アンジェラ無双
「では行ってくるぞ。ダンジョンマスターを引きずり出して来るから楽しみにしておれ」
「自信満々だなぁ。まぁアーヴィンより強そうな感じがするし期待してるぜ」
アンジェラは勢いよくダンジョンに突入していった。
ハイスピードなため既に姿は見えないが、それを見ていたヘルリザードがセレンに訪ねる。
「期待してるぜ‥何て言っときながらあれなんだが、あのアンジェラって女は実際どのくらい強いんだ?」
「眷族の~、中では~、一番強いでしょうね~♪」
「そうなのか?‥‥うーむ」
今更だがアンジェラを送り出した手前、アンジェラの身に何かあったら大変だと律儀に思っていたヘルリザードだが、セレンの発言により少し安堵した。
だが同時に別の疑問も生まれる事になった。
「見た目ではさほど強そうには見えないが、人は見掛けによらんな。しかし、アイリは期待のルーキーって言われてるんだろ?そのルーキーがどうやって強い眷族を揃えたんだ?」
ヘルリザードにとっては素朴な疑問であったが、内心興味はあった。
ヘルリザード自身も充分強いのだが、慢心はしないつもりだ。
少しでも自分の糧に成りそうな情報は得ておくべきだと考えていた。
「ランダム召喚で~、出てきたと~、伺いました~♪」
「ちょ!?‥‥ランダム召喚って‥‥あの1回で100ポイント使用する、あのランダム召喚の事か?」
「はい~、ちなみに~、私も~、ランダム召喚で~、召喚されました~♪」
「‥‥‥‥‥‥」
強い眷族はDPを貯めて召喚した訳でも、フィールド上の魔物を捕まえて眷族にした訳でもないと聞いて、ヘルリザードは絶句してしまった。
「‥‥そうなのか。だがアンジェラは人間に見えるのだが、もしかして人化してるのか?」
ヘルリザードさん、正解です。
「そうですよ~、アンジェラさんは~、バハムートです~、ちなみに~、私も~、人化してます~♪」
「なぁ、今さらっとバハムートって単語が出てきたような気がするんだが‥‥」
現実逃避しかけてるが、結して難聴な訳ではない。
聞き間違いであってほしいと思っただけである。
「聞き間違いでは~、ありませんよ~、アンジェラさんは~、バハムートです~♪」
「おぅ、そうかよ。そりゃあんなに自信満々な訳だよな‥‥」
バハムートの正確なランクまでは知らないが、種族はドラゴンだという事は理解出来た。
ドラゴンの場合、ワイバーン等の下級の竜種でないなら、Aランク以上はあると見られる。
「ま、俺らは吉報を待つとするか」
ダンジョンの入口を眺めながら、一応の警戒をしつつアンジェラを待つ事にした。
そのダンジョンの中ではアンジェラが猛威を振るっていた。
見た目は洞窟タイプのダンジョンのようで、暗い通路が奥へと続いている。
そんな足場の悪い通路を、モンスターを薙ぎ払い、罠を強引に突破して、宝箱には目もくれず、ダンジョンマスターが居るであろう最下層に向かってひた走る。
「なんじゃなんじゃ、手応えが無いのぅ。これならモフモフを相手にしてた方が楽しいぞ?」
モフモフにとっては地獄の苦しみになるが、そもそもSSSランクのアンジェラを楽しませる相手なんぞ存在するのかどうかが怪しい。
だが1つだけ言えるのは、ここのダンジョンマスターの命は風前の灯火だという事だろう。
「ふむ、1階層のボス部屋か」
ボス部屋を前に一旦立ち止まったが、すぐに中へ突入した。
「さぁ、どんな奴が相手だろうと逃げも隠れもせんぞ?」
ボス部屋への侵入者を感知し、部屋の奥からノソノソと姿を現したのは巨大なミミズ、ビッグワームだった。
そのビッグワームを見て明らかに落胆するアンジェラだが、これでもDランクの魔物である。
寧ろビッグワームがアンジェラから逃げたいと思っている事だろう。
だが残念な事にボスとして配置されてる以上、侵入者を前にして逃亡する訳にはいかず、開き直ってアンジェラ目掛けて突進してきた。
「GYUooooooo!!」
「フッ‥‥図体ばかりがデカくても意味はない。寧ろ‥‥」
突進してきたビッグワームにドラゴンブレスを吹きかけると、断末魔をあげる隙もなく消し炭となって消滅していった。
「いい的だったのぅ」
1階層のボスを1分もかからず撃破したアンジェラは2階層へ突入した。
2階層も1階層と同じ洞窟仕様のようだ。
そしてやはりアンジェラはこの階層も強引に突破した。
一応ボス部屋にはヒュージスパイダーが居たが、壁に叩きつけて終了した。
3階層と4階層の解説は省かせてもらう。
見処が無かったので。
強いて言えば、ボス部屋にはデスマンティスというデカいカマキリと、アシッドクロウラーというデカい芋虫が居た‥‥とだけ言わせてもらおう。
