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昼食の後は

「中々美味しかったわね!」


「そ、そうか。喜んでもらえてなによりだ」


 昼食の後、再びアイリ達は街をぶらつき始めた。

 アイリが食したランチメニューは、アイリの口に合ったらしく上機嫌の様子。

それを見てディスパイルも安堵しつつアイリと並んで歩を進める。

当然アイカのドローンも尾行している。


「それにしてもアレね。悪魔族って見た目は人と殆んど変わらないのね?」


「そうかもしれん。元々悪魔族は、天使族と地上に生きる者達のハーフだからな」


「え!そうなの!?」


 ディスパイルの言葉に驚くアイリだが、驚くのも無理はない。

アイリはこのイグリーシアという世界について知ってる事はそれほど多くない。

寧ろ知らない事の方が多いだろう。

 当然世界史についても同様で、種族同士の交流や確執等は何も知らないも同然だった。


「む?知らなかったのか?」


「‥‥ええ。私は違う世界から召喚されたらしくて、この世界の事って知らない事が多いのよ」


 アイリの異世界人カミングアウトに少しだけ驚くディスパイルだが、他にも召喚された人が多くいるらしく慣れた様子だ。


「‥‥そうだったのか。なら知らないのも仕方ないな。それなら何故我々がダンジョンに関わってるかも知らないという事か?」


「そうなのよ。今まで特に気にしてなかったけど、改めて考えると何故って思えてくるわね。‥‥ねぇ、どうしてダンジョン運営に関わってるの?」


「それはだな‥‥」


 ディスパイルが歩きながら語った内容だが、まず始めに天界の話になった。

 それによると、イグリーシアを管理維持してるのは天界に居る神々であるという事。

そして天使族は神の手足となり、地上での任務に(おもむ)いているそうだ。


「要するに神々が上司で、天使族は部下って事ね」


「まぁそのようなものだ」


 だがある時、1人の天使族の女性が地上に居る魔族の男性と恋仲になった。

そして天使族の女性は、そのまま地上の魔族の男性と生活したいと神に願い出たそうだ。


 だが神々の返事はNO。

NOと言ったらNO。

神々がNOと言えば例え天地がひっくり返ってもNO。

NO we can

Do you NO ok?

それでも食い下がった天使に神々は怒り、天界から追放し、2度と天界に戻る事は許さかった。


「何て言うか、実家を勘当された娘みたい」


「実際それに近いものだろう」


 天使族の1人が地上の者と暮らし始めた。

その事は他の天使族にも伝わり、大きな反響を呼んだ。

とはいえ反響の殆んどが、その女性天使を非難するもので、肯定的な意見は皆無に近かった。

 その時に追放された女性天使の事を、悪い天使が魔族に寄り添ったという事で、悪魔と呼ばれるようになったのである。


「成る程‥‥。確かにディスパイルの祖先は天使族って事になるわね」


「うむ。悪魔族とはその時の名残で呼ばれ続けてるな。今は差別用語ではないが」


 だがその後にも、地上に居る者達と添い遂げる天使族が現れ始め、悪魔と呼ばれる天使族は増え続けた。

 そして徐々に天使族と悪魔側との確執は広がり続け、ついにある事件が発生するが‥‥。


「この先は‥‥今は止めておこう。折角の楽しい時間に水を差す事になるしな」


「そう‥‥。あ、要するに、悪魔族は元は天使族だから、天使族と同じような事をしてるって訳ね?」


「頭の回転が早いな。アイリの言う通り、今では確執は無くなり、天使族と共にダンジョンに携わっている。元々神の命令で地上を管理してたからな。その中にダンジョンの管理も含まれていたのさ」


