ヘンリー伯爵の正体
アーヴィンの正体を看破したら動揺して大人しくなった。
コイツをダンジョンに連れてってから尋問しようと思ったけど、そうなるとここから居なくなったと気付かれた時が面倒だから、このまま尋問する事にした。
「アンタは誰の指示で動いてるの?」
「決まっている。俺はヘルリザード様のご命令に従い、王都の警備を行っているのだ」
‥‥え?‥‥警備って‥‥なんで?
ダンジョンモンスターが街中を警備してるとかどうなってんのよ王都は‥‥。
しかもダンジョンマスターの指示よ?
アーヴィンが従ってるって事は、ヘルリザードって多分ダンジョンマスターだと思うし。
「そのヘルリザードってのはダンジョンマスターだと思うけど、どこにいるの?」
「‥‥な、何故ヘルリザード様がダンジョンマスターだと知っているのだ!?」
はい?‥‥私って何もおかしな事は言ってないわよね?
眷族に指示出来るのはダンジョンマスターしかいないんだし。
「‥‥もう1度聞くけど、アンタはダンジョンモンスターでヘルリザードって奴の指示で動いてるんでしょ?」
「そうだと言っている」
「ならアンタに命令してるヘルリザードは、ダンジョンマスターって事になるわよね?」
「‥‥き、き、き‥‥」
「き?」
「き~さ~ま~!」
な、なんか急に怒り出した!?
「この俺を誘導尋問にかけるとは卑怯な!」
誘導‥‥した事になるんだろうか?
普通に聞いてただけよね?
コイツちゃんと脳ミソ詰まって‥‥そういえばコイツの中身は空っぽだったわ‥‥。
「‥‥それで、ヘルリザードの居場所はどこなの?」
「言う訳があるか!我が主人を売り渡したりはせんぞ!?」
中々の忠誠心じゃない。
さすがに眷族だけの事はあるわね。
でもそんなに強情なら私にも考えがあるわ。
「言わなきゃアンタの正体をここの使用人達にバラすわよ!?」
「フッ、無駄な事だ。ここの使用人達は、我々の正体を知っているのだからな!」
‥‥マジで?
メイドとか執事とか皆さんご存知な訳!?
「嘘でしょ!?アンタみたいに脳ミソ詰まってない奴見て何とも思わないの!?」
「思わないのではないか?それに脳ミソが詰まってたらグロいから、空っぽで良かったと言われたな」
‥‥確かに。
中を覗いたら脳ミソが露出してるとか想像したくないかも。
ドタドタドタドタ!
「ん?‥‥この足音は‥‥」
「クックックッ、もう遅いぞ。我が主人が手下を引き連れて、すぐそこまで来ているのだからな!」
あ~、そういえばそうだったわね。
アイカの援護があれば強引に強行突破出来るだろうし、その主人とやらに会ってみよう。
『アイカ、もし危険だと判断したら強行突破するから、コイツの主人に話を聞いてみるわ』
『了解です』
さてさて、コイツのご主人様はどんな姿をしてるのか‥‥。
バタンッ!
「まさかこの邸に族の侵入を許すとはな‥‥で、お前が愚かな侵入者って事でいいか?」
先頭に立っていた少々強面の中年男性が、恐らくアーヴィンのご主人とやら‥‥つまり、ダンジョンマスターらしい。
名前:ヘルリザード 種族:アンデッド
レベル:58 職業:ダンマス
HP:760 MP:420
力:942 体力:578
知力:515 精神:345
敏速:748 運:20
うん、ダンジョンマスターで間違いなかったわ。
でもダンマスって事よりも、このヘルリザード自信がアンデッドだっていうのが気になるところよね。
答えてくれるならその辺も聞いてみよう。
「アンタはアンデッドよね?なんでアーヴィンに街中の警備をさせてる訳?」
「む?‥‥貴様、そんな事まで知ってるのか‥‥」
そう言ってアーヴィンの方を見るヘルリザードの顔には、お前が喋ったのかって書いてあった。
アンデッドという事実は鑑定スキルで見たからだけど、警備に関してはアーヴィンが喋ったから合ってるんだけどね。
「ち、違います、ヘルリザード様!コイツの卑怯な誘導尋問に掛かってしまい、知らず知らずの内に‥‥」
「いや、アンタ、警備うんぬんは普通に聞いたら喋ったでしょ‥‥」
「だぁぁぁ!うるさいうるさい!お前が悪いったらお前が悪い!」
だだっ子じゃないんだからジタバタしないでよ、面倒臭い‥‥。
「はぁ‥‥成る程。よく分かった」
なんかヘルリザードが溜め息ついてるんだけど、いつもこんな感じなんだろうか?
「おお、お分かりいただけましたか!」
「お前が口を滑らせたという事がな!」
ゴツン!
