国王との謁見
城門で多少ゴタついたけど、無事に中に入る事が出来た。
そのまま私達は6階の国王の間へ行って、王女2人に事情を説明してもらってる最中な訳よ。
で、私はというと‥‥。
「確か以前にも同じ事があったような気がするんだけど‥‥」
ディスパイルの実家にお邪魔した時と同じように、客室で大人しくしております。
あの時は水差しを使おうとして大変な目に合いましたよ?
それはもう絵画は落ちてくるわ花瓶が落ちてくるわでエライこっちゃでしたよ?
でもあの時の失敗を教訓に、私は変わるの!
もう同じ手は食らわないんだからね!
「あの‥‥アイリ様、そのように畏まらずに、もっと楽にしててよろしいのですよ?」
「あ、うん。ありがとうトリー」
それに今回はメイドのトリーが居てくれるからね、何かあってもすぐにトリーがフォローしてくれる筈よ。
「‥‥あら? お茶が切らしてる‥‥申し訳ありません、アイリ様。すぐにご用意致しますので、少々お待ちください」
な、なんて事なの!?
唯一の希望であるトリーが退室していく。
というか、お茶とかいいから傍で見守っててほしかった。
何故なら、こういう時って必ず何かアクシデントが起こるのよ。
でも出来るだけアクシデントは起きてほしくない、まずは落ち着け私、冷静に冷静に。
コツン、コツン。
「ん? 何の音だろ?」
扉をノックするのとは違う音が聴こえる。
何だかさっそくアクシデントの予感が‥‥。
コツン、コツン、コツン。
「いったい何処から‥‥あ!」
窓の方を見たら、1羽の小鳥が窓の外からこちら側を突っついていた。
中に入りたいんだろうか?
でも勝手に中に入れていいのかどうか迷うんだけど‥‥。
「あ、小鳥さんと目が合った」
小鳥さんは中に入りたそうにこちらを見つめている。
中に入れますか?
ハイ
イイエ
様子を伺う ←とりあえずコレで
もうすぐトリーが戻ってくるだろうから、それまで待とう。
コツン、コツン。
私が視線を外すと、再び窓を突っつきだした。
小鳥さんはどうしても中に入りたそうにこちらを見つめている。
中に入れますか?
ハイ ←気になるから入れてあげよう
イイエ
様子を伺う
放置するのも可哀想だと思って窓を開けてあげると、小鳥さんは勢いよく中に飛び込んできた。
もしかして、この城で飼ってるのかな?
なんて呑気に考えてると、その小鳥さんは天井に吊るしてあるシャンデリアみたいな魔道具に飛び乗った。
いったい何を考えての事なのか全然わからない。
けどシャンデリア擬きが落下してきたら大変な事になるのは分かってる。
「すぐにでも捕まえないと‥‥」
私はテーブルに足を掛けると、シャンデリア擬きに手を伸ばすが‥‥‥‥届かない。
うーーん、どうしたものか‥‥。
もういっその事、このまま放置しとこうか?
いやいや、放置した結果、大惨事に陥る可能性もあるし、ここはキチンと対応しないと。
「そうだ! お菓子で小鳥の気を引こう」
我ながらナイスアイデアよ!
それじゃさっそく‥‥何がいいだろう?
飴玉
チョコ
煎餅
ケーキ ←匂いで誘えそう
「よし、ケーキよ、君に決めたわ!」
すぐにケーキを召喚し、小鳥の前に近付けてみる。
すると予想通り小鳥はケーキの匂いに気付いたようで、目が釘付けになった。
しかし、迷ってるのか動こうとはしない。
「さぁ、おいでおいで‥‥」
私は祈りながら小声で小鳥を呼び寄せる。
すると祈りが通じたのか、小鳥がケーキを乗せたお皿に飛び乗って、ケーキにがっつきはじめる。
ここまでは私の想定内だった。
だけどここから想定外の事が起きる。
小鳥が勢いよく飛び乗った為、今度は私がバランスを崩し始める。
「よっとっと‥‥」
小鳥の乗ったお皿を頭上に掲げながら、バランスを取り戻そうとする。
しかし、足下のテーブルにはテーブルクロスがかかっており、それが見事なまでにスルッと滑りだした。
「え? ちょ、ちょっと‥‥」
そのままテーブルから足が離れ、床に向かって落下を開始する。
普通なら見事な決めポーズとともに着地を成功させるのだけど、そのためには生憎と頭上のお皿が邪魔になる。
だけどここでお皿をおさらばさせる訳にはいかない、お皿だけに‥‥コホン。
そして案の定、着地は失敗し、尻餅を着く形で床に不時着した。
でもお皿を手離さなかった私を褒めてほしい。
私がお皿を頭上に掲げつつも、はしたないポーズを決めてる今もなお、小鳥は何食わぬ顔をしてケーキを食べ続けている。
というかもうすぐ無くなりそうなんだけど、この小鳥、食欲が旺盛過ぎないだろうか?
