名残惜しい、ああ名残惜しい
ボーアロッカと数名の護衛達をDPで作った檻に入れてからダミーコアルームに戻った。
この仮ダンジョンの撤去作業をしなきゃならないからね。
因みにボーアロッカだけは猿ぐつわをしたまま独房に入れてある。
護衛達と一緒にすると、猿ぐつわを外されて騒ぎ立てるだろうし。
「ではお姉様、現在この仮ダンジョンのDP残が、18371ポイントですが、いかがいたしましょう?」
あれ? そんなに残ってたっけ?
「なんかポイント多くない? 確かここを作った時にチャージしたDPは1000ポイントだったはずだけど‥‥もしかして10000ポイントチャージしてた?」
「いえ、チャージされたのは1000ポイントで間違いありません。ポイントが増えてるのは、このダンジョンがあの傭兵団を取り込んだからだと思われます。あんな連中でも一応実力者揃いでしたからね」
それに数も多かったからこれだけポイントが増えたのね。
「ちなみに仮ダンジョンの維持費は1分につき1ポイントですので、200ポイント程度残して撤退すればダンジョンを離れた後に自然消滅するものと思われます」
そうだった。
仮ダンジョンは維持費がかかるのよね。
10000ポイント以上消費して作ったから勿体無い気もするけど、傭兵団のおかげで大量のDPが手に入ったから良しとしよう。
「それじゃDPを200だけ残して本来のダンジョンに転送して」
「了解です。ところでダンジョンの外で待機してる3000人近い兵士達はいかがいたしますか?」
うわぁ、そんなにいるんだ‥‥。
どんだけ気合い入れて来たのよ‥‥って話なんだけど、事前に私と遭遇した連中から話を聞いてるからよねきっと。
「面倒だから放置で。ダンジョンが消滅すれば勝手に帰るでしょ」
「お姉様、段々対応が雑になってきてるようですが‥‥」
雑でいいのよ。
そもそも私はバニラとセーラが無事に帰れるならそれでいいんだから、その他の連中まで面倒見きれないわ。
「姉御、俺は帰ってもいいんですかい?」
ごめん、素で忘れてたわ。
モフモフは帰ってもらって大丈夫だし、先にダンジョンに送って来よう。
「ありがとね、モフモフ。じゃあアイカ、私はモフモフとダンジョンに帰るから、ドローンの映像を編集しといて」
「畏まりました」
帰るついでに王女達も連れて来た方がいいわね。
ボーアロッカを捕らえた以上、満持紀子だけで国を乗っ取るのは不可能だから安全と言ってもいい筈。
‥‥でもあの王女達が素直に帰ってくれるかと言えば、ゴネてしまう可能性もある。
そうなると、説得するのに時間がかかるかもしれない。
「アイカ、やっぱりDPは300くらい残しといて。王女達の説得に時間を要するから」
「‥‥ああ、特にセーラさんは本が大好きでしたね。最悪お土産に本を差し上げるくらいしないと図書館から離れないかもしれません」
やっぱりアイカもそう思うのね‥‥。
「ここ数日ですが、ダンジョン内でのセーラさんの行動パターンは、食事とトイレと睡眠以外は全て図書館で過ごすという引きこもりに有りがちなワンパターンとなっております」
こらこら、引きこもりって言わないの。
どちらかと言えばアクティブな方よ。
もし図書館がダンジョンの外にあったら、毎日危険をおかして外に出てるわ。
勿論外に出ようとする前に、絶対に止めるけども。
これはアイカの言うように、お土産に本を見繕ってあげるしかなさそうだわ‥‥。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
アイリのダンジョンの5階層。
ここには誘致した者達のための街が存在し、中には様々な施設を利用出来るようになっている。
今はまだ誘致出来てないが‥‥。
その内の1つに図書館が有り、今日も閉館後に自動人形によって摘まみ出されるまで館内で粘っていたセーラことセレスティーラの顔は優れない。
何故なら、つい先程ダンジョンに戻ってきたアイリによって、黒幕のボーアロッカを捕らえたから王都に帰っても大丈夫だと言われたからである。
「はぁ‥‥まだまだ読みたい本がこんなにも有るというのに、お城に戻らないといけないなんて‥‥」