そして5階層がこのダンジョンの最下層となるらしく、ボス部屋のエルダーリオックという巨大なコオロギを焼きつくしてコアルームを開けたところ、ダンジョンマスターと思われる青年が腰を抜かしてアンジェラを見上げていた。
「ななな、何なんだお前は!あのエルダーリオックはBランクのモンスターだぞ!?それを容易く焼き尽くすなんて‥‥」
狼狽えるだけで何もしてこない青年に落胆しながら、ここに来た用件を伝えた。
「お主はここで‥‥いや、アレクシス王国で何をしてるのじゃ?‥‥返答次第では捕らえなければならぬが」
「な、何って、そんなの決まってる。プラーガ帝国の奴に依頼されたんだよ、アレクシス王国を混乱に陥れて国力を低下させろってな」
フムフム、プラーガ帝国か。
どうやら敵は国内だけではなかったようだの。
「つまり今回の御家騒動はお主が黒幕という事でよいかの?」
「そうだなぁ‥‥まぁ黒幕っちゃあ黒幕かもなぁ。この国の第三王子だっけ?ソイツを暗殺する計画があったからそれに便乗して毒を盛ってやったんだよ。俺にとっちゃあ毒を持ち込むなんざ朝飯前なんでな。でもよ、あの公爵さんは自分の部下が上手く暗殺したと思い込んでるぜ?」
成る程な、何らかの方法で満持紀子とボーアロッカの企みを知って、便乗したと言う事のようだの。
その方法は恐らく、クロコゲ虫を使っての情報収集じゃな。
しかし随分とペラペラ喋るのぅ。
この状況から逃げ出す算段が有るって事かの?
だが喋ってくれるなら有り難いわい。
「あの公爵というのはボーアロッカ公爵で間違いないか?」
「おう、それそれ。付人の女と色々話してるのを聞いちまってな、こっそり協力してやったっつー訳よ」
付人の女というのは満持紀子の事じゃな。
コヤツの思惑通り、ボーアロッカと満持紀子はアレクシス王国を混乱に陥れてるといったところか。
「よく分かった。お主を連行する」
「‥‥しゃーない。大人しく付いて‥‥行かねーよ、バーカ♪」
青年は奇妙な宝石を砕くと、その場から消え去った。
王都から少し離れた平原のど真ん中に光が集まり、青年が姿を現した。
「さーてと、見つかっちまった事だし、大人しくトンズラするとしますかね♪っと」
青年は一瞬の内に王都から離れた場所に瞬間移動したのである。
アンジェラとの会話中に砕いま宝石は転移石と言い、半径3キロ以内なら何処でも転移出来るアイテムだ。
ただし砕いて使用するため、1度使うとそれっきりなのだが。
「あの女の強さにぁビビったけど、頭は悪くて助かったぜ!」
この青年はアンジェラが侵入してきたのには気付いてはいたのだが、アンジェラが強すぎたためどんな罠を使用しても効果が無いという糞ゲー状態だったので、最初から逃亡する準備をしていたのであった。
その証拠に青年の手にはしっかりとダンジョンコアが握られている。
「任務は失敗だが一応の成果は出た事だし、お咎めは無いだろう」
プラーガ帝国に咎められる事はないだろうが、アレクシス王国にとっては別だ。
青年が無事にプラーガ帝国に逃亡出来なければ意味はない。
「ま、暫くは逃亡生活だな。こんな哀れな俺に救いはないものかねぇ」
「ふむ、救済してほしいのか?」
「そりゃそうさ、なんせ急拵えだったから路銀が心許なくてなぁ」
「それは難儀だのぅ。妾が旅をした時はアイテムボックスとやらを持っておる仲間がいたからの、特に苦労する事はなかったがの」
「アイテムボックス持ちかよ、そりゃ羨ましい限りだぜ、パーティに1人はほしい人材だからなぁ」
「ふむ、やはりそういうものか。まぁ妾としては美味い飯にありつければ良いのだがの」
「ああ、アイテムボックスの中は時間が経過しないんだったっけな。干し肉や堅パンだけじゃ旅はキツイよな。出来れば俺も‥‥ん?」
「?‥‥どうしたのじゃ?」
「えーと‥‥あれあれ?‥‥俺って確か転移して来たよな?」
「そうだの」
「一瞬の内に約3キロ程離れた場所に来た筈だよな?」
「そのようだの」
「つまり俺はお前から逃げれたって事になるよな?」
「そいつはどうかの」
「‥‥なんで?」
「妾には固有スキルに探知波動というのが有ってな、1度覚えた対象なら何処へ行こうと探知出来るのじゃよ」
「つまり‥‥どういう事だってばよ?」
「つまり‥‥こういう事じゃな」
アンジェラはいつの間にか用意したロープを青年に対して乱雑に巻き付けると、そのまま走り出した。
「ちょ、待っ‥イデッ!‥‥お願いだから待って!」
青年の言葉に耳を傾けずに走り出したため、直後に頭を地面にぶつけた。
だがそんな事は気にせずにアンジェラは走り続ける。
「待つ訳なかろう」
「だから‥ゴフッ!‥ちょっと‥ゴヘッ!‥待っ‥ブゴッ!」