ガチャ!
「失礼します。アイリ様、お茶をご用意致しまし‥‥」
‥‥‥‥‥‥。
この後のトリーの台詞を予想するわ。
恐らくだけど‥‥、
【あのぅ、アイリ様‥‥そのようなところで何を?】
こんなところじゃないかしら?
「あのぅ、アイリ様‥‥そのようなポーズを決められて何を?」
うん、惜しかった。
これはニアピン賞でいいわね。
って、そんな事よりさっさと起き上がらないと。
ちょうどトリーの位置からだとパンツが見えちゃってるだろうし‥‥。
入って来たのがトリーで良かったと言わざるを得ないわ。
「ええとね‥‥この小鳥さんになつかれてしまったみたいでね」
「あら、チュチュ。お外から帰ってきたのね」
チュチュ?
もしかして本当にここで飼ってるの?
「ねぇ、その小鳥さんって‥‥」
「この子はチュチュって名前をつけて、私と他のメイド達とで世話をしてるのです」
ここで‥‥じゃなくて、トリー達が飼ってるのね。
まぁなんとか誤魔化せたから良しとしよう。
「今セレスティーラ様とバーミレニラ様が国王様に事情説明をされてますので、もう少々ここでお待ち下さい」
「うん、分かった」
それからトリーと雑談を交わす事30分程、王女2人の説明が終わり、私が国王と面会する事になった。
いきなり国王との面会とか凄く緊張するんだけど!
それに礼儀作法とか知らないし、粗相をしないか心配になってきた。
でもトリーが言うには礼儀にうるさい人ではないので、普通にしてれば大丈夫だと言われたので少し安心した。
「それでは国王のいる部屋へ案内致します。今回は非公式でお会いになられます。ですので謁見の間とは違い、護衛以外の貴族は居ませんのでご安心を」
それは有り難いわ。
口煩い貴族が居たら何言われるか分かったもんじゃない。
王女2人も居るだろうし、それほど緊張しなくて済むかも。
「国王の部屋はこちらの『ドン!』キャ!」
話しながら部屋を出たところで横から誰かがぶつかって来た。
私はトリーを助け起こして、ぶつかって来た相手を見る。
相手は私よりも少し上くらいの女の人だった。
「イタタ、この急いでる時に‥‥アンタ達邪魔よ! さっさと退きなさい!」
「も、申し訳有りません!」
ぶつかって来たのは相手の方なのに、ぶつかられたトリーが謝ってる。
多分相手は貴族なんだろうけど、こんな奴が貴族に多いと思うと嫌になってくる。
その後、その女は余程急いでるのか、特に叱責する事もなくそのまま走って行った。
「大丈夫トリー?」
「すみません、私の不注意で‥‥」
「え? いやいや、今のはどう考えてもあの女の方が悪いわよ!」
「いえ、アイリ様、私は大丈夫ですから落ち着いて下さい」
そ、そうねあんな女にムキになる事はないわ、冷静に冷静に。
「さ、参りましょう、アイリ様」
「うん」
慣れっこなのか、トリーはあまり気にしてないっぽい。
なのに私がウダウダ言ってたら可笑しいと思って、それ以上は言わなかった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「陛下、もうすぐ王女2人をお救いになられたダンジョンマスターが到着致します」
「分かっておる。それよりもどうじゃ、どこも可笑しなところはないか?」
「いえ、可笑しなところは見当たりません。誰がどう見ても立派な国王であります」
「うむ、ならばよい!」
国王であるアレクシス21世は、王女を救済したダンジョンマスター、つまりアイリとの面会に備えていた。
実は国王は、王女2人からアイリの話を聞いた時からアイリと会うのを楽しみにしてたりする。
何故かというと、まずアイリが異世界から来た可能性が高いという事を予想したからだ。
見たことの無い本に、食した事の無い料理、これらが意味するのは、ズバリ異世界の文化で間違いないだろうという事だ。
実のところ国王は、今までに何度か異世界から召喚された勇者と謁見してるのである。
その勇者を召喚したのは、魔の森を挟んで東側にあるプラーガ帝国で、過去に召喚されている勇者の中にはプラーガ帝国の使者としてアレクシス21世に謁見している者もいた。
そしてその際に勇者が口にした言葉が、【貴方こそ王の中の王だ】とい言葉であった。
当然国王は、この言葉に大変気分を良くしたと言うのだ。
他にも2人程の勇者と謁見を行ったのだが、いずれも同様の言葉を残している。
そういった理由も有り、国王はアイリと会うのが楽しみで仕方ないのだ。
勿論、王女を救ってくれたという理由もあるのだが。
