切れない切り札
「これは驚いた、まさか本当に幼子だとはな」
1度交戦した私兵から私の容姿を聞いてたんだろうけど、言葉とは裏腹にあまり驚いてるようには見えないわね?
この状況で余裕ぶってる理由は、脱出する手段を持っているか余程能天気なのかのどちらかでしょうね。
「大して驚いてる感じはしないんだけど‥‥まぁいいわ。アンタはボーアロッカ公爵で、ここに来た目的はバーミレニラ王女を殺しに来たってところでしょ?」
「いかにも。私の目的まで知ってるなら話が早い、バーミレニラをこちらに渡してもらおう。死体でもかまわんぞ?」
コイツ、今のこの状況を理解してないっぽいんだけど、どうしたらいいだろう‥‥。
自分達が優位に立ってると本気で思ってるんだろうか?
『お姉様、鑑定の結果、公爵の所持してる魔道具に、相手を意のままに操れるアイテムが有りました。恐らくそれを使用して、お姉様を操ろうと考えてるのではないかと。因みにドローンでお姉様の前をガードしてますのでご安心下さい』
成る程ね、アイカからの念話で分かったけど、そんな便利で怖いアイテムは処分してやりたい。
『それから脅威ではありませんが、転移石も所持してますので、いざとなれば1人で逃げるつもりでしょうね。お姉様にとっては、こっちの方が厄介かもしれません』
それはちょっと面倒ね。
使用される前に奪ってやろう。
でもまずは話を進めてからね。
「私がバーミレニラ王女を殺害するメリットが無いんだけども?」
「確かにそうかもしれんな。ならばメリットがあれば私に協力してくれるのだな?」
「それはどうかしらね? そもそも私がバーミレニラ王女を保護してるのなら、アンタに協力したりはしないと思わない?」
ま、最初から協力する気なんて更々ないんだけどね。
「そうか‥‥残念だが、交渉は決裂だな」
そう言いつつ懐から取り出したのは、黄金色のオーブだった。
鑑定したら強権のオーブと出たわ。
アイカの言ってた相手を操る魔道具ね。
「そんなオーブで何をしようってのよ?」
「ククク、そんな強がりを言えるのも今のうちだ」
強権のオーブを私の方につき出してボーアロッカが叫ぶ。
「時満ちし、汝は僕、跪け!」
オーブから光が放たれ、私目掛けて迫ってくる!
でも、悲しいけどコレ無駄なのよねぇ。
予定通り、迫り来る光が私の目の前で遮断された。
うん、やっぱりドローンは万能だったわ、さすがは100万ポイントのDPを注ぎ込んで作られた最高傑作ね。
そしてこの公爵、余程自信家みたいだからちょっと遊んでやろう。
光が収まると、虚ろな表情をした私が公爵に確認される。
「‥‥‥‥‥‥」
「よしよし、どうやら効いてくれたみたいだな。この数の魔物に肝を冷やしたが、こうなれば何も出来まい」
どうやら私を完全に操ってると思い込んでるみたい。
それなら頑張って演技しなくちゃね。
「‥‥‥‥‥‥」
「公爵様、本当に効いてるのでしょうか?」
「効いてないとでも言いたいのか?」
やや不愉快そうに返す公爵だけど、それでも兵士は進言するみたい。
「そうは言いませんが、報告によると見た目は兎も角、相当な実力者だと思われます。そのような者が何の対策も施してないとは思えないのですが‥‥」
「ふむ‥‥」
マズッた!
この兵士、中々鋭いじゃない。
自画自賛になるけども、私ほどの実力者なら当然対策くらいするわね。
「だが、現に効いてる以上なんの問題もないであろう」
「た、確かに‥‥」
マズいと思ったけど、公爵が予想以上にアホで助かったわ。
よくこんなんで公爵に成れたわね‥‥。
「まずはバーミレニラの身柄だな。あの小娘は何処にいる?」
「ここには居ない。既に土の中」
意外だったのか私の言葉に一瞬驚いてたけど、バーミレニラが死んだと思って喜んでるようだわ。
でも嘘は言ってない、地面の中にダンジョンがあるから。
「そうかそうか! もう既に死んでるのか。てっきりお前が派閥の誰かに頼まれたのだと思ってたが違ったみたいだな」
あっさり信じちゃって拍子抜けなんですけど‥‥。
この公爵、本当に大丈夫かしら?
「公爵様、セレスティーラ王女についても聞いてみてはどうでしょう?」
「おお、そうであったな‥‥セレスティーラの行方を知ってるか?」
護衛の兵士は中々優秀っぽいけど、肝心の公爵がアレね、頭の中がお花畑牧場よ。
「セレスティーラも同じ土の中」
「ほほぅ、実に素晴らしい結末だな! まさか厄介者が2人とも既に死んでたとは」
こんな好都合な展開を怪しく思わないのかしらね?
