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合鍵  作者: 望美
本編
7/14

6.5 (咲視点)

これまでの二人を咲視点で書いた話です。


※テニスボールを故意にぶつける表現があります。

不快に思う可能性のある方はご注意ください。





私、志村 咲には、大学で出来た大事な友達がいる。




綺麗な黒髪とすらっとしたスタイルが印象的な彼女、高坂 葵ちゃんは、ここのところぼんやりしていることが多い。




その主たる原因は、どうやら昨日のお昼前に会った彼にあるらしい。




いつも理学部棟で行われる講義の前後に、彼女がキョロキョロしながら落ち着かない様子になるのは前から気付いていたけど、昨日の彼女の態度から、彼を避けるための行動だったことがわかった。


初めは付きまとわれて困っているのかとも思ったけど、彼が去っていった後の、彼女の切なげな表情からそうでないことがわかってしまった。







たぶん、彼は彼女の好きな人なんだろう。



…そして、どうやら彼女のなかで失恋が確定しているらしい。



きっと諦めたくてもなかなか諦められず、彼のことを避けているのだろう。



ずっと一人で思い詰めている様子は見るに耐えなくて、私が相談相手になれれば良いと思い、話しやすいようにしたつもりだったけど、逆に彼女を追い込んでしまい失敗に終わった。




いつか、彼女が笑って話せるときが来ればいい。


どんなに辛い話でも、最後までちゃんと聞いてあげよう。







そんなことを考えながら、私はぼんやりとテニスコートを見ていた。


彼女と一緒に見学に来たのだけど、今は別行動をしている。

テニス経験者の彼女は、見るだけじゃ物足りなくなったようで、初心者の私に遠慮していたみたいだったから笑顔で送り出したのだ。


しかし、さっき私たちに説明をしてくれた先輩がやたらと彼女と距離をつめようとしていることが少し気にかかる。

見た目は好青年な感じだったけど、ちょっと軽いというか、チャラい印象を受けた。

さっきもさりげなく彼女の腕を引っ張っていた。



(まぁ、サークルの代表って言ってたし、下手なことはしないと思うけど。)



彼女の少し上がったアーモンド型の目は、しっかりしているような印象を持つけど、実のところ少し抜けている。

私とは逆のギャップを持つ彼女は、見ていて本当に危なっかしいのだ。


何故か魅力的なものを持ちながら、自分の容姿を卑下しているところがあるため、特に男性への警戒心が足りてない。


今までどうして無事だったのだろう、と疑ってしまうほど、鈍感なのだ。



ずっと誰かに守ってもらってたのかもしれない。







そろそろ帰ってくるかなっと、チラリと扉に視線を向けると、突然、彼女が駆け足で入ってきた。

その後、何かを確認するとホッとした様子で、慌ててついてきた先輩と何かを話してストレッチを始めた。



彼女が挙動不振になる理由は、ひとつしか思いつかない。



しばらくすると、その理由であるだろう彼が歩いてテニスコートに近付いてきた。

近くにいた上級生と何かを話すと、そのままズカズカとテニスコートに入ってきたのだ。



(えっ!?あの人入ってきちゃったけど、葵ちゃん、大丈夫なの!?)



焦って彼女の方を見たが、久しぶりのテニスを楽しんでいるのか、先輩と楽しそうに打ち合いをしている。

彼の存在には気づいていないようだ。


いつの間にかラケットを持った彼は、彼女のすぐ隣のコートで上級生と打ち合いを始めてしまった。


彼女はまったく気付いていないようだが、彼はチラチラと彼女を視線で追っている気がする。



(…あれ?…なんか…)




そんな彼の様子に少し違和感を覚えたが、確信は持てず、また彼女の方に視線を戻した。



まだ彼の存在に気付いていない様子の彼女は、少し休憩をとることにしたようで、先輩と一緒にフェンス際まで歩いてきていた。


彼から少し距離が出来たことに安堵し、そのまま気付ずにいればいいと思いながら彼女を見ていた。


すると、感覚を思い出すかのようにラケットを構えた彼女の後ろに、すっと先輩が入り、何か指導みたいなことをしている。




(なんか、やたら、近いような…)




テニスの指導とは、あんなに手取り足取り行うものなのだろうか。

経験者の意見がわからないから、なんとも言い難いけど、素人の私からみたらどう考えてもセクハラのように思える。



誰か他にも見てる人がいないかと、辺りを見回すと、さっきまで上級生と打ち合いをしていたはずの彼がボールを持ったまま、じっと彼女の方を見つめていた。


そうしている間に、先輩の手は彼女の腰辺りまでのびていた。





(いやいやいや、あれは完全にアウトだよね!)



