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誘われしダンジョンマスター設定資料  作者: 北のシロクマ
アレクシス王国の暗部 if
76/84

戦場の狼

モフモフ「あの‥‥前回の予告したタイトルと違うんじゃないですかい?」

作者「こっちの方がカッコイイやろ?」

モフモフ「‥‥せやな」


「見たことが無い魔物だが‥‥まあいい。相手は1匹だ、周りを囲め!」


 傭兵団のリーダーのかけ声でモフモフを取り囲むと、徐々に距離を詰め始めた。

相手が1体だけでも慎重なその姿勢は、さすがに名の知れた傭兵団といったところだろう。


「この距離でも動かないのか‥‥」


 モフモフと傭兵との距離は既に5メートルを切っていた。

それでもモフモフは動こうとしない。

 そしてついに2メートルを切る距離まで来てしまった。


「‥‥かかれぇ!!」


 得物の距離まで詰めたところでついに動き出した傭兵達。

このまま切り刻む事が出来れば完勝と言っていいだろう。

 だが現実はそれほど甘くはなかった。


「でやぁ!」


 最初に斬りかかった傭兵の剣は空を切った。

今の今まで目の前に居たモフモフが姿を消してしまったのだ。

 目標を見失った事で傭兵達に動揺が走る。


「くそ、どこだ‥どこにいやがる!?」


「どこかに居る筈だ、周囲を警戒しろ!」


 辺りをキョロキョロと見渡すが、どこにもその姿を発見する事は無く、緊張感だけが高まっていく。


「おいノーマン、気配察知スキルを持ってただろうが! さっさと使え!」


「さっきから使ってる! でもダメだ、全く察知出来ねぇ!」


「ちきしょう! どうなってやがる!」


 パニックになりかけてる傭兵団をダミーコアルームから見てるアイカは、腹を抱えて笑っていた。


「プププ、実に面白い反応です。モフモフには特殊迷彩(ステルス)を使ってもらってるだけなんですがね。録画してるので後でホークに見せてやりましょう」


 尚も辺りをキョロキョロと見渡してるが、一向に見つからない。

 だが暫くしても何も起きない事で、徐々に冷静さを取り戻しつつある傭兵団に更なる恐怖が待っていた。


「今回は少々思考を凝らしてみました。楽しんでいただけるかと思います」


 そう言ってアイカはお約束のドローンを操作して傭兵団の1人に狙いを定めると‥‥、


「マインドマリオネット発動」


 ドローンから放たれたマインドマリオネットの魔法は、対象1人を心身共に完全に操ってしまう魔法である。

精神力の低い者は特に掛かりやすい。


「ぐっ‥‥‥‥」


 掛けられた1人は訳も分からず身体に重圧を感じるが、すぐに収まった。


「おいデービス、どうした?」


 近くの仲間に声をかけられたデービスという男は、たった今アイカの制御下に置かれているので仲間の声は届かない。

そしてその声の主に対してゆっくりと剣を向けた。


「お、おい何やってる冗談はよせ!」


 突然の荒々しい声に他の傭兵達も気付き始めるが、仲間の1人が他の仲間に剣を向けているという異常な事態に、誰も理解が追い付かない。


「デービスの様子がおかしい! 何らかの罠に掛かったんだ!」


「くそぅ! ‥‥仕方ねぇ。おい、デービスを殺れ!」


「分かったぜ!」

「悪く思うなよデービス」

「恨むなら罠に掛かった自分を恨めよな」


 出来れば仲間を殺したくないが、背に腹は代えられない。

そしてデービスを取り囲んだその時だ!


「ギャァァァッ!! ‥‥ガフッ」


 1人の傭兵が背後から現れたモフモフによって、右上半身を食われたのだ。

デービスの事で本来のボス部屋のボスの存在を忘れていた傭兵達に衝撃が走った。

 

「クソが! 今頃出て来やがって!」


 という傭兵の恨み節だが、寧ろ()()()()出て来たのである。


 モフモフと連動するようにデービス(アイカ)も動き出す。

傭兵達の注意がモフモフに向けられた今がチャンスとばかりに、手にした剣で近くの傭兵に斬りかかる。


 キィィィン!


