後始末
「‥‥となりまして、ボーアロッカ公爵の資産の8割を抑える事に成功しました。残りの2割は既に親族達に渡ってるとみられ、回収は困難です」
「そう。でもそれだけ回収できれば上出来よ」
「は、仰る通りかと」
執務室で部下からの報告を受けているのは、内政官のキャメル。
今キャメルを含む官僚達は、後始末に追われていた。
此度の後継者争いの陰で暗躍してた者達が多く、その殆どが粛清されると予想される。
ただし、そうなると少々面倒な事が起こる。
空いたポストに誰を添えるか等の問題が浮上するので、そこでまた派閥争いの種になったりするのである。
ぶっちゃけ官僚達にとってはたまったものではないが。
「次に、スラム地区に存在したダンジョンの件ですが、ダンジョンマスターのホエロスがダンジョンコアを持ち出していた為ダンジョンは崩壊。既に危険はないと思われます」
「ならそっちは放置でいいわね」
スラム地区に手を着けると面倒臭い事になるのは目に見えてるので、キャメルは放置する事にした。
少々冷たいようだが、この処置は間違っていない。
もし手を着けると、スラムならではの新たな問題が芋づる式に出てくるのが予想出来るので、ここはあえて触れないようにするのが正解なのだ。
「あのぅ、つかぬ事を伺いますが、ホエロス本人はどうなったのでしょうか?」
「ん?‥‥ああ、あのダンジョンマスターの青年ね‥‥」
確かヘルリザードの尋問が終わった後、城の地下に連れて行かれたんだっけ。
あっちは魔術師達の管轄だから口は挟めないし、聞いても煙たがられるだけだからよく知らないけど、どうせ録でもない事をやってんでしょう。
それに陰気くさい連中だから、私としても関わりたくないし。
「まぁ魔術師連中が何を考えてるのかは知らないけど、あまり深入りしない方がいいわよ?」
「そうですな。自分としても魔術師達はどうも苦手でして‥‥」
魔術師達が普段どのような生活を送ってるのか知ってる者は少ない。
元々他者との接点が少ないので当たり前なのだが、そこへローブで顔が見えないとくれば、怪しくて胡散臭いという印象が先行してしまうのも無理はない。
「では最後に、先日発生した貴族街西部の邸宅襲撃事件ですが‥‥」
「それね‥‥。既に別の方面から私に報告が上がってるわ」
「そうでしたか。では詳しくは省きますが、恐らく襲撃したのは闇ギルドの者達だと思われますが、どの街の闇ギルドなのか、またその依頼人に関しては一切が不明のままです」
闇ギルドは暗殺や工作のプロフェショナルなので、彼等に繋がるような物証を残したりはしない。
従って、今回の件も未解決で終わる可能性が高い。
「被害者の満持紀子は相当恨みをかってたみたいだし、この件も放置でいいわ。下手すると薮蛇になりそうだしね」
「分かりました。あ、そういえば‥‥いや、でもなぁ‥‥」
部下が何かを思い出したらしいが、後ろを向いて何やらブツブツと呟いている。
キャメルの犬耳がそれに聞き耳を立てるようにピーンと伸び、更にピクピクと反応する。
「うん? 何々?」
「えーとですね‥‥こ、これはあくまでも噂なんですが、先日キャメル殿と幼い少女が一緒に歩いてるところを目撃した同僚がいましてですね、その‥‥何というか‥‥ですね‥‥」
「それで‥‥何?」
部下の煮え切らない態度にイラついたキャメルが、語気を強める。
「えーーー、つまりその‥‥」
「勿体振ってないでさっさと言いなさい!」
口ごもる部下に対して、つい怒鳴ってしまった。
だが悪気があった訳ではないので、つまらない事で怒鳴った事を反省しつつ、お茶で喉を潤しながら落ち着く事にした。
「わ、分かりました! では‥‥」
「キャメル殿と一緒に居た少女が、キャメル殿の隠し子ではないかとの噂が広がってるようです!」
「ブッフゥゥゥーーーッ!!」
あまりにも衝撃的な話題に、思わず飲んでたお茶を吹き出してしまった。
そして先程の反省も忘れ、部下をキッ!っと睨み付ける。
因みにキャメルは35歳の未婚女性である。
「じ、自分は聞いただけですからね!? も、勿論そんな噂は信じてませんよ!?」
「‥‥誰が流してるの?」
「い、いえ、そこまでは‥‥」
物凄い剣幕に圧された部下の男は、1歩後退りながら脂汗を流す。
「出所を徹底的に調査しなさい、今すぐ!」
「は、はいぃぃぃ!」
上司であるキャメルからの調査命令を受け、部下の男は大慌てで退室していった。
「まったくもう、録でもない噂が広がってるわね‥‥」
それに後始末も噂も全部アイリが絡んでるじゃないの。
リムシールの街に新しい領主を添えないといけないし、レミエマとダンジョンマスターとしての交渉もしないといけないし、どんだけ仕事を増やすつもりか知らないけど、何か奢らせないと気がすまないわね!
