無敵のゴーレム if
「くそっ、なんて奴だ! これだけ切りつけても無傷なんて……」
「普通の武器じゃだめだ! エンチャントされた武器じゃないと!」
「んな事言ったってねぇよそんなもん!」
最初50人いた兵士達は、今は半分以下にまで減っていた。
全員ミリーの前に屈っし、物理的に捻り潰されたのだ。
そもそも当たっても傷一つ付かないミリーに挑んだところで勝機など無い。
「さっきも言った。そんなチャチな武器でミリーに挑むのはバカ。もしくはアホ」
ミリーはどこからでも来いとばかりに両腕をブンブンと振り回すが、それを見て兵士達は少しずつ後ずさる。
「こりゃ無理だ。こんなの勝てる訳ねぇ!」
「1度、隊長に報告するしかねぇよ」
「俺は出来れば闘いたくねぇがな」
ミリーは逃げる者には見向きもしないので、残った兵士達は慌てずに撤退していった。
『臨時のマスター、敵は撤退しました』
『ご苦労様。でもまだダンジョン内にいるみたいだから、引き続きお願いね?』
『イェス、臨時のマスター』
ボス部屋から撤退した兵士達以外にもダンジョンを捜索してる部隊がいたが、1階層の大部分の捜索が終了しラッカーソンの元に報告しに戻っていた。
そして捜索した結果は、ダンジョン内にセレスティーラ王女の痕跡は見つからず、生死不明のままという曖昧な結果に終った。
「状況は分かった。だがボス部屋を突破出来ないとはどういう事だ!」
「ですから、オーガとゴブリンの代わりに凶悪な魔物が居たんですよ!」
「あれは絶対に倒せません! 普通の武器じゃ傷を負わせる事すら不可能です!」
逃げ帰った兵士達は口々に言う。
総じて共通するのは、異常につよい少女の姿をした魔物がいて、傷を与えられないから倒すのは不可能だとい事だった。
更に以前来たときよりも罠が増えており、罠によって既に10人近くが犠牲になっていた。
「どいつもこいつもふざけた事を抜かしよってからに!」
そして近くの兵士を八つ当たりで殴りつけたが、やはり冑の上からなのでラッカーソンはその場で悶絶した。
「んぐぐぐ……ふぅ。で、どうしろと言うのだ!?」
「エンチャントされた特殊な武器か、魔法士による魔法での援護が不可欠だと考えます」
「馬鹿者! たかが女2人を追ってるだけで、そんな武器の支給が受けられるか!」
これはラッカーソンの言う通り、実質戦闘能力があるのはセーラの従者であるケティ1人だけで、セーラの戦闘能力は皆無だ。
たった1人のためにエンチャントされた武器を貸せとは言えない。
それに出現して間もないダンジョンに未知の魔物がいるなど、説明したところでまともに信じてもらえないだろう。
「もういい! 私の剣で切り刻んでやる! レノッソ、ここの指揮はお前に任せる!」
「畏まりました」
「2小隊を残し、他は私に付いてこい!」
ミリーの凄まじさを知らないラッカーソンは、鼻息を荒くしボス部屋へと向かった。
それを背後で見ていた逃げ帰った兵士達は、まるでラッカーソンが自らの意思で地獄に踏み込んで行くかのように見えた。
『また来ました。会話の内容から察するに、隊長クラスの者がいるようです』
『了解、臨時のマスター。隊長を片付けたらお菓子食べてもいい?』
『はい、いいですよ。隊長が撤退、もしくは死亡すれば、退却せざるを得ないでしょうから』
『やった! 有難う臨時のマスター!』
レミエマとの念話を終えて暫くすると、ボス部屋の扉が開かれた。
そして先頭にいた男がズカズカとミリーに近付いて来た。
この男がラッカーソンという侵入者の隊長らしいとレミエマから聞いていた。
「おい、貴様がここのボスか!?」
「違います」
てっきり肯定するものと思ってたが、否定されてしまいラッカーソンは面食らった。
「……なら貴様は何なのだ?」
「見ての通りです」
見ての通りだと、普通の少女にしか見えないので逆に不自然なのだが、何故かラッカーソンは真に受けてしまった。
「なんだ。ならただの小娘ではないか」
「た、隊長! ただの小娘なんかじゃありません!俺は見たんです、コイツ1人に何人もの仲間が肉片にされるのを!」
1度撤退した兵士達の中に、再度やって来た者がいたらしく、その兵士はミリーを震える指先でさして訴える。
それを見たラッカーソンは顔を真っ赤に染め上げ、ルーへと向き直った。
「何だと!? ――おい貴様、この俺に嘘をついたのか!?」
「嘘はついてない。ボスはダンジョンマスターであってミリーではない。おっさんが勝手に勘違いしただけ。つまりバカ。」
確かにミリーは嘘をついてはいない。
ここのダンジョンのボスはレミエマなのでミリーではないと言える。
勝手にに勘違いしたのはラッカーソンの方なので間違いではないのだが、ラッカーソンからしてみればバカにされてるとしか思えなかったので、ついにプッツンしてしまった。
「き~さ~ま~ぁぁぁ! もぉ許さん! ガキのくせに生意気な事を言いよってからに!」
剣を抜きミリーに切りかかるラッカーソン。
しかし……
パキンッ!
