食糧難 if
コルノ村まで2日の距離だったんだけど、走ってたらその日の夕日に着いた。
よく思い出してみたら、ラムシートからトレムの街まで2日のところを1日で着いたんだから当たり前か。というかアイカったらまた勝手に便利アイテムを召喚してたのよ。
何を召喚したかというと、長距離を移動するのにもってこいの乗り物! その名も……
「お姉様、あの自転車という物はとても便利ですね。道中凄く楽チンでしたよ」
アイカってばいつの間にか自転車に乗る練習をしてたらしく、召喚早々シャーーーって走ってったわ。
ズルいわよね? 私は自分の足で走ってるのに……。
じゃあ私も自転車に乗ればいいだろって思うかもしれないけど、生前の寝たきりだった私に乗りこなす余裕は有ろうはずも御座いません。
よってアイカだけズルしてたのよ、ズルよズル!
「ですからお姉様も乗ればよかったじゃないですか……クス」
くぅ~~~私が乗れないのを知ってるくせに~~~! 絶対後で泣かす!
「あ、あのですな、そろそろ話を進めてもいいじゃろうか?」
おっといけない、今はコルノ村の村長と話してる最中だったわ。
アイカは後でおやつ抜きの刑よ!
「す、すみません、こっちの事でお騒がせしました」
「ああいやいや、大丈夫ですぞ。それにしても随分と早かったですな、儂の見立てでは2日はかかると思うておりましたですじゃ」
そりゃもうかっ飛ばして来ましたからね。
アンジェラは素で速いし、セレンは空飛べるし、アイカは自転車よ。
こうなったら私も自分専用の乗り物を用意すべきよね? いいや用意するわ絶対!
「食糧難だと聞いて急いで来ましたので。でもなんで不足してるんですか?」
「何でも北方民族が侵略を仕掛けてるため、それを撃退するのに兵を動員するとの理由で、急に食糧を徴収されてしまいましてな。さすがにこのままでは持たないと思い、急いでトレムの街の冒険者ギルドに頼んだのですじゃ」
物騒な話ね。
食糧――つまり兵糧って事で徴収されたのね。
「それに徴収されてるのはこの村だけではありません。近隣の村は殆ど徴収されてるはずですじゃ」
でもそんな事をしたら領地の人達から不満が出るはずよ。
それに必要なら食糧を抱えてる所から集めればいいのにね。
貴族だからそこまで気が回らないって事なのかも知れないけども。
「でも取りあえずはこれで大丈夫なのよね?」
「はい。この村の人口は100人も居ませんからの。暫くは大丈夫のはずですじゃ」
それから村長に依頼書のサインをもらうと、ここから西にあるロコ村に向かう事にした。
ロコ村は半日もかからない距離らしいので、ダッシュすれば夜までには着くでしょ。
「で、またアイカは自転車に乗って自慢する訳ね……」
「何故そういう発想になるんですか。別に自慢してる訳じゃありませんよ?」
分かってるわよ、そのくらい。
「ただ見せつけてるだけです」
全然分かってなかったわ! 絶対後で何か召喚してやるんだから!
