迷子貴族
「駄目です、こっちも行き止まりです」
「くっ!戻るぞ!」
ミゼオン率いる部隊は、いまだに1階層を右往左往していた。
事前に確認した場所にボス部屋は無かったため、完全に出鼻を挫かれた形だ。
とはいえ、このまま引き返す訳にもいかず、結局はボス部屋の捜索を1から開始せざるを得なかったのだ。
「くそっ、一体どこにあるのだ‥‥」
「まったくです。見当もつきません」
ミゼオンの近くを歩いていた部下が、ミゼオンの愚痴に同意する。
「せめて何か手掛かりにな‥‥おい、お前」
ふと横を見ると、部下の顔がおかしい事に気付く。
「その顔はどうした?」
「ハッ、実は先程の行き止まりにて、何やら壁に穴があいておりまして、覗き込んだらこのような白い物が顔に飛んで来たようでして」
その部下の顔は真っ白な物体が塗りたくられていた。
だが特に毒は含まれてないらしく、行動に支障はないようだ。
この白い物体の正体は、よくコントやバラエティー番組で用いられるアレである。
「寧ろ程よい甘さで大変美味しいです」
「美味‥‥コホン、まぁいい。‥ん?ここも行き止まりか」
「隊長!見て下さい!何やらここに金貨を投入せよと記されてます!」
「何だと!?」
部下に言われてよく見ると、確かに通貨を投入出来る隙間があり、その上には金貨を投入しろと記されていた。
「怪しいが、試さない訳にも行くまい‥‥おい、お前が投入してみろ」
「‥‥金貨をですか?」
命じられた兵士は躊躇った。
いくら平民よりも稼ぎが上とはいえ、ほいほい金貨を投げ捨てる余裕はない。
が、命令とあらば仕方なしという事で、泣く泣く金貨を投入した。
チャリーーーン♪
『ルーレットスタート!』
「ぅお!?」
「な、何だ!?」
金貨を投入すると突然壁から声が発せられ、壁に不可思議に光る板が出現した。
その板の上を光がグルグルと回っている。
よく見ると、1ヶ所だけ【当たり】と表示されてる所がある。
ここに止まればいいのだの兵士は何となく理解した。
ピピピピピピピピ
ピピピピピピピピ
ピッピッピッピッ
ピッ‥ピッ‥ピッ‥ピッ‥
ピッ‥‥‥残ねーーん♪
しかし、無情にも光は当たりを通過した地点で停止した。
それどころか最後にバカにしたような声で残念と言われる始末である。
「隊長‥‥はずれのようです」
「見ればわかる。当たるまでやってみよ」
「えっ!?」
まさかの隊長の続行命令に涙目になりながら金貨を投入する兵士。
10枚投入したところで死んだ魚のような目になってしまうが、隊長の指示は続行。
しかし簡単には当たらず、結局金貨12枚を投入してようやく当たるのであった。
そして、当たると同時に壁が左右に開き始めた。
「隊長!宝箱です!」
壁が開いた先に宝箱を発見した事で、瞳に光を取り戻した兵士。
宝箱の先にも通路は続いている。
「よし、お前が開けてみよ」
命じられた兵士は、宝箱に罠がないか探りつつ思考していた。
もしも高価な物であれば没収されてしまう。
ならば、そこそこの物であらばそのまま自分に貰えるのでは‥と。
そして罠が無いのを確認し、期待しつつ宝箱を開けてみる。
中に入ってたのは‥‥
「隊長、下級ポーションです‥‥」
有ると便利だが、ぶっちゃけ誰でも買える物だった。
「‥‥それは‥お前にやる‥‥」
「‥‥はい」
宝箱の中身を貰う事には成功した。
兵士は金貨12枚を犠牲にして、下級ポーションを手に入れたのだ。
金貨が12枚もあれば、店頭で下級ポーションが2000個は買えたであろう。
そして再び兵士は目からハイライトが消えた。
宝箱も処理し先へと延びる通路を睨むミゼオンに、後ろから他を捜索していた兵士達がやって来た。
「た、隊長ぉ‥‥」
ミゼオンが振り向くと、物凄く疲れきった顔をした兵士達がそこに居た。
その内の1人は、何故か内股で歩いて来た。
「お前達、何かあったのか?」
「はい。実は‥‥」
兵士達の報告‥‥というよりも、もはや愚痴に近い感じの訴えであった。
まず1人の兵士は、ボタンを押したら上から熱湯が降ってきて火傷を負ったと言ってきた。
鎧の下は水膨れが出来てるらしい。
次の1人の兵士は、ボタンを押そうとして触れたら突然体が痺れ出したという。今はだいぶ収まったが、暫くまともに動けなかったらしい。