‥‥等と大人げない事を考えながら再び机に向かうのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
キャメルの苛立ちの矛先がアイリに向いてるとは全く知らないアイリはというと、ヘルリザードの邸で寛いでいた。
特に気に入った場所ではないのだが、今回はカズヨの報告から少し気になる事が出てきたためだ。
「えーと、要するにあの男子生徒2人は、ネクロマンサーみたいな存在によって、死んだ後に手駒にされたって事?」
「お、よくネクロマンサーを知ってるな。まぁ大体は合ってるぜ。ただ若干訂正させてもらうとだな、死者として復活した後に、所有権を満持紀子にしたってとこだな」
思った通り、アンデッドなだけあって死者に関する事には詳しいわね。
カズヨが対峙した男子生徒2人は、国の魔術師の手によって復活した後に満持紀子の手に渡ったという事らしい。
でもこれってアレクシス王国にとってはありなんだろうか?
凄くグレーゾーンのような気がする。
「まぁそうだな。魔術師どもは自分達の研究が進めば問題ないって考えだからな、奴等にとっちゃ、誰が王位を継ごうが興味はないんだろうさ。だから満持が金を積んで要望したのに対して、あっさり承諾したんだろう。新たな研究資金が出来て喜んでんじゃねぇか?」
あ~成る程。
暗い地下室に籠って研究してるところを想像出来るわ。
「何だか近寄りがたい存在ね‥‥」
「ま、そう感じるのが普通だわな。まさにこのアレクシス王国の暗部ってやつさ」
それでもやはり魔術師の存在は貴重らしい。
実際に過去戦時中に、少人数で戦局をひっくり返した事もあるんだって。
それだけが理由じゃないんだろうけど、国にとっては不可欠な存在のようだ。
「ところでよ、この前アーヴィンに渡してたアレ、俺にも分けてくれよ。なんかすんげーピカピカになるらしいじゃん?」
ヘルリザードの眷族のアーヴィンに渡したのは、鉄製の物を手入れする時に使用するコンパウンドよ。
先日アイカ達を回収しにここへ来た時、偶然アーヴィンに会ったんだけど、なんか甲冑が汚れてるのが気になったのよね。
だからその場でコンパウンドを召喚して渡したのよ、多分効果があるんじゃないかと思って。
「その話をするって事は、効果があったって事ね?」
「おう、誰が見てもピッカピカに見えたぜ!」
どうやら効果は抜群だったらしい。
色々と情報提供に協力してもらったのもあるし、ヘルリザードにもあげよう。
「はい、これ。アーヴィンに渡したのと同じやつだから」
「おう、悪ぃな。周りの連中が羨ましがる姿が目に浮かぶぜ!」
ああ、やっぱり貴族だから見た目に拘る人が多いのね。
でもこれが機で問い合わせが殺到したらどうしよう‥‥ま、その時はその時ね。
ここでの用は済んだしダンジョンに帰ろう。あ、そうだ、後でカズヨの様子を見に行ってみようかな。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ただいま~」
「お帰りなさい、お姉様。カズヨの様子は如何でしたか?」
アイカも気になってたのね、クラスメイトが死後も利用されてた事に。