「して主よ、何故ロコ村とやらに向かうのじゃ?」
「そうですよお姉様、コルノ村で一泊してからトレムに戻れば宜しかったのでは?」
そういえば理由を話してなかったわね。
何故ロコ村に向かうのかというと、幾つかの動機があるわ。
①王都のある西に進める。
②食糧難になってたら何とかしてあげたい。
③転移出来る場所が多いほど便利。
とまあこんな感じよ。
「成る程のぅ。しかし随分とお人好しではないか?村の事は領主がやるべき事だと思うがの」
「そうなんだけどね。なんかコルノ村だけ助けて他はどうでもいいって訳にはいかないかなってね」
でも全ての村を救済出来る訳じゃないし……いや、出来るかもしれないけど、それは私のする事じゃないしね。
話ながら走ってたら、あっという間にロコ村に到着した。
まずアイカ達だけで村の様子を見てきてもらい、コルノ村と同じ状況だったら私が食糧を召喚してから村に入る。
でも問題なさそうだったらそのまま入るって事にした。
そして先行したアイカから念話が届く。
『お姉様、やはりここもコルノ村と同じようです』
やっぱりね。
じゃあ食糧を適当に召喚して行きますか。
「有難う御座います! 蓄えを丸々徴収されてしまいまして困っておったのです」
聞けばロコ村も臨時徴収を受けていたようなので、事前に召喚した食糧をやや安めに譲った。
お金に困ってないから、本当ならそのまま無償であげたいところなんだけど、それだと逆に怪しく見えるからね。
「やっぱり北方民族の影響で徴収されたって事なの?」
「そうみたいですな。しかし北方民族とは和解した筈なのに何故今頃……」
ん? 北方民族とは和解してる? それはおかしいわね。
食糧が必要って事は軍を動かす規模ッて事だから、これじゃ和解してるなんて言えないわ。
それにセーラさん達の身の安全にも関わる可能性があるし、ちょっと調べてみた方がいいわね。
「ねぇ村長さん、その北方民族ってどの辺りに住んでるの?」
「北方民族はここからすぐ北西にある山を越えれば見えてくる筈です」
あら? 以外と近かったの?
なら明日はその山を越えて北方民族に会ってみよう。
って事で次の日、さっそく登山を決行した私達4人は、北方民族――正式にはヨム族というらしいんだけど、彼等が暮らしてる領地を山から見下ろしていた。
東西に伸びる大草原が彼等が住まう土地だ。
この草原の更に北には、中小様々な国家が乱立してるらしい。
「良い景色ですね、お姉様」
アイカの言う通り、天気も良いし暖かいしピクニックには最適なんだけど、景色を眺めるために来た訳じゃないからね?
「これだけ広い領土となると、ヨム族とやらも管理するのが大変だろうのぅ」
そうねぇ、魔物も出るだろうし、その土地を維持管理するって――あれ? 領土が広くて大変なら、侵略してる余裕なんて無いんじゃないの?
「そうですね。ヨム族全体の人口は、3000人を切るらしいと村長さんが言ってました。その彼等が進んで面倒を起こすとは考え難いですね」
正確には分からないけど、何年も前にアレクシス王国とヨム族は和解してる筈なのに、今更軍を動かすような事態になるなんてね。
「ま、ここで考えても仕方ないわ。近くのヨム族の集落か村を探しましょ。それからアイカは自転車禁止ね。人目につくから」
「な!?」
絶望するアイカと下に広がる草原を交互に眺めながら山を下って行くと、ヨム族の集落と思われるものが見えてきた。
族――とは言っても、住んでる建物はアレクシス王国の民家と違わないし、外にいる人の服装も違わないようだ。
イメージではもっと原始的なものを想像してたんだけどね。
徐々に集落に近付いて行き、目に見える建物は5軒しかない事が分かった。
もしかすると10人くらいしか居ないんじゃないだろうか。
まぁ何はともあれ話を聞いてみよう。
「こんにちは、ここはヨム族の集落ですか?」
この辺りにはヨム族しかいないから当たり前なんだけど、一応確認をね?