「ぶねぇ‥‥な! この野郎!」


 間一髪で防いだ傭兵は、逆にデービスに斬りかかった。

だがデービス(アイカ)も負けてはいない。

暇を見つけてはサム〇イスピリッツを含む複数の格ゲーで遊んでただけあり、キャラの操作は中々のものであった。


 剣を打ち合う音に再びデービスの方にも気を向けられるがそれは近くの傭兵だけで、残りはボスであるモフモフの方に集中していた。

デービス(アイカ)よりもモフモフを脅威と見なした結果だろう。

 そして右半分を失って事切れた傭兵をポイッと投げ捨てたモフモフは、次の獲物を求めて傭兵達を見渡す。


「油断するなよ。理由は知らねぇが、コイツは気配察知スキルにかからねぇからな!」


 だが残念な事に気配を察知出来たとしても、モフモフに勝てる者は居ないだろう。

実際にそれだけの力量差がモフモフと傭兵達の間にあった。


「な!? ムゴッ!」


 しっかりとモフモフを見ていた筈が、いつの間にか接近を許してしまい、頭から食われた傭兵が出来上がってしまった。


「このままじゃヤベェ! 食われた奴ごと殺っちまえ!」


 隙を伺ってるだけじゃジリ貧になると予測すると、仲間が犠牲になってる間に仕留めようと動き出した。


「くそ、調子に乗りやがっ‥グワァ!」


 今まさにモフモフに仕掛けようとした傭兵の1人が、デービス(アイカ)によって背後から切り伏せられた。


「まずはデービスだ! デービスを仕留めろ!」


 さすがに多勢に無勢とあって、デービス(アイカ)はアチコチを切りつけられ、やがて動かなくなった。

 だがデービスを相手取っていた内に、モフモフにより更に2人の犠牲者が出てしまったが。

これにより傭兵団の総員は、残り19人となってしまった。


「よし、次はあの化け物狼だ!」


 デービスを仕留めた事で、全員がモフモフに向き直る。

けっして単独で仕掛けたりはせず、微妙に時間差を利用し複数でモフモフに襲いかかるのだが、当然のように掠りもしない。


「コイツ、ちょこまかと!」


「落ち着け。焦ってたらより危険‥おい、後ろだ!」


「んな!? ‥‥ヒギャァァァ!!」


 集中力を乱した傭兵がまた1人モフモフの餌食になる。

しかし、傭兵団にとっては仲間が犠牲になった今こそが好機だった。


「今だ! やっちまえ!」


「「「オゥ!」」」


 生き残っている全員がモフモフに向かっていく。

 だが、1人目が剣を降り下ろすと横に避け、2人目が横凪ぎに払うと後ろに下がり、3人目が突きを繰り出すと上に跳んだ。


「奴を狙え、ウィラー!」


 傭兵の1人であるウイラーは弓の名手で、彼のおかげで難を逃れたのは1度や2度ではすまない。

そのウィラーに空中にいるモフモフを狙撃させようと試みたのだ。

そして皆の期待に応えるかのように弓を放ったウィラー!

 ‥‥であったのだが‥‥、






「グワァァァ!」


 弓矢の向かった先は、モフモフに集中していた仲間の背中だった。


「テリー! ‥‥てめぇ、ウィラー! どこ狙ってやがる!?」


 しかしウィラーは意に介した様子もなく、無差別に弓を放ち始めた。


「ちきしょう、ウィラーまでおかしくなっちまいやがった!」


「な、なん‥ヘグァ!」


 無差別に放たれた矢に当たった団員1人がその場に倒れた。

 その様子をダミーコアルームで見てたアイカがほくそ笑む。


「操られてるのが1人だけだと、いつから錯覚していたのでしょう?‥‥まぁ簡単に言うと、さっきまで操ってた男が仕留められた直後に、今の男に対してマインドマリオネットを掛けただけなんですがね」


