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理解するバカ、しないバカ

「この先を10分程歩けばソルギムの街に着くはずだ」


「じゃあもうすぐね」

 今アイリ達は、エルドレッドの私兵に街まで案内させていた。

目的は、冒険者ギルドと交渉し、ユーリのダンジョンを不可侵にするよう要求するためである。

 ちなみにエルドレッドは未だに気絶してたりする。


「ところで、ユーリ様のダンジョンは大丈夫でしょうか?他にも侵入者が現れたら、危険だと思われます」


 ユーリのダンジョンにはユーリ本人と、コアルーム防衛のため、クロをダンジョンに残して来ている。

 早々侵入者は来ないと思うけど、もし強そうな侵入者が来たら転移して戻ればいいし。


「まぁクロなら大丈夫でしょ。それより、あの兵士達がアイカを見る目が、神を拝んでるような感じに見えるんだけど?」


「礼拝ですね。わたくしは拝まれる様な事はしてませんが」


 私兵達はアイカの持っていた上級ポーションにより回復したが、アイカはアイリの指示に従っただけである。

 しかし私兵達にとって、アイカに助けられたという事実が重要な訳で、結果としてアイカに対して信仰心に近いものが芽生えたのだ。


「それよりお姉様、街が見えてきましたよ」


「‥みたいね」


 けどこのまま街に入ると、モフモフの正体に気付かれた場合にパニックになりそうね。


「モフモフ、私が許可するまで特殊迷彩(ステルス)使ってて」


「了解ですぜ」


 これで大丈夫ね。

滅多な事がない限り、モフモフの存在に気付かれる事はないはずよ。


「その代わり、周りの兵士達がモフモフが消えた事に動揺してる様ですが‥‥」


 そっちは考慮してなかったわ‥‥。


「アイカから説明しといて。あの兵士達は、アイカの言う事なら信じそうだし」


「わかりました」


 そうこうしてる内にソルギムの街に到着したアイリ達。


 だが、ここからが大変だった。

まずは門番に止められ、何故エルドレッドが気絶してるのか問い詰められる。

ソルギムの領主はエルドレッドなので当然と言えば当然だ。

 詳しい事は冒険者ギルドで話すと伝えるも、あからさまに怪しい私達を街に入れる訳にはいかないと拒否される。

それならばと、エルドレッドを置いて一旦出直すと伝えるも、事情を詳しく聞かなければならないからと詰所まで同行するよう言われる。

 だから冒険者ギルドを交えて話すっつーの!とアイリお怒り。

それに対し、小娘が生意気だ!とアイリ達を捕らえようとする門番達。

 それに待ったをかけて、アイカ殿を護るぞ!と門番達と対立しだした私兵達。

 更に後ろから街にやって来た人達や、街の住人達が何事かと集まり出し、どさくさに紛れて無断で街に入ろうとする輩や、スリを働く輩まで現れ出して、街の入口は大混雑、大混乱に陥る事となった。

