素行不良な傭兵団
ウシールさんから解放された私は仮ダンジョンに戻って来た。
疲れたから昼寝をしたい気分なんだけど、例の公爵をお出迎えしないといけないので寝てる暇はない。
もう暫くはトレムの街には行かないでおこう。
「それでアイカ、状況はどんな感じ?」
「はい、ボーアロッカ本人はダンジョンの外で入口を包囲するように構えて天幕を張ってます。ダンジョン内では、斥候として数名ずつ放って内部を探ってるようです」
ふーん、なら本格的に攻めてくるのは暫く先になりそうね。
‥‥よし、これならいけそうね!
「アイカ、私は昼寝してるから本格的な戦闘が始まったら起こしてちょうだい」
「‥‥お姉様、この状況で昼寝をするんですか?まるで舐めプじゃないですか‥‥」
しょうがないのよ、グチールさ‥‥じゃなかった、ウシールさんの愚痴を聞いてたら眠くなっちゃったんだから。
「じゃあ後で起こして‥‥」
そう言ってお姉様は奥にある寝室に向かって行きました。
あの様子だと暫く起きてこないでしょう。
と、いう事は‥‥、
「これは‥‥チャンスですね!」
お姉様が昼寝した今、私は自由を手にしたのです!
こうなればやる事は1つ‥‥、
「出でよ、我が胃袋に忠実なる下僕達よ!」
召喚したのはアセロラムース、オレンジムース、メロンムース、納豆ムース、黒ごまムース、ココアムース、バニラムース、洋梨タルト、パインタルト、チーズタルト、レアチーズタルト、ブルーベリータルト、キウイタルト、牛乳プリン、抹茶プリン、ティラミスプリン、梅紫蘇プリン、練乳プリン、キャラメルプリン、さくらんぼショートケーキ、カマンベールチーズケーキ、紅茶シフォンケーキ、バナナシフォンケーキ、シークワーサーシフォンケーキ、スイカババロア、ココナッツババロア、グレープフルーツババロア、紫スイートポテト、コーヒーゼリー、ビールゼリー、スコッチゼリー、炭酸水ゼリー、青リンゴゼリー、カレーヨーグルト、レモンシャーベット、ブルーハワイシャーベット、ジンジャーシャーベット、トマトシャーベット、マンゴーシャーベット、アーモンドマドレーヌ、カフェオレマドレーヌ、アップルマドレーヌ、白あん最中、カスタードクリーム最中、白玉ぜんざい、苺大福、ウイスキー大福、栗大福、生クリーム大福、焼き団子、以上の50品になります。
このズラリと並んだスイーツの眺めはまさに絶景なのですが、これを食する事で更なる幸福を得られるのです。
先日の出来事により、お姉様からは普段から間食を控える癖をつけるようにと言われてしまいましたからね。
なので食べ過ぎてるのを見られると小言が増えてしまうので、以前のように全力で食す事は出来なくなってしまいました。
ですので今回、棚からぼた餅のように得た時間は、とても貴重なのです。
‥‥ぼた餅も追加しときましょう。
「さぁ、ショータイムと行きましょう♪」
アイカは召喚したスイーツに舌鼓を打ちつつダンジョン内の様子を監視してるのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
まさか監視してる側が、方や昼寝中で方やスイーツをお楽しみ中だとは思いもしない侵入者達は、ダンジョン内部のマッピングに勤しんでいた。
「こっちは終わったぞ、そっちはどうだ?」
「この先にまた別れ道があったから、まだ捜索中だ」
「おい、誰かコイツと交替してくれ、罠に掛かっちまった」
「分かった、戻るついでに途中経過を報告しといてくれ」
「了解」
1階層でマッピングを行ってるのは12人の斥候隊だ。
ダンジョンは遺跡タイプで足場は悪くないが、普通の通路に見える落とし穴や、凹凸の有る壁の死角から放たれる槍などの罠が多く設置されており、罠の解除に四苦八苦していた。
だが彼等は罠に掛かりながらもボス部屋の捜索を懸命に行っていた。
「こっち側も完了した。行き止まりで何も無しだな」
「そうすると後はこっちの通路だな」
1人の兵士が通路の奥を見る。
その通路の先からはまだ報告が無かったのだが、それも間もなく終ろうとしていた。
奥から斥候の1人が戻って来たのだ。
「この先にボス部屋を発見した。中にはグレーウルフが群れてやがったぜ」
グレーウルフはEランクの魔物だ。
戦闘訓練を受けた兵士なら問題なく対処出来るレベルと思っていい。
「グレーウルフか‥‥分かった、俺が公爵様に報告してくるから、セーフティエリアを確保しといてくれ」
「分かったぜ」
そしてボス部屋発見の知らせを受けたボーアロッカは、すぐさま招集した傭兵団をボス部屋に向かわせる事にした。
