司令官
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「ちっ、この非常時に侵入者か」
ユーリのダンジョンからダンジョンコアを奪う事に失敗した謎の黒装束達。
その黒装束達を動かしていたのは、司令と呼ばれる男であった。
その司令の元に出現した記録石を確認したところ、黒装束達はデルタファングによってその命を刈り取られた事を知った。
そしてそのデルタファングからのメッセージが【次はお前達だ】というものだった。
記録石を通して念話を送ってきたデルタファングに恐怖しつつも、何とか逃げ延びる方法を模索しようとしたのだが‥‥。
「ジード、もしもここにデルタファングが現れた場合、ダンジョンコアを持って脱出する。つまりこのダンジョンは放棄する事になるという事を心得ておけ」
「畏まりました」
こうなると次のダンジョンを作る候補地を調べねばならんな。
なんとも骨の折れる事だ。
デルタファングに目をつけられた以上、この国に居座るのは危険だ。
1度チョワイツ王国かプラーガ帝国に向かい、そこで暫し潜伏するのが無難か。
『司令、第一防衛ラインが突破されました』
「な!?‥‥それは本当なんだな?」
『間違いありません。侵入者は途中に有る宝箱は無視し、真っ直ぐこちらに向かって来てます』
「‥‥‥‥‥」
たった今声を上げたのは、壁に埋め込まれた大きめの赤い宝石、つまりダンジョンコアであった。
そしてダンジョンコアが報告をした相手が、司令と呼ばれる中年の男。
つまり、この司令という男はダンジョンマスターという事になる。
『侵入者は第二防衛ラインに到達。間も無く突破されると思われます』
攻略狙いの冒険者か‥‥。
この忙しい時に面倒な!
「ジード、眷族を全員ここへ集めろ。それ以外の者は侵入者の迎撃にあたれ!」
「「「了解!」」」
移動するとなると、プラーガ帝国かチョワイツ王国か、若しくは山を越えてグロスエレム教国か。
山越えをする手間を考えるならグロスエレムは無しか。
そう思考してるとコアルームの扉が勢いよく開いた。
「司令!大変です!悪魔族の者共が攻めてきました!」
「悪魔族だと!?何故だ!何故この場所がバレたのだ!?」
「そ、それはわかりかねます‥‥」
くそっ、冒険者ではなく悪魔族の連中だったとはな‥‥。
この場所がバレたのは不明だが、それよりも今は‥‥
『司令、第三防衛ラインも突破されました』
ええぃくそっ!時間が惜しい!
「し、司令!グスタフとアーサーが討たれました!間も無く最終防衛ラインも突破されそうです!」
「な!?」
戻って来たジードから衝撃の事実を伝えられた。
まさか‥‥まさか眷族を2機も失ってしまうとは‥‥。
『司令、最終防衛ラインも突破されました。間も無くコアルームに到達されます』
最終防衛ラインが破られたという無情な報告がダンジョンコアから成されるた。
なんという事だ!いくらなんでも早すぎる!
これではここから脱出するなど‥‥
「逃がさねぇぞ、レン!」
「何者だ!?」
名を呼ばれ振り向くと、そこには見た事がない少女と見知った顔があった。
「悪魔族のディスパイルだ!俺を忘れたとは言わせねぇぞ!!」
黒装束の司令がコアルームで追い詰められる2時間ほど前、アイリ達は再びソルギムの街に来ていた。
来た理由は当然、ギルマスのブラードに黒装束を見てもらうためである。
「見られてますね、お姉様」
「‥‥そうねぇ」
ソルギムの街に着くと、私とアイカの顔がすっかり知られてて、身分証であるギルドカードを出さなくても、そのまま中に通されてしまった。
いわゆる顔パスというやつね。
そして冒険者ギルドにやって来たんだけど、そこに居た人達が私とアイカを遠巻きに見ているのよ。
「ダメですね。そんな遠巻きに眺めてるだけでは、お姉様のハートを掴む事は到底叶わないでしょう。気になるならもっと積極的に話し掛けるべきですね」
「いや、絶対違うと思う‥‥」
ここにいる人達は私が気になるとかじゃなくて、怖くて近寄りがたいんだと思うわ。
まぁ別の意味で気になってるのは確かだろうけど。
間違いなくこれはブラードさんがモフモフの事を周知させたからね。
「すみません、お待たせしました。ギルドマスターがお会いになるそうです」
「有難う。じゃあ行くわよアイカ」
「はい、お姉様」
私達が2階に向かった瞬間、1階の空気が軽くなった気がしたのは、気のせいという事にしてほしい‥‥。
「よう、また来たのか。今度はどうしたんだ?」
ブラードさんって物怖じしない性格よね。