 結局騒ぎは、冒険者ギルドのギルマスが駆け付けるまで続いたのであった。




「さて、ここなら落ち着いて話せるだろう」


 冒険者ギルドのマスタールーム、つまりギルマスの部屋にアイリ達は来ていた。

 あの場に駆け付けたギルマスが、間に入って事情を聞くと言って仲裁し、門番を含むアイリ達を冒険者ギルドに連れて来たのだ。


「ごめんなさいね、あまり騒ぎにしたくなかったんだけど‥‥」


「まぁいいさ。普段は何もない退屈な街だから、たまにはいいだろ。ガッハッハッハ!」


 豪快に笑い飛ばしたこの男がギルドマスターのブラード。

元Aランクの冒険者で、冒険者時代の実績をかわれて、冒険者ギルドのギルドマスターをやっている男だ。


「ブラードさん。真面目な話だからよく聞いてね?」


「おう、話してみな」


「私はダンジョンマスターの天前愛漓(あまさきあいり)。アイリって呼んでちょうだい」


 アイリのカミングアウトにざわつく周囲。

だがギルマスのブラードだけは、驚きもせずアイリの顔から視線を外さなかった。


「‥‥まさかとは思うが、それを言うためだけに来た訳じゃないんだろ?」


「勿論、ここからが本題よ」


 そしてアイリの方もブラードから視線を外さず、ゆっくりと話す。


「この街から徒歩で1時間くらいの場所にダンジョンがあるわ。だけどそのダンジョンには冒険者を寄せ付けたくないのよ。勿論貴族もね。」


 貴族のところで貴族の例えをエルドレッドにするため、わざとエルドレッドに視線を向けながら話したアイリ。

それを見てブラードは何となく察した。


「寄せ付けたくない理由を聞いてもいいか?」


「今言ったダンジョンは別の人が管理してるんだけど、ダンジョンコアが奪われそうになったのよ。それが原因ですっかり怯えちゃったから、暫くはそっとしてあげてほしいの」


 暫くアイリの顔を凝視してたギルマスだったが‥‥


「成る程。嘘は言ってないな」


 何故わかるのかとは、あえて聞かない。

ベテランの勘か何かだろうと思ったので、アイリは特に聞く事はしなかった。


「だがダンジョンを発見した場合、ダンジョンは国の財産として管理される場合が殆どだ。いくら俺が止めたとろで、国が判断する事に介入は出来んぞ?」


「それでいいわよ。私としては、無益な殺生はしたくないから言ってるだけだし。大体ダンジョンコアを奪うような真似をしなければ、ここに来る事もなかったんだけどね」


 そう言って再びアイリは、エルドレッドに視線を向けて話した。

これでエルドレッドが何をしようとしたのかは、ギルマスに伝わっただろう。


「‥‥わかった。そのダンジョンを不可侵にする。この街に居る冒険者には伝えるようにしよう。命が惜しかったら近付くな‥‥ってな」


「話が早くて助かるわ。有難う」


「いや、構わんさ。‥どうやら国の意思に反してる奴が居るみたいだしな」


 そう言って、未だに気絶してるエルドレッドに視線を落とすブラード。

その視線は、アイリを見ていた時よりも鋭さを増してるように見える。

 領主であるエルドレッドが国に反しているという事で、門番達はアイリ達に謝罪し任務に戻っていった。

その際、素直に謝罪されるとは思ってなかったアイリは、思わず目が点になったが。

 そして私兵達もエルドレッドを拘束し、屋敷に戻っていった。

その屋敷は当然エルドレッド屋敷だ。

自分の屋敷に捕らわれるとは皮肉な話だが。


「‥‥ふぅ、全く、貴族って奴はどうして面倒事ばかり増やすんだろうなぁ‥‥」


「それ、物凄く同意するわ‥‥」


 どうやらあのエルドレッドは、()()()()貴族のようだ。

普段から苦労してたであろうギルマスに、アイリは少しだけ同情した。


「ところでよ、さっきから物凄いプレッシャーを感じるんだが、何か召喚したんじゃないだろうな?」


 この人、勘でモフモフが居るって気付いてるの!?