素行が悪いが腕は良いという噂の傭兵団は、要請を受けると、待ってました!と言わんばかりにすぐに動き出した。
斥候の1人からマッピングした地図を受け取ると、それを見ながら罠を回避しつつボス部屋へと向かう傭兵団の名は、傍若無人の傭兵団。
その数は総勢27人だ。
「しっかし今回はおいしい依頼だよなぁ?」
「まったくだぜ。依頼主も公爵様となりゃ金払いも良いって訳よ」
戦時中でもない限り傭兵団の出番は少ない。
だからこそ、滅多いない高額な依頼額に飛び付いてきた。
「それによ、始末する女は好きにして良いって話だよな? こんな嬉しい依頼は初めてじゃねぇか?」
「そうそう、始末するのは惜しいがその分楽しませてやればいいんだよ。その方がお互いにハッピーってやつだろ?」
「だな。俺達は金を貰って女を味わえる。そんでもって女の方は男を味わえるんだ、精々喜ばせてやらないとなぁ!」
「「「「ゲェハハハハハ!!」」」」
名は体を表すかの如く、彼等の下品な笑い声がダンジョンに響き渡る。
その様子をコアルームで見ていたアイカは涼しい顔をしていた。
寧ろターゲットのバーミレニラ王女が居ないと知ったらさぞ悔しがるであろうと予想して笑いながら傭兵団を眺めていた。
その傍若無人の傭兵団は、1階層のボス部屋に突入したようだ。
「さて、まずはお手並み拝見と行きましょうか」
最初のボス部屋の戦闘は、静観してようとアイカは決めていた。
「情報通りグレーウルフだぜ」
「よし、お前ら、横に広がって死角を作るなよ!」
「「「「「オゥ!!」」」」」
グレーウルフの群を見ても臆する事はなく、すかさず戦闘体制に入る。
一方のグレーウルフ達は、今回はアイカの指示がないため独自で動き出した。
「おらよ!」
正面からかかったグレーウルフが1体切りつけられて動きを止める。
他のグレーウルフ達も果敢に挑むが、傭兵団は怯む事は無く迎え討つ。
「いいぞ、順調に数が減ってきてるぜ!」
2体で同時に仕掛けたりもしたが、その際は別の傭兵がフォローに入るなどで凌いでいた。
その連携により20体いたグレーウルフは徐々に数を減らしていく。
見た目とは裏腹に、彼等は腕だけは確かなようであった。
「コイツで最後だ!」
最後に残ったグレーウルフが討ち取られ、1階層は突破された。
傭兵団側は誰も負傷する事無く終わったようだ。
そこへ斥候として潜っていた兵士が現れた。
「ご苦労だったな。次の階層を調べてくるので、ここで待っててくれ」
「了解しやしたぜ‥‥おいお前ら休憩だ!」
斥候が2階層を調べてる間、ボス部屋で待機する事になったが、誰も気にする者はいない。
ダンジョンの法則として、ボスを倒してから暫く放置してれば新たなボスが出現するのだが、ボス部屋に陣取ってればボスは出現しない事になっている。
半分は正解なのだが残り半分は、ダンジョンマスターが意図的にボス部屋にモンスターを召喚する事が出来るという事である。
ダンジョンコアであるアイカも召喚する事が出来るが、今回は見送った。
「中々やりますね。数人は倒せると見込んでたのですが」
明確な指示を出してなかった事もあり、侵入者側は無傷だった。
そしてアイカの静観はまだ続く、手元のスイーツが無くなるその時まで‥‥。
スイーツは残り30品。
「ふむ、この紅茶シフォンケーキは絶妙な甘さで美味しいですね、おかわりしましょう」
‥‥スイーツの残りは31品。
アイカの手元にスイーツが1品増えた事など全く関係ない斥候隊は、2階層を捜索していた。
そこは1階層と同じく遺跡タイプのダンジョンであった。
斥候隊は1階層の時と同じ要領で、罠の解除とボス部屋の捜査を行っていった結果、首尾よくボス部屋を発見するに至った。
「ここがボス部屋だな‥‥よっと!」
斥候の1人がボス部屋の扉を開けると、中に居たのはレッドウルフとホワイトウルフが1体ずつとグレーウルフが10体だった。
「やべっ! 扉を閉めろ!」
入口から顔を覗かせた兵士に対して、2体のレッドウルフとホワイトウルフが攻撃魔法を放とうとしてきたので、急いで扉を閉じた。
「Dランクの魔物がいやがるな。報告に戻るぞ」
「おう」
斥候の報告を受けた後、ボーアロッカは再び傭兵団を向かわせた。
ボーアロッカの考えは、ボス部屋までの道を斥候に探らせ、肝心の戦闘は傭兵団にやらせるという一見役割分担を行ってるように見せて、戦闘での私兵の消耗を抑えたいと思っていた。
そんなボーアロッカの思惑を知ってか知らずか、傭兵団は地図を手に2階層のボス部屋へ向かう。
「今度はレッドウルフとホワイトウルフがいるそうだ、遠距離魔法に注意しろよ?」