‥‥って、怪しく思わないから喜んでるだったわ‥‥。
私の方も嘘は言ってないしね。
2人とも同じ土の中のダンジョンに居るから本当の事よ。
「邪魔者を処分してくれて感謝する。だがお前は王族を手に掛けたダンジョンマスターとして討伐されねばならない。よってお前を王都へ連行し、極刑に掛ける」
言いながら1人で無警戒に私に近付いてくる。
護衛達も私が操られてると思ったようだ。
そして私の腕を掴もうとした時、逆に公爵の腕を掴んで足払いで転倒させ、その場で捻り上げる。
「グァッ! き、貴様、何故動ける!?」
「公爵様ーーッ!」
それを見て護衛達が動こうとするけど時既に遅しよ。
護衛達の行く手をウルフ達が阻むからね。
でも‥‥、
「来るなら来てもいいわよ? そのかわり、コイツはどうなるか分からないけどね?」
「おのれぇ‥‥」
何だか悪役っぽいけど、気にしたら負けね。
『今のお姉様は凄く悪役っぽいです』
言わんでいい!
分かっててやってるんだから。
‥‥さて、いつまでも公爵様を放って置くのも悪いわね。
「何故動けるって言ったわね? そんなの決まってるじゃない。最初からアンタの使ったオーブは効果なんて無かったのよ。だからちょっと演技してただけなんだけど、まさかあんなに簡単に信じるとは思わなかったわ」
「おのれぇ‥‥儂を騙したのか!!」
どうせアンタも散々周りの連中を騙してきたんでしょうが。
だからアンタに相応しい言葉を送ってあげるわ。
「そんなの騙される方が悪いのよ」
「むぐぐぐぐ‥‥」
さっそくコイツの持ってる転移石はボッシュートしよう。
あんまり他人の爺さんの懐をまさぐりたくないけど仕方ない。
‥‥あ、あった、コレね。
転移石と思われる石が出てきたから一応鑑定したけど、鑑定結果でも転移石って出たから間違いない。
「コレは没収するわ。護衛を置いて1人で逃げるのはズルいでしょ?」
「クソッ!」
これでよし。
後はドローンで録画した映像を証拠としてキャメルさんに渡せばコイツは終わりね。
あ、そうだ!
せっかくだから、コイツの持ってる指輪を使ってキャメルさんに連絡しよう。
昨日キャメルさんが使ってた指輪と同じ指輪をコイツも嵌めてるみたいだし。
「公爵さん、その指輪を使ってキャメルさんと連絡とってくれない?」
「ぐぬぅ‥おのれぇ、キャメルまで貴様とグルなのか!」
グルって訳じゃないんだけど、現国家を陥れる真似をするなら必然的に敵対する事になるんでしょうけどね。
『お姉様、わたくし公爵を顎で使ってる人間を初めて見た気がします』
いいのよ、使える物は何でも使えば。
それに、好き好んでこんな爺の手を触りたくないし。
あ、そろそろ公爵とキャメルさんのトークバトルが始まるわね。
「キャメル! 貴様裏切ったな!?」
『何を仰るのです? アレクシス王国を混乱に陥れようとする逆賊は貴方の方では?』
「貴様ぁ、立場を理解してないのか! たかが内政官ごときが儂に歯向かうとは!」
会話には割って入らないけど、アンタも今の自分の立場を理解してないでしょ‥‥。
『私は国に忠誠を誓ってますが、貴方に忠誠を誓ってる訳ではありません。貴方こそ理解すべきですね』
「おのれおのれぇ! どいつもこいつも儂を舐めおって!」
もう最初見た時のような余裕の表情は見る影もないわ。
これがコイツの素顔って訳ね。
『お姉様、そろそろ止めた方がよいのでは? 最近キレやすいお年寄りが増えてるらしいですし、後遺症が残る可能性も‥‥』
それは地球の話でしょ!
なんで異世界まで来てそんな心配をしなきゃなんないのよ‥‥。
もしそうなったらエリクサーでも何でも使って回復させてやるわ。
でも一応は止めるけどね。
私もキャメルさんと話したいし。
「はいはい落ち着いて」
「な、何を‥むぐぐぐ!?」
横で喋られるとうるさいから、猿ぐつわで塞いどいたわ。
「あーもしもしキャメルさん?」
『もしもし? ‥‥って、その声はアイリね』
「はい、ちょっと公爵から借りて使ってるんだけど、コイツがセレスティーラ王女とバーミレニラ王女に対して殺意がある証拠をゲットしたから」
『それは本当なの!? でもどうやって‥‥』
「詳しくは王都に戻った時に話しますから、今からコイツを連れて帰ります」
『分かったわ。でも注意してね、ソイツはまだ容疑者の段階だから、怪我を負わせないようにね』
「分かりました。それからキャメルさんにお願いがあるんですけど‥‥』
『私に出来る事ならね。でも給料日前だから高い物は奢れないわよ?』
「違います!」
『あっははは! 冗談に決まってるじゃない。それでお願いっていうのは何?』
「ボーアロッカを補佐してる、満持紀子っていう私よりも少し年上の女がいる筈なんです。ソイツの身柄を拘束しといてもらっていいですか?」
『ミツモチノリコね、分かったわ。保証は出来ないけど、見つけたら拘束しとくわ』
「お願いします」
キャメルさんに満持の拘束をお願いしてから通信を切った。
うまく拘束してもらえれば楽が出来るからね。
じゃあ早いとこ王都に帰りますか。