「そうだよ。お姉さん達は誰~?」
声をかけたのは外で遊んでた女の子よ。
多分小学生の高学年くらい? だと思う。
「私はアイリって言う者で冒険者よ。後ろにいるのは私のパーティメンバー。それでここの集落長はいる?」
「あたしラナ。お爺ちゃんなら家に居るよ~、付いてきて」
どうやらこの女の子の祖父が集落長らしい。
そのまま女の子に案内されて民家に入った。
中では集落長と思われるお爺さんがお茶をのんで寛いでいた。
「お爺ちゃん、冒険者のアイリさん達がお爺ちゃんに会いに来たよ!」
「おお、冒険者の方達ですか。私はこの集落の長でオビルと申します。何にも無い所ですがゆっくりとしていって下され」
とても温和そうなお爺さんね。
ここだけを見ると、侵略うんぬんとは無関係に見えるんだけど……。
「アイカ、ラナちゃんと外で遊んでてもらえる?」
「畏まりました。ラナちゃん、外で一緒に遊びましょう」
「本当!? じゃ~早く行こ!」
アイカにラナちゃんを外に連れ出してもらった。侵略だの何だのは子供に聴かせたくないしね。
私は子供じゃないのかって指摘は受け付けないわよ? 私が話すんだから、私が居ないと始まらないじゃない?
「して何やら話があるのかの?」
「はい。実は小耳に挟んだんですけど、ヨム族がアレクシス王国に侵略を仕掛けてるという話が広まってるんです」
「な、何ですと!?」
これは嘘じゃない。
実際にそういった名目で食糧が徴収されてるのは事実よ。
「それで真相を確かめに来たんです」
「う~~~む……」
オビルさんは腕を組んで黙り込んでしまった。
そして暫くしてから顔を上げてハッキリと言ってきた。
「侵略を仕掛けたのはもう50年近くも前の事です。和解してからは侵略行為なぞしておりませぬ。他所の集落も同じ筈です」
そうよね、全体の人口が3000人くらいだと、実際に闘える人数は1000人以下になるんじゃないかな?
そんな少数で大国のアレクシス王国に侵略行為とか馬鹿げてる。
それに侵略してる側がこんなにのんびりしてるのにも違和感を感じるしね。
「どうやら噂は出鱈目だったみたいですね」
「分かっていただけて幸いです。しかしいったいどこでそのような噂が出たのですかな?」
えーと、確か――ラムシートからトレムに着いた時に、それからコルノ村に食糧を届けて――
「私が聞いたのは、コルノ村っていうここから3日くらいの所にある村でしたね。出兵するのに食糧を徴収されて大変そうでした。コルノ村だけじゃなくその周辺の村もおなじようです」
「そ、その出兵というのはまさか……」
「はい、ヨム族を撃退するため――という名目のようです」
途中から自分達に対して軍を差し向けられていると気付いたオビルさんは、再び腕を組んで黙り込んでしまった。
それにしても違和感だらけね。
普通小数民族を相手にするのに緊急で無茶な徴収をするとか、しかもその相手はそんな事はまったく気付いてないなんて……。
「アイリ殿、1つお願いが御座います」
沈黙してたオビルさんが徐に口を開いた。
「ここより西にむかうと、4つの集落と1つの町がございます。その町に部族長が居りますゆえ、部族長のエドンノと話してみて下さらぬだろうか?」
部族長か。何だか私が代表して話し合いをしてる感じなんだけど、成り行き上仕方ないわよね?
「分かりました。私が直接話してみます」
「有り難い、大変助かります。本来ならこのような大事ならば私のような者が動かねばぬらぬのですが、体が言うことを聞かなくてのう、後数年若ければブイブイ言わせてたんじゃがな」
いったい誰にブイブイ言わせてたのだろうか……。
それに数年若いだけじゃ足りないんじゃないかなぁーと。
「私が20代の頃は、愛馬に乗りながらマイハニーをお姫様抱っこで草原を駆け回ったもんですわい、ホッホッホッ!」
ホッホッホッって、危ないわよそれ! 落馬したら大怪我するじゃない。よく何ともなかったわね……。
「……まぁ落馬して大怪我を負いましたがな」
既に経験済みでしたか……。
そしてオビルさんの温和そうなイメージがどんどん崩れていく……。
「さてさて、では私の孫に町まで案内させましょう。もうじき狩から帰って来る頃ですのでな」
どうやら外で遊んでるラナちゃん以外にも、お孫さんがいらっしゃるらしい。
そのお孫さんが来たら部族長に会いに行きますか。