「な!?」
ラッカーソンの剣は根元からポッキリと折れてしまった。
信じられないといった顔で剣とミリーを交互に見るが、ラッカーソンが出した結論は剣が磨耗してたのだろうという都合のいい解釈だ。
「ちっ、運のいい奴め!」
すぐに予備の剣を抜き再び切りかかるが、やはりミリーが傷を負う事はなく、ラッカーソンの剣は弾かれてしまう。
「な、何故だ!?」
今度は折れはしなかったが皹が入ってしまったようで、もう数回切りつければほぼ折れてしまう事が予想出来た。
「もう終わり? ならミリーの番ね」
素早くラッカーソンに駆け寄り、腕をとって思いっきり曲げる。
「グワアアアァァァッ!! 止めろ、止めろーーーっ!」
曲げたといっても普通に曲がらない方向に曲げたので、当然ラッカーソンの腕は折れ曲がった状態になる。
更にミリーは足をとって同じく曲がらない方向に曲げた。
「グフォガァ!」
どうやら激痛のあまりラッカーソンは気絶してしまったようだ。
「隊長が殺られた! 引けーっ!引けーっ!」
この一連の流れを見ていた他の兵士達は、隊長が戦闘不能だという最もな理由を得て、扉から撤退して行く。
一応ラッカーソンはまだ生きてるのだが、兵士達からは死んだものと見なされたらしい。
これでボス部屋に残ったのはミリーとラッカーソンのみとなった。
後は隊長を始末すれば任務完了でおやつタイムだという事で、早速止めを刺そうとしたが、レミエマから待ったがかかる。
『ミリーさん、その者には聞きたい事があるので、そのまま捕らえて下さい』
『イェス、臨時のマスター』
ラッカーソンは骨折状態のまま捕縛され、レミエマの元に引きずられて行く。
一方でダンジョンから脱出した兵士達は、ラッカーソンが討ち取られた事をレノッソに報告したところ、作戦続行が不可能と判断され直ちに引き上げる事になった。
ラッカーソンをズルズルと引きずってレミエマの元に戻ったミリーは、テーブルの上に山盛りに用意されていたお菓子に目が止まる。
「お疲れ様です、ミリーさん。これから保護してるお客様のところに行くので、一緒に付いてきて下さい。勿論そこに用意したお菓子を持ってきてもいいですよ?」
「イヤッフーゥ♪ 有難う、臨時のマスター!勿論一緒に行きます」
「捕虜の男は俺が連れていこう」
今度はギブソンに引きずられてセーラとケティの元に向かう事になったラッカーソンは、いまだに気絶したままだった。
ミリーはその横でお菓子を摘まみながら歩いている。
そして1分もしない内にセーラとケティの居る部屋に到着した。
「失礼します。セーラさん、入っても宜しいですか?」
「はい、どうぞ~」
すでにセーラとケティの2人には侵入者を撃退したと伝えてあるが、やはり完全に不安が払拭されたわけではないという事が2人の表情から見てとれる。
「さっそくなのですが、この男が隊長らしいのですがご存知ですか?」
ギブソンが引きずってきたラッカーソンを2人の前に転がす。
すると2人には見覚えがあるのか、セーラはやや怯えケティは険しい表情をしながら話し出した。
「この男はリムシールの街で我々を拘束しようとした兵達を指揮してた男だ」
レミエマも気付いてはいたが、やはりこの男が侵入者の纏め役だという事がはっきりした。
「ではこの男は人質としての価値はあるでしょうか?」
「う~む、正直微妙だ。この男は家督を継いでない者だしな。代わりになる者ならいくらでも……」
貴族家の場合、長男が健在ならば長男が家督を継ぐのが当たり前だ。そうすると、次男や三男は家督を継げずに隊長クラスの兵として扱われる事が多い。
そこから出世する者もいるが、そのままの地位で終える者が圧倒的に多いのだ。