 デービスが死んだ直後に、ウィラーに乗り換えただけのようだ。

だが傭兵達にとってはたまったものではない。


「クソが! こうなりゃ仕方ねぇ、誰か数人でウィラーを押さえつけとけ!」


 暴れるウィラーを数人がかりで押さえつけてる間に、更に3人がモフモフの餌食になる。


「おい、早く仕留めてくれ! コイツの抵抗が激し過ぎる!」


 ウィラーを押さえつけてる1人が言うが、モフモフを相手にしてる傭兵達に対しては無茶振りというものだろう。


「そんな事よりこっちを手伝え! もうウィラーは諦めて殺しちまえよ!」


 ウィラーを押さえつけてる内に、更に2人がモフモフに食われてるのを見たため、迷ってる隙はない。

なのでウィラーを手に掛ける事に何の迷いもなく、そのまま仕留めたのだった。

 これにより残りは10人となった。


「も、もう無理だ‥‥入口を抉じ開けて脱出しようぜ!」


「わ、分かった!」


 逃げる事に全会一致したようで、入口へと殺到する傭兵達。

そして半数の5人がモフモフに向かって得物を構え、残りの半数は扉を抉じ開けようとした。


「は、早くしてく‥グワァ!」


 早く開けてくれと言おうとしたのだろうが、言い終わるまでにモフモフに食われる。


「く、くそぅ! ‥‥ギャァッ!」


 自棄を起こして突撃した1人も同じように食われた。

だが、ここで希望が見えてきた。

扉がもう少しで人1人が通れるくらいに開きそうなのだ。


「もういい、ボスに構わず扉を開けろ!」


 ここでも全会一致のようで、残った8人は扉を開こうと力を込めた。

何故モフモフを無視する行動に出たのか。

 それは、モフモフと対峙してたら間違いなく死んでしまうからである。

それよりも他の誰かが犠牲になってくれてる内に、開くかもしれない。

各自がそんな考えをしてるだろう。


「よし、もう少しだ!」


「ああ、あと少し‥グガァ!」


 更に1人が背中からかじりつかれる。

だが誰も気にしない、最早自分が助かるなら他の連中はどうでもいいと思ってるだろう。

 その結果、3人がボス部屋から脱出する事に成功したのだった。


 3人がボス部屋から出ると、扉は自動的に閉まった。

それを見て安堵した3人は、その場にへたり込んだ。


「は、はは、助かった‥‥」


「マジで‥‥ヤバかったぜ‥‥」


 肩で息をしながらも呼吸を調えようとしてる中、不意に1人が立ち上がった。


「ん? どうし‥グボォ!」


 立ち上がった1人に突然脇腹を突き刺された男は、そのまま仰向けに倒れた。


 そう、彼等はボスから逃れたい一心で、()()()()()()()を忘れていた。


「な!? お前‥グゲェ!‥‥」


 そして最後の1人も武器を構える間もなく袈裟斬りにされた。


「ブ、ブルータス‥‥お前‥‥もか‥‥」


 とうとうアイカが操っているブルータスという男以外は生き残りがいなくなった。


「ふぅ、とりあえず終了ですね。後はこの男を使って公爵殿を誘い込みましょうか」


 都合がいい事に3階層の通路には斥候隊の兵士が居なかったので、この惨劇を目撃した者はいない。


『モフモフもご苦労様です。ダミーコアルームで少し休んでて下さい。あ、ついでにお姉様も起こしといて下さい。もうすぐクライマックスなので』


『了解しやしたぜ、姐さん』


「さてと、このブルータスという男にはもう1働きしてもらいましょう」


 アイカはブルータスを2階層で待機してる斥候隊のところへ向かわせた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「そうか、良くやった! まさか儂の私兵を消耗せずに済むとは思わなかったぞ!」