それに関係があるか不明だが、髪の毛が今でも逆立っている。
更にもう1人の兵士は、剣を刺し込めと記されてた隙間に剣を刺し込むと、何故か後ろから剣が出現し、自分の尻に突き刺さったという。
いまだに痛みは引いてないとの事だ。
その3人以外の兵士達も、皆似たような目に合ってたらしい。
「何という質の悪いダンジョンだ‥‥。だが愚痴ってる暇はない。早くこの先に進むぞ!」
気を入れ直し、通路の先へと進むミゼオン達。
その足取りは当然ながら重い。
そんなミゼオン達の様子は、ダンジョンのコアルームでも確認されていた。
「あの~、‥‥嫌がらせにはなってるようですが、これだとその内ここに辿り着いてしまうのでは?」
ここのダンジョンマスターのナレックが不安そうに尋ねる。
今のところ撃退するのではなく、全力で嫌がらせをしてるので、その不安は正しい。
「まぁまぁ、ナレックはん。嫌がらせしてたのは唯の趣味や。ボス部屋に辿り着いたら全員生け捕りにするで!」
唯の趣味かよ!と内心思ったが、どうやら生け捕りするプランがあるらしいので、それを信じる事にした。
「こんな状況で趣味に走るとか‥‥アンタねぇ、一応ここはナレックのダンジョンなんだから、終わったら元に戻しなさいよ?」
「そいつぁ難しいで。元の状態を覚えとらんさかいな」
「アンタ‥‥あ、ご、ごめんねナレック。後でDP振り込んどくから!」
「あ、いや、そこまで気にしてないから‥‥」
気にしてないと言いつつ、引きつった顔をしてるナレック。
少しは気にしてるようだ。
「お?どうやら生け捕りが完了したようやで」
そんなやり取りをしてる内に、いつの間にかボス部屋に辿り着いたミゼオン達を生け捕りにしたようだ。
「もう終わったのかい?‥‥あれは?」
「眷族のザードや。元からボス部屋で生け捕るつもりやったからな」
なら最初からそれだけでよかっただろ!というのがナレックの本音だが、手を貸してもらってる手前、何も言えなかった。
「一応2人だけ捕まえずに帰したで。後ろに居る貴族‥‥名前忘れてもうたけど、そいつの反応も見てみたいしな」
ホークに言われてよく見ると、2人の兵士がダンジョン入口で待機してるノルゴストル男爵に報告してる最中だった。
「ノルゴストル様~!」
「ん?もう攻略したのか?それなら‥‥おい貴様、その汚ない顔は何だ!?」
討伐隊の内2人が戻って来たので、攻略が完了したのか問おうとしたが、1人の顔が真っ黒に染まってるのを見て、思わず怒鳴り付けた。
「も、申し訳ありません!ダンジョンの罠に掛かり、このような姿に‥‥それから、ダンジョンの攻略は失敗です。我々以外のミゼオン隊長を含む討伐隊は全滅です!」
「な!?」
ミゼオン含む討伐隊が全滅。
とても受け入れる事は出来なかった。
というよりも信じられなかったのだ。
事前にダンジョンの全容を把握し、ダンジョン内の魔物の間引きも行った。
後はダンジョンマスターを倒すか、ダンジョンコアを奪うだけだと思っていた。
それがまさかの全滅の知らせである。
「一体何があったというのだ!?」
「ハッ!実は‥‥」
時は少し遡ってミゼオン達が宝箱の先の通路を進んだところだ。
これまで酷い目に有った彼等だが、ようやく目の前にボス部屋が現れた。
「やっと見つけたぞ!皆の者、俺に続けぇ!」
「「「「オオッ!!」」」」
嬉しさの余り、叫びながらボス部屋へと突入する討伐隊。
仮にここを突破しても先は長いのだが、今の彼等にこれを言うのは酷だろう。
ボス部屋に入ると、部屋の奥に1体のリザードマンが居るのを討伐隊は確認した。
「おい、確か1階層のボスはゴブリンパーティじゃなかったか?」
「ハッ、以前はそうだったと記憶しております」
彼等の事前調査により、ボス部屋のボスの正体も把握していた。
しかしダンジョンの構造と同様に、ボスも変化していた。
「まぁいい。相手がリザードマン1体だけなら楽なもんだ。さっさと血祭りに上げて先に進むぞ!」
すぐさまリザードマンに突撃するミゼオン。
ミゼオンに続き、他の討伐隊もミゼオンに加勢しようと動く。
「くたばれ!」
これまでの鬱憤を晴らすかのように長剣を叩きつけるミゼオンだったが‥‥
ガキィィィーン!
