援軍派遣
「暇ねぇ‥‥」
「そうですねぇ」
悪魔族の国、ヴェリアーレから帰ってきたアイリだが、今日も今日とて冒険者が1人も来ないので、ダンジョンは平和‥‥というより暇だった。
何故かというと今更な話だが、アイリのダンジョンは魔の森と言われている危険な森のど真ん中に存在する。
更に魔の森の外側は、アレクシス王国、ミリオネック商業国、プラーガ帝国、グロスエレム教国の4つの大国に挟まれた場所で、互いに魔の森の領有を主張している大変面倒くさーい場所なのである。
そんな所にノコノコと現れる世間知らずな冒険者はいないので、いまだに冒険者の侵入数は0を更新中である。
「冒険者ランクの昇格試験も受けないといけないし、また外に出ようかしらね」
「それもいいんですが、面白いものを発見しましたよお姉様」
「え、なになに?」
アイカがダンジョン通信を開くと、チョワイツ王国内の集いで、国の領主とダンジョンマスターが戦ってるらしい内容が見られた。
「これは?」
「チョワイツ王国内にあるダンジョンのダンマスと、その付近の領主が争ってるみたいですね。3日程前からのようです」
内容を詳しく確認すると、元々国との話し合いで、ダンマス側が定期的に物資を納める形で共存が決まっていたのだが、付近の領主が過剰な賄賂を要求したらしいのだ。
当然ダンマス側は要求を突っぱねた。
その結果、怒った領主が討伐隊を編成しダンジョンアタックを開始したという訳である。
「国と話がついてるのにダンジョン攻略を開始するなんて、その領主はよっぽど自信があるんでしょうね」
「それか考え無しのバカか、どちらかですね」
この件は謂わば領主の独断である。
国にバレれば、物理的に首が飛ぶ可能性すらあるのだ。
「領主としては、ダンジョンコアを奪って口封じするしか無いわね。それを考えると、近いうちに総攻撃があるかも知れないわね」
「折角の機会ですから、攻略目的の侵入者がどのような行動に出るか見てみるのはどうでしょう?丁度このダンマスも援軍を求めてるらしいですし」
よく見ると件のダンジョンマスターは、総攻撃に備えて支援を求めてるようだ。
これを見てアイリは、侵略を受けているダンジョンマスター、ナレックの援軍として駆けつける事にした。
「多くの支援を受けてるけど、まさかダンジョンマスター本人が眷族を連れて来てくれるとは思わなかったよ、有難う!」
チョワイツ王国の領主より侵略を受けているダンジョンマスターのナレックがアイリを激励する。
そもそも助けるといっても、アイリのように座標転移を持っているダンジョンマスターは限られてるので、大抵のダンジョンマスターは支援と称してDPの振り込みを行う者が殆どだ。
つまりアイリのようにダンジョンマスター本人がやって来るのは稀である。
「いいのよ。私としても、侵略者のサンプルが欲しかったからね」
「サンプル?‥よくわからないけど助かるよ」
ナレックは人族の14歳の少年で、1ヶ月程前のチョワイツ王国代表団との話し合いの末、ナレックのダンジョンの生存を認める代わりに、ダンジョンから定期的に一定の物資を渡す事で合意した。
内容だけ見ると、一方的に貢物をしてるように見られるかも知れないが、この国との合意が得られた事により、ダンジョンに侵入して来た冒険者がダンジョン内でどうなろうが国は関知しないという事も含まれるので、ダンジョンマスターにとっては活動しやすいという事でもあるのだ。
つまり、ダンジョンを1つの縄張りとし、そこに不法に侵入して来た者は、罰してもよいという事だ。
「昨日も領主の部隊がやって来たんだけど、多分偵察だったんじゃないかと思ってる。チョワイツ王国の代表者が来るまでそれほどかからないと思うから、今日か明日にでもやって来るかも知れない」
国の使者が来たら、今発生してる領主の暴挙が明るみになる。
そうなる前に領主はダンジョンを攻略し、ダンジョンマスターが約束を違えて領地を襲ったので、やむ無く討伐したという事にするはずだ。
「ならさっそく打ち合わせに入りましょ。罠の場所とか教えてちょうだい」
「わかった。まず階層が‥‥」
時間が無さそうなので、速やかに情報交換を行う。
その結果、このダンジョンは5階層になっており、その全てが洞窟エリアになってる事がわかった。
なので今回は洞窟エリアの特徴を生かし、迷路を作る事にした。
迷路なら時間稼ぎに最適だからだ。
迷路の作成には眷族のホークが立候補したのでそのままホークが担当する事になった。
今もノリノリで迷路を作っている。
次にモンスターだが、度重なる領主の侵略により、かなり数が減ってしまっている。
時間が経てばリスポーンするが、それを待つ余裕は無さそうだ。
だが今回はモンスターは新たに配置しないという事になった。
モンスターを配置するよりも罠を配置した方が効率がいいという結論に至ったためだ。
最後に罠だが、案の定ホークがノリノリで罠を張り巡らせていく。
もうコイツだけ居ればいいんじゃないかなと思えてきたが、やはり最終的には力が頼りなので、最後の砦にも備えてもらう事にした。