そう思って、どうにかしないと、と考えたときだった。



ボールを持っていた彼が、おもむろにボールを高く上に放り投げると、彼女たちのいる方向に目掛けて思いっきりラケットを振り抜いた。



彼のラケットから放たれたボールは、見事な直線を描き、勢いを失わないまま、先輩のふくらはぎあたりに直撃した。







あまりの出来事に、私は驚愕して言葉を失ってしまった。




しかし、そのボールのおかげで先輩のセクハラを止めることができたようだ。



彼は悪びれる様子もなく、長い足でスタスタと大股で彼女たちの元へと歩いていく。






(…いまのって、わざと、だよ、ね…)



さっきの違和感がどんどん大きくなっていくのを感じたけど、まだ確信までには至らない。



その間に、先輩は手当をするために他の先輩に連れていかれて、彼女と彼だけがその場に残されていた。


ハラハラしながら見ていると、やっと彼が近くにいたことに気付いたらしい彼女は戸惑いを隠せない様子だった。

少し見つめあって、気まずげに何かを話し始めると、だんだんと険悪な様子になってきて、彼はまた昨日のように彼女を残したままどこかへ行ってしまった。



しばらくその場に立っていた彼女が、昨日のような状態にならないかと心配だったけど、私の予想に反して、険しい表情をして大股でこちらに向かってきた。



彼女の姿が近付いてきたため、私も慌てて彼女のもとへと急いだ。



彼とのことも気になったが、そのことには深く突っ込んではいけないだろうと思い、大丈夫かと問い掛けると、まったく見当違いな答えが返ってきた。

セクハラに気付いていない様子の彼女に、あの先輩のことを忠告しようと思ったところで、張本人が現れてしまい、口を閉じざるを得なくなってしまった。




先輩と話していても、どこか上の空の彼女は、きっと彼のことを考えていたのだろう。


先輩の新歓コンパの誘いに対して曖昧な返事をした彼女は、どうやら先輩の話をほとんど聞いていなかったようだ。


さっきのこともあるし、本当に行くつもりなのかと問い掛けると、少し何かを考えた後、ヤケになったように、行く、と言った彼女の目には怒りがみえた。



もう止めても無駄だなっと感じた私は、ヤケになり始めている彼女と先輩の行動が気がかりだったため、一緒について行くことにしたのだ。








先輩の挨拶で、新歓コンパがスタートすると、周りは一気に賑やかになった。

なるべく先輩とは離れた席に座ることには成功したが、まだ気は抜けない。


初めに前に座っていた上級生の男子学生たちも、最初のうちは熱心にこちらに話しかけていたが、料理しか目に入っていない彼女と警戒心バリバリの私に用はなかったのか、気付いたらどこかへ行ってしまった。


広がった視界から、周りの学生たちの様子をみていると、彼の姿を見つけた。



(…あの人も参加してるのね。)



彼女はそのことに気付いているのかいないのかはわからなかったが、彼の方はこちらの様子を気にしているようにみえた。



(…うーん。なんか引っかかるんだよねぇ。)



どうも、彼の様子に違和感を覚えてしまう自分がいる。



(…二人の間には一体何が起こってるんだろう。)



そんなことを考えていると、ウーロン茶を飲み過ぎてしまい、お手洗いに行きたくなってしまった。


あれから、先輩に目立った動きはないし、少しくらい彼女のそばを離れても問題ないだろう、と思い席を立った。






お手洗いが予想以上に混んでいて、急いで戻ろうと、彼女のいる個室に急いでいると、近くの通路で話す男子学生たちの声が耳に入った。



「あれー?翔先輩はー?」


「あー、いつもの悪い癖が出ちゃったんじゃない?今回はもうターゲット決まった、とか言ってたし。」


「そうなんだ、あの人も懲りないね。」





(…しまった!!)



その会話を聞いて、顔から血の気が引くのを感じた。


悪い予感はあたってしまったのだ。

こんなことなら、一緒にお手洗いに連れて行くべきだった。



(はやく、はやく、葵ちゃんのところへ行かなきゃっ!)



急いで個室の襖を開けると、すでに二人の姿がない。

置きっ放しの彼女の荷物を持って、急いで出口へと続く通路に向かおうとしたところで、突然誰かに肩をつかまれた。








「これは、俺の役目なんで。」




そう言った声の方をみると、明らかに怒気をおびた表情の彼の姿があった。



任せてくれと言わんばかりに様子の彼を見て、呆気にとられてしまった。

その間に、私の手から彼女の荷物だけを取りさった彼は、出口の方へと駆け出して行ってしまった。





ポツンとその場に残された私は、彼の後ろ姿をぼんやりと見つめていた。




彼女が今まで無事でいられた理由がわかって、すとんと腑に落ちた。




鈍感なお姫様には、ずっと専属の騎士(ナイト)様がついているのだ。




安心したら自然と笑みがこぼれてきて、私の中にあった違和感が確信へと変わった。






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