満持紀子の行方
国王との謁見が無事終了したので、ヘンリー伯爵ことヘルリザードの邸にやって来た。
アイカ達を回収するためにね。
「お疲れ様です~、アイリ様~♪」
「おう、国王と謁見したんだってな」
メイドさんに案内されて応接室に行くと、ヘルリザードとセレンがソファーで寛いでた。
ヘルリザードはあのダンマスを尋問してた筈なんだけど、もう終わったんだろうか?
「ちょっと緊張したけど無事に終わったわ。それで、尋問の方はどうなったの?」
「尋問ならとっくに終わってるぞ。あのダンマス、ホエロスって名前の青年なんだが、一部の貴族達による手引きであそこにダンジョンを作ったらしいな」
一部の貴族達って、勿論アレクシス王国の貴族の事よね?
それがプラーガ帝国と繋がってるダンジョンマスターに協力するとか、それって反逆罪って事になるんじゃ‥‥。
「まぁそうだな。ライバルの足を引っ張るだけならよかったが、さすがに国家の足を引っ張るってなぁ‥‥極刑だろ」
ヘルリザードは、首に手を当ててスライドさせるように見せた。
首チョンパ‥‥つまり、物理的に首が飛ぶって事ね。
「まだ関わってる貴族がいたのね。その貴族達は判明したの?」
ここまで来て再びバニラ達に危険が及ぶのは看過できない。
出来る事なら協力したいけど‥‥。
「それなら大丈夫だ。内通してた貴族の身柄をアンジェラとアイカが確保しにいったからな。特にアンジェラは嬉々として飛んで行ったんだが、まだ暴れ足りねぇとか言ってたぞ?」
それって周りに被害は出ないわよね?
うっかり力加減を間違えたりとかして‥‥。
よし、これに関して何か起こったらヘルリザードのせいにしよう、そうしよう。
「ん? キャメルからの通信だな」
キャメルさんからヘルリザードに通信が届いたらしい。
満持紀子は捕まえられたのかな?
「おうどうした? 昨日よりいっそう老け込んだ声のキャメルさんよ?」
ちょ! コイツ、いきなり何て事を! そんな事キャメルさんに言ったら‥‥。
『‥‥ぶっ〇されたいの?』
ほらぁ怒ってるじゃないの! 眉間をヒクつかせながら話してるキャメルさんが、想像出来るわ。
「冗談だ。笑って流せよ」
老けたって言われて笑って流せる女性はそうそういないと思う。
とはいえ、口を挟むと私まで巻き添えを食らいそうだから、余計な事は言えない。
『‥‥次言ったら邸ごと浄化させてやるからね?』
「おーー怖怖! 肝に命じておくぜ。」
茶化してないで少しは反省しなさいよ、アンタ‥‥。
『コホン‥‥、それで、アイリにも伝えてほしいんだけど、ミツモチノリコは城から脱け出した後らしいのよ。申し訳ないんだけど、所在が掴めないわ』
タイミング的に、ボーアロッカの件が伝わったから逃げられたのかもしれない。
コイツを捕まえれば一件落着なんだけど、中々上手くいかないわね。
「あ~キャメルさん、その事なんだけど、満持紀子は私の方で探しとくから」
『あら、アイリもそこに居たのね。そこに居ると臭いが移るから早く出た方がいいわよ?』
「おい、どういう意味だ!?」
ま~た始まった‥‥。
この2人はいつもこんな感じなんだろうか。
「話が進まないから、夫婦喧嘩は後にしてください」
『「夫婦じゃねぇよ!」ないわよ!』
息ピッタリなんですがそれは‥‥。
「お2人共~、息がピッタリですね~♪」
『「そんな訳あるか!」』
今度は一字一句同じなんですが‥‥。
というか、セレンも余計な事言わないの!