「分かってるぜ」
「おうよ、ここでくたばったら女を抱けねぇからな」
ボス部屋の扉を開け、中に踏み込むと、先制攻撃とばかりに弓を放った。
「オラオラァ!」
「くたばりやがれぇ!」
粗暴な男達による一斉攻撃だったが、その8割は外れる。
しかし、残りの2割でグレーウルフ4匹を仕留め、レッドウルフとホワイトウルフの2体も痛々しく弓矢が刺さっていた。
「よーし、魔法放つ隙を与えるな! 一気に畳んじまえ!」
「「「「「おぅ!!」」」」」
だがさすがにレッドウルフとホワイトウルフはDランクなだけあって、簡単にはいかなかった。
「ぎゃぁぁぁ! あっじぃ!」
レッドウルフが止めを刺される前に放ったファイヤーボールを至近距離で受けた1人が炎に包まれる。
「ば、ばか、こっちに来 ‥‥ぎゃっ!」
火だるまになって暴れる仲間を避けようとした1人は、ホワイトウルフのフリーズを背中に受けた。
その直後に、別の傭兵によりホワイトウルフも倒された。
奇襲には成功したが、ここに来て初めて2人の犠牲者が出た。
しかし悲しむ者はいない。
寧ろ分け前が増えると喜んでる連中がいるくらいだ。
そんな様子もアイカはスイーツを片手に静観していた。
「ふむふむ、やはり並の兵士よりも強いですね。しかし、次のボス部屋ではどうでしょうかね‥‥」
アイカの手元のスイーツも確実に数を減らしていた。
アイカが静観を止めるまで後、8スイーツ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
3階層にたどり着いた侵入者側は、これまでと同じように斥候による偵察を行わせた。
しかし、ここに来て初めて違和感を感じる事になった。
「一本道だな‥‥」
「ああ、兎も角進んでみるぞ」
通路は横道が一切無い一直線。
罠も無く魔物もいない。
これまでとは明らかに違う作りに戸惑うが、先に進むことにした。
この3階層も遺跡タイプで、通路はボス部屋まで一直線に延びてるのだが特に理由は無い。
作ったアイリは途中で面倒くさくなり、一直線にしただけである。
そして突き当たりにボス部屋と思われる扉が出現した。
「この扉の形‥‥ボス部屋だよな?」
「ああ、間違いないな」
1階層2階層のボス部屋を見てきた斥候隊はその扉の形も覚えていた。
「兎に角、中を確認しよう」
扉を開けると、部屋の中央に1体の大型のウルフが鎮座していた。
正確には分からないが、これまでのウルフと違う風格が感じられる。
「見た事がない魔物だな」
「まぁいいさ、どうせ闘うのはアイツらだ」
「それもそうか」
元々ボス戦は傭兵団に任せる事になってたので、斥候達は特に気にせず報告に戻った。
「いつまで寝てるのですかモフモフ。偵察に訪れていた兵士達は既に引き返してしまいましたよ?」
「‥‥ん‥‥んぁ?」
「‥‥ようやく起きましたか‥‥」
先程斥候隊が感じた風格は、モフモフが立ったまま眠ってしまったところを見ただけだったりする。
モフモフはアイリが仮ダンジョンの最後の砦として呼んだ眷族だ。
「あ~、おはよう御座いやす姐さん」
「もうすぐ悪人面した侵入者が大勢やってきますから起きててください」
「了解ですぜ!」
退屈で寝てしまったモフモフだったが、アイカにより起こされた。
これで最悪寝てるところをグサリ!
‥‥なんて事にはならないだろう。
もっとも、モフモフに近付いたら気配で飛び起きただろうが。
それから待つこと10分程で傭兵団がボス部屋にやってきた。
「頭ぁ、雰囲気的に考えて、最後のボス部屋じゃねぇですかい?」
「かもしれねぇな‥‥よーしお前ら、この先に目標の女が居る可能性が高い。気合い入れていくぜ!」
「「「「「よっしゃあ!!」」」」」
モフモフを前にして気合いを入れる傭兵団の様子を、アイカが冷静に見ていた。
そして今、アイカの手元にはスイーツが無くなったところだった。
「さて、ここからは私も参戦しましょう‥‥ポチッとな」
アイカが手元のスマホを操作すると、ボス部屋の入口が閉じられた。
「お姉様の世界では、ボス戦は逃げられないのが定番みたいですからね」
入口が閉まるのを見た傭兵団の1人が入口を開けようと試みるが、扉はビクともしなかった。
「くそ! このダンジョン、俺達を逃がさないつもりだぜ!」
「マジかよ! くそ、ふざけやがって!」
「落ち着け、ここを突破すればいいだけだ」
退却が極まった傭兵団は、目の前の1体を倒す事に集中したのだった。
次回、モフモフ無双
モフモフ「一瞬で終わるんじゃね?」