私も想像してみたけど、例えばバニラやレミエマが同じように利用されてたと知ればショックを受けるわね。
「ソルギムの郊外にあの3人のお墓を作ったみたい。カズヨは‥‥まぁ暫くはソッとしとくのが良いと思うわ」
結局2人の男子生徒と満持紀子は、火葬した後に埋葬されたようだ。
「しかし何故満持紀子まで一緒に埋葬したのでしょう? 現況を作った張本人じゃないですか」
「私もね、同じ事を思ったのよ。殺したい程憎い相手だったのに何故‥‥ってね。そしたらカズヨはね‥‥」
『1人ぼっちにはさせたくないんです。私も1人で居た時は寂しかったので‥‥』
「もしかしたら、満持が男子生徒2人を傍に置いてたのも寂しかったから‥‥なのかもね」
本人が死んだ以上確認しようがないけども。
「うーん、わたくしにはよく分からないですね」
アイカはダンジョンコアだから人間と同じ思考にはならないのかも知れない。
その代わり‥‥。
「アイカ、その浴槽と同じくらいあるプリンをどうするつもり?」
「‥‥コレはプリンではありません。プリンの匂いがする入浴剤です」
まーーーた言い付けを破って勝手に召喚してるし‥‥。
食いしん坊なのは人一倍ね。
これを独り占めしようとしてるんだから大した食欲だわ。
それに嘘が下手なところはご愛敬って感じで。
大体、見た目がまんまプリンじゃないの‥‥。
「なら私が使っても問「ダメです!」
「‥‥え?」
「ダメったらダメです!」
「なんで?」
「何でもかんでもダメです!」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「じゃ一緒に入りましょ?」
「そ、それもダメです!」
「私も」
「ダメです!」
「一緒に」
「ダメです!」
「入りたいん」
「ダメです!」
「だけど」
「ダメです!」
「いか〇や長介」
「ダメだコリャ!」
乗りはいいけどプリンを譲る気はないと。
仕方ない、そろそろ終わりにしよう。
「でも早く食べないと風味が落ちるわよ」
「それはいけません! 早く食べてしまわないと‥‥‥‥あ‥‥」
ああ、お姉様がとても良い笑顔です。
「アイカ、眷族達にも分けてあげたいから、お皿持ってきて」
「‥‥はい」
トボトボとお皿を取りに行くアイカだけど、もう1度召喚すればいいだけなのにねぇ。
何にせよ今日から暫くはゆっくりしよう。
ギュゥゥゥン!
『フフ‥‥』
「ひっ! な、何? 誰なの!?」
今、知らない女の人の声が聴こえたような‥‥。
「お姉様、顔色が悪いように見えますが、どうされました?」
アイカが戻って来た。
でもさっきの声は、アイカの声とは違った。
「ねぇアイカ、さっき女の人の声が聴こえなかった?」
「いえ、わたくしは聴こえませんでしたが?」
「そう‥‥」
この様子だとアイカには本当に聴こえてないみたい。
「さてはお姉様、この真夏日を利用して肝試しをするつもりですね?」
そんな面倒臭い催しはしたくないわ。
「そもそもあの程度の嘘で私を動揺させるなど不可能です。お姉様はもう少し工夫が必要になり‥‥‥‥」
うーん、私の気のせいだったのかなぁ‥‥。
聴こえた声が気になりつつ、プリンをスプーンで掬い上げた。
第2章、終了です。
次は登場人物紹介を挟んで第3章になります。