そうこうしてる内に夜になり、今日は来ないかも知れないと思われた矢先、侵入者を知らせるアラームがアイリ達の耳に入る。
侵入者を見ると、入口からゾロゾロと重装備の者達が入って来るところだった。
ダンジョンに入ってきた者達の最後尾に、より一層派手な格好をした男が姿を現した。
此度ナレックのダンジョンに侵略を仕掛けてきた領主、ノルゴストル男爵である。
「ミゼオン、準備は万端か?」
「ハッ、事前調査によりダンジョン内部は把握出来ております。各装備も問題ありません」
ミゼオンと呼ばれた若い青年が、自信たっぷりに答える。
今まで散発的に侵略してたが、それは各階層を把握するための下準備だ。
彼等は今日、このダンジョンを攻略するために現れたのだ。
「宜しい。ならば進軍せよ!」
「ハハッ!」
綺麗な列をなして進んでいく討伐隊。
事前調査により作られた簡易的な地図を手に、無駄がなく罠がないルートを選択し進んでいく。
そして1階層の最後の十字路に到達した討伐隊は、地図にある通り直進する。
ここを直進すれば、間もなくボス部屋が見えてくる。
‥‥はずだった。
少なくとも昨日までは。
「おい、行き止まりだぞ?」
「そ、そんなバカな!地図の見方を間違えたか?」
「いや、間違ってない。俺は昨日も来たからよく覚えてるが、確かにここにボス部屋が有ったはずだ」
ざわめく討伐隊を掻き分けて、ミゼオンが先頭に現れた。
「何をやっている!さっさと進まんか!」
「で、ですが隊長、ここは行き止まりです。地図を見る限りは間違ってはいない‥はずなのですが‥‥」
確かに目の前は壁になっており、ボス部屋らしき物は見られない。
「やむを得ん。手前の十字路まで引き返すぞ」
「了解です」
ミゼオン達はすぐに直前の分岐点である十字路に戻って来た。
「仕方ない。考えてる時間も惜しい、手分けしてボス部屋の捜索を行う!そこのお前達、左右に散ってその先を見てこい。残りの者は俺に付いてこい!」
「「「ハッ!」」」
入口側から見て右の通路を任された兵士は、通路の突き当たりまで来て首を傾げた。
「何だこりゃ?」
何故かというと、突き当たりの壁には謎かけのような言葉が記されていたからだ。
【押して下ちい】
この言葉が書かれているすぐ下に丸くて赤いボタンがある。
「どういう意味だ?」
兵士は考え込む。
パッと見は【押して下さい】にみえたが、よく見ると【押して下ちい】と書いてある。
つまりこれは、押して下さいとは別の意味を持つのではないか?‥‥と、兵士考えた。
だが残念な事に、これはただホークが文字って遊んだだけであり、特別な意味はない。
「押すべきか‥‥否か‥‥」
暫く悩んだ末、結局兵士はボタンを押さずに引き返して行った。
それを見たホークは地団駄を踏んで悔しがった。
「ねぇホーク。あのボタンを押したら何が起きるの?」
「上からタライが降ってくるんや。いや、来るはずだったんや!あのどヘタレが!押さずに帰りおってからに!」
どこまでもお笑いに走るホークだが、それに何の意味が有るのかという質問はしなかった。
何故なら、きっと何の意味も無かっただろうから。
もう一方で、十字路の左側を任された兵士も、突き当たりに記されてる言葉に考え込んでいた。
「どうすりゃいいんだ‥‥」
【押すなよ?絶対に押すなよ!?】
これが記されてるすぐ下に、赤いボタンが壁から突起していた。
いかにも押してと言わんばかりに。
「何というか、押すなと言われると、押したくなってくるな‥‥」
兵士は今、己と闘っていた。
どう見ても罠だ。
これを押すなんてとんでもない。
しかし、一刻でも早く押して欲しそうに物欲しげに見つめてくる(兵士の妄想)赤いボタン。
ここで押さなきゃ男が廃る!
「ええぃ、ままよ!」
ポチッ!
シーーーン‥‥
「な‥‥何も起こらない?」
かなり高い確率で罠だろうと践んでいた兵士だが、予想に反して何も起こらなかった。
‥‥と、思ったその時だ!
ゴゴゴゴゴコゴゴ‥‥‥‥‥
「な、何の音だ!?」
必死に辺りを見渡し変化を探る兵士。
そして天井を見上げると、天井が左右に割れていくのがわかった。
そのまま呆然と眺めていると、天井から大量の黒い液体が降ってきた。
狭い通路故に回避する事も出来ず、そのまま液体を被る兵士。
最初は毒かと思い狼狽えたが、身体に変化がない事に気付き、落ち着きを取り戻した。
「この液体は何なんだ?」
正体不明の謎の黒い液体、実はこの液体は墨汁である。
なので当然身体には何の影響もない。
結局何がどうなってるのかさっぱりわからず、顔面を真っ黒した兵士は首を傾げながら戻って行った。
「何で墨汁なのよ‥‥」
「いや、特に理由はないで?タライだけだと、芸がないと思われるさかいな」
そもそも誰も芸だとは思ってないだろう。
それとは別に予想外な事が起きた。
墨汁を被った兵士が戻ると、丁度反対側から戻って来た兵士と鉢合わせし、魔物と勘違いされて斬りかかられるという場面があったのだ。
だがそれらはまだましだった。
一方でミゼオンの部隊は大変な目に合っていたのだ。
続く