アンジェラが更にスピードを上げて走り出したため、連行されている青年は顔のアチコチを地面にぶつけていた。
そして城壁を遥か上空から飛び越えてスラム地区のダンジョン入口があった家屋に着地した。
尚、青年は着地の際に顔面を思いっきり強打したため、そのまま気絶した模様。
「おう、早かったな。お前さんがダンジョンから飛び出して来た時は何事かと思ったが、ダンジョンマスターが転移しやがったんだってな」
ダンジョンマスターの青年が外に転移した事をアンジェラからの念話で聞いたセレンは、そのままヘルリザードに伝えたようだ。
「それでもこうして連れて来たがな」
頭部のアチコチを辛子明太子のように腫れ上がらせた青年がヘルリザードの足下に転がされた。
「うわっ、さすがに汚い所に住んでるだけあって、汚ぇ顔してやがんなぁ‥‥」
「まるで~、ゴミのようです~♪」
口々に辛口判定を受ける青年だが、アンジェラが特に何も言わなかったので、この青年は元から汚い顔だったという事にされてしまった。
「この青年がヨゼモナールを暗殺したと自白したぞ。」
「マジかよ!?つーかコイツはボーアロッカ公爵とグルなのか?」
「妾も最初はそう思ってたのだが違うようだったの。でも協力した事にはかわりないがの」
「そうか。ならコイツ連れ帰って尋問するとしようか‥‥おい、起きろ!」
ついさっき気絶した青年は、まだ絶賛気絶中であった。
ヘルリザードがペチペチと顔を叩くが、効果が無いように見える。
「こういう時は~、コレを使うと~、いいんですよ~♪」
そう言ってセレンが手にしたのは、ホークから薦められた、日本人なら誰でも知っている薬味であった。
「なんだソレ?」
「これはですね~、傷口に塗ると~、良く効くんですよ~♪」
「セレン、お主はまた何という物を‥‥」
ヘルリザードは知らないようなので、セレンは事実を歪曲して伝えた。
その様子を見たアンジェラは、やや引きぎみになった。
「それでは~、ご賞味下さい~♪」
「アンギャアアアアアァァァァァ!!!」
この日、スラム地区に魔物が侵入したという騒ぎが起こったのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ん?‥‥何か叫び声が聴こえたような気がしたけど‥‥気のせいか」
「私は何も聴こえなかったわよ?‥‥って、そんな事はどうでもいいじゃない。それよりアイリちゃん、今は私の話を聞いてちょうだい!」
「そんな大声上げなくても聞いてますよ?」
という事で、私は今トレムの街に来てるんだけど、ご覧の通り冒険者ギルドの受付嬢をやってるウシールさんに捕まってしまったのよ。
「‥‥と思うのよ‥‥って、アイリちゃん聞いてるの!?」
「はいはい、聞いてますよ~」
「そしたらね、そいつらったら、ウシさんの割には胸が貧相だなぁw‥‥とか言うのよ!許せないわよ!ね、そうでしょ!?」
「ソウデスネ(棒)」
いや‥‥もうね、ただ荷台を返しに来ただけなのになんでこんな事になったかと言うと、ウシールさんもチラッと言ってたけど、ウシールさんの胸をバカにした冒険者がいたのよ。
それでその愚痴を聞いてあげてるって訳。
私としても早く帰りたいんだけど、中々ウシールさんが放してくれなくてね‥‥。
「もういいじゃないですか、アイツらにはキチンと天誅を食らわせてやったんですから」
「そう、それそれ!あれは見ててスカッとしたわ!アイツらはいい気味よ♪」
私が冒険者ギルドに来た時は、まだ発端となった冒険者達が居たんだけど、ウシールさんと冒険者達が取っ組み合いをしてたのよね。
それで訳を聞いたら冒険者達のセクハラ発言が原因だったから注意してやったの。
そしたら今度は私にも飛び火して、貧乳仲間は大人しく傷を舐め合ってろって言われてカチンときちゃって、思わず病院送りに‥‥いや、治療院送りにしてやったわ!
『お姉様、ボーアロッカが部隊を指揮してダンジョンにやって来ましたよ』
お?案外早かったわね、もう少しかかるかと思ってたけど。
ウシールさんには悪いけど、そろそろ解放してもらおう。
『分かった、すぐ戻るわ』
「すみませんウシールさん、そろそろ戻らないといけないので、帰らせていただきますね」
「え?もう帰っちゃうの!?」
そりゃ遊びに来てる訳じゃないですからね。
というかウシールさんはまだ仕事中だと思うんだけど‥‥。
「まぁ時間があったらまた来ますから」
「そう?じゃあまた遊びに来てね!」
いや、だから遊びに来てるんじゃないんですってば!
って、なんか妙に疲れたけど急いで戻ろう。
ボーアロッカを捕まえれば、バニラ達を城に帰しても安全だろうしね。




