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終末のイフリート  作者: 矢宮暁
日本編
5/13

五話「会合」

 どこにあるかも分からないその洋館で、彼らはひっそりと暮らしている。


 総勢八名。見たところは普通の少年少女達の集まりだった。


 しかし確実にそれは違う。


 壁には猿轡を噛まされた男が貼り付けられており、少年たちはその男を避けるように、ナイフでダーツをしていた。


「ねー、パイモン兄。どうすんの次の作戦?」


 小柄なゴスロリを着た少女がナイフを雑に投擲しながら、のんびりと珈琲を啜っているパイモンに問う。


「まぁこのおじさん曰く、しばらくは厳戒態勢に入るらしいしねぇ」


「じゃあ作戦やんないの?」


「まさか」


 パイモンは鼻で笑ってナイフを投げる。


 すると一矢は吸い込まれるように男の頭部へと命中した。


「あれ? 僕ダーツ下手みたいだ」


「ははは! パイモン兄ダーツ下手ー!」


 少女は笑いながら辺りを駆け回る。床のカーペットには飛び散った鮮血と、どくどくと絶え間なく流れ出る流血が水たまりを作っている。


「どうでもいいですけど、部屋掃除するのは私ですからね?」


 部屋の隅で壁にもたれながら、本を読んでいたスーツ姿の青年が面倒くさそうにため息を零した。


「いやぁ、ごめんね。いつもありがとうね」


「……そう言われると悪い気はしませんが」


 そっぽを向きながら青年は頬を赤く染める。床の血溜まりはいつの間にか消え去っていた。


「でさぁ? 次はよォ、誰が行くんだい?」


 大柄なタンクトップの女性が、ダンベルを持ち上げながら、粗雑に問いかける。女性は一切の汗をかいておらず、ダンベルの重さを感じさせない。


「まあ皆で一気に行っちゃえば全部片がつくんだけど、チームプレーとかできる?」


「無理、絶対無理。あんな根暗陰険クソメイドと組むくらいなら死んだ方がましさね」


 死体を頭陀袋に詰め込んで、部屋から担ぎ出そうとしていた小柄なメイドはその手を止めた。


「あら? 筋肉以外に取得のない貴方と組むなんてこちらからお断りですわ。まだ鶏もも肉と手を組んだ方がマシですわね」


 頭陀袋を床に叩きつけてメイドはガンをつける。それに呼応するかのようにタンクトップも自慢の筋肉を怒張させながら睨みつけた。


「だ、ダメだよ……二人共……ケンカ、良くないよ……」


 部屋の中央にある長机の下から、消え入るような声が二人を制止させる。その声の主はパイモンと同じくらいに小柄な少年の物だった。


「んー? ごめんねぇ。お姉ちゃんたちケンカしてたんじゃないんだよぉ? ちょっとね? お話してただけだよぉ?」


 先程のドスの効いた声とは打って変わった甘ったるい声で、タンクトップは少年と目を合わせる。


「うっわぁ……」


 メイドはドン引きしながら肩を竦ませた。タンクトップはそれを鬼のような目付きで睨みつける。そこには『話を合わせろ!』という意思が見え見えだった。


「はぁ……そうそう、お姉ちゃんたちはお話ししてただけだよー」


「ほんと? だったらいいんだけど……」


 少年はまだ少し懐疑的だったが、概ね納得したようだった。


「チームワークは無理っぽいね……」


 パイモンは呆れたように苦笑を浮かべた。


「まぁでも、個人でも案外行けちゃうかもっすよ?」


 やる気なさげに机にもたれている青年が、気だるそうに呟く。


「いやぁ、向こうにはバエル兄さんがいるからねぇ。どちらにしろ面倒だし、できる限りこちらに引き込みたいし」


 パイモンは青年の言を首を振って否定した。


 すると一人、カーペットに直接寝転がって寝息を立てていた少女が勢いよく飛び起きた。


「バエル兄ちゃん見つかったん!?」


 なぜか関西弁で少女は問うた。しかしパイモンはとぼけたような顔をしている。


「あれ? 言ってなかったっけ?」


 パイモン以外の全員が『聞いてねぇよ』と内心つっこんだ。


「ああ、そういえば皆を集めたのはこれを言うためだったや。いやぁ、僕ってば天然さん!」


「んなことはどうでもいいが、バエルが見つかったんなら奪還が最優先じゃねぇか? 正直、旧世界だとかかつての人類とかよりそっちの方が大事だろ?」


「どうにも兄さんは記憶をちょっといじられてるみたいなんだよねぇ」


 パイモンがそう言うと、一同はそれぞれため息を零した。


「なるほど、それで襲撃を渋っていたんですね」


「そういうこと。つい成り行きでケンカ売っちゃったけど、やっぱり家族は皆一緒の方がいいからね」


 優しい空気がじわりと広がっていく。それは団欒の空気だった。


「だね!」


 ゴスロリの少女一一べレトは嬉しそうに頷く。


「そうですね」


 スーツ姿の青年一一プルソンも同じく。


「違いねぇ!」


 タンクトップの女性一一アスモデウスはダンベルを掲げて。


「ですわね」


 メイド少女一一ヴィネはそっぽを向きながら。


「そう……だね……」


 大人しい少年一一バラムは俯きつつ。


「そうっすね」


 やる気なさげな青年一一ベリアルは依然やる気なさげに。


「せやな!」


 関西弁の少女一一ガープは力強く。


「だろう? それでこそ終焉計画(レメゲトン)なのだから」


 そしてパイモンは不敵な笑みを浮かべながら。


「それじゃあ、次の襲撃先を決めようか」

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