「陛下、ダンジョンマスターのアイリ殿が到着いたしました」
「うむ、すぐに参ろうぞ」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
先程までいた部屋とは違い、一際豪勢な造りをした部屋に通されたアイリ。
また待たされるのを危惧したが、それほど待たされる事はなく、すぐに国王が入室してくる。
その姿を見てアイリは、一目でこの人物が国王で間違いないと思った。
それだけの特徴があったのだ。
そんな国王の姿を見て、思わず条件反射的に膝間付いてしまった。
「もっと楽にするがよい。ここには口煩い貴族や宰相は居らぬからの」
トリーの言ってた通り、割と親しみやすそうな国王だわ。
思わず国王の顔を見て膝間付いちゃったけど、必要無かったみたい。
「ありがとう御座います。では楽な姿勢で話させていただきますね。魔の森の中心に存在するダンジョンのダンジョンマスターをしております天前愛漓と申します。アイリとお呼び下さい」
「儂はベイルース・サーク・ロードアレクシス・アレクシスだ。儂の代で21代目という事でな、アレクシス21世を名乗っておる」
でたぁ、よく分からない長い名前‥‥。
間違いなく自己紹介するだろうと思って、ここに来る前にトリーに確認したんだけど、最初のベイルースというのが名前で、次のサークが国の象徴である通貨単位、その後のロードアレクシスは王都を繁栄させてるからという理由で王都の名を、最後のアレクシスは初代国王の名前らしい。
その長い名乗りに意味は有るのかと問いたいけれど、単に見栄えの問題だろうから深く考えない事にする。
「王女2人が無事であったのはそなたのおかげじゃ。ありがとうアイリよ、心から礼を言うぞ」
そう言って頭を下げた国王は、器の大きい人だと感じた。
国王が非公式とはいえ、一般人に頭を下げるなんて普通は有り得ないからよ。
「いえ、助ける事が出来たのは偶然でした。ケティさんやトリーが王女達を守ってなければ助けられなかったと思います」
「そうだのぅ、あの者達にも感謝しておる。だが謙遜はせんでよいぞ、お主のおかげで陰謀を企てた者達を捕らえる事が出来たのだからな」
つまり黒幕の事ね。
今回の黒幕は、ボーアロッカ公爵と満持紀子、それからプラーガ帝国に加担したダンジョンマスターね。
「内政官のキャメルからも聞いておる。件のダンジョンマスターは、ヘンリー伯爵が尋問中との事だ。それからボーアロッカに関しては証拠を確認中らしいの」
ドローンの映像がアイカからキャメルさんに渡ったみたいだわ。
あれは証拠としては完璧だからボーアロッカは言い逃れ出来ないわね。
問題は満持紀子を捕まえる事が出来たかどうかだけど‥‥。
「国王様、ボーアロッカを補佐してた満持紀子という女が居たはずなのですが、ご存知ありませんか?」
「うーむ、見たよな気もするし見たことが無い気もするのぅ。すまぬが儂には分からぬな」
そっかぁ‥‥。
後でキャメルさんに確認してみよう。
「それよりもじゃ。アイリよ、儂の顔をよく見てくれ、コイツをどう思う?」
「顔‥‥ですか?」
「そう、顔じゃよ」
なんか国王がウリウリって感じに顔を近付けてくるんだけど‥‥。
それに顔をよく見ろと言われても‥‥ん? ‥‥ああ! 成る程ね! これは確かに‥‥。
「国王様、どこから見ても完璧な王様に見えます。キングオブキングです」
「おお、そうかそうか! やはりそうか!」
上機嫌に成ったけど、これで良かったんだよね?
乗りでキングオブキングとか言っちゃったけど大丈夫よね?
程なく謁見は終わり、国王は上機嫌のまま退室していく。
アイリの返答は国王の希望通りのものであった為に、上機嫌となったのだ。
勿論アイリが出任せを言った訳ではない。
キチンと国王の顔を見て答えたのだ。
では何故アイリの口からあのような台詞が飛び出したのか。
それは過去に謁見した勇者の1人が残した言葉がヒントになる。
その勇者が呟いた言葉を、同じ控え室にいたメイドが聞いた内容がこちらだ。
【実に‥‥実に見事な王様だった。あれほど見事なトランプの13は見たことがない】
この事はすぐに国王の耳にも入る。
しかし、トランプの13が何を意味するのかは、いまだに謎に包まれたままだ。
そんな事があり、トランプの13というフレーズは、シークレットフレーズとして書庫の書物に記録されてるのであった。
国王の名前については突っ込まないで下さい。
特に深く考えてませんので。




