内政官
某国を口に出したためにピンチを招いたアイリだったが、そのピンチを救ってくれたのはアイリと同じダンジョンマスターのキャメルであった。
アイリとキャメルはダンジョン通信を通して知り合い、アレクシス王国内の情報を何度かやり取りした事があったのだ。
だが、接した回数は少なかったためアイリの中ではあまり印象に残らない程であったが、一方のキャメルの方はアイリの事を覚えていた。
礼を言った後にお互い自己紹介を済ませると、さっそくキャメルはアイリから質問の嵐を受ける羽目になる。
「キャメルさんはよく覚えてましまね!記憶力良かったりします?あ、そういえばキャメルさんは何故あの場に?それに兵士達がキャメルさんに頭を下げてましたけど、キャメルさんて偉い人だったり?」
「はいはい、質問にはキチンと答えるから、一遍に言わないの」
おっと、ついつい矢継ぎ早に質問しちゃったわ。
落ち着け私、冷静に冷静に。
「まず、どうしてあの場所に来たのかって事なんだけど、勿論偶然なんかじゃないわよ?」
でしょうね。
詰所に来るなり私達を連れ出すって事は、詰所そのものには用はないって言ってるようなものだわ。
「つまり、わたくし達があの場に居るのを知ってたから来たのですね?」
「まーね。ダンジョン通信でレミエマから聞いたのよ。貴女達が今日ここに来るだろうってね。ちょっと来るのが遅くなって、詰所に連れて行かれた後だったけどね」
確かレミエマには昨日、状況報告をしたんだった。
だから知ってたって事ね。
「次にアレクシス王国内での私の立場なんだけど、内政官を勤めているのよ」
「「「「内政官?」」」」
「そ、内政官」
内政官とは、国内の国政を担っている立場の人物の事だ。
でもダンジョンマスターが内政官をやってるとか、私の中でダンマスのイメージが変わりそうなんですが‥‥。
「一応上の人達は私の正体を知ってるわよ?その上で雇ってくれてるし。ただ大多数の人達は知らないだろうから、人前ではダンジョンマスターの事は秘密ね?」
「分かりました」
キャメルさんの話によると、ダンジョンマスターが国と関わるケースはそれなりに有るらしい。
キャメルさんのケースだと、生活の保証をしてもらう見返りとしてダンジョンからアイテムの供給を行ってるのだとか。
噂の範囲だと、犯罪者を処刑する場所を提供してDPを得ている者もこの国に居るらしい。
この話を聞くと、ダンジョンマスターといっても千差万別なんだという事がよく分かるわ。
「それで私の立場‥‥というか、身分なんだけど、一般兵よりは上かな?‥隊長クラスと思ってくれればいいと思うわ」
そう言って、胸元に付いているエンブレムを指でさして見せてきた。
そこには、アレクシス王国の象徴である後光を射してる王冠が、存在感をアピールしていた。
「私は仕事に戻るけど、くれぐれも注意しなさいよ?‥ほら、あちこちに見回りの兵士が居るでしょ?」
「‥‥確かに」
今更だけど、街の中は閑散としていた。
その代わり、見回りの兵士達が2、3人くらいで固まって歩いてる姿が確認出来る。
「それじゃあね」
「はい、色々とありがとう御座います」
キャメルさんと別れた後、私達は冒険者ギルドに向かった。
理由は簡単、冒険者ギルドは国から独立した組織だから、怪しいから捕まえる‥‥なんて事はしない。
寧ろ他の冒険者からの情報が期待出来る。
予め冒険者ギルドの場所は調べてあったので、労せず見つける事が出来た。
「では妾が開けるぞ‥‥たの「静かに開けなさいよ?」‥‥(たのもー)」
アイリに注意されたアンジェラは、大声を出すのを止めて小声で呟いたため、悪目立ちする事はなかった。
というより‥‥、
「冒険者が少ないわね‥‥」
ピークタイムは過ぎてるだろうが、それにしては少なすぎた。
王都でなかったとしても、真っ昼間から酒と向き合ってる連中が何人かは居るのが当たり前なのだがその姿は無く、今は数人がテーブルを囲って話し合ってるのみだ。
だが気にしてる暇はないのでそのまま受付に向かう事にした。
「いらっしゃいませ、皆さんはここに来るのは初めてですよね?」
「はい、ラムシートの方から来たんですが、ここは初めてです」
一応ギルドカードを見せてみる。
そういえばEランクのままだった。
今度時間を作って昇格試験を受けないとね。
「本日はどの様なご用件でしょう?」
「今王都で起こってる事で何か情報がないかと思いまして。それに冒険者の数が少ないのも気になるんですが、何かあったんですか?」
「ああ、その事ね‥‥あまり大きな声では言えないんだけど‥‥」
聞くと、謀反を起こそうとしてる貴族が居るらしいって事で、現在城を包囲する形で国軍が配置されてるんだけど、誰が起こそうとしてるのかが分からず、情報が錯綜している。