あ、アーヴィンが肘鉄食らったみたい。
でもアンデッドだから痛みを感じないんじゃ‥‥、
「痛い!何をするのでありますか!?」
どうやら痛覚は有るらしい。
「お前が学習しないからだ!どうせ誘導尋問つったって、お前からペラペラと喋り出したんだろ!?」
「そんな!?そもそもコイツが喋らなければ我々の正体をバラすと言って‥‥」
「だ~か~ら!それで話したら意味ないってんだよ!お前は脳ミソ詰まってんのか!?」
「失礼な!脳ミソが詰まってたらグロいと仰ってたじゃありませんか!」
「‥‥おぅ、そうだったな」
どうしようコレ‥‥。
もしかして、私がコイツらを止めないといけないんだろうか‥‥。
仕方ないから私が止めようと思ったんだけど、私よりも早く止めに入った者が現れた。
「ハイハイ、そこまでにして!」
手をパンパンと叩いて入って来た人物、本日2度目の顔合わせになるキャメルさんだった。
何故ここに?‥‥って聞くのは愚問ね。
少なくともキャメルさんとヘルリザードは面識が有るって事になるから、ヘルリザードは騒動とは無関係って事よ。
「む?‥‥なんだキャメルか。何しに来たんだ?」
「何しにって‥‥この状況をどうにかしようと思ったけど‥‥邪魔だった?」
キャメルさんが来た事で、このヘルリザードって奴は今回の騒動とは無関係だって分かったから有り難いんだけど、出来れば最初に教えてほしかったわ‥‥。
「この状況って‥‥ああ!すっかり忘れてたぜ!おい、お前は何が目的でここに侵入しやがった!?」
今頃思い出したの‥‥。
何だかアーヴィンの思考って、ヘルリザードの思考が元になってるんじゃないかと思えてしまうんだけど。
「それは街中にリビングアーマーがうようよしてるからよ。街中にダンジョンモンスターが居る事事態がおかしいじゃない?」
「‥‥うん‥‥まぁ、そう言われると反論のしようがないんだけどな‥‥。けどよ、俺はアンデッドとしてダンジョンマスターになっちまったからしょうがないんだよ。元々周囲の国々に敵対しようなんざ思ってなかったしな」
あれ?‥‥何だか随分トーンダウンしたみたいね?
どういう心境の変化だろう‥‥。
「それからついさっき思い出したけど、お前は天前愛漓だろ?まさかこんな形で会う事になるとは思わなかったけどな」
ん?‥‥キャメルさんに続いてヘルリザードまで私を知ってるって事は‥‥。
「ダンジョン通信でやり取りした事って有りましたっけ?」
「‥‥やっぱ忘れたのかよ。‥‥まぁ顔を忘れてた俺も他人の事言えないが。まぁとりあえず自己紹介しとく。ダンジョンマスターのヘルリザードだ。この国の治安維持と死刑執行人を請け負ってる。表の顔はヘンリー伯爵な」
やっぱりそうだった。
こんなに簡単に見知ったダンジョンマスターに会うなんて、世の中って狭いわ‥‥。
「ダンジョンマスターの天前愛漓よ。アイリでいいわ。表では一応冒険者をやってるわよ」
って、そんな事より!
「キャメルさん!ヘルリザードの事、教えてくれてもよかったじゃないですか!」
「そうだぜキャメル!おかげで変な誤解を受けただろうが!」
「ハイハイ、ごめんなさいね。でもね、これは必要な事だったのよ?」
必要な事?
どういう事なんだろ。
「だってアイリ、貴女がアレクシス王国に対してどういう姿勢をとるのか見定める必要があったからね。当然ヘルリザードの事も言う訳にはいかなかったし。だから暫く遠くから様子を見させてもらってたのよ」
「「成る程」」
ヘルリザードとハモってしまった。
「それで、キャメルさんから見た私はどうでした?」
まさか見られてたとは思わなかったけど、逆に言えば私達が街中でアンデッドを発見して、その主人を探しだそうとしてたところは見てくれてたって事よね。
「貴女は今回の御家騒動の裏で動いてる奴を探してて、ソイツらを捕らえたいと考えてる。つまり、アレクシス王国にとって有益と判断します」
キャメルさんからキャリアウーマンっぽさが出てる。
って、それより有益と判断されたって事は、とりあえず信用してもらえたって事でいいのよね?
「ありがとうキャメルさん。ところでどうやって私達を見てたんです?全然気付かなかったんですが」
「ああ、それね。街中の至るところに魔道具を設置してるのよ。それを通してアイリ達の行動を把握してたわ」
監視カメラみたいな物かな?
だとしたら、著しくプライベートが侵害されてるんだけど、この世界にはプライバシーを保護する法律は無さそうね。
『アイカ、街中にある魔道具の存在には気が付いた?』
『申し訳ありませんお姉様。気が付いてはいましたが、それらが我々を監視してるとは思わなかったので放置してました。キャメル様の話を聞いた時、てっきりクロコゲ虫で監視してるのかと思ったのですが』
そういう事ね。
まぁドローンで看破出来ない物だったら手に終えなかったけど、それなら安心だわ。
後は同じく街中にいたクロコゲ虫の役割なんだけど。
「じゃあクロコゲ虫は何のために街中に居るんですか?」
「ク、クロコゲ虫って‥‥ちょ、ちょっと止めてよ、鳥肌立ってきたじゃない」
キャメルさんは虫が苦手らしい。
って事は、クロコゲ虫はキャメルさんとは関係ないと。
「じゃあヘルリザードがクロコゲ虫を操ってるの?」
「は?‥‥何言ってんだお前。俺がクロコゲ虫なんか使ったりするかよ」
ヘルリザードも違うの?