「でも国王とか心配してるだろうから帰らないとダメよ?」
まるで生涯の別れのような悲しみにくれてるみたいになってる‥‥。
私がその気になればいつでも王都に行けるんだから、その時にはまた新しい本を差し入れてあげればいいか。
「うん、まぁ予想通りの反応だけど、お土産に本を見繕ったから持ってってちょうだい」
アイカのリサーチによると、やはり恋愛物の小説や漫画が中心だったようなので、それらを適当に見繕ってセーラさんに渡した。
「アイリちゃん、ありがとう! 貴女に出会えて本当に良かったぁ!」
そう言って私に抱き付いてくるセーラさんだけど、ラッカーソン達から助けた時よりも感動的に見えるのは何故だろう‥‥。
あっちの方が命に関わってた筈‥‥だけど、細かい事を気にしてたら負けな気がしてきたからこれで良い事にする。
とりあえずセーラさんは5階層にある城で待機してもらって、他の人達を探しに行こう。
アイカに確認したら、ケティさんと御者の男の人はスポーツジムで汗を流してるらしい。
今更だけど、御者の人はランディって名前のようだ。
さっそく私も行ってみたら、何故かザードが2人対して剣術指南をしていた。
「2人共、だいぶ動きが良くなってきてるようだな。中々見処があるでござる」
「確かに。以前よりも相手の動きに反応出来るようになった気がする」
「有難う御座います、師匠!」
ザードがランディから師匠と呼ばれてるんだけど、この数日で師弟関係が出来上がったらしい。
後どうでもいい事かもしれないけど、スポーツジムって剣を振り回す場所じゃない気がするんだけど、これも気にしてたら負けなんだろうか‥‥。
「む? 主殿、戻ってきたのでござるな」
ザードが私に気付いたので、他の2人もこちらに振り向いた。
「アイリ殿のおかげで、とても有意義に過ごさせてもらっている」
「アイリさん、ありがとう御座います!」
有意義に過ごしてたのは見てて分かった。
でもその有意義な時間も終わりを迎えようとしてるのよ。
なんだか私が邪魔するような形になっちゃいそうだけども。
「あーーうん、有意義なのは良かったんだけど、そろそろお城に帰してあげなきゃとおもってね」
「そういえば、そろそろ晩酌時で御座るな」
「ここで汗を流してると、時間が経つのを忘れてしまいますね」
「では我々も城に戻りましょう」
うん、どうやら大人しく従ってくれるみたいね。
っと言いつつ、彼等が向かうのはこの5階層の城の方。
いやいや、そっちの城じゃないから!
「ちょ、ちょっと待って、城っていうのは王都にある城のほうだから!」
「「な!?」」
な!? って、そんなに驚く事?
「黒幕のボーアロッカを捕らえたのよ。だから城に居れば危険は無いはずよ」
「そ、そうか。ついにこの日が来てしまったのか‥‥」
「師匠ーっ!」
「愛弟子よ、これからも精進するとよい」
ケティさんはセーラさんみたいな状態になって、ランディはザードの胸を借りて‥‥ってアンタ達、この数日でどうやってここまで信頼関係が築けるのか教えてほしいわ‥‥。
ケティさんとランディの2人も、セーラさんと同じように城で待機してもらった。
後はバニラとトリーなんだけど‥‥。
「あのぅ‥‥姫様、あまり食べ過ぎますと、お夕食が食べられなくなりますよ?」
「そう仰らずにトリーもどう?」
「あ、ありがとう御座います! このショコラフォンデュは癖にな‥‥コホン! いえ、私はこれ以上は食べれませんので遠慮します」
すっかり地球のスイーツにハマってしまったバニラが、お菓子屋さんでケーキを貪っていたのよ。
初めてバニラに会った日に比べて少しだけ肥ったように見えるのは、気のせいだと思いたい。
だってもし本当に肥ってたら、それは間違いなく私が原因って事になるし。
「ああ、こんなに美味しいのスイーツを堪能出来るなんて、ここは天国なのですね!」
もう手遅れっぽいけど、一応止めよう。
バニラにもスイーツの詰め合わせをお土産に持たせてあげればいいか。
その後の計画はトリーに任せよう。
私はスイーツを紹介しただけにすぎないから、私は悪くない!