だけど疑いがある以上城に詰めている貴族達を城外に出す事は出来ないので暫くは国軍による包囲はそのままだろうと言われてると。
必要な食糧は外からかき集めて国軍に当てている‥‥か。
そういえば複数の村から強引に集めてたわね。
「外でこんな事を兵士達に聞いたらダメよ? アイツらは怪しいと感じた奴は捕まえろって言われてるみたいだから」
「分かってますよ」
その点に関しては既に経験済みです。
存在自体が怪しい国の名前を出しただけで偉い目に合いましたので。
「あと、冒険者の数が少ないのは、実りの少ない依頼しか残ってないからね。というかギルドの方が依頼受付をしてないのよ」
「どうしてですか?」
「目立った行動を避けるためね。謀反を考えてる貴族と繋がってると疑われたくないしね」
話を聞いてると、冒険者ギルドも大変みたいね。
依頼が無いって事で、冒険者達は王都から離れていったから、厄介な魔物が発生したら手に終えない可能性もあるらしい。
その場合、国軍が協力してくれるかどうかは不明なんだとか。
最悪ギルマスが奮闘するらしいけど、無理しない程度に頑張ってほしい。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「それじゃここからはアイカの出番ね」
「お任せ下さい、お姉様」
私達は冒険者ギルドに併設されているの宿屋の部屋を借りた。
これ以上外で情報収集するのは難しいと判断したからだ。
そこで、困った時のドローンの登場よ。
このドローンが有れば会話も拾えるし、鑑定スキルや読心スキルもかけられるし、もうやりたい放題!
そりゃもう‥‥私達が要らないくらい‥‥。
真面目な話、最近思うのは、ドローンが有れば私達は要らないんじゃないかという気がするって事なんだけど、そんな事ないわよね?
「あの‥‥お姉様、さっきから誰に言ってるんですか?」
「ぅわあ!‥‥って、アイカ!私に向かって読心スキルを使わないでちょうだい!」
「いえ、キチンと発動するかテストをしてみたかったので。でも問題なく発動しましたので、アイカ号、出撃します!」
なんかドローンの名前が勝手に決められてるんだけど、正直どうでもいいので敢えて触れる事はしない。
飛び立ったドローンはアチコチから会話を拾い続けた。
中には思わず耳を傾け‥‥じゃなかった、耳を塞ぎたくなるような男女の事情も有ったりしたけどもね。
ちなみにそこへアイカが読心スキルをかけたら、男の方はただの金蔓だった事が判明し、アンジェラが腹を抱えて笑い転げるという一幕もあった。
真面目にやりなさいよアンタら‥‥。
「大丈夫ですよ、お姉様。こうしてる間にもキチンと情報は集められてるんですから」
なら良いんだけどね。
「む?‥‥この反応は‥‥」
「どうしたのアイカ?」
急に真面目な顔になったから具合でも悪いのかしら?
「‥‥不具合はありません。お姉様はわたくしを何だと思ってるんです?‥‥それよりもこの騎士です」
ドローンから送られてくる映像には、1人の騎士が映っていた。
見た感じは特におかしなところは見当たらないんだけど。
「この騎士はダンジョンモンスターです」
ふーん?ダンジョンモンスターね‥‥って、
「ちょ、どういう事!?何でダンジョンモンスターがこんなとこに‥‥」
ダンジョンモンスターとは、文字通りダンジョンに居るモンスターの事。
ただし、他のモンスターとは違い、ダンジョンマスターの管理下に置かれているモンスター達だ。
名前:リビングナイト 種族:???
眷族名:アーヴィン 職種:〇〇の眷族
鑑定結果にもリビングナイトって出たわ。
リビングナイトはリビングアーマーの上位種で、鎧の中は空っぽになってる魔物の事よ。
全身鎧だから、見た目だけでは魔物か人か判断出来ないようね。
「王都の中に魔物とはのぅ。キャメルは何も言っとらんし、少なくともキャメルとは関係ない別のダンジョンマスターが関わってるとみてよさそうだのぅ」
ややこしくなってきたわね。
今回の騒動に関わってる可能性があるから、このアーヴィンって奴を捕まえて尋問した方がよさそうね。
「アイカ、コイツが1人になったタイミングで捕獲するわよ」
「了解しました」
その後、アーヴィンの監視と情報収集を行った結果、アーヴィンはとある貴族に仕えてる事が判明。
また、アーヴィン以外にもダンジョンモンスターが居り、その多くはリビングアーマーだった。
リビングアーマー以外は黒こげ虫が少々といった感じだ。
それ以外の情報だと、南方のグロスエレム教国との小競り合いはおさまったとか、プラーガ帝国がミリオネック連合に進攻したとかの情報くらいしかなかった。
「でもお姉様、面白い情報もあったじゃないですか」
面白い情報?