「何だと!?」
その剣はあっさりと受け止められる。
これにミゼオンは驚いた。
自惚れる訳ではないが、剣の腕には自身がある方だ。
領内の剣術大会でも、常に優勝候補として上がる程だ。
『中々やるようだが、まだまだ未熟だな』
ミゼオンが驚いてるところに、その驚きを上乗せするかのように、目の前のリザードマンから念話が届いた。
「貴様、言葉が通じるのか?」
『如何にも。某はリザードマンキングのザードと申す』
普通のリザードマンだと思った相手がリザードマンキングだった。
ミゼオンは冒険者ではないためリザードマンキングのランクを知らなかったが、キングの名が付くならば強いのだろうと考えた。
そして魔物とはいえ相手が名乗ったのなら、自分も名乗らない訳にないかない。
「俺はノルゴストル男爵の私兵ミゼオン。剣には自信がある。今度は本気で行くぞ!」
『その意気や良し!いざ、推して参る!』
激突する2人。
他の討伐隊は目まぐるしく動く2人の動きに付いていけず、唯見守る事しか出来なかった。
2人の様子を伺っていた討伐隊には互角のように見えたが、実際は違った。
ミゼオンが全力で斬りかかるってるのに対し、ザードは力を抑えてミゼオンの剣を捌いていた。
「くっ‥中々‥やる‥」
これまで全力を出していたミゼオンは、呼吸が乱れてきた。
それを見てザードは、そろそろだなと思い斬撃を連続で放った。
まさか斬撃が飛んでくるとは思ってなかったミゼオンはまともに被弾してしまった。
「ぐおぁっ!」
「「「「隊長!?」」」」
生きてはいるが、身体中にあちこち切り傷が有り痛々しい状態だ。
『お主達。投降するなら殺生はせぬ』
ミゼオンが勝てなかった相手に自分達が勝てる訳がない‥そう思い、他の討伐隊は全員投降を選択したのだった。
『やぁやぁご苦労さんやったでザード』
丁度戦闘が終了したところで、ザードにホークから念話が届いた。
『む‥ホークか。どうしたのだ?』
『まだ他に敵さんのボスが居るんや。せやから2人程解放してほしいんよ』
『そういう事か。あい分かった』
ホークからの指示で適当に近くにいた2人を解放した。
そして解放された2人は、ノルゴストルの待機してるダンジョンの出口に向かって走って行った。
「という訳なんですよ」
「あれは強すぎです!ダンジョン攻略は不可能です!」
報告に戻った2人は、ノルゴストル男爵にダンジョン攻略は諦めるようにやや簿かして話した。
だがノルゴストル男爵が聞き入れる事はなかった。
何故なら男爵には後がないからだ。
国に黙って動いてたのがバレるのは、もはや時間の問題だった。
「ええぃ、役立たず共め!こうなったら私みずから攻略してくれる!」
2人の討伐隊を怒鳴り付け、側近と2人の護衛と共にダンジョンの奥へと向かって行ってしまった。
「どうする?」
「俺達には荷が重い。それに違反してるのは男爵の方だ。これ以上関わるより引いた方が身のためだ」
「そうだな。街に戻ってギルドに告発するか」
生還した2人は街へ、状況を理解してないノルゴストル男爵はダンジョンの奥へと進んだのだった。
まだ続く
誰でも分かるモンスターのランク別の強さ早見表
Gランク:雑魚中の雑魚。冒険者なら倒せないと恥ずかしいレベルです。
Fランク:基本的に雑魚の部類。ただし、群れると厄介なので油断は出来ません。
Eランク:少し強めの雑魚。初心者の冒険者では荷が重い。しっかりとパーティを組んで挑む必要があります。
Dランク:少々危険です。間違いなく討伐依頼が出されます。複数のパーティか騎士団が出向きます。
Cランク:かなり危険です。緊急クエストが発生します。騎士団か領主の軍勢が動きます。
Bランク:国家の危機です。周囲は閉鎖され、国軍が差し向けられます。
Aランク:建国以来の危機です。周辺国が連合軍として差し向けられます。
Sランク:国家滅亡の危機です。逃げるか土下座をして命乞いをするか選びましょう。
SSランク:遺書を書き残し、神に祈りましょう。
SSSランク:来世に期待しましょう。人生諦めが肝心です。