なら別のダンジョンマスターって事になるんだけど‥‥。
「ねぇアイリ、なんでそんなにクロコゲ虫にこだわるの?出来れば話題に上げたくないんだけど」
「いやいや、私もこだわってる訳じゃないんですよ?ダンジョンモンスターとしてのクロコゲ虫が街中に居るのが気になるだけで」
「「え?」」
え?‥‥って、なんで2人して顔を見合わせてるの?
てっきりクロコゲ虫を使役してるダンジョンマスターを知ってるとおもったんだけど。
「アイリ、もしかしたら私達の知らないダンジョンマスターが関わってるのかもしれないわ」
キャメルさんやヘルリザードが知らないダンジョンマスターって事ね。
私はアレクシス王国に詳しくないから、2人が知らないなら当然私だって知らない。
もし強者の眷族を刺客としてヨゼモナール第三王子の元に送りつけた奴が居るのなら、アレクシス王国に敵対的なダンマスか、他国に従ってるダンマスが関わってる‥‥なら、
「1つ教えてほしいんですけど、お2人以外にアレクシス王国で働いてるダンマスはいないんですか?」
「居るには居るが、そいつはクロコゲ虫を街中に放ったりしないな。アイツって確か潔癖症だったし」
また私の知らないダンマスが出てきた。
いい機会だからこの国で働いてるダンマスを全て聞き出してやろう。
「アイツって誰の事?」
「ファインって奴なんだが、こいつはダンジョン通信を殆ど利用してないから、アイリは知らないだろ?」
「そうね。初めて聞く名前だわ」
まだ顔を見てないけど、潔癖症のファインって覚えとこう。
「現状この国の中枢に居るのは、私とヘルリザードとファインの3人だけよ。それ以外は居ないって断言するわ」
その3人ともクロコゲ虫を使役してないなら、少なくとももう1人ダンマスが居る事になる。
「しかし、よくクロコゲ虫がダンジョンモンスターだと分かったな」
これはアイカがダンジョンコアだからね。
けどこの事実はまだ他人には秘密にしておきたいから、この2人にも話せないわね。
「私の相棒がちょっと特殊なのよ。だからダンジョンモンスターだと気付いたって訳」
「成る程ね、だからヘルリザードの事もすぐに嗅ぎ付けたって訳か」
その通りね。
実際アイカが居なかったらアーヴィンの正体が分からないままだっただろうし。
それ以前にダミーコアとはいえ、ダンジョンコアがダンジョンから出歩いてるのって、アイカくらいだと思うのよね。
「ところでアイリ殿、1つ気になったのだが、貴殿はどのようにしてこの邸に潜入したのだ?我が主人の邸は警備も厳重の筈なのだが」
なんか最初と違って殿呼ばわりするアーヴィンに違和感が半端ないんだけど、突っ込んだら可哀想だから言わないでおこう。
「それは私の相棒のサポートのおかげよ。アイカ、特殊迷彩解いて」
『了解です』
アイカがドローンの特殊迷彩を解除すると、アイリの頭上にドローンが現れた。
そのドローンを見たアーヴィン達は、開いた口が塞がらないとばかりに口をあんぐりと開け、言葉を失っている。
ちなみにアーヴィンの場合は空っぽの中身が見えていた。
「‥‥あの‥‥大丈夫ですか?」
「‥‥ハ!?‥‥今、何もない空中に突然現れた気がするんだけど‥‥」
あまりにも唖然とてる時間が長いから目を開けたまま気絶してるんじゃないかと思ったけど、どうやら大丈夫みたいだ。
「はい、殆どの人には見破る事は出来ないと思います。勇者とかなら看破出来るかもしれませんけど」
「こいつぁ凄ぇな!全然気付かなかったぜ!」
元はアイカが召喚した物なんだけどね。
私がディスパイルと遊びに出かけた時にドローンでこっそり覗いてたのよ。
その時の私も全然気付かなかったんだから、大抵の人達には見破るのは不可能だわ。
「コレの凄いところは、さっきのように隠れながら鑑定する事が出来るところなんです。しかも周囲の生命体の反応も感知出来るので、この邸に潜入するのは余裕でしたよ」
「な、成る程。だから誰にも気付かれずにここまで来れたのですな」
まさにドローン様様って感じよね。
「成る程、アイリは私が思ってる以上に凄い存在なのね。さすがに期待のルーキーと言われてる事はあるわね」
期待のルーキーってダンジョンマスター達の間で言われてる私だけど、私自信はまだまだ未熟だと思うのよね。
持ち上げられるのは悪くない気分ではあるけども。
「まぁ、アイリの事は分かった。それより早いとこクロコゲ虫を操ってる奴を探し出そうぜ」
そうだった、ドローンを自慢してるところじゃなかったわ。
早くもう1人のダンジョンマスターを探し出さなきゃね。