さすがは元Aランクの冒険者ね、ちょっと予想外だったわ。

 って事で、隠し通すのは難しそうだから、モフモフに出てきてもらいましょうか。


「モフモフ、出てきていいわよ」


「へぃ姉御!」


 特殊迷彩(ステルス)を外して現れたモフモフ。

ブラードを驚かせないようにするため、直ぐ様モフモフを撫でるアイリ。

一瞬ブラードから殺気が放たれるが、アイリがモフモフを撫でてるのを見て、殺気を収めた。


「もしかしなくても、そいつはデルタファングだよな?」


「ええ、その通りよ。って、あんまり驚かないのね?」


「いや、これでも驚いてんだがな。‥‥しかしデルタファングかぁ、こりゃ冒険者達にはキッチリと伝達する必要があるな」


 どうやらモフモフを連れて来たのは正解だったようだ。

これで多少はユーリのダンジョンも安全になるだろう。


『だが闘いたい奴は相手になるぜ。命の保証はしねぇけどな』


「うおっ!?‥って念話かよ。そういやデルタファングは念話が出来るんだったか。まぁ命知らずなバカまで、面倒見るつもりはないさ」


 この後、一言二言話して冒険者ギルドを後に‥‥しようとしたが、ギルマスの部屋を出てから出入口に向かう途中、美少女に有りがちの()()()()が待ち構えていた。


「やぁ君達、この辺じゃ見ない顔だね。冒険者になったばかりかな?」


「‥‥ええ、そんなところよ」


 あまり関わりたくないので、アイリは冷淡に返した。


「それならさ、俺達が冒険者のイロハってやつを教えるぜ!」

「そうそう、だからパーティ組もうぜ?」


 先程からアイリ達をネットリとした視線で話しかけている男達。

彼等が言ってるイロハは、どう考えても色違いなのが想像出来る。

 ちなみにモフモフは再び姿を消している。


「悪いけど、パーティメンバーは募集してないわ。他をあたってちょうだい」


 アイリも彼等が自分とアイカを性的な目で見てるのに気付いてるので、(はな)から相手にしていない。


「いやいや、2人だけだと危険だよ?」

「だからさ、俺達と一緒のほうが絶体安全だって!」


 どう考えても彼等のほうが危険なので、当然お断りである。


「結構よ。他行って」


 次第に不機嫌になるアイリだが、一向に諦める様子が見えない事にイライラが募り‥‥


「いい加減しつこいわよ!」


 アイリの叫び声に、周囲の冒険者の視線が集まる。

ナンパしてる冒険者とアイリ達を見て何となく事情を察したようだが、アイリ達を助けようとする者はいない。

 寧ろ暇潰しの見世物にされてる感じだ。

ギルドの受付嬢も知らんぷりである。


「その態度はいただけないなぁ!素直に言う事聞かないってんなら、実力行使しかないよなぁ!」


 そう言ってアイリを掴もうとするが、既にそこにはアイリの姿はなく‥‥


「実力行使って事は、覚悟は出来てるんでしょうね?」


「んな!?」


 いつの間にか手首を掴まれ、捻られて痛がるナンパ冒険者がいた。


「イテテテテテッ!」


「おい、ガキが調子に乗るんじ‥ブボェ!」


 別の仲間がアイリに掴みかかるが、手が届く前にアッパーカットを叩き込んだ。


「て、てめぇいい加減‥ゲブォ!」


 そして3人目は鳩尾で沈んだ。


 3人の冒険者が、まだ幼い少女に返り討ちにあう様を、周囲の冒険者は見ていた。

とても肉眼では追えないアイリの動きに、食い入るように見続ける冒険者達。

 だが残念な事に、1分も経たずに終了してしまったため、周囲から溜め息が漏れた。


「お姉様、鳩尾は危険です。下手すると、服が汚れますよ?」


 今思い出したわ‥‥。

前もチンピラに絡まれた時に、鳩尾したら吐いた奴が居たのを。

 まぁそれは兎も角。


「そこの受付嬢さん?」


「ははは、はいぃ!」


「私は絡まれたから返り討ちにしただけ。いいわね?」


「はいぃーーー!」


 かなり強引ではあるが、受付嬢に問題ない事を確認し、ようやく冒険者ギルドを後にしたのだった。

 ちなみにその直後、ギルマスのブラードの口から、アイリがダンジョンマスターでSランクの魔物を眷族(けんぞく)にしてるという驚愕の事実を知らされたため、その場に居た冒険者達‥‥主に男は、手を出さなくて本当に良かったと安堵した。

 一方でアイリに絡んでいった冒険者達は、顔面を真っ青にして気絶した。


 その様子を見て、ヤレヤレと溜め息をつくブラードの姿があったそうな。


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