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2.屋根裏の少女

2.屋根裏の少女

 

 

 

 少女エミリアに架された宣告は、鉱山に出稼ぎに行っていた父親を呼び戻し、やがて名ばかりの宣教師達に春を売る母親と引き合わせてしまった。

 

 父親は最後に、彼の知らぬ間に屋根裏に移されていたエミリアの頭を撫で抱き締めてから、家を出た。それきり、父親は二度と家には……いや、エミリアの()()()()には帰らなかった。

 

 

 

 母親の祈りか父親の呪いか。

 エミリアが指折り数えるその日の朝――今朝の出来事だった。

 

 エミリアの寝室(と呼ぶにも少し狭い屋根裏部屋)に、男が立っていた。

 母親の客――母は父親が出て行ってから、ほとんど毎日の夜を違う男と過ごして日銭を手にするようになった――ではない。

 エミリアのいる屋根裏への入り口はそう簡単には見つからない様にされているということ。それを、彼女は母親と客として訪れた、村の大工の男の内の一人との会話の内容を、盗み聞きして知っていた。

 

 男はエミリアの枕元に、足音も立てずに近付いて言った。

 

「お前は今日の昼過ぎに死ぬので、今年のハロウィンは見られないし、ましてや夜に行われるパレードに参加することは絶対に出来ない。

 ただし、俺と契約すれば、これから永遠にハロウィンのパレードをしながら、お前に散々ハロウィンを見せつけた人間たちに復讐させてやろう」

 

 エミリアに死の宣告をした男に対し、彼女は冷たくこう言った。

 

「アナタは、天使でも死神でもなさそうだけど。契約って言ったって、アタシお金なんて持ってないわよ」

 

 少女は曲がりなりにも自身に死を告げた見知らぬ(そんざい)に対して、それだけしか返事をしなかった。

 少女にとって、自分以外の誰かから人生の残り時間を宣告される事は、悲しい事に既に慣れたものだった。

 

「まぁ、聞け、小娘。俺が欲しいのはお前の財でも命でもない。お前の言うとおりだが、お前は富も名声も、ついでに寿命もない。魂や身体の質だって、別段良いという訳でもない並の魂だ」

 

「あと数時間もすれば死ぬって言われた上に、魂やら何やらにまでよく分からないレッテル貼られるのね」

 

 彼女はそう言って、飾り気の無いベッドに掛けられた地味な毛布の上で手を組み、窓の外に目を向けた。

 ――エミリアの両親は、薬代で精いっぱいとでもいうように、年頃のエミリアにおもちゃやぬいぐるみの一つも買い与えず(手内職をしていた頃の母親も、一銭にもならない娘の為のぬいぐるみ等を作ろうなどとは露ほども思わなかった)小さなベッドごと押し込まれた屋根裏部屋は少女の過ごす場としては、必要以上に質素極まりないものだった。

 

「まぁ、お前が死んでからでも、死神に魂が回収される前までなら協力してやれる。考えておくんだな」

 

 エミリアが窓の外から男に目線を戻すと、既に男は影も形も無く消えていた。

 明らかに人外の存在である男に、エミリアは特に恐怖などの感情を抱くことは無かった。

 

「そっかぁ……私、今日死ぬんだ」

 

 少女の心に残ったのは、憧れ続けていたハロウィンの当日にこの世を去るという事だけだった。

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