お土産と置き土産
ロザンを叩きのめした次の日。
アイリはディスパイルと妹のキャメアンと共に街に来ていた。
キャメアンとはすっかり仲良くなり、昨日の模擬戦の後はキャメアンの部屋で話し込み、そのままキャメアンの部屋で寝たのだった。
「それにしても昨日は凄かったよね!あの消える魔法‥‥なんだっけ?」
「シェマーね。ちょっと使うタイミングが難しいけども」
「そうそれ。もう本当に感動したわ!もしかしてお兄ちゃんより強いんじゃない?」
キャメアン、それに触れてはダメよ。
私としてもディスパイルの心をへし折るつもりはないからね!?
既にアイリはディスパイルも鑑定済みなので、ディスパイルの強さも知っている。
鑑定結果は当然アイリの方が遥かに強かった。
「そんな事よりキャメアン、なんで俺達に付いてくるんだ?」
若干不機嫌そうにディスパイルが尋ねる。
それもそのはず、ディスパイルにとってはアイリと過ごす貴重な時間であり、そこへ妹に割り込まれては、たまったもんじゃない。
「何よーぅ、別にいいでしょ?それに今日で帰っちゃうって聞いたよ?」
元々1泊2日の予定だったので、今日でアイリとはお別れという事になる。
とはいえ、既にこの国の座標は覚えたので、アイリなら来ようと思えばいつでも来れるのだが。
「それにお兄ちゃんは最近頻繁にアイリちゃんと会ってたんだよね?」
「むぐっ!」
既にお察しの通り、ディスパイルは自国にアイリを誘うため頻繁にダンジョンに顔を出していた。
なので少しくらい自分もアイリと接してもいいではないか‥というのがキャメアンの主張だ。
だがディスパイルとしても、アイリに会うためには一応の理由が必要なため、考えに考えて理由を見いだしアイリに会ってたのである。
その涙ぐましい努力がお前にわかるかと心の中でディスパイルは愚痴った。
「まぁまぁ良いじゃない。こうして知り合えたんだし、また遊びに来るから」
「ホント!?アイリちゃん大好きっ♪」
ガバッと大胆にアイリ抱きついてるキャメアンを見て、ちょっと羨ましいと思いつつ、ハッとなり首を左右に振るディスパイル。
「‥‥コホン。キャメアン、人通りの多い場所ではしたないぞ。ほら、早く行こう」
「あ、そうね、私ったら」
テヘ♪っと舌を出して笑うその顔はまさしくテヘペロだと思ったアイリだが、言ったところで理解されないので言わなかった。
それから少しだけ歩くと、見晴らしの良い丘に出た。
丁度ディスパイルの住んでる街を見下ろす形になっており、デートスポットの1つだ。
‥‥と、キャメアンがアイリに教えた。
「いい眺めでしょーぉ?夜も絶景なのよ!」
確かにいい眺めよね。
何となくお昼寝したくなる感じに。
街の先に海が有るのも大きいわね。
この街‥‥いや、この国のどこかにミゴルさんも居るんだろうか?
「ねぇ、ミゴルさんもどこかに住んでるの?」
「いや、ミゴル様は邪神レグリアス様の専属だから、普段は神殿に居るはずだ」
えーーっ!?‥‥ミゴルさんて、もしかしなくても凄く偉い人?‥いや悪魔族?
というか何でそんな偉い人が私のダンジョンに来たんだろ?
たまたま暇だったから?
‥‥うーん、わかんない‥‥。
それにそもそも私がこの国に居ていいんだろうか?
座標で確認したけど、この国は地上の人達では絶対に辿り着けない場所にある。
そんな所にダンジョンマスターとはいえ人間が入り込んでる事になるんだけど。
「問題ないよ?外の国から招待される人は結構いるし」
「そうなの?」
「現にこうしてアイリを招待してる訳だ。問題なぞないさ。それにな‥‥」
そういってディスパイルは口ごもる。
「それに?」
「あぁ‥‥その‥な。た、例えばだが、その‥‥外の国から、な‥‥えーと、婿や嫁を貰う事もあるからな。まぁ、悪魔族以外が居ても可笑しくはない。あのミゴル様も天使族とご結婚なされてる」
そっか‥‥悪魔族だけで繁栄してる訳じゃないのね。
それにしても‥‥
「ミゴルさんが天使族と結婚してるのは驚きだわ」
これにつきる。
紳士的な感じだったけど、紳士的な顔で天使族の女の子を口説いてたんだろうか?
ちょっと想像出来ない。
「だが別に可笑しな事じゃない。だから‥‥な、べ、別に悪魔族と‥人間が結婚するのもな‥‥可笑しくはないんだ、うん」
ふーん?
まぁそうよね、最初に天使族と魔族が結ばれたんだし、可笑しくはないわ。
「うん、そうね。他の種族と交流があるんだものね」
「そ、その通りだ!」
いずれ私のダンジョンに色んな人達を住まわせたいと思ってるから、交流は必要な事よ。
それにこの国もまだ一部しか見て回ってないしね。
また時間を作って遊びにこよう!