 悪魔族の事に関しては理解できた。

だがアイリにはもう1つの疑問が浮かんだ。


「今の話しって、私にしても大丈夫だったの?」


 アイリ自身は下界の者になる。

今の話しの内容は、とても周りに話せる内容ではないと感じていた。


「いや問題ないぞ?知ってる者は知ってるし、知らない者は知らないだろうな。もう何千年も前の話しだ」


「う‥‥凄く長い歴史ね‥‥」


「まぁな。‥‥さて、話してると喉が渇いてきただろう?何か飲み物を買ってくる」


「うん、有難う!」


 ディスパイルは‥‥あ、少し離れたとこにある、露店に向かったんだ。

 それにしても以外ね。

悪魔族って想像してたのと全然違うじゃない。

もっと禍々しい雰囲気のを想像してたんだけども。

 周りの人も普通の人間と変わらないように見えるし‥‥ん?あれは‥‥。


 辺りを見渡してると少年と少女の2人が、5、6人の少年達に無理矢理物陰に連れて行かれたところだった。

パッと見だと遊んでるのと区別がつかないかもしれない。

 だがこの時アイリは直感的に不安を覚えた。

少年と少女に危機が迫ってると感じ、彼等の後を追って行った。




「おい、さっさと出せよ!」


 1人の少年が複数の少年達によって、一方的に暴行を受けていた。


「も、もう無理だよ、これ以上取られたら‥‥生活出来な「黙れよ!お前の生活なんて知るかよ!」


「そうだ!お前みたいな人間ごときのハーフが口答えするな!」


 何度も殴られ続け、(うずくま)る少年。

 尚も殴られそうになったところで少女が止めに入った。


「もうやめて!お願い!」


 悲願する少女に嫌らしい笑みを浮かべる少年達。

その中のリーダー格と思われる少年からとんでもない言葉が飛び出てきた。


「止めてもいいけど、条件があるぜ。そうだな‥‥お前が一生俺達の奴隷になるなら止めてやるよ!」


 アイリと大して変わらない少年の口から、奴隷という単語が表れたのである。


「そんな!それは駄目だ!そんな事が許される訳がないだろう!」


 奴隷という言葉に飛び起きて少女を庇う少年だったが‥‥


「うっせーよ!」


「ぐうぅ!‥‥」


 蹴られて再び(うずくま)ってしまった。


「お願いだから止めて!奴隷でも何でもなるから!」


「だ、駄目だ‥ナ、ナンシー‥‥」


 そして少年の次の言葉で、アイリの怒りのボルテージが羽上がった。


「ふん。最初からそう言えばいいんだよ。()()()()()()()()()()なぁ、()()()()()()()()()()()()()んだよ!」


 まるで()()()を見ているようだった。

何となく玉置錬三郎(たまおきれんざぶろう)の幻覚が見えてくる。

その幻覚がアイリを嘲笑っている。

 まるで【これが現実だ】と言わんばかりに。

 だがアイリは決めたのだ。

自分の出来る限りの事をやると。

 だから力に溺れてる奴は()()()()してやろうと思ったのである。


「待ちなさい、アンタ達!」


「うお!?‥だ、誰だ!?」


「誰でもいいわ!寄って集って1人をいたぶって、恥ずかしくないの!?」


 突然現れたアイリに驚くも、邪魔をされた事実を思い出し、すぐに罵声を浴びせ始めた。


「何だよお前、関係ない奴はひっこんでろよ!」

「そうだ引っ込め!」

「あっち行け!」

「‥‥あ、コイツ、人間だ!」

「「「「「え!?」」」」」


 少年達の中の1人が、アイリが人間だと気付く。

 その少年の発言により、少年達はもとより少女と(うずくま)ってた少年までが驚いている。


「人間だから何だって言うの!?これ以上この少年を苛めるなら、私が相手になってやるわよ!」


 威勢よく少年達の前に躍り出たアイリだったが、少年達はそんなアイリを嘲笑った。


「おい、聞いたか?この人間が相手になるってよ!」

「マジかよ!」

「どんだけ頭が悪いんだコイツ!」

「「「「「アハハハハハハ!!」」」」」


 アイリは知らなかったが、悪魔族と普通の人間では力の差があり過ぎるのだ。