そしてラッカーソンもそんな1人といったところだろう。
「人質としての価値は無いと思ってよさそうですね。ではこの男の処遇は……」
「あの~1つ宜しいでしょうか? そのぅ……先程からお菓子を頬張っているそちらの子はどちら様でしょう?」
ラッカーソンの処遇で話し合ってる最中も、ミリーはひたすらお菓子を食べ続けていた。
話に割って入ってくる事もなかったので、いったい何者なのかという疑問がセーラとケティの中にあったのだが、結局セーラがレミエマに聞く事にしたようだ。
「あ、すみません。こちらは私の知り合いからお借りしてる助っ人になります」
「ミリーです。今後とも宜しく」
ミリーが助っ人だと聞いて、2人は互いに顔を見合せ目を白黒させている。
見た目が見た目なので仕方ないのだが。
「信じられんと思うが、この男を伸したのもミリーだぞ?」
「「え!?」」
ギブソンの言葉にさらに驚きの声を上げる。
そんな2人に対してピースをするミリー。
「ミリーの勝ち。勝利のV」
2人はやや唖然とした後に、レミエマの方に顔を向けた。
その顔には、本当にこの子がやったの? と書いてあったので、レミエマはコクりと頷いた。
「フフ、信じられないのも無理はありませんが、見た目では判断出来ない事が世の中には多いという事です。かくゆう私も最初は信じられなかったですし」
レミエマが思わず苦笑いしなが言ったが、2人の顔はいまだに信じられないと訴えていた。
「ぅ……ぅう……」
そんなやり取りをしてると渦中のラッカーソンが目を覚ましたようだ。
「こ、ここは?」
「私のダンジョンです。そして貴方は捕虜となりました」
「っ!?」
慌てて自分の状態を確認するラッカーソンだが、縛られていて身動きが出来ないと分かるとレミエマを睨み付けた。
「き、貴様ぁ! このような事をしてどうなるか分かってるんだろうな!?」
「分かりませんね。どうなるのでしょう?」
レミエマの人を食ったような反応にラッカーソンは怒りを露にする。
「貴様なんぞ、我が国の軍がその気になれば一捻りだ!」
そして自分の立場をまったく理解してない様子で、レミエマに噛みついた。
「その気にならなければ?」
「そ、そんなはずはない! 我が国の軍は……我が国の……」
レミエマに反論してる最中にミリーの存在に気が付いたラッカーソンは、次第にトーンダウンしていった。
そして……
「……う、うわあぁぁぁ! 来るなぁ! こっちに来るなぁ! ひ、ひいぃぃぃ!」
堪えきれずに発狂した。
この様をみたセーラとケティは、漸くミリーがラッカーソンを伸したんだと理解した。
「おっさんが壊れた」
「仕方ない。発狂してまともに話せないようだし、コイツは地下室に閉じ込めておこう」
そう言ってギブソンはラッカーソンを引きずって部屋を出て行った。
「……コホン。話の続きですが、あの男が人質として使えないなら、更に上の者が来るのを待とうと思います。それまでここで過ごしてもらいますが大丈夫ですか?」
「私達なら大丈夫です」
口では大丈夫と言ったセーラだが、やはり1日中部屋にとじ込もってるのは精神的に辛いはずだった。
今も本人は気付いてないが、顔色はあまり良くはない。
ケティはそれに気付いてたが、贅沢を言える立場ではないため、何も言わなかった。
そんなセーラとケティを見たミリーが口を開いた。
「それならうちのダンジョンに来る? うちのマスターがダンジョンの中に街を造るという暴挙をやらかしたから、観光するならお薦め」
「「ダンジョンの中に街を!?」」
レミエマはチラッと話に聞いてたため驚かなかったが、セーラとケティはハモって驚いた。
こうしてミリーの独断により、街の存在が始めて外の人間に伝わったのであった。