「バニラ、お土産にあげるからそろそろ王都に帰るわよ」
「ええ!?」
姉妹揃って残念そうな顔をするのね‥‥。
「ほら、セーラさん達を待たせてるから早く口を拭いて」
「分かりました。でもアイリちゃん、きっとまた連れて来て下さいね?」
「勿論いいわよ」
ちゃんとダイエットに成功したらの話だけどね‥‥。
招待してた5人を連れて仮ダンジョンに転移した。
一応アイカに聞いてみたけど、留守中は特に何もなかったようだ。
ここで公爵と王女姉妹の久々の対面となるんだけど、特に何も言う事はないみたい。
公爵はまだ猿ぐつわをしてるから、正確には言えないと言うのが正しいけどね。
「ご覧の通り、ボーアロッカは捕らえたから、城に戻っても大丈夫よ。コイツは参謀の女の知恵を借りて、バニラだけじゃなくセーラさんにも刺客を放ったの」
「そ、そうなんですか!?」
「まさか公爵殿が‥‥」
あそこに偶然レミエマのダンジョンがあったからこそ助けられたのよね。
セーラさんとケティさんの2人は、公爵が黒幕だとは思ってもみなかったらしく驚いている。
「この男のせいでヨゼ兄様は‥‥」
バニラはヨゼモナールが暗殺された事が堪えてるみたいね。
でもヨゼモナールを暗殺したのは、プラーガ帝国に協力したダンジョンマスターよ。
名前は聞いてないけど。
「何故ヨゼ兄様を暗殺したのです!?」
バニラがボーアロッカに掴みかかった。
「何故‥‥何故ヨゼ兄様を!」
ああ、ボーアロッカが頭をガックンガックンされてる。
というか、猿ぐつわを外してあげた方がいいのかな?
「何故何故何故何故っ!!」
うわっ、ばっちぃ!
この爺、よだれ垂らしてるじゃないの!
「いえ、それよりもお姉様、バニラを止めた方がよろしいのでは? 公爵が白眼を向いてる事ですし‥‥」
あらら、それは気付かなかったわ。
こんなくだらない事で死なれても嫌だし、バニラには落ち着いてもらおう。
「バニラ、ストップストップ。ほらバニラ、あんまりコイツを揺すると、よだれが飛び散って汚いわよ?」
「‥‥すみません、取り乱してしまいました」
うん、どうやらバニラは落ち着いてくれたみたい。
「お姉様、その止め方もどうかと‥‥」
汚いのは事実だから仕方ないのよ。
悪いのは全部コイツよ。
「それにお姉様、もうすぐ日が完全に落ちてしまいますが、よろしいのですか?」
ええ!? いや、全然よろしくないわよ!
さっさと王都に転移しないと!
公爵は後で回収するとして、先に王女達を送らないとね。
「アイカ、公爵の嵌めてる指輪は?」
「ちゃんと確保してあります。キャメル様との連絡に使用されるのですね?」
さすがアイカ。
この指輪は便利そうだから私が貰っておこうと思ったのよ。
もし国王に何か言われたら返すけども。
「じゃあ王都に転移するわ。アイカと公爵達はヘル‥‥コホン、ヘンリー伯爵の邸に転移させるから、事情説明はお願いね」
こうして王都に転移したアイリ達だが、ダンジョンの外に残された3000人の兵士達はその後2時間近くも待たされた挙げ句、ダンジョンが消滅するという事態に困惑し、結局どうする事も出来ずに翌日になってから王都に帰還するのであった。
夜になる前に城門の前に転移した。
本当は王都の外からにしたかったけど、時間がないって事で今回は特別よ。
「んな!? お、お前達、いったいどこから現れた!?」
でもって門番達に囲まれるのも分かってましたよ?
いきなり目の前に現れたら誰だって警戒するわよね‥‥。
「ま、待て、我々は怪しい者ではない!」
いやいや、ダメでしょケティさん、怪しい奴は自分の事を怪しい奴だと言わないんだから。
しかーーし、今回は大丈夫!
なんと言っても王女達がいるから。
「ちよっと待ちなさいよ! アンタ達、自国の王女の顔も忘れたの!?」
私の言葉にえ?って顔して私達を見る。
私は門番達が確認しやすいように、王女達を前に出す。
「もももも、申し訳ありません!」
「たた、大変、しし、失礼を致致しししましたぁ!!」
「お、お、お姫様さ、おがえりだやなぁ!」
目の前にいる2人が王女だと気付いて慌てふためく門番達。
最後の1人にいたっては、故郷の訛りが出てるわね。
さすがに今回は、ちょっと門番達には申し訳ないと思った。