そんなのあったっけ?
「ほら、王都一の劇場にいる人気女優は胸パットを使ってるって話ですよ」
「どうでもいい情報じゃない」
「胸パットがスライムだとしてもですか?」
‥‥それはちょっと気になるわ。
触り心地がいいのかしら?
「ひんやり~、してそうですから~、クールビズに~、最適ですね~♪」
そういえばすっかり夏になったし、今の時季なら丁度いいのかもね。
いや、欲しくはないけど。
「こちらが証拠です。鑑定スキルと読心スキルで発覚しました」
名前:アニー 種族:人間 性別:女
職種:女優 年齢:24
『今日も男共の視線を釘付けにしてしまったわ。あたしって罪なオ・ン・ナ‥‥フフ。でも今日はちょっとヒヤッとしたわ。共演者の男の腕が胸に当たってしまったんですもの。まさかバレてはいないと思うけど、胸パットがスライムだなんて知られたら大スキャンダルですものね、これからは気をつけないといけないわね』
黒歴史になるから、これ以上晒すのは止めて差し上げなさい。
「続いて腕が胸に当たった男の方です」
名前:ウェルス 種族:人間 性別:男
職種:俳優 年齢:33
『ウオォォォォォ!今日はラッキーだったぞぉぉぉぉぉ!バランスを崩したせいでアニーの胸に腕が当たっんだからな!あの【ポヨン】と弾いて【プルン】と揺れる動きは、まるで生きてるかのようだ。いや、俺の中であの感触は生き続けるのだ。素晴らしい‥‥素晴らしいぞアニー!』
スライムの感触は実に素晴らしいみたい。
抱き枕の代わりにするのもありかな?
「以上です」
以上ですって、こんな報告いらんでしょ。
ほら、もう夜になるしアーヴィンって奴を捕まえに行くわよ?
夜になり、アーヴィンを捕らえるためヘンリーという伯爵の邸宅にお邪魔する事にした。
ヘンリー伯爵は、アーヴィンを部下として扱ってるようなのよ。
まだヘンリー伯爵がアーヴィンの正体を知ってるのかどうかは不明だけどね。
「それにしても、私1人で潜入しなきゃならないなんてねぇ‥‥」
『仕方ありませんよお姉様、4人で行動したら絶対見つかっちゃいますから』
私は今、1人でヘンリー伯爵邸に潜入してるのよ。
アイカのサポート付きでね。
今現在、都合の良い事に、アーヴィンは1人で部屋に居るらしいので、そこへ向かってる最中って訳。
『お姉様、向かって右側の通路からメイドが来ます』
「了解‥‥シェマー」
何度かお世話になってるシェマーは今回も役に立ってくれたわ。
シェマーとは、他人から私の存在を認識出来なくする魔法よ。
その場から動いたら効果は消えるけど、動かなければ効果は永続する。
よし、メイドは通りすぎて行ったわね。
『お姉様、突き当たりを右折して下さい』
「了~解、右折ね」
『ちなみに左折するとトイレに行けますけど、どうします?』
「余計な‥‥『コホン‥余計な気を使わなくていいのよ!』
まったくもう、トイレ行きたかったら自分で勝手に行くっての!
あ、でも場所が分かんなかったもんね。
一応トイレの場所は覚えておくわ。
『目の前の十字路をそのまま直進すれば、アーヴィンの居る部屋に着きます』
このまま直進して‥‥よし、見えてきた。
無事見付からずにアーヴィンの居る部屋にたどり着いた。
今、アーヴィンは1人で居るから、素早く入って拘束‥‥いや、よく考えたら誰か来たら面倒ね、そのまま尋問してやりましょう。
尋問中に誰か来たら、アーヴィンの正体をバラしてもいいしね。
考えが纏まったところで、私は意を決して扉を開け中に入った。
「む?‥‥誰だ?」
「ちょっとお邪魔するわよ。リビングナイトさん?」
「んな!?‥‥何故それを!」
よし、動揺してるわ。
これなら上手くいきそうね。
「正体をバラされたくなかったら、正直に質問に答えてちょうだい‥‥いい?」
「‥‥むぅ、やむを得ぬ。俺が答えられる範囲で答えよう」
さて、コイツらは王都で何をやってるのか聞き出してやりましょうか。