昨日モフモフを見せたのに、全然怖がる事がないもんね。
これは是非下に居る冒険者達にも見習ってほしい‥‥けど無理ね‥‥。
「実はコレを見てほしいのよ」
そう言って黒装束と、奴等の武器にしてたダガーを見せてみる。
「これは‥‥これは何なんだ?」
うーん、やっぱりコレを見ただけじゃわからないかぁ。
多分、普段は普通の格好をしてたと思うのよね。
だからこの装備品を見てもわからないかもしれないなぁとは思ってた。
「実はね、昨日の夜にまた襲撃されたのよ」
「何だと!?‥‥だがこのギルドに来てる連中には、大体伝わってるはずだが‥‥」
‥‥でしょうね。
1階の様子を見る限りだと、周知されてると見れるわ。
「この襲撃者たちは全員この黒装束を着てて、この毒を塗ってあるダガーを装備してたのよ」
「ちょ、お前、こっち向けるな!」
おっと危ない、無意識に刃先を向けてしまってたわ。
「ふぅ‥‥って事はアレだ。いかにも闇に紛れこめるような格好で、毒を塗ったダガーを使うって言えば‥‥」
「「闇ギルド」」
ブラードさんと私の声がハモった。
「成る程な‥‥実はよ、朝方領主の私兵がやって来てな、エルドレッド子爵が牢の中で死んでるのを発見したんだとよ」
「え?あの頭悪そうな貴族が殺されたの?」
状況的にかんがえて、口封じされた可能性が高いわね。
「頭悪そうってお前‥‥まぁ良くはなかったがな」
じゃあ間違ってないじゃない。
頭が良かったら、リスクを負うような事はしなかったでしょうしね。
「もう数日で騎士団が来るってのによ、釈明しなきゃならねぇってんでエルドレッドの屋敷の方じゃ大騒ぎよ」
それは大変ね。
でも私達には関係な‥‥あ、そうだ!
「忘れてわ。ブラードさん、この黒装束を着てた連中の亡骸があるんだけど、エルドレッドを殺した犯人達って事で、騎士団に差し出したらどう?」
そう言って私とアイカは、すっかり干からびてしまった黒装束達の亡骸をブラードさんの前に広げた。
「‥‥おいおい、コイツぁ生きてたのか?こんな状態の亡骸なんざ見た事がないんだが」
「毒か何かの影響でしょ。じゃあ確かに渡したわよ。これからコイツらのアジトに挨拶しに行ってくるから、今日このへんで失礼するわね」
「おう、そうか。また何かあったら来いよ。出来る限りの事はしてやる。まぁお前さんに手を貸す必要はないかもしれんが」
中々嬉しい事を言ってくれるわね。
ブラードさんがもっと若かったらなぁ、惚れてたかもしれない‥‥いや本当に。
「必要になった時はお願いするわ。私としては、普通の人達と共存していきたいもの」
「そうか。全てのダンジョンマスターが、お前さんみたいな奴等だといいんだがな‥‥」
その後昨日と同じように一言二言話してからギルドを後にした。
「姉御!アンジェラのやつに黒装束共の居場所を探知させましたぜ!いつでもカチコミ出来やす!」
「うむ。腐乱が激しかったが、亡骸から同調しておった奴の居場所がわかったぞ。名前はレンという男のようだ。しかもコヤツはダンジョンマスターじゃの」
本当にモフモフは戦闘狂ね‥‥。
私のダンジョンに戻って来てからの最初の言葉がアレよ。
それに亡骸の一部を持ち出してたと思ったら、まさかアンジェラに探知させてたとはね。
これは私には思い付かなかった方法だわ。
どのみちこれから黒装束共のアジトを調べるつもりだったし、モフモフグッジョブって感じかな?
「まぁまぁ落ち着きなさい。アイカ、ミゴルさんとの通信は?」
「はい。レンという男のダンジョンマスターが、ダンジョンコアを狙っていたという事を伝えました。どうやらミゴル殿はレンという男に用があるらしく、今からこちらに‥‥どうやらミゴル殿が到着したようです」
前から思ってたけど、ミゴルさんの行動早すぎでしょ!
いや、速すぎると言うべきね。
ちなみにだけど、本来ダンジョンコアがダンジョン通信を使う事は出来ないはずなんだけど、自動人形の状態ならダンジョン通信が使用可能な事が判明したので、アイカもちょくちょくダンジョン通信を使うようになったみたい。
「失礼します、アイリ様。ご報告にありましたレンという者の居場所を突き止めたという事でしたが、誠で御座いますか?」
「ええ、間違いないわ。眷族のアンジェラが探知してくれたの。ところで、後ろの方は?」
恐らくミゴルさんの部下なんだろうけど、さっきから急かすような雰囲気を感じるのよ。
「俺は悪魔族のディスパイルって者だ。レンって奴に借りがあるんだ。だからすぐ「落ち着きなさいディスパイル」
急かそうとするディスパイルをミゴルさんが押し留める。
雰囲気からして仲間の敵討ちだろうか?