 ブルータスの虚言を鵜呑みにした斥候が、ボーアロッカの元に報告に戻った。

それを聞いたボーアロッカは、嬉しい誤算にご満悦だ。


「王都に戻ったら予定の報酬よりも、少し色をつけて渡してやるとしよう」


 ボーアロッカは部下からの報告で、バーミレニラ王女を連れ去ったダンジョンマスターが多数のDランクモンスターを使役してる事を聞いていた。

そのため、自分の私兵3000人を率いてダンジョンにやってきたのだ。

 だがその私兵を消耗せずに済んだ。


「それで、バーミレニラ王女が儂と話したいと言ってるのだな?」


「はい、何でもするから命だけは助けてほしいと言ってるそうで‥‥」


「ふむ‥‥」


 元々殺すつもりだったが、言う事を聞くのであれば利用価値があるかもしれない。

後は実際に会ってから決めてもいいかと気楽に考え、少数の護衛を連れてバーミレニラが捕らえられているダンジョンの最深部へ向かった。






「お待ちしてました、バーミレニラ王女はこの中です」


「‥‥そ、そうか」


 3階層のボス部屋の前で待機していたブルータス(アイカ)が、丁寧な言葉遣いでボーアロッカを出迎えた。

武骨な男による丁寧な話し方に、虫酸が走る思いをしたボーアロッカは思わず引いてしまったが、すぐに冷静になりボス部屋の扉を開いた。


「さて、バーミレニラ王女は‥‥む? ‥‥どこにもいないようだが‥‥」


 ボス部屋に入り辺りを見渡すが、中は無人でバーミレニラはおろか傭兵達すら居ない。

不審に思いブルータス(アイカ)に視線を向けると、剣を抜いてボーアロッカに斬りかかってきた。


「な!? 何を!?」


 突然の出来事に何も出来ずに戸惑うが、護衛の私兵がしっかりと防ぎ、ブルータスを切り殺した。


「公爵様、お怪我は有りませんか?」


「う、うむ、儂は大丈夫だ。それよりコヤツは何故このような真似を‥‥」


 ここで傭兵達が裏切るメリットが全くない。

そう考えればこの(ブルータス)がおそってくる意味が分からない。


「公爵様、どうも様子がおかしいです。1度引き返し、改めて斥候に調査させては如何でしょうか?」


「うむ、そうだな。他の傭兵共が居ないのも気になるし、1度外に出るとしよう」


 1人の私兵の助言に従い、ボーアロッカは1度ダンジョンから出る事にした。

 しかし‥‥、


「た、大変です公爵様、入口が閉じられてしまい、ここから出る事が出来ません!」


「何だと!? ‥‥いったいどういう事だ!」


「それが‥‥扉は開いたままにしていた筈なのですが、いつの間にか閉じており、開けようとしてもビクともしません!」


 試しにボーアロッカも自ら扉を開けようと試みたが、やはり扉は開きそうになかった。

ここへ来てようやく自分達が閉じ込められた事に気付いた。


「クソッ! 儂らを閉じ込めたのか!」


『その通りよ、おバカな公爵さん』


 ボーアロッカの荒らげた言葉に答えるように、ボス部屋全体にアイリの声が響き渡る。


「誰だ! 公爵様を侮辱するとは命知らずな奴め!」


 護衛の1人がアイリの言葉に反発する。


『本当の事を言ったまでよ。まんまと騙されてここまで誘き寄せられた人を、バカと呼ばないなら何て呼べばいいのよ?』


 アイリの挑発的な言葉に、護衛は更にヒートアップした。


「おのれまだ言うか! 貴様こそ姿を現せ、この卑怯者め!」


『ふーん、卑怯者ね‥‥。そこまで言うなら姿を見せようじゃない。そのかわり、腰を抜かしても知らないわよ』


 言い終わると、ボス部屋の奥にあったダミーコアルームの扉が開き、アイリがゆっくりと姿を現した。

ただしアイリだけじゃなく、多数のレッドウルフとホワイトウルフ、極めつけにデルタファングのモフモフを伴った状態でだ。


「さぁ、この状況で闘いたいって言うなら相手になってやるわよ?」


 ボーアロッカにとっては絶体絶命の大ピンチなのだが、幸か不幸か現状に理解が追い付いていなかった。

彼が大ピンチだと気付くまでもう暫くかかりそうだった。


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