このきっかけをくれたディスパイルには感謝しないとね。
だからしっかりとお礼は言っておこう。
「誘ってくれて有難うディスパイル」
「そ、そうか?」
「‥‥ねぇ、ディスパイル。私達これからも」
「う、うむ‥‥」
「良いお友達でいましょう!」
アイリからのこれ以上無いくらいの笑顔で言われた言葉だった。
「お‥‥ぉ‥ぉぉ‥‥」
そしてその言葉を聞いて真っ白に燃え尽きたように立ち尽くすディスパイルと、アチャ‥という感じで額に手をあてるキャメアン、更にそんな2人を見て首を傾げるアイリの図が出来上がった。
その後も街を散策したのだが、アイリとキャメアンが楽しそうに話してるのを余所に、ディスパイルはどんよりと沈んでいた。
「ねぇキャメアン、ディスパイルは具合でも悪いの?」
「‥‥そ、そうね。ちょっと衝撃が強かったみたいだから。今はそっとしといてあげて?」
「そう?ならいいんだけど‥‥」
アイリも気になって聞いてみるも、今はそのままにしておくしかなさそうだったので、結局放っておく事にした。
「あ、そうだ!眷族達にお土産を買って帰りたいんだけど、何かお薦めの物ってない?」
「お土産かぁ‥‥。といっても、さほど珍しい物は‥‥あ、アレがいいかも!」
そういってアイリとディスパイルの腕をを引っ張って走り出すキャメアン。
程なくして1件の土産屋についた。
そしてそこに並んでたのが、様々な形をしたクッキーだった。
「ここなんてどう?色んな魔物達がクッキーにされたやつなんだけど。眷族のお土産ならピッタリじゃない?」
キャメアンの言う通り、これならそれぞれに近い形をしたクッキーを選べる。
「うん、お土産にはピッタリだわ!有難うキャメアン!」
「どういたしまして♪」
うんうん、魔物の数だけ‥って訳じゃないんでしょうけど、かなりの種類のクッキーが有るわね。
モフモフとクロのは同じやつになっちゃったけど‥‥ま、いっか!
後は‥‥あぁそうだ、アイカの分はどうしようかなぁ‥‥さすがに私にそっくりな魔物はいないだろうし‥いや、居ても困るから居なくていいんだけどね。
‥‥ホントに居なくていいからね!?
‥‥ホントにお願いします。
フラグになりませんように。
フラグになりませんように。
フラグになりませんように。
‥‥っと。
これだけ拝んでおけば大丈夫よね?ね?ね?
アイリがクッキーを選んでる間も、ディスパイルは終始燃え尽きたままだったが、さすがそろそろ戻さなきゃと思い、無理矢理話題を作ってディスパイルに振った。
「ねぇ、そういえば昨日の2人‥ビレクとナンシーはどうなったの?」
「あ、あぁ、あの2人なら家族を含めて保護したよ。どうやら人間と悪魔族のハーフだったようで、人間とのハーフだと差別を受けやすいんだ‥‥悪魔族ともあろう者が差別とは‥恥ずかしい話だが‥‥」
まぁ差別ってどこにでも有るって言うしね。
でも無事なら良かった。
さて、お土産も買ったし、そろそろ帰ろうかな。
「じゃあそろそろ帰るわね。ディスパイル、今回は色々と有難う。また遊びに来るからね?」
「あぁ、またいつでも来てくれ!」
一応何とか復活したディスパイルに笑顔で話すアイリ。
ディスパイルも幾らか気持ちに余裕が生まれ、笑顔で応える。
「キャメアンも元気でね?また来るから」
「うん、約束だよ?」
また来る事を約束し、そのまま自分のダンジョンへと転移するアイリであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「そんな事があったのか」
「ええ。少なからずショックを受けてるようですわ」
アイリが帰った後、ディスパイル達も屋敷に戻っていった。
帰って来た2人を見た母のユノルーサは、いつも通りのキャメアンとは対称に、暗く沈んでいるディスパイルに気付いた。
本人に理由を聞いても何でもないとしか言わないので、仕方なくキャメアンに聞いた事により、アイリとの会話のやり取りが明るみになったのだ。
「ふん。まったく、我が息子ながら情けない。それしきの事で落ち込むなど」
「まぁまぁ。あの年頃なら仕方ありませんわ」
落ち込んでる理由を知ったルードガルとユノルーサは苦笑いをしたが、ディスパイル本人にとっては重大事件に他ならない。
「それにアイリちゃんもまた来たいと言っていたようですし、その内立ち直るでしょう」
「む、そうか?‥‥それならいいが」
「ご心配ですか?」
「そ、そんな事はない!それしきの事、自分で何とかすべきだからな!」
等と言ってはいるが、ルードガルは同じ男として息子に少々同情していた。
何だかんだ言って息子が心配なのだろう。
「コホン‥‥。それより、ロザンが真面目に訓練を行ってるそうではないか?」
とりあえず話題を変える事にしたルードガル。
その話題はロザンについてだ。
「そのようですよ。ただ‥‥」
「ただ‥‥なんだ?」
「兵士長のカノラッソが言うには、奇妙な事を始めるようになったとか」
「奇妙な事だと?」
アイリに伸されてからロザンは、進撃に訓練を行うように成った。
これ自体は喜ばしい事だ。
しかしその反面、奇妙な行動をとるようになってしまった。
話だけだとどうも要領得ないという事で、ルードガル自身でその様子を伺う事にした。
「あれは‥‥一体何をやっておるのだ?」
「それが‥‥本人が言うには、強くなる秘結らしいのです」
問われた兵士長のカノラッソだが、兵士長の方もよくわからないらしい。
「アレがか?」
「‥‥はい」
ルードガルの視線の先では、ヨガ体操もどきのポーズを決めてるロザンがいた。
そのロザンは、右手に花瓶を、左手に水差しを、そして両足に絵画を挟んだポーズを維持していた。
ロザンが偶然メイド達の話を聞いて、これは究極の精神統一法に違いないと思い込み実践してるのだ。
そしてこれを期に、この精神統一法が徐々にこの国で広がっていくのであった。