「す、すいません‥‥」
「何か事情が有りそうね。私としては危険が排除出来ればそれでいいから、レンの処遇は任せるわ」
「あ、有難う、恩に着るよ!」
さてと、じゃあさっさとレンって奴を捕まえにいきますかね。
「アンジェラ、案内お願いね」
「うむ、妾に任せるがいい」
と、そんなこんなでレンのダンジョンに着くと、ディスパイルとモフモフとアンジェラが瞬く間に防衛ラインを突破していき、気付いた時にはコアルームの中にレンと思われる中年の男と眷族らしい若い男を発見したのだった。
「‥‥どうやらこれまでのようだな」
「司令‥‥」
なんか拍子抜けするくらいあっさりと諦めたわね。
「貴様には借りがある。戻ったら全て白状してもらうぞ!」
「‥‥ふん、いいだろう」
ディスパイルが語気を強めるも、特に狼狽える事もなく了承するレンという男。
そのまま男を連行していこうとしたので急いで呼び止める。
私もコイツには聞きたい事がある。
「何故ダンジョンコアを狙ったの?」
「何故だと?そんなもの決まってるではないか。生きるためだ」
レンはそんな事を聞いてどうするのかと言わんばかりに答える。
「え?どういう事よ?」
「ふん、何も知らんのだな小娘が。ならば教えてやる。弱き者は強き者に屈するべきなのだ!そして強き者が未来を切り開く!」
何?一体コイツは何を言ってるの?
「わからんという顔をしてるな。ならば俺の質問に答えてみろ。自分の部隊の食糧が底をついた、だがすぐ近くに別の仲間の部隊が居て食糧を持っていたとする。ただしそいつらもギリギリの状態だったとしよう。さて、貴様ならどうする?自分と部下を救うため食糧を奪うか?それとも諦めて飢えるか?」
二者択一って事ね。
でもこの男の言う状況なら‥‥奪う?
いや、でも自分達と引き替えに相手を殺してしまう事に‥‥。
つまりそれは、自分が生きる為に相手を殺す事が正しいって事?
それって、コイツの言ってる事が正しいの?
あぁ、なんかわかんなくなってきた‥‥。
「ふん、答えられないか‥‥。所詮は貴様も綺麗事を頭に浮かべてるだけにすぎんという事だ」
「お姉様、大丈夫ですか?」
いけない!こういう時こそ落ち着いて、冷静に冷静に。
「何よ軍人みたいな事を言って。今は戦時中じゃないでしょ?」
「こちらではそうだろうな。だがあちらでは違ったよ。弱肉強食、世の中は食うか食われるかだ。この世界も今は平和かもしれん。だか平和とは永遠のものではない。いつかは崩れるのだ」
あちらね。
コイツは間違いなく‥‥
「薄々気付いてたけど、アンタは日本人ね?」
「如何にも。向こうと同じように名乗ろう。大日本帝国陸軍中部方面軍第16号基地司令部司令官の玉置錬三郎だ」
「天前愛漓、一般人よ‥‥」
「ふん、やはり一般人だったか。愛漓よ覚えておけ。少しでも繁栄を続けたいと思うならば、弱者を排除し強者を集めるのだ。弱者は所詮は強者の糧に過ぎんという事だ」
「おい、もうそろそろいいだろ?早く連れて行きたいんだが」
ディスパイルに言われて気付いた。
結構時間を取らせてたみたい。
「ええ、もういいわ」
玉置錬三郎はディスパイルとミゴルさんに両サイドを挟まれた状態で連れてかれた。
はぁ‥‥何だか気が重い。
凄く疲れたような気がする‥‥。
「お姉様、わたくしが以前質問した時の事を覚えてらっしゃいますか?その時お姉様は、地上の国々と共存を望むとおっしゃいました。素晴らしいと思いますよ。誰にでも出来る事じゃありません。だったらお姉様がやればいいのではないですか」
「うん、そうね、そうだったわ。出来るだけ共存を望んでるんだったわ。だから出来ないならば仕方ない。私の出来る事をすればいいのね!」
「そうですよお姉様!」
「俺はどこへでも付いていきやすぜ!」
「うむ。悩んでるのは主様らしくないしの」
なんだか悩んでるのがバカらしくなってきたわ。
そう考えるとお腹すいてきちゃた。
「帰ってお昼にしましょうか」
アイカ達の励ましにより、軽い足取りでダンジョンに帰って行くのであった。
注)
この司令官は実在してません。
作者による想像上の人物です。




