表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

1.少女とハロウィン

1.少女とハロウィン

 

 

 

「こんにちは、おばさん! エミリアはいる?」

「こんにちは。エミリアは今日もベッドなの……」

 

 それは、10月の最後の日。

 少女にとっては、最も残酷な会話。

 

「じゃあ、エミリアは今年も……」

「そうねぇ。いつも誘ってくれて、ありがとうねぇ」

 

 少女の母親と、その近所の子どもたちによる、少女に突きつけられる風景。

 

「わかったよ、おばさん! エミリアによろしくね!」

 

 そう言って、笑いながら駆けて行く子どもたち。


「エミリアは今年もビョーキだってさ!」

「やっぱりね! ウチの母さんも、エミリアがハロウィンに出れるわけ無いって言ってたし!」

「毎年誘うのも、疲れて来たよねぇ」

「まぁ、そう言わずに! 夜になったらイチバンお菓子くれるのは、エミリアのおばさんなんだから!」

 

 幼気いたいけからの無邪気なのか、自覚しての言葉なのか。

 窓の外から聴こえる、子どもたちの会話。

 どちらにしても、少女に突き刺さる事に、代わりは無い。

 

 

 

「そんなに気を落とさないで、エミリア。ハロウィンは、また来年もやってくるわ」


 昼餉ひるげを持って少女の寝床の横に置いた椅子に座る母親。

 正直に言うと裕福ではない彼女らの家計に、少女・エミリアの病は大きな影を落としていた。

 父は村の農作業だけでは娘の薬代に足りないと、鉱山に出稼ぎに出ている。定期的に金銭が送られてくるが、少女の記憶の中の父親の姿はおぼろげ。

 母もやはり、村の農作業だけでなく、村と村とを行き来する商人に売ってもらう為の、手細工の内職をしている。さらに、村にやってくる宣教師を名乗る者らにもお布施を渡し、信心深さでは村一番だ。――この宣教師を名乗る者達に、お布施という名の春を売る為に、エミリアの寝床は小さな家の中でも屋根裏の部屋に移された。

 

 母親は、娘が参加出来ないハロウィンの魔除けのパレードにも、たくさんの菓子を用意する。

 それが、娘への救済だと信じて。

 それが、娘の憂鬱に繋がるとは知らずに。


 

 

 

 村中にハロウィンの飾りが施されている。

 カボチャをくり抜いたランタン。本当は、昔は、カボチャではなく、別のモノが使われていたことを、少女は知っていた。

 村の名産は、この時期に大量に使われるカボチャ。そして、村の収入の大半もこのカボチャ達によって賄われている。


 だからこそ、少女はハロウィンに参加したかった。


 自分達を賄うカボチャ達の、飾りたてられた姿。

 魔物に扮して、行列を作り、村の家々を回るパレード。

 そして、魔除けとして、子どもたちに配られるお菓子。

 

 

 

 病弱で、他の子どもたちとは同じ遊びが出来ない少女は、だからこそ、ハロウィンに惹かれたのかもしれない。

 少女はその年齢とはかけ離れた、ハロウィンの知識や、ハロウィンに対する知的欲求を持っていた。

 

 少女エミリアは、それでも希望を持ち続けていた。

 

 いつか自分もハロウィンのパレードに参加すること。「悪戯か奢り」の呪文とともに、焼き菓子やキャンディを貰うこと。

 別にそんなにたくさんはいらない。彼女は年相応よりも少食だから。

 

 そんな無垢な少女エミリアの屋根裏からのささやかな祈りすら、神は戯れにされど無慈悲にも手折ったのは、ハロウィンのひと月前だった。

 

 それはエミリアにとっては、この世界の全てが無になる宣告。

 

 

 

 エミリアが、余命ひと月も保つかどうかという、医師の宣告だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