたらと思います』


後はなんやかんやで全く意識がブレブレだったがなんとか入学式を乗り越えることが出来た。


「──もうっ!エレス全然入学式に集中出来てなかったじゃない!これじゃあ、トワンソン家の名が泣くわ!」


「なんか最近のアルフィーナの行動を見ていた私としては、こうやってアルフィーナに怒られるのはとても心外だ」


外面だけは良いアルフィーナは静かにプンスカと腹を立てていた。家での大はしゃぎっぷりは微塵も感じられない。こんな事を言ってはなんだが、この外面をなんとか剥いでやりたいなとか少し考えてしまうエレスはアルフィーナに毒されてもうダメなのだろう。


「きゃあっ」


少し離れたところを歩いていた二人組の女子の片方の子が何かにつまづく。

そのまま前方に向かって倒れていき、


刹那、目の前を光が通り過ぎる。


「───大丈夫?」


あともう少しで女の子の顔が地面に着くところで光は辿り着いた。

光は女の子の肩を抱き寄せる形でしっかりと受け止めていた。

この場に居た全員が状況を理解出来ていない…否、光を除いて。

暫くすると女子の黄色い歓声と拍手が巻き起こる。


「あ、ありがとう…ございま、す」


助けられた女の子の顔は真っ赤だ。


「皆様ご覧になって!あの御方、生徒会長様ではなくて?」


「そうなのですか?!わたくし会長様の大ファンですの!」


「今代会長様は座学も実技も完璧の御仁と耳にしたことがありますわ!まさか本物をお目にかかれるなんて…」


光…もとい、会長は大人気である。周りの女子は全員うっとりしている。エレスとアルフィーナを除いて。


「アルフィーナ…アイツって…」


「最初にあった人ね…って知ってたけど」


えっ


「…なんでだ?」


「だってあの人うち(トワンソン家)と一番仲良くしてる家の令嬢だもの。因みに爵位は伯爵よ。相手もさっき気付いてたっぽいけれどね」


謎は全て解けた。

っていうか女なのか、アレ。周りの取り巻き全員男だと思ってるっぽいけど。


「…助けなくていいのか?」


「いいのよ、面倒臭いし」


アレ?あんま仲良くなさそうだな…。

また後で聞いてみるか。


「というかトワンソン家とフェルリーナ家の立ち位置が未だに理解できないんだが。公爵とかではないんだろ?」


「そうねえ。公爵とは全然違うし、家格もこっちの方が上だし。公爵って言ったらハルフさんの従者のサーシャさんとソフィさんよね。公爵って言っても結局それって複数いる内の一つに過ぎないわけじゃない。けどトワンソン家とフェルリーナ家は専用の地位が用意されてるのよ」


アルフィーナがすごいドヤ顔で講釈を垂れてくる。少しイラッとした。

…けどまあ大体のことは理解した。


「この国での地位を上から並べていくと、『王家→フェルリーナ家→トワンソン家→公爵→侯爵→伯爵→平民』って事になるわね」


って事は生徒会長はかなり下の家格なるわけだ。


『皆様、ご歓談中失礼致します。只今より新入生の方々には数日後の新入生テストの説明を致します為、至急各々で指定された教室の方への移動をお願い致します』


だだっ広い聖堂の隅々までスピーカーの音が鳴り響く。

突然のアナウンスだが…殆どの者はこう思った。


『『またテストかよっ!!』』


やはりそこはエリート学校のエルディア魔法学校である。テストなんて毎月行われるし、難易度も激ムズだ。

この学校で赤点を取ろうものなら即退学。一回でアウトだ。

入学するのは超簡単だが、卒業するにはある程度の技量が必要である。

しかしこの国の貴族の子息・令嬢達は何故かやけに才能に恵まれており、一騎当千の力を持つ者が数多いる。問題があるのはその人格…まあいいや。

だからトップ校のテストも殆どの者がソツ無くこなす。

そしてこれぐらいの試練を乗り越えられないようでは一人前の貴族になれないとも言える。

アナウンスを聴いた目の前の天才集団たちは、


「またテストですの?…私は魔法史が不安ですし帰りに図書館で過去の文献を少し見返しに行きましょうか」


「軽く教科書だけ読み返しておきましょうか」


「やった準備期間で休めるじゃん!!」



「実技テスト……楽しみですわぁ!!」


とか常人には理解できないことをほざいている。っていうか今一人だけ喋り方がおかしい奴が居なかったか?…きぞくこわい。


「…テストか。まあ準備期間が用意されているだけ有難いな。私実技は多分駄目だし、今回は座学に力を入れていこうと思うんだがアルフィーナはどう思う?」


「テっ、テスト!?……えー、まあうん。余裕、かしらね。座学も頑張りませうっ!!」


盛大に噛んだな今。さっきからアルフィーナの挙動が不自然だし、何か気掛かりなことでもあるのだろうか。


取り敢えず今自分に出来る事と言えば、座学で少しでもアルフィーナに見合う成績を残す事───と、エレスは考えていた。


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