 元はと言えば、悪魔族も天使族である事に変わりはない。

 天界の神々に遣えてるだけあって、天使族は人間とは比較にならないくらい強い。

悪魔族も、天使族ほどではないにしろ、人間よりは遥かに強かった。

 ただしそれは()()()()()を比較した場合に限る。

 つまり、()()()()した人間が相手なら話は違ってくる。


「お前みたいなただの人間が、俺達悪魔族に敵う訳ないだろ!」


「怪我したくなかったら、さっさと帰れよ!」


 まるで相手にされずバカにされたアイリだが、アイリ自身は落ち着いていた。

そして落ち着いて少年達を挑発した。


「ふーん、つまり、普通の人間である私に負けるのが怖いのね‥‥臆病者が」


 最後の方はボソッと言ったが、少年達にはしっかりと聴こえていた。


「な!?‥臆病者だと?‥‥ふざけた事を言いやがって!そこまで言うなら相手になってやる!」


 そう言うや否や、リーダー格の少年が殴り掛かってきた。

 だが‥‥


「遅い!」


 少年が伸ばした腕を殴りつけ、足払いで転倒させる。

更に倒れた少年の腕を踏みつけた。


「ぐうぇーっ!イタイイタイイタイ!」


「アンタさっき言ってたわね?弱者は黙って強者に従ってればいいって。‥‥で、改めて聞くけど、アンタの今の立場はどっちなの?」


「じ、弱者です‥‥ぅイタイイタイイタイ!」


 再び足に力を込めて踏みつけるアイリ。

そして先程よりも少年に近付き問い掛ける。


「だったら私の言う事を聞くべきよね?」


「聞く!聞くよ!聞くから踏まないでくれ!」


 ここでようやくアイリは足を離した。


「この少年‥‥ビレクから、今まで巻き上げたお金を全て返しなさい」


 ビレクと言われて先程暴行を受けていたビレクという少年は、え?っという顔をした。

何故名前を知ってるのかという疑問を持ったはずだが、アイリが鑑定スキルを持ってるとは思ってもみない事なので仕方ない。


「む、無理です。既に使っちゃったし‥‥」


 まぁそうだろうなと思ったアイリだが、そうなるとこれからどうすればいいかで頭を悩ましてると、遠くからアイリを呼ぶ声が聴こえてきた。

 誰の声‥とは愚問だろう。

声の主はディスパイルしかいない。


「アイリ!ここに居たのか‥‥これは、どういうことだ?」


 状況が飲み込めないディスパイルが首をかしげながら尋ねてくる。

なのでアイリはディスパイルが離れてからの事を、かい摘まんで話した。


「わかった。この件は俺が預かろう。‥‥おい、お前、確かデークイルとか言ったな?」


「ははは、はいぃぃぃ!」


 やけに怯えてるように見えるのは、気のせいではない。

颯爽(さっそう)と現れたディスパイルは、少年達から見るとアイリの恋人のように見えるので、その恋人に逆らうとアイリからどの様な仕打ちを受けるかわからないため、戦々恐々としていた。

 アイリが知ったら更に怒りそうだが。


「後程出頭命令が出るだろうから、それまで自宅で待機してろ。他の者達も同様だ」


 こうして少年達を一旦帰して一応は落ち着く事が出来た。

 だが落ち着けない者も居た。


「あ、あの‥‥ごめんなさい。折角誘ってくれたのに、変な事に巻き込んじゃって‥‥」


「かまわないさ。それに見過ごせなかったのだろう?」


「うん‥‥」


「少なくとも、あの‥‥ビレクとナンシーだったか?‥あの2人を助けられたんだ。それにあの少年達を厚生する事も可能だろう」


 少年達を厚生出来る。

それを聞いて少し楽になった。

 少なくとも玉置錬三郎のようになってほしくはないのだから。


「さ、だいぶ日が落ちてきた事だし、そろそろ帰ろうか」


「うん」


 晴れやかな顔に戻ったアイリの手を握り、ディスパイルは歩き出した。

この後、帰った場所でまた一波乱あるのだが、今はそっとしておこう。


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