仮ダンジョン
仮のダンジョンを作る事にした私は、宿屋で1泊してからバニラ達を救出した場所に転移した。
急いでる割にはのんびりしてるように見えるかもしれないけど、夜更かしは肌に悪いから仕方ないのよ。
で、ここから近くにダンジョンとして不自然じゃない場所を探さなきゃならない。
人目につく場所に有ったら不自然だから、茂みや岩影を見つけたいわね。
「お姉様、この辺りは見通しの良い平原ですので、あっちの奥の方が宜しいかと思います」
アイカの示した方向には、木々が生い茂っている場所が遠くに見える。
目立たない場所に有れば前から存在したと誤認してくれる可能性が高くなるので、仮ダンジョンを作る条件としては良さそうね。
「うん、ここなら場所的には良さそうね」
近くで見ても分かりにくい場所に入口を設置し、中に入ってダンジョンを構築する。
とりあえず3階層くらいでいいかな?
「して、主よ、ここのダンジョンのダンジョンマスターはどうするつもりじゃ?」
「それなら私がここに居るって設定にしとくわ。ボーアロッカの私兵には姿を見せちゃったからね」
「でもお姉様、そうなるとわたくし達も居ないといけないのでは?」
あ~確かに。
私達4人はあの時全員姿を見せてたわね。
でも月明かりだけの状態だったし、そこまで細かく設定しなくてもいいと思う。
「ま、大丈夫でしょ。ここは私が作っとくから、アンジェラ達はヘルリザードに報告してくれる?」
「うん?妾とセレンで向かうのか?」
「そうよ、アイカにはちょっと話が有るから」
もしかしたらちょっとどころじゃないかもしれないけどね。
「ふむ‥‥まぁ主の命令ならそうしようかの。ではセレン、行くぞ」
「は~い♪」
さて、こっちは適当にモンスターと罠を設置しておきましょう。
そして最後にコアルームを作って完成!
この間なんと30分程度。
さてさて、仮ダンジョンが出来上がった事だし、アイカに大事な話をしようと思う。
「それではアイカ、私達は大事な話をしたいと思います」
「あのぅ‥‥お姉様?‥‥口調が随分変わってしまってるようですが‥‥」
私の口調が変わってる理由、それは真面目に話そうと思った結果よ。
‥‥って、冗談はこのくらいにして、いつもの調子に戻そう。
特に理由は無いし。
「‥‥コホン。で、真面目に話すけど、昨日と今朝に宿屋の女将さんから言われた事があるのよ。‥‥何だと思う?」
言われた事は当然アイカに関する事。
言ってきた女将さんも、見るに見かねてって事だったみたい。
「わたくし達が少女だから不用心だとか言われましたか?」
うん、普通ならそういった事を言われそうよね。
でも残念、今回は全然違う事を言われちゃいました。
それはもう女性なら気になるだろうし、あの宿屋の女将さんが良い人だったから親切に言ってくれたのよ。
「正解は、【貴女の妹さん? ‥‥あの子は昨日も何か食べながら歩いてたけど、食べ過ぎとか大丈夫なの? 健康に悪いだろうから注意した方がいいわよ?】って、言われたのよ。この話を聞いてアイカはどう思う?」
「余計なお世話ですね。だいたい自分の身体は自分が一番よく知ってますので」
言ってる事が完全にアルコール中毒のオッサンの台詞じゃないの‥‥。
いや、まぁ‥‥アイカの場合はアイカ自身が一番よく分かってるというのは正しいけども。
「そうね、アイカは食べ過ぎても肥らないからね。でもね、普通は食べ過ぎると肥るし健康にも悪いのよ。だからアイカ、今後は人目につく所でお菓子を食べるのは禁止だから」
「へ?」
へ‥‥って、気の抜けた返事を‥‥。
「あの、お姉様?‥‥今、大変ショッキングな事を言われたような気がしたのですが?」
どうやらアイカは現実逃避をしてるようだ。
けどここで甘やかすと今後はもっと大変になる可能性があるし、ここは1つビシッ!と言わないとね。
「気のせいじゃないから。今後は人目につく所でのお菓子の食べ歩きはダメよ。勿論座って食べるのもダメだからね?」
「そ、そんな‥‥。いや、分かりました。ここは素直に従います」
んん?‥‥随分と素直に了承したわね?
‥‥これは何か抜け道を見つけたわね?
だったらその抜け道をぶち壊す!
「一応付け加えておくけど、お菓子以外も禁止だからね?」
「そ、そんな殺生な!」
‥‥やっぱりか。
お菓子を禁止されたから、たこ焼きとかを食べるつもりだったのね。
「希望が‥‥失われていく‥‥」
そんな安っぽい希望より、もっと大きな希望を持ちなさいよ‥‥。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
アイリの仮ダンジョンが完成したのと時を同じくして、ボーアロッカの元にもバーミレニラ王女を拐ったと思われるダンジョンマスターの居場所を突き止めたと言う報告がなされた。
「ほほう‥‥そのような場所にダンジョンが有るとはな」
例の如く、ボーアロッカは指につけた魔道具を使用して内政官であるキャメルと通話をしていた。
アンジェラ達がヘルリザードの邸で仮ダンジョンの場所を伝えると、今度はヘルリザードからキャメルへと伝えられ、最終的にキャメルからボーアロッカへと伝わったのである。
「分かった。今回は急を要する事なのでな、すまないがキャメル、この事は他の者達には伏せておいてほしい」
『畏まりました。しかしボーアロッカ様、私の契約上この事は王族には伝えないといけませんのでご了承下さい』
「むぅ‥‥無用な心配を招きたくなかったのだが仕方ないか‥‥」
顎髭を弄りながら述べたが、実際は国王達に知られたくないだけである。
ダンジョンで王女を発見したら殺すつもりだなど口が裂けても言えない。
「では私は急がねばならんのでな、これで失礼する」
『はい、失礼致します』
「‥‥さすがはダンジョンマスターといったところか。これ程早く見つけ出すのは嬉しい誤算だったな。儂が王位に就いた暁には、もっと有効に使役する事にしよう」
通話を終え、自室のソファーから立ち上がると、側で待機していた騎士にこれからダンジョン攻略を行う事を告げ、兵の編成を急がせた。
「もう間もなく編成は完了致します。ボーアロッカ様が現場へ到着する頃にはすでに完了してると思われます」
「よしよし、順調なのは良い事だ。だが今回は最重要事項だ、故に全力でダンジョンに当たる事になるが、あの傭兵団も召集してるのか?」
あの傭兵団というフレーズの部分でボーアロッカはやや不快な顔をしたが、すぐにいつも通りの顔つきに戻った。
「はい、あの傭兵団にも伝えてあるますので、こちらも間もなくだと思われます」
「ならいい。あんな連中でも腕は確かだからな。それに捕まえた王女達は好きにしろと言えば更にやる気が出るだろう。最終的に殺してくれればいいのだからな。その辺の細かいところはお前達に任せる」
「ハッ」
話が終わると、ボーアロッカと騎士の2人は部屋を後にした。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「そんなに居るのかよ‥‥」
今、声を発したのはヘンリー伯爵‥改めヘルリザードである。
アイリの仮ダンジョン設置が完了したと伝えにヘルリザードの元へ訪れた後、街中を這いずり廻っているクロコゲ虫の主人であるダンジョンマスターを捜索してるのだ。
そしてその捜索中に発見したクロコゲ虫は100を越えていた。
「クロコゲ虫は1匹見つけたら10匹は居るらしいぞ?繁殖力も強いしな」
現在アイカの代わりにクロコゲ虫を見つけてるのはアンジェラだ。
アンジェラは1度覚えた対象物なら、探知波動を使用する事で見つける事が可能だ。
「こっちの方からクロコゲ虫との繋がりを感じるのぅ」
「こっちって事は‥‥スラムの方か?」
「そのようですな。ヘルリ‥‥コホン、ヘンリー伯爵様、スラム地区に窃盗犯が逃げ込んだという理由で封鎖してはいかがでしょう?」
城の周囲は国軍が居るのだが、スラム地区は放置されてる状態なので元々治安の悪い場所が更に悪くなっいた。
今はヘルリザードが私兵を引き連れているため、アンジェラ達に絡んでくる輩はいないが。
「よし、アーヴィンの作戦で行くか。スラム地区を一時的に封鎖し、1人も同地区から出すなよ!」
「「「ハッ!」」」
アーヴィンを含む私兵達はスラム地区の封鎖に取りかかった。
「うむ。助かるぞ、ヘンリー伯爵殿」
「‥‥なんか言い方が上から目線な気がするんだが気のせいか?」
「気のせいであろう。それよりもこっちだ、付いて参れ」
「ん?‥‥お、おう‥‥」
アンジェラの後に付いて奥へと進んでいく一行。
途中にある民家から不安そうに顔を覗かせる者達の視線を背中に受けながら、ひたすら奥へ奥へと進んでいくと、やがて1軒のボロボロの家屋の前でアンジェラは足を止めた。
「どうやらこの中のようだ」
「この家に例のダンジョンマスターが居るってのか?」
ダンジョンマスターと眷族は魔力による繋がりがある。
例のダンジョンマスターは、クロコゲ虫の何匹かを眷族にしてるようで、眷族のクロコゲ虫とその主人であるダンジョンマスターとの繋がりを感知出来れば、そのダンマスを探す事も可能なのだ。
「ま、入ってみれば分かる。先にいく「あ~待て待て、この家屋を取り囲むからよ」
そう言ってヘルリザードはアーヴィン達を呼び寄せた。
「よーし、この家屋は取り囲んだから中に入るぞ‥‥うわっ!きったねーなここぁ!」
中は瓦礫やゴミが散乱しており、とても人が住めるような場所ではなかった。
もし現代人がこれを見たら、ゴミ屋敷という単語が出てくるだろう。
「まさかこの世界にもゴミ屋敷が存在するとは思わなかったのぅ。セレンよ、服が汚れるから気をつけるのじゃぞ?」
「はい~♪‥‥それにしても~、ここに済む人の~、心が~、理解できませんね~」
とはいえ、特に理解する必要はない。
ゴミ屋敷には、ゴミ屋敷が好きだという奴が住み着くのだ。
そして中の捜索を始めてから数分もしない内に、奥からヘルリザードの声が聴こえてきた。
「おーい、こっち来てくれ!」
ヘルリザードに呼ばれて奥へ行くと、そこには予想通りの物が存在した。
「間違いなくダンジョンの入口だの」
そこには地下に向かってポッカリと空いた穴が存在した。
「そうだ。だがどのくらいの広さなのか見当もつかん」
いったいいつから存在するのか分からない、謎のダンジョン入口。
だがここまで来て引き返すという選択肢はない。
「なーに、妾が軽く攻略してくれるわ」
「おいおい、お前さん1人で攻略するつもりか?」
勿論アンジェラは1人で攻略するうもりでいた。
というより、アンジェラなら1人の方が圧倒的に速いと思うので問題はないと言える。
「任せておけ。久々に運動するとしようかの」
アンジェラのハイスピード攻略が始まろうとしていた。