『オッホン! それで、アイリはどうやって探すつもりなの?』
「こういう事にうってつけの連中が居るから、彼等に任せようと思います」
『「彼等?」』
見えないモノを探しだすのは、彼等の得意分野だろうから。
それに彼等も同じ人間を探してたみたいだしね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
翌日。
ヨゼモナール暗殺の受け部屋に籠っていた国王が謁見の間に現れた。
すると、今までピリピリとしていた空気が途端に和らぎ、その場に居た貴族達から歓声が起こる。
「国王陛下! お身体の方は大丈夫なのですか?」
最初に話しかけたのは宰相のマッソニーであった。
大多数の貴族には、ヨゼモナールが暗殺されたショックで倒れたと伝わってるので、国王の身体を労る発言だ。
「うむ、もう大丈夫だ。‥‥皆にも心配かけたな。儂のいない間よくやってくれた。礼を言うぞ」
国王の復帰に貴族達の歓声も大きくなり、国王陛下万歳! と叫ぶ者も出てきた。
「しかしだ‥‥」
だが、国王は声のトーンを落とし、神妙な顔をしつつ話を進める。
それにより歓声は収まり、辺りは静まり返る。
「残念ながら、此度の件に加担した者がこの中に居る!」
歓声が上がる目出度い雰囲気から一転、今度はどよめきが起こる。
「その者達には制裁を下さねばならぬ!」
国王の言葉に一部の貴族がビクついた。
そしてその貴族の後ろから、近衛兵が近付いて来た。
その近衛兵に気付いた貴族は何事かと思うのも束の間、両脇を抱えられ国王の前に連れ出された。
「そうであろう? ‥‥モルドルト伯爵!」
「へ、陛下、いったい何を‥‥」
慌てるモルドルト伯爵だが、この男こそがプラーガの息が掛かったダンジョンマスターであるホエロスを、スラム地区に迎え入れた犯人達の主犯各であった。
「惚けても無駄だ! お主の取り巻きが、この場に居ない事を不審に思わぬ愚か者め!」
モルドルト伯爵には取り巻きと言える2人の貴族がいるのだが、今日は姿を見せてない。
何故ならば、その2人は既にアイカとアンジェラによって捕まってるからである。
その2人から既にモルドルト伯爵の名前が上がっており、モルドルト伯爵の邸からホエロスとの契約書が見つかっていた。
因みに契約書を探しあてたのは、我らがドローンである。
「お待ち下さい! これは何かの間違で「戯けが! ではこの契約書はなんだ!? 貴様の署名がしてあるではないか!!」
契約書を突きつけられ、言い逃れが出来ないと悟ると、そのまま沈黙してしまう。
「ふん、プラーガに尻尾を振った駄犬が! 連れて行け」
「「ハッ!」」
へたり込んでいたモルドルト伯爵を、近衛兵が引っ立てて行く。
その様子を見ていた貴様達からヒソヒソ声が聴こえる。
(まさかモルドルト殿が‥‥)
(よりによって他国に通じるとは‥‥)
(人は見掛けによらんな‥‥)
(これだから粗〇ン野郎は‥‥)
「そして実に残念ながら、ボーアロッカ公爵も謀反を企ててる事が判明したため拘束した」
再びどよめく貴族達。
だが、ボーアロッカ本人は罪を認め大人しく捕まったと説明して、その場を収束させた。
因みにだが、ボーアロッカは大人しくしてるのは本当だ。
今は独房の中で、過去の自分の行いを悔いているという。
主に、軽はずみにアイリ達に関わってしまった自分の行いを。
こうして一連の騒ぎを引き起こした者達は、全員が捕縛され、終息に向かおうとしていた。
ただ1人、満持紀子を残して‥‥。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
日が沈み夜になると、街中と言えど人の行き来は疎らになる。
街灯が灯されてる辺りは明るいが、そこから離れると簡単に姿を消す事も可能だ。
主に闇に潜む者達にとっては活動しやすい時間帯と言えるだろう。
その時間帯を利用し、物影に潜み、辺りを気にしながら移動する黒い影が複数。
平民のみならず、貴族も恐れるという彼等の正体は闇ギルドの構成員。
そんな彼等のターゲットとなったのは‥‥。
「もうすぐ‥‥もうすぐだからね。佐藤君、中井君、待ってて2人共、必ず‥‥必ず満持紀子を‥‥」
「殺してやる!」
「おいおいカズヨ、あまり大きな声を出すなよ? 今度の邸は警備が厳重なんだからな」
「ご、ごめんオリベル」
気が昂って声が出てしまったカズヨを、目の前にある邸を見上げながらオリベルが宥める。
彼等は元々リムシールの街の闇ギルドの構成員だったのだが、ダルタネーロの依頼を受けレミエマのダンジョンを攻略に現れたところをアイリ達の返り討ちに合い、捕まってしまった者達だ。
その際にアイリに対して忠誠を誓わされ、サクサロッテ共和国のソルギムの街で治安維持をしていた。
そんな彼等の元に再び現れたアイリの指示によって、今日の朝から満持紀子の所在を突き止めるべく動いた。
そして突き止めた場所は、何て事はない貴族街にある邸の内の1つだった。
キャメルが満持紀子の所在を突き止められなかったのは、満持が密かに末端の兵士の名義で邸を購入してたからである。
「しかしよ、タイミング的にはギリギリだったよなぁ? まさに神のお導きって奴か」
彼等が調べたところ、満持紀子は今日中に荷物を纏め、明日の早朝に王都から脱出するつもりでいたのだ。
まさにガオランが言った通り、ギリギリのタイミングだったのだ。
「ああ、まさに神の導きだな」
そしてオリベルは、ガオランとは微妙に違う神と解釈した。
そこへ、別の場所で待機してる仲間からの声が聴こえてきた。
『こちらノアーミー、もうすぐ門番が交代する時間よ、準備はいい?』
彼等の必需品であるインカムから仲間の1人であるノアーミーからの声が届く。
「ああ、こちらは大丈夫だ。いつでも行ける」
いよいよという感じにカズヨ、オリベル、ガオランが立ち上がり、目の前にある邸の門番を凝視する。
そこへ既に中庭で待機していたボルチェとデールからの声が届く。
ボルチェとデールは、昼間の内に庭師として邸に潜り込んでいたのだ。
『たった今、ヤッコサンが門に向かったよ』
『デール、ヤッコサンではなく普通に門番と言え』
いつも通りまったく緊張感の無いデールに、ボルチェが突っ込む。
『これよりカウントダウンを開始する。10、9、8‥‥』
ボルチェがカウントダウンを始めると、仲間に緊張が走る。
『5』
『4』
『3』
『2』
『1』
『始動』
ボルチェの始動という掛け声と共に動き出す闇ギルドの構成員達。
彼等が向かった先は、今まさに門番が交代のたに門が開けられているところだ。
「ふぅ、漸く交代『ドスッ!』ぐふっ‥‥」
「ん? おいどうし『ドスッ!』ごぶ‥‥」
外に居た門番を、オリベルとガオランによる手刀で峰打ちし気絶させる。
それに気付かず中から交代の門番が出て来たところを、同じように手刀で峰打ち。
これにより、ボルチェとデール以外の構成員達は堂々と正面から入る事が出来た。
「門番が戻らないと知れば、すぐに気付かれる。各自遅れるなよ?」
ボルチェの言葉にその場の全員が頷く。
そして速やかに邸を忍び込んで行った。
「ターゲットは居るのは恐らく3階だ。速やかに3階へ移動しターゲットを狩る」
ボルチェが説明しながら先導する。
邸の中にいるメイドや兵士を物影でやり過ごしながら階段にたどり着いたが‥‥。
「なぁボス、階段の両脇にある魔道具みたいなのって何だと思う?」
よく見ると、オリベルの言った通り、階段の両脇に棒みたいな物が立っていた。
「見たことない代物だな。だが気にしても仕方ない、このまま進むぞ」
そう言ってボルチェが階段に足を乗せたその時だ。
ビー! ビー! ビー! ビー!
突然けたたましい音が、邸全体に鳴り響いた。
「チッ! 防犯装置か。このまま一気にかけ上がる。ガオラン、カンマ、ノアーミー、お前達はここで足止めだ」
「「「了解」」」
構成員3人を残し、ボルチェ達は3階へと進んで行く。
そして2階に上がり切ると、遠くからこちら目掛けて走って来る兵士達の姿が見えた。
「ここもか‥‥オリベル、デール、ヤミー、お前達はここを頼む」
「「「了解」」」
『ガオラン、カンマ、ノアーミー、2階も同じ状況だ。2階で合流して3階への侵入を防いでくれ』
『『『了解』』』
ボルチェは素早く1階にいる仲間にインカムで指示を出すと、カズヨを連れて3階へとかけ上がった。
3階へたどり着くと、そこは1階2階とは異なり、不気味な静けさを保っていた。
誰も居ない‥‥思わずそんな感覚に陥りそうになる。
「カズヨ、気を付けろ。相手は既に俺達を察知してる筈だ」
「分かった!」
階段を上がった先に見えるのは1つの通路のみ。
左右に幾つかの部屋が有るが、人の気配は感じない。
そして通路の突き当たりには、他の部屋とは違う大きな扉が有った。
それを見て彼等は直感する。
「あそこだな」
「うん‥‥」
そこにアイツが‥‥満持紀子が居る!
そう思い、突き当たりの扉まで駆け寄ると、思いっきり開け放った。
「ようこそ、汚ならしい侵入者さん」
そこには満面の笑みを見せる、満持紀子の姿があった